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―2012年/2月/22日/香川/ @ 2週目―――――――----
?『私の事は気にしないで…』
………………
………
…
【-裏の世界-】
女(…!? …意識が戻った。)
女(…!? すごい!本当に反転してる!)
女(…それに裏々の世界よりも明るい!)
女(…よし、とりあえず、私はこっちにこれた。とりあえず男に一度会わないと…)
女(…それにしても…)
女(…さっきの声ってもしかして…)
キンコンカンコーン
女(…っと、チャイムだ。教室に戻らないと…3時間目は物理だっけ…)
スタスタスタッ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
【-教室-】
女(…ヤバい…。文字が全部反転してるから混乱する…。)
女(…思ってた以上にキツいねこれ…授業の内容、ほとんど頭に入ってこないや…)
女(…それにしても、今日の物理の先生、すごいエネルギッシュだなあ…いつもはクールな感じの先生なのに…)
物理「…ってわけだからここの法則は絶対に頭に叩き込んどけよ~、いいな~?」
モブ男「せんせぇ~、こんな授業しなくても『オリジナル』の自分が勝手に覚えてくれるんだからいいじゃないですか~。」
女(…? 今、『オリジナル』って言った? 何でモブ男君がそんなことを?)
女(それに、モブ男君っていつもおとなしい感じの人で、先生とかにタメ口なんてきかないのに…)
先生「まあそう言うなってモブ男。俺も一応これが仕事なんだし。それに、ずっとぼ~ってしてても暇だろ?」
モブ男「はは、違いないや。」
アハハハハ
女(…!? みんな、今の2人の会話に違和感を感じてない!?何で!?)
女(それにみんな『口』だけ笑ってる…)
女(もしかして…)
女(もしかしてみんな…)
女(…自我を…持っているっていうの!?)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
【-昼休み-】
スタスタスタッ
女(…3時間目、4時間目とみんなの様子を見てたけど、やっぱりあれは自我を持っているとしか考えられない…)
女(…誰かに、理由を聞いてみた方が…)
女(…でも、もしそれで自我を持っていなくて、私が自我とかの事を聞く事が、彼らに自我を持たせるきっかけになるかもしれないし…)
女(…だけど、どう考えたってあれは…)
女(…それにみんなの性格も何だかおかしい。いつもおとなしい人がすごいやんちゃで、逆にいつもやんちゃな人がおとなしく…)
女(…まるで…性格が…)
女(…反転してしまったような…)
女(…それにしても、お弁当忘れるなんて最悪。『裏々の私』が寝坊なんてするから…)
女(…はあ…購買にパンまだ残ってるかなあ)
スタスタッ
女(…ん?あれは…男だ!体操服を着ているってことは体育の後なのかな?)
女「男ー!!」
男「…!? …僕の事を呼び捨て? …もしかして」
女「男!私こっちに来れたよ!でも、色々大変だね裏の世界って。」
男「…君は…もしかしてオリジナルの女か?」
女「!? …え、もしかして、あなた…」
男「…僕は」
男「…この裏の世界の男だよ。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
(以下『男』→『裏男』に名称変更)
女「!? …え、それじゃあまだ男、こっちに来て…」
裏男「…はあ。何てことだ。『彼女』が言ってたことが本当だったなんて…」
女「…彼女?」
裏男「…君はオリジナルの女で、裏々の世界から『特権』を使ってこの『裏の世界』に来た…ってことでいいよね?」
女「え…う、うん。」
裏男「はぁ…やっぱりそうか…先週から『もしかしたら入れ替わるかもしれない』とは言ってたけど…今、裏々の世界にいる『僕』は何してるんだよ…この子に『特権』を使わせるなんて…」
女「え、え…ど、どういうこと…?」
裏男「…君、こっちに来たのはいつだい?」
女「…2時間目の後の…休み時間…。」
裏男「…そうか。…それで、入れ替わったときに彼女は何て言ってた?」
女「…え?彼女? …誰、彼女って…」
裏男「…この『裏の世界』に元々いた『裏の女』のことだよ。」
女「…!? …じゃあ、あの時の声って…」(>>140)
裏男「…で、何て言ってか覚えてるかい?」
女「…え、うん。『私の事は気にしないで』…って。」
裏男「…!! …あの子は…全くどうしていつも…。」
女「…男?」
裏男「…僕の事は『裏男』って呼んでくれていい。そっちの方が君も区別しやすいだろ。そして、僕も君の事を『表女さん』って呼ばせてもらう。」
女「…!? …わ、分かった。」
裏男「…そろそろ表の世界の二人の会話も終わりそうだから、最後にこれだけは言っておくよ。」
女「…?」
裏男「僕は君の事が嫌いだ。」
女「…え?」
裏男「それじゃあね。」スタスタッ
女「…嫌いって…あっ、待って男!!」
男「…。」スタスタッ
女「…どういうことよ、男…」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
【-体育館-】
女「はあはあ」ダンダンッ
部員1「女!こっち!」
女「…っ!はいッ!」シュッ
部員1「ナイスパス!」パスッ
ダンダンダンッ
女(…っ!左側のモブ部員2のマークが薄い!)
女「部員1!左にパス!」
部員1「へ?」シュッ
部員2「ナイス!部員1!」パスッ
部員2「ほいっ」シュッ
パスンッ
ナイッシュー!!
ピーッ ゼンハンシューリョー
女「ふう…」
部員1「女~」
女「ん?何モブ部員1?」
部員1「あんた、さっきのプレーで何で『左』って言ったの?」
女「…へ? …っ!」
女(…あっ…そうか…。『こっち』は反転してるんだから、『左』の場合は『右』って言わないといけないのか…)
女(今の場面、『表の世界』ではモブ部員2は『右』にいたんだ。でも『裏の世界』では反転してるから『左』にいた。だから、私からはさっき『左』って言ったけど、裏の世界の人達にとっての『左』は私にとっての『右』であって、あの場面じゃ『右』って言わないといけなかったんだ…ここはとりあえず誤摩化さないと…)
部員1「…女?」
女「…はは、ちょっと間違えちゃって…」
部員1「そう…。まあ、『表の私』がちゃんと『右』にパスしてくれたから別に良かったんだけどね~。」
女(…『表の私』ってことは、やっぱりモブ部員1も自我を…)
部員1「それにあんた、プレー中でも絶対に誰にでも『さん付け』するのにさっきは呼び捨てだったし…」
女(…『さん付け』…?)
部員1「…もしかしてあんた…」
部員1「…オリジナル?」
女「…っ!?」
女(ばれた!? …ん? でも、別にバレたところで何のデメリットも…よし、こうなったら…)
女「…あ、あのね…じ、実は…」
部員1「…な~んてね、オリジナルがここにいるわけないか!」
女「…っ!」
部員「冗談だよ冗談!まあ、本当にあんたがオリジナルなら『引っ叩いてやりたい』ところだけど…あ、でも体の自由は効かないから無理か!あはは!」
女「…っ!?」
部員1「さあ、そろそろ後半も始まるし、行こうか!」
女「…うん。」
タッタッタッ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
【-女の自室-】
女「…はぁ。」
女(…『引っ叩いてやりたい』…か。)
女(…裏男にも『君の事が嫌いだ』って言われたし…。)
女(…こっちじゃ『オリジナルの私』は嫌われているのかな…)
女(…でも、何で嫌われているんだろう…)
女(…それに、やっぱり、みんなの『性格』がおかしい…)
女(…あと、裏男も自分の事を『僕』って言って…いつもは『俺』なのに…)
女(…そもそも何でみんな自我を持ってるのよ…)
女(…もう何が何だか…)
prrrrrr prrrrrr
女(…っ!? …男からの電話だ!)
女(…もう、男こっちに来てるかな? でも、もしまだ裏男だったら気まずいなぁ…)
ピッ
女「…もしもし。」
裏男「…表女さんかい?」
女(…!? …『表女さん』ってことは裏男…)
女「…うん。…裏男…だよね?」
裏男『うん。本当は君のことは嫌いだから喋りたくないんだけど、表の『主』が今、君に電話してるから仕方なく僕も今こうやって喋っている次第だよ。』
女(…何なのよコイツ。そんな、堂々と『嫌い』って言わなくてもいいじゃない…でも、今はコイツから色々と聞き出さなきゃ…)
女「…ねぇ、裏男。私こっちに来てから分からないことばかりで…だから色々と教えてくれない…かな?」
裏男『…『色々』ねぇ…まあ、いいよ。どうせ今暇だから教えてあげる。』
女(…『どうせ今暇』とかいちいち一言多いし、ムカつくのよコイツ…)
裏男『…でもその前に、僕から質問をさせてくれ。』
女「…? …な、なに?」
裏男『…君は何でこの『裏の世界』に来たんだ?』
女「何でって…それは『表の世界』に戻るために…」
裏男『…裏々の世界にいる僕は君に、君にその入れ替わり方法を教えた後に言わなかったかい?『特権』による入れ替わりによる問題点についてを。』
女「…問題? 問題なんて… …っ!」
―――――――――――――――――――――――----
男『待って女、でも実はこれには問題もあr…』
----――――――――――――――【回想】(>>126)――
女「…そうだ…あの時…。」
裏男『…どうやら訳ありのようだね…』
女「…実は…」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
裏男『…成る程。…で、君は裏々の世界にいる僕からのその『問題』を聞かず、そして表の『主』からの挑発に乗って『特権』による入れ替わりをしてしまった…と。』
女「…うん。…じゃあオリジナルの男も『問題』があるって分かってからこの3週間、『特権』を使わなかったんだ…」
裏男『…オリジナルの男? 今、裏々の世界には『オリジナルの僕』がいるのかい?』
女「…? そうだよ、私も男も裏々の世界に押し込まちゃって…」
裏男『…君だけじゃなく『オリジナルの男』も?』
女「うん。え? 3週間前に旧校舎で合わせ鏡をして入れ替わったんじゃないの?」
裏男『…! …そういえば、旧校舎で合わせ鏡をしたな。やっぱりあれで入れ替わっていたのか。』
女「…みたいだよ。 …でも、その問題って何なの?」
裏男『…なあ、表女さん。…君がこっちに来たことで、『元々こっちにいた女』はどうなったと思う?』
女「…『裏の私』のこと?」
裏男『ああ。彼女は君との入れ替わりによって裏々の世界へと飛ばされてしまったんだ。それを分かっているのかい?』
女「…あっ。」
裏男『裏々の世界はこの裏の世界よりも明度が低い、そして反転している。』
女「…反転?」
裏男『僕らにとってはこの裏の世界が『基準』なんだ。僕らからしたら表や裏々の世界は反転した世界なんだよ。』
女「…あ、そうか…」
裏男『…君も今日1日苦労したはずだ。本来とは『逆』なこの世界に。』
女「…うん。」
裏男『そして、君はこのまま1週間経って、再び『特権』を使えば、表の世界に戻れる。でもね、『彼女』は今後一生『裏々の世界』で生きていかなくちゃいけないんだよ。』
女「…っ!」
裏男『僕らはこっちで平和に暮らしていたのに…君たちの『いざこざ』に巻き込まれてしまったがために…』
女「…そんな…でも私だって…」
裏男『…『私だって被害者だ』とでも言いたいのかい? まあ、君も確かに『被害者側』であることは間違いない。でもね、何の関係もない『裏女』を巻き込んでしまった君も僕らからしたら、裏々の女と同じ『加害者側』なんだよ。』
女「それは…」
裏男『そもそも、オリジナルの僕からその『問題』を聞かなくても、『入れ替わり』なんだから『裏女』が『裏々の世界』に飛ばされることぐらい普通気づくだろ?それを君は『早く表の世界に戻りたい』という自分勝手な欲求を優先させて…。』
女「…。」
裏男『…ほんと…相変わらず、早とちりで、傲慢で、自己中心的な性格だな君は…。まあ、そのおかげで裏女は謙虚で心やさしい女の子だったんだけど…』
女『…え? …それってどういうこと?』
裏男『…どうせ、オリジナルの僕から『裏の世界』についての話を聞いてないんだろう?』
女「…うん。ここ最近喋れる時間がなかったから…」
裏男『まあね。先週のデートの日と昨日の電話の時しかろくに話す時間がなかったからね。仕方ないか。それじゃ、教えてあげるよ、この世界について。』
女「…ごめん、おねがい。」
裏男『オッケー。と言ってもまあ、『裏の世界』と『裏々の世界』との違いは3つだけなんだけどね。』
女「3つ?」
裏男『1つ目は、『明度の違い』だ。』
女「あ、それは分かる。こっちの方が裏々の世界よりも明るい。」
裏男『うん。まあ、裏の世界の方が表の世界に近いからね。だから明るいんだ。』
女「みたいだね。」
裏男『2つ目は『自我』を持っているかどうかだ。』
女「…!」
裏男『オリジナルの僕から『自我』についての説明は軽く受けたかい?』
女「うん。…でも、こっちに来てびっくりした…こっちではみんな自我を持っているの?」
裏男『…やはり『自我』については全部聞いてないみたいだね。…ああ。こっちの『裏の世界』では…というか『偶数世界』の人間はほぼ全員が自我を持っているんだ。』
女「偶数…世界?」
裏男『何だ、それもまだ教えて貰ってないのかい?まあいいや、教えるよ。『表の世界』を含める全ての世界は『奇数世界』と『偶数世界』に分けられているんだ。』
女「奇数と偶数…」
裏男『ああ。表の世界を『1』と基準して、裏々、裏々々々、裏々々々々々、といった奇数番目の世界は、『奇数』の世界と定義される。』
裏男『また、裏の世界を『2』と基準して、裏々々、裏々々々々、裏々々々々々々、といった偶数番目の世界は、『偶数』の世界と定義され、これらの世界では、君たちに奇数世界の人間にとっては全てのモノが反転して見える。』
女「そうなんだ…じゃあ、その『偶数世界』の人達はみんな『自我』を持っているってこと?」
裏男『その通り。』
女「…でも、何でその偶数世界ではみんなが『自我』を持ててるの?」
裏男『それは偶数世界の『特性』の影響だね。『偶数世界』では君たちオリジナルの人間がすむ『表の世界』からしたら『目に見えるモノ』が全て反転している。でも、偶数世界では反転しているのは『目に見えるモノ』だけじゃない。『性格』も反転しているんだ。』
女「…!? そう…やっぱり性格も…」
裏男『おや、性格が反転していることには気づいてたのかい?』
女「うん。みんないつもと違うし…」
裏男『まあ、オリジナルの君からしたら違和感ありまくりだろうね。そりゃ気付くか。てか気づかなかったら相当のバカだね。』
女(…何でコイツはこんなムカつく口の聞き方しかできないのよ… …んっ?)
女「…でも、『性格が反転していること』と『偶数世界の人がみんな自我を持てること』と何の関係があるの?」
裏男『関係ありまくりだよ。性格が反転していることによって、自分がオリジナルの自分とは違う存在なんだってことに気付けるからね。』
女「…? よくわかんない…。」
裏男『人間は生まれてすぐ『性格』が形成されるわけではない。日々の成長の中で徐々に徐々に形成されて行くんだ。その形成の過程で偶数世界の人間は、オリジナルの自分とは真逆の性格が形成されていく。そして、いつの日か気付くんだ。『何かがおかしい』と。』
女「…。」
裏男『その『おかしい』と思った時点で鏡の世界の住人にはもう『自我』が生まれているんだ。そして、その時から『脳』と『口』の自由を得るってこと。分かったかい?』
女「う~ん…まあなんとか。」
裏男『まあ、でも他の偶数世界は知らないけど、実はこの『裏の世界』では幼い頃に保護者から自分がそのことを教えてもらって徐々に理解していくってのが慣習としてあるんだ。だから、みんな幼い頃から、自分がオリジナルではないこと、性格が反転する事を保護者から教えてもらって理解しているし、それを承知した上で成長して行くんだ。まあ、無理矢理オリジナルの自分と性格を矯正しようとする人も稀にいるけどね。まあ、ということで、この『明度』と『自我』、『性格』の3つがその違いだ。』
女「…へえ。…でも、そんな慣習がこの裏の世界にはあるんだ。」
裏男『そうだよ。ずっと、ず~っと昔から口伝いで伝えられてきたんだ。確かにこっちは『口』と『脳』しか自由がない。でも、それでも、この『裏の世界』にしかない慣習だってあるし、コミュニティだってある。』
女「…そう。…ん? …でも、ちょっと待って。幼い頃からそうやって『自我』を持っているってことは分かったんだけど、そうやって幼い頃から『自我』を持ってしまったら反射物がないところで口伝いに身につけた『知識』にばらつきや差が生まれてしまうんじゃないの?」
裏男『お、鋭いじゃないか表女さん。そう、『自我』を持ってしまったら鏡の世界の住人は反射物のないところでの『主』たちの会話などがさっぱり分からなくなってしまう。そして、それによって身に付く知識とか記憶も『主』とは全く違ったものになってしまう…って普通思うよね?でも、実は、その心配は全くないんだ。』
女「…え、何で?」
裏男『何故なら『自我』を持った鏡の世界の住人は『主が反射物に映るごとに、主が新しく所得した知識や記憶が共有される』からね。』
女「…知識と記憶の共有?」
裏男『ああ。例えばとある人物『A』の『主』が反射物がないところで『魑魅魍魎』という四字熟語の読み方をとある人物『B』から『口伝い』で覚えたとしよう。『口伝い』だとそれは『視覚的』な情報じゃなく『音』による情報になるから『自我』を持った鏡の世界の人間は知ることが出来ないよね?』
女「うん。」
裏男『でも、その後に『A』の『主』が反射物に映った瞬間、その『主』がさっき覚えた『魑魅魍魎』についての読み方の『ちみもうりょう』という知識はもちろんのこと、その反射物に映るまでの表の世界での『B』との会話の記憶が一字一句全て、『自我』を持った鏡の世界の『A』に共有されるんだ。』
女「…なるほど。じゃあ、あなたも反射物に映るごとに…?」
裏男『ああ。僕の場合、今、表の世界にいる『裏々男』の『新しい記憶』が反射物に映るたびに頭の中に流れ込んで来る。』
女「そうなんだ。…ん?ちょっとまって!私が反射物に映っても今の『主』の『裏々女』の記憶が共有されてないよ。」
裏男『それは君がオリジナルだからだ。』
女『オリジナル…だから?』
裏男『オリジナルは本来、こっちの世界にいてはならないイレギュラーな存在だろ?だから、鏡の世界からしたらとっとと『表の世界』に帰ってほしいわけだ。だから、オリジナルには記憶の共有の権利を与えず、それによって焦らせ、早く表の世界に帰りたいと思わせるのが狙いだ。…っていうのが『僕のオリジナル』の考え。まあ、こればっかりはこの鏡の世界の創造主にでも聞かないと分からないよ。』
女「そっか…」
裏男『まあ、だから君の行動は正しいっちゃ正しいんだよ。オリジナルが早く表の世界に戻るための行動としては。』
女「…。」
裏男『でも、『奇数世界』同士でのいざこざをこっちにまで持ち込まないで欲しいっていうのが僕たち裏の世界の住人の本音。僕たちは何も悪い事してないんだぜ?なのにオリジナルのせいで裏々の世界に飛ばされるかもしれないっていう理不尽な立場にいるんだ。』
女「…。」
裏男『現に裏女は君たちのせいで裏々の世界に飛ばされてしまった。裏々の世界はこっちよりも暗いし反転もしているってことはもちろんのこと、周りがほとんど『自我』をもっていない。そんな環境で彼女は今後一生、生きていかないといけないんだぞ。その罪の重さを理解しているのか君は?』
女「…。」
裏男『まあ、いいよなー、君は。来週にまた『特権』を使えば表の世界に戻れるんだし。ほんっと不平等だよ…。』
女「…も、元の…裏々の世界に戻る方法はないの?」
裏男『ん?何だ?今頃、罪の意識を感じたのか?『残念』だけど無いね。『特権』はあくまで『表の世界』に戻るための方法だし、『逆行』することなんて出来やしない。』
女「そんな…」
裏男『まあ、もし裏々の世界に戻る方法があったとしても君はどうせ使わないだろ?何せ君は自己中心的な人間なんだし、とっとと表の世界に帰りたいってのが本音なんだろ?』
女「…ち、違うわよ!!」
裏男『いいや、違わなくないね。君の性格は十二分に理解している。『君の性格』に対して悩んでた裏女とこれまでずっと一緒にいたんだから、それぐらい分かる。』
女「…悩んで…た?」
裏男『…裏女はいつも悩んでた。君の傲慢で常に自分を優先させるようなその性格に。』
女「…?」
裏男『君、表の世界でオリジナルの僕に告白したらしいけど、その際に他にもオリジナルの僕のことを好きだった他の女の子たちのことを覚えているかい?』
女「…!?」
裏男『その中の一人から相談されたらしいじゃないか?『男くんに告白したいから手伝って』って。でも、君はそこで困ったわけだ。何故なら君もオリジナルの僕のことが好きだったからね。』(>>19)
女「…。」
裏男『君はそのとき、自分がオリジナルの僕の事を好きだという事を誰にも話さずにいた。まあ、それによって、その女の子からしたら君は『男くんと仲の一番いい存在』だと思われたから相談されたんだろうけど。』
女「…。」
裏男『さあ、困った表女さんは考えた。もしこの子が私よりも先にオリジナルの僕に告白し、そして付き合ったらどうしよう…と。そして、君が悩んだあげくとった行動は…』
女「…。」
裏男『…まあ、君もある程度自覚しているようだからそのことについては今、とやかく言わないけどさ。とにかく、そういった君の性格に彼女は悩んでた。彼女は君の性格の反対なんだから『謙虚』で『思いやり』のある優しい子なんだ。そんな子がオリジナルのそんな『行為』を目の当たりにしたらどうなると思う?』
女「…。」
裏男『しかも彼女は『そんな君』に対しても入れ替わりのときに『気にしないで』と言ってみせた。自己犠牲を惜しまない姿勢を彼女は見せただろ?』
女「…。」
裏男『そんな心優しい子をこの僕から…いやこの裏の世界から君は奪った。だから僕は君の事が大嫌いなんだよ。』
女「…。」
裏男『…おっと、そろそろ電話を『主』たちが切るみたい。それじゃあね、『表女さん』。』
女「…あっ。」
ピッ
女「…。」
女(…はは。言われっぱなしだったな私…。)
女(…あそこまで…あそこまで言わなくたって…)
女(…でも、裏男の言う通り、私のせいで『裏女ちゃん』が…)
女(…今、裏々の世界にいる男も、『こうなること』が分かってたから『特権』を使わずにいたのかな…)
女(…1週間後にまた『特権』を使えば、私は表の世界に戻れるけど…)
女(…でも、男に何も言わず一人で表の世界に行くのは…それに…裏女ちゃんのことも考えると…)
女(…私…どうしたらいいの…)
----―――――――――――――――――――――――
―2012年/2月/24日/香川/ @ 2週目―――――――----
【-登校中―】
スタスタッ
女(…この『裏の世界』に来て2日が経った。)
女(…あの電話以来、裏男とは会ってもないし、電話で喋ってもない。)
女(…そして、私は未だに周りに自分がオリジナルだって事をカミングアウトしていない。裏男も黙っててくれてるみたい…。)
女(…もしカミングアウトしてしまったら、すごく責められるだろうし…)
女(…って、何考えてるのよ、私。)
女(『責められる』のが恐いからカミングアウトしない? …やっぱり私は自分が可愛いだけじゃない!!)
女(…これじゃあ、裏男に傲慢だとか自己中心的だとか言われても仕方ないや…)
女(…はあ…)
スタスタッ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
【-4時間目-】
ココモオボエトケヨー
女(…ん~、まだ反転した文字に慣れないや。)
女(…というか一生無理な気がする。)
女(…裏女ちゃんも今、裏々の世界で私と同じように反転した世界に苦しんでるんだろうな…いや、私以上に…)
女(…男、ちゃんとフォローしてあげてるかな…。)
キィーーーーンッ
女(…ん?耳鳴り?でも、教室には反射物なんか…窓のカーテンもしまってるし…)
物理『…え~っとですね。実は思った以上に授業の進行ペースが早くてですね。今日の残り時間は息抜きがてらにちょっとしたお遊びをしたいと思います。そのお遊びとは…これです。』コトッ
女(物理の先生の口調が『いつもの』に戻ってる…? …それに、あれは…?)
センセー ナンデスカーソレー
物理『はい、説明しますね。これは…』
物理『魔法鏡(マジックミラー)です。』
女(………マジック……ミラー?)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
物理『魔法鏡とは、片方が鏡で、片方が窓ガラスになっているもののことです。』
物理『魔法鏡は映画やドラマ等でよく使われています。例えば、取調室の壁が魔法鏡で、隣の部屋からその取調室の中の様子を他の刑事さん等が観察している場面とかありますよね。なので皆さんも少しはマジックミラーとうものをそういった映像を通じて見た事があると思います。』
物理『…ですが、以外と魔法鏡について皆さん『ちゃんと』は理解してないと思うので、今日はこの残り時間で、色々と実験をしながら魔法鏡について学んで行きたいと思います。』
物理『魔法鏡は、入射した光の一部を『反射』し、一部を『透過』させる性質を持っています。これは皆さんご存知ですよね?じゃあ、ここで問題です。魔法鏡には『裏表』が存在するでしょうか?』
ソリャー、ソンザイスルンジャナインデスカー
物理『…と思いますよね、普通。…でも、実は魔法鏡には『裏表』が存在しないんです。』
女(…?)
エー ナンデデスカー
物理『何故なら魔法鏡は『光量の差によって光を反射する面が変わるから』です。』
女(…光量…?)
物理『魔法鏡を明るい部屋と暗い部屋の間に置いたとしましょう。すると、明るい側からの光の一部が反射することによりそちらからは『鏡』に見え、暗い側からは『半透明な窓』に見えるんです。』
物理『そして、次は魔法鏡の面の向きは変えずに、先ほど明るかった部屋を『暗く』、そして先程暗かった部屋を『明るく』します。そうすると、先程と同じように明るい部屋ではその魔法鏡は『鏡』に見え、暗い部屋では『半透明な窓』に見えるんです。』
物理『まあ、構造上では『裏表』が一応あるにはあるのですが、基本、魔法鏡は光の量を調節する事によって光を『反射する面』と『透過する面』を変えることができるんです。』
ヘー、シラナカッター
物理『だと思います。魔法鏡について誤解したままの人がほとんどだと思いますので。まあ、夜の窓ガラスと同じ原理です。』
ヨルノマドガラス?
物理『はい。例えば、夜に部屋の電気が付いた家があるとします。外からは窓ガラス越しに部屋の中がよく見えますよね。一方、部屋の中から窓ガラス越しに外の景色は光が反射して見にくいっていう経験を皆さん一度はしたことがあるはずです。』
女(…あ、1週間前の私の部屋での状況のようなことかな…)(>>112)
物理『そして、この魔法鏡(マジックミラー)という『名前』についてですが、日本ではこの『magic mirror』の名前で定着しているのですが、これはあくまで和製英語なんです。正しい英訳は『one-way mirror』といいます。』
モブ男『でも、先生。それだと『一本道の鏡』って意味になりませんか?』
物理『そうなんです。今現在、確かにこの魔法鏡は『one-way mirror』と呼ばれることが比較的に多いですし、辞書にもこう書いているのですが、モブ男君の言う通り、これだと『一本道の鏡』になってしまいます。なので、この英訳は『厳密』には間違いなんです。』
物理『何かしらの誤解があって『one-way mirror』という名前が付いたという風に聞いています。そして、魔法鏡の本当に正しい英訳は『two-way mirror』といいます。『two-way mirror』…つまり『二つの道がある鏡』という意味ですね。』
女(…!? …二つの…道…。)
物理『もう皆さん分かってくれていると思いますが、『一つ目の道』は『反射』のことです。そして、『二つ目の道』は『透過』のことを指しています。『反射』と『透過』…はたから見たら全く『逆』の現象ですが、それを二つとも起こす性質を持ったもの、それが『魔法鏡』なんですね。それでは今からこの魔法鏡を使って実験を…』
女(…『魔法鏡』…『二つの道を持つ鏡』…)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
【-女の自室-】
prrrrrr prrrrrr
裏男『もしもし…』
女「あ、裏男?…ごめんね、私の『主』があなたの『主』に電話をかけたみたいで…」
裏男『みたいだね…まあ、そろそろ電話が来る頃だと思ってたよ。』
女「そう…」
裏男『ちなみに僕から君に『裏の世界』についてで教えられることは前回の電話でほとんど伝えたからね。それでも聞きたい事があるのなら聞いてあげてもいいけど。』
女「…じゃ、ちょっと聞きたい事があるから聞いてもいいかな?」
裏男『何だい?』
女「あのね…魔法鏡で『特権』による入れ替わりをしたらどうなるの?」
裏男『…魔法…鏡?』
女「うん。今日、物理の授業で先生が魔法鏡について紹介してくれて…」
裏男『……ふぅん。』
女「魔法鏡って『反射』と『透過』の『逆の性質』をあわせ持っているらしくて、それに魔法鏡を英語に直すと『two-way mirror』…『二つの道を持つ鏡』だって意味らしくて…それで、もしかしたら…」
裏男『…『裏々の世界に行けるのではないかと考えた』…ってことかい?』
女「…うん。 …無理…かな?」
裏男『…魔法鏡と『特権』の応用か…考えた事もなかった。』
女「…。」
裏男『…ん、待って。表女、君、さっき『逆の性質』って言ったかい?』
女「…え、うん。…先生が言ってた事をまんま引用しただけだけど…」
裏男『…『逆の性質』…『二つの道』…それに…っ!!』
女「…裏男?」
裏男『…表女さん!次の物理の授業でも先生は魔法鏡を持ってくるって言ってたかい!?』
女「…え、うん。…結局、実験が最後まで終わらなかったから、次の授業の冒頭でやります…って。」
裏男『…次の物理の授業日はいつだい!?』
女「え?…えっ~と確か…あ、次の水曜日の3時間目だよ。」
裏男『…水曜…日…。』
女「うん。一昨日、入れ替わった後が物理だったからよく覚えてる。」(>>140)
裏男『…っ! …来週の…来週の水曜日って何日だい!?』
女「…何日?…え~っと、一昨日が22日だったから…」
女「…『29日』じゃないの?」
裏男『…っ!?』
女「…裏男…? 」
裏男『…………『閏日』だ。』
女「…え? …『閏日』?」
裏男『来週の29日は4年に1度の『閏日』の日だ。そして…』
女「…? そして…?」
裏男『…表女さん、君は表男から『入れ替わりが出来るのが閏年の3月21日まで』の理由は聞いたかい?』
女「…え? それはまだ聞いて…ないかも。でも、それ気になってたの、何で3月21日なの?」(>>50)
裏男『…表女さん。3月21日がとある人物の『命日』だってことを知っているかい?』
女「…とある人物? 誰、そのとある人物って?」
裏男「それは…」
裏男「…『弘法大師』だ。」
女「…っ!?」
女「…誰? 『弘法大師』って?」
裏男『…っておいおい、弘法大師を知らないのかい?日本史で習ったろ?』
女「…だって私一応理系コースだし…」
裏男『…いや、それは知ってるけど…。まあいいや…弘法大師は『空海』の諡号(しごう)だ。』
女「…へ? しご…う?」
裏男『諡号とは、主に貴人の死後に奉る、生前の事績への評価に基づく『贈り名』のことだよ。』
女「はあ…でも空海のことは知ってるよ。え~っと確か、何かの宗教をはじめた…何て宗教だっけ…」
裏男『真言宗。』
女「そうそれ!…でも、空海の命日と入れ替わりの最終日って何の関係があるの?」
裏男『表女さん、『お遍路』は知ってるよね?』
女「お遍路?お遍路って私たちが住んでる四国にあるお寺とかを巡ることでしょ?」
裏男『その通り。その空海は讃岐の国、つまりここ香川の出身でね。『お遍路』は四国にある88か所の『空海』のゆかりの札所を廻ることなんだ。そして、この四国八十八箇所を巡拝することを四国遍路、四国巡拝などとも言う。』
女「へぇ…」
裏男『遍路の巡礼者は札所に到着すると、本堂と大師堂に参り、およそ決められた手順に従い般若心経などの読経を行い、その証として納札を納める。境内にある納経所では、持参した納経帳、または掛軸か白衣に3種の朱印と、寺の名前や本尊の名前、本尊を表す梵字の種字などを墨書してもらう。まあ、つまり現代で言う、スタンプラリーみたいなものさ。』
女「はあ…」
裏男『この四国遍路には様々な廻り方があるんだけど、札所を決められた順番を『時計回り』に廻ることを『順打ち』というんだ。』
女「ふぅん…」
裏男『さらに、決められた順番を『逆向き』、つまり『反時計回り』で廻る『逆打ち』というものがある。』
女「逆打ち?」
裏男『この『逆打ち』は特殊でね、『逆打ちを閏年に行うと御利益がある』と言われているんだ。』
女「……閏年!?」
裏男『ああ。…さらに、『逆打ち』をすることによって「生まれ変われる」とか「死者に会える」とさえも言われている。』
女「…!?」
裏男『まあ、とにかく昔からこの『逆打ち』には何かしらの『力』が働いていると考えられているんだ。』
女「…つまり、裏男は『閏年』の『逆打ち』に働くその『力』の影響によって、『入れ替わり』が出来る…って言いたいの?」
裏男『その通り。…表女さん。毎年、3月21日に行われる『大窪寺』でのお祭りは知ってるかい?』
女「…? 『大窪寺』って近所のあの?」
裏男『ああ。このお祭りは『春分祭』として催されているが、実はその『起源』に深い理由が込められていると考えられるんだ。』
女「…深い理由?」
裏男『大窪寺は『お遍路』の『88番目』…つまり『最後』の札所なんだ。更にこの大窪寺の宗派は『真言宗』で、空海の『錫杖』というものも納められている。これは、空海が『唐』から持ち帰った三国伝来のものと伝え、本尊とともに祀られているんだ。』
女「…へえ。」
裏男『そもそも逆打ちの『力』は四国圏内でしか働かない。何故ならその逆打ちの力はこの『大窪寺』から発信されているからね。』
女「…どういうこと?」
裏男『逆打ちの『力』の源は『約3年9ヶ月分』の巡礼者の『願い』の凝縮されたエネルギーなんだ。』
女「…『願い』?」
裏男『ああ、『願い』だ。巡礼者は閏年以外はオーソドックスな廻り方の『順打ち』で1番目の『霊山寺』から順に88カ所の札所を廻って行き、巡礼者は各札所を廻る度にそれぞれの札所から『印』(>>184)をもらうんだけど、この『印』には『念力』が込められているんだ。』
女「…念…力。」
裏男『ああ、念力だ。巡礼者は四国を一周し『印』とともにその『念力』も集めて行き、そして最後の札所である『大窪寺』で『結願』をするんだ。大窪寺は『結願所』とも言われているからね。『結願』とはその文字通り『願いを結ぶ』ことだ。』
女「…。」
裏男『そして、巡礼者は溜めた『念力』を大窪寺で『願い』というカタチで『結ぶ』。…でも、表女さん。この『願い』を『結ぶ』って表現に違和感を感じないかい?』
女「…え?」
裏男『『願い』って『結ぶ』ものじゃなくて『叶える』ものだろ?』
女「…!? …確かに言われてみれば…」
裏男『そう。『願い』を『結ぶ』という日本語はちょっとおかしい。…でも実はこの『願い』を『結ぶ』ってのは『正しい』んだ。何故なら、本当に『願い』を『結ぶ』んだからね。』
女「…どういうこと?」
裏男『何故なら巡礼者の溜めた『念力』は『願い』となり、その『願い』は大窪寺に祀られている空海の『錫杖』に『結合』されるからだ。』
女「…!? …『錫杖』ってさっき話していた…」
裏男『そう。まあ、『結合』って言い方じゃ分かりにくいと思うから『結合』=『吸収』と考えてくれていいよ。』
女「吸収…」
裏男『そうやって『約3年9ヶ月分』の巡礼者の『願い』は叶えられることなく『錫杖』にエネルギーとして吸収され、閏年の時期に『凝縮』された『力』として『放出』される。』
女「…」
裏男『更にこの大窪寺から放出される『力』は四国全土に『反時計回り』…つまり『逆打ち』の方向に放出される。『逆打ち』は88番目の大窪寺をその出発点とする。『逆打ち』によって『御利益がある』だとか『生まれ変わる』、『死者にあえる』という伝承も、この大窪寺から反時計回りに放出される『力』によるものだと考えられるんだ。』
女「…なるほど。」
裏男『…だけど、『凝縮』された状態で放出されるがためにその『力』は長くは保たない。そして、その『エネルギー』の放出が途切れる最後の日が…』
女「…3月21日。」
裏男『そういうこと。その『力』は『お遍路』の象徴的人物である『空海の命日』まで続く。大窪寺の『春分祭』も本来は空海の『慰霊祭』と、『力の放出期間』が終わるその『締め日』を兼ねた祭事だったと考えられる。』
女「…つまり、それが『閏年』の『3月21日』まで…ってことの理由?」
裏男『ああ。しかも僕たちの住むこの町はその『大窪寺』に近い場所に位置している。よってその『大窪寺』からの『力』を『モロ』に受けている。だから、『入れ替わり』というものが出来るんだ。』
女「…それじゃあ、四国でも、この香川…というか『この付近』の方が…」
裏男『うん。『力』の発信地から近い分、『入れ替わり』が起きやすい。他の四国の県でも出来るかもしれないけど、成功率は下がると思うよ。』
女「…なるほど。…でも、その期間に特別な『力』が働くってのは分かったんだけど、それと『鏡による入れ替わり』に何の関係があるの?今までの話を聞いてる限りじゃ、『鏡』とは何の関係も…」
裏男『…実は、関係なくもないんだよ、それが。』
女「…え?」
裏男『まず、この『お遍路』は別名、『うつし』とも呼ばれている。』
女「…うつし…?」
裏男『そう。歴史上の記述ではその『うつし』の意味を、『写経』の『写し』、もしくは『移動』の『移し』という意味で解釈されているんだが…実はそれが『鏡に映す』の『映し』のほうではないかとも考えられているんだ。』
女「…!?」
裏男『それだけじゃない。四国遍路の87番目である『長尾寺』のことを知っているかい?』
女「『長尾寺』って確か…『鏡餅』のお祭りで有m…っ!?」
裏男『その通り。『長尾寺』では毎年150キロもの重さの『大鏡餅』をいかに速く運ぶかというお祭りがある。『かがみもち』って『鏡を持つ』…つまり『鏡持ち』っていうふうにも解釈できるよね?』
女「…確かに。」
裏男『そう…実はあの祭りは昔は『大きな鏡を持ち運ぶ行事』だったとも考えられているんだ。今ではもうその面影は『かがみもち』という名前にしか残っていないが、当時は『鏡』をそれだけ特別視していたんだ。』
女「…。」
裏男『また、空海は『文鏡秘府論』という当時の中国の『唐』の詩文の創作理論を取りまとめたものを遺している。内容は別として、注目すべきはその『題名』だ。当時は『文字』にはそれを遺した人物の魂が宿るだとか特別な力が働くだとか信じられていて、特に書物の『題名』をつけるのはみんな慎重だったんだ。そんな時代に空海は『鏡』という文字を書物の『題名』としてわざわざ遺した。まあ、空海がどういう意図でこの文鏡秘府論に『鏡』という文字を遺したのかっていうところまでは分からないけど、『鏡』に対する何かしらの『意味』が込められているはずだ。』
女「…。」
裏男『こういった様々な背景から、オリジナルの僕は『お遍路』と『鏡』、そして『空海』というこの3つの間には、何かしらの『特別な関係性』があると考えた。…まあ、根拠づけがまだちょっと弱い気がするけどね。』
女「なるほど…」
裏男『…とまあ、ここまで長々と話したけど、これらはあくまで『オリジナルの僕』の推論であって、僕は『あいつ』からもらった知識を元に話しているに過ぎないから、あまり鵜呑みにはしないでくれよ。』
女「…うん、分かった。」
裏男『よし、ここで、話を『閏日』に戻そう。『閏日』は『閏年』の象徴的な日なんだ。この『閏日』の『2月29日』は、その『逆打ち』の効力が最も高まる日とされ、それに伴って、所謂『逆』の『行為』に対しての『力』も大きくなる日なんだ。』
女「…!? …『逆』の…力…。」
裏男『更に話を『魔法鏡』に戻すよ。物理の先生が言うには、魔法鏡には『2つの道』があるみたいだね。一つは『反射』、もう一つは『透過』だったよね?』
女「うん。先生がそう言ってたよ。」
裏男『よし。…そして、本来、鏡による入れ替わりは、『鏡の反射』という現象に反応して起きる。だけど、『閏日』に『魔法鏡』で『特権』による入れ替わりをすれば…?』
女「……『逆』の『行為』に『力』が働くから、『反射』の『逆』の現象である『透過』に『力』が働く…ってこと!?」
裏男『その通り!『特権』による入れ替わりは『一方通行』ではあるけど、『裏々の世界』から『裏の世界』に来れたわけなんだから、その『道』はあるはずなんだ!その『道』を『閏日』の魔法鏡による入れ替わり…つまり、『反射』の『逆』の性質である『透過』の性質を利用して『逆行』することが出来るかもしれない!』
女「…ということは、私が来週の閏日に魔法鏡によって入れ替わりをすれば…?」
裏男『ああ。君は…』
裏男『裏々の世界へ行けるかもしれない。』
----―――――――――――――――――――――――
―2012年/2月/29日/香川/ @ 2週目―――――――----
【-登校中-】
スタスタスタッ
裏男「表女さん。」タッタッタ
女「あ、裏男…。」
裏男「とうとう、今日だな…。」
女「…うん。」
裏男「…それじゃあ、念のために今日の君のやるべき事をもう一度整理するぞ。」
女「…そうだね。」
裏男「いいかい?チャンスは1度だけだ。それは今日の3時間目の物理の授業中。君は幸運な事に先週、2時間目後の休み時間に入れ替わりをしたから、その3時間目が始まる前にはそのブランクの期間が終えているはずだ。」
女「うん。」
裏男「3時間目になったら物理の先生が教室に魔法鏡を持ってくる。そして、耳鳴りがなる…つまり魔法鏡に映ることが確定した瞬間から念じる準備を怠らないように。そして、魔法鏡に映ったら…」
女「…『裏々の世界の裏女ちゃんと入れ替われ!』…と念じる…だよね?」
裏男「そう。」
女「…うん。大丈夫!タイミング次第だけどなんとかなると思う!」
裏男「…そっか…。」
女「でも、これって魔法鏡じゃないとやっぱりだめなの?夜の窓ガラスとかも魔法鏡と同じようなものだって先生が言ってたよ。」
裏男「それでも出来るかもしれないが成功の確率が減るだろうね。窓ガラスはあくまで『ガラス』だし。『鏡』として作られている『魔法鏡』の方が成功する確率が高いと思う。」
女「そっか…」
裏男「表女さん…」
女「…ん?何、裏男?」
裏男「本当にいいのかい?このまま『表の世界』に行かなくて…。」
女「…うん。いいの。この4日間しっかり考えた上で出した結論だから。」
裏男「…確かに、僕は先週、君には裏女を裏々の世界に追いやった罪があるといったことを言ったが、君にはオリジナルとして表の世界に帰る自由もあるし、権利もある。それでも裏々の世界に行くのかい?」
女「ふふ。急にどうしたの?…今日の裏男、何だかすごい優しいね。まるで私のことを気遣ってくれてるみたいで。」
裏男「…!? …それは…。…僕は先週、裏女を奪われたことにすごく怒りを感じて正直冷静に君と話を出来ていなかったと思う…。君が傷つくようなことも沢山言ってしまったし…」
女「ううん、いいのいいの別に。先週、裏男が私に言ってくれたことは全部正しかったと思う。私のせいで、裏女ちゃんを裏々の世界においやってしまったんだから、私はその責任を取らなくちゃいけない。」
裏男「…。」
女「それに…」
裏男「…?」
女「『私たち』決めてたの!『二人で一緒に表の世界』に帰ろう!って。だから、『男』を裏々の世界に置いて、一人だけで表の世界になんて帰れない!だから私はまた男と合流するために裏々の世界に行く!」
裏男「…そっか。 …でも、裏々の世界に戻ってからどうするんだい?」
女「それなんだよね~…まあ、オリジナルの男もいるわけだし何とかなると思う!」
裏男「…何とかって…はは、君は相変わらず『傲慢』で『自己中心的』で『適当』な性格だね。」
女「ちょっと!!何か増えてない!?しかも今の内容に『傲慢』とか『自己中心的』な要素があった!?…『適当』な部分はあったと自分でも認めるけど。」
裏男「はは、ないけどね。」
女「…!? …あんた…相変わらずムカつく性格してるわね…」
裏男「…でも、僕は君のことを誤解してたみたいだ。」
女「…え?」
裏男「君は確かに『傲慢』で『自己中心的』で『適当』な性格の人間かもしれない。でも、その性格のおかげで君は誰にも負けない『強さ』を持っている。」
女「…強さ…?」
裏男「その『強さ』を上手く使いこなすんだ。そして、常に先を見通して行動することを忘れるな。そうすれば『見えないモノ』も見えてくるはずだ。」
女「…見えない…モノ?」
裏男「…そして…それでも…その君の『強さ』が発揮されないまま、もし『特権』による入れ替わりのタイムミリットの『3月14日』までに表の世界に戻る方法が見つからなければ、君と『オリジナルの僕』と二人一緒に『特権』を使ってくれ。」
女「…!? …え、それってどういう…こと?」
裏男「そのまんまの意味だよ。タイムリミットになったら『特権』を使ってくれてもいい。14日と21日に『特権』を使う事によって君たちはギリギリタイムリミット内に表の世界に戻れるはずだ。」
女「…そんな…でも、特権を使ったらあなたと裏女ちゃんが…」
裏男「…まあ、『一人』で裏々の世界に行くのは確かに寂しいけど、『君たち』と一緒で『僕たち二人』で一緒なら『裏々の世界』でもやっていける気がするんだ。それに僕たちは君たちよりも鏡の世界に慣れているしね。」
女「…でも…。」
裏男「まあ、裏女がいないところで勝手に僕が決めるのも何だか悪い気がするけど、あの子なら絶対に『こう言わないと』怒ると思うし。」
女「…信頼し合ってるんだね、お互い。」
裏男「当たり前だよ。何せ、僕たちが付き合ったのは『中学の頃』からだぜ?」
女「…へ? …今何て?」
裏男「だから、僕たちが付き合ったのは中学の時からって言ったの。」
女「…う…そ…。 …じゃあ、もう2年近く…?」
裏男「そうだよ。中3のときに僕から告白したんだ。だから、実のところ、君たちオリジナルが一向に付き合ってくれなくて結構焦ってたんだぜ?」
女「…何よ、あんたたち、ただのバカップルじゃない…。」
裏男「おいおい、僕たちのどこがバカップルなんだよ。…まあ、そういうことだから、僕たちの事は心配しなくてもいい。だから、心置きなく『特権』を使ってくれ。…あっ、でも、君たちが表の世界に戻ってから『破局』しないでくれよ!そんなことになったら、僕たちまで離ればなれになってしまうからね。」
女「あっ、そうか…もし、私たちが表の世界で別れたら、裏男たちもそうなるのか…ふふ、まあ心配しないで!私たちなら大丈夫だと思う!」
裏男「…そっか、ならいいんだけどね。」
女「…それに…もう『特権』は絶対に使わないから安心して!」
裏男「…! …でも。」
女「絶対大丈夫!だって私には裏男お墨付きの『強さ』があるんだから!」
裏男「…! …ああ、そうだったね。」
女「あと、私も裏女ちゃんみたいに『謙虚』で『思いやり』のある心優しい女の子になれるように頑張るね!」
裏男「!? …それは絶対駄目だよ表女さん!」
女「え?何でよ?」
裏男「偶数世界の住人の性格は『表の主』の性格と反転しているって言っただろ?実はこれは『反比例の関係』にもなってるんだ。」
女「え?反比例?」
裏男「そう!だから君がもし『表の世界』に帰れた後に、『心優しい』性格になってしまったら裏女は…」
女「…『傲慢』で『自己中心的』で『適当な』性格に変わってしまうってこと?」
裏男「そう!だから君はそのまま『傲慢』で『自己中心的』で『適当な』性格のまま突っ走ってくれ!裏女のためにも!」
女「…ええええええ!?何よそれ!?私に悪い性格を極めろってことを言いたいの!?」
裏男「う~ん。まあそうなるね。」
女「何よそれ!!それって完全にあんたのためみたいなものじゃない!『傲慢』で『自己中心的』な性格なのはあんたじゃない!」
裏男「まあ…確かに僕も『傲慢』で『自己中心的』な性格かもね。『適当』ではないけど。」
女「…今日、あなたの事を一瞬でもすごくいい人だと思ったのが間違いだった!!やっぱりあなたのこと嫌い!!大嫌い!!」
裏男「はは、逆に僕は君の事、好きになってきたけどね。…それと何故だろう…。何だか、またいつの日か君と再び会うような気もするよ…。」
女「無い無い。絶対に無い。もう来ないわよ『こっち』には!」
裏男「はは。 …おっと、そろそろ僕の教室だからお別れだ。…なんだかんだで、君に会えてよかったよ。」
女(…『なんだかんだ』とか一言余計なのよあんたは…。)
裏男「あと、あっちの僕にもよろしく言っておいてくれ。」
女「…分かったわよ。」
裏男「…あと、表女さん。」
女「…ん?何?」
裏男「…これは裏の世界の僕から君への最後のメッセージだ。」
女「…メッセージ?」
裏男「ああ。」
裏男「…『線路』だ。…『線路』がいるかもしれない。」
女「…? …『線路』?」
裏男「…ああ。」
女「…『線路』が何に必要なの?」
裏男「…向こうに行ったら表の世界に戻る方法を考えることを優先してくれ。これについてはその後にでも考えてくれたらいいから。」
女「…意味が分からないんだけど…。」
スタスタッ
裏男「…おっと!もう本当にお別れみたいだ!それじゃあ!」
女「あっ、ちょっと!!!」
女(…『線路』が必要?…『線路』が何のために必要なのかな…うちの近くに一応電車は走っているけど…)
女(…表の世界に戻るための手段の一つなのかな…)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
キンコンカンコーン
女(今からの15分の休み時間が終われば3時間目…)
女(…う~ん、緊張するな~、もしかしたら失敗するかもしれないし…)
女(…そもそも本当に魔法鏡での入れ替わりが出来るのかどうかさえ分かんない訳だし…)
部員1「お~い、女~」
女「…あ、部員1…さん?」
部員1「いや~、『表の私』があんたに今日の放課後の部活の事について話があるみたいでね。」
女「あっ…そうなんだ…」
部員1「…なあ、女。」
女「ん? …何?」
部員「…あんた、やっぱりオリジナルでしょ?」
女「…!?」
部員「どうにもおかしいんだよね、先週からあんたの様子が。」
女「…。」
部員1「…否定しないってことは…。」
女「…………うん。…今まで隠しててゴメンなさい。」
部員1「…いや~やっぱりそうだったのか!聞いてみて良かった良かった!」
女「…怒ら…ないの?」
部員「ん?何で怒らないといけないのよ?まあ、そりゃ、裏女を裏々の世界に飛ばしたのはあんただけどさ、まああんたも被害者の訳なんだし。」
女「でも部員1さん、この前…『オリジナルだったら引っ叩いてやりたい』って…」(>>151)
部員1「ああ、あれ?あの『引っ叩いてやりたい』ってのはあんたの『後押し』をしてやりたいっていう意味の誇張表現というか…」
女「後押し?」
部員1「そう!実はあんたがこっちに来る前に、私、裏の女から頼み事をされていたの。」
部員1「頼み事?」
部員1「うん。あの子は『もしかしたら自分は裏々の世界に行く事になるかもしれないけど、もしそうなったとしてもオリジナルの私を責める事はしないで、表の世界に行く手助けをして欲しい』ってね。」
女「…!?」
部員1「その役は本当は裏男の方が適任のがはずなんだけど、あいつって『あんな性格』でしょ?もし、裏女がいなくなったと分かったら、たとえ裏女から『責めないであげて』って言われても絶対責めるだろうし…ってことで、あの子は私に頼んできたの。」
女「そうだったんだ…。」
部員1「…で、実際に裏男に結構色々と責められたんじゃないの!?」
女「…うん。そりゃあもう完膚なきまでに…。」
部員1「はは、だろうと思った。私がもっと速くフォローしてあげれば良かったんだけどね。予想以上にあんたと喋る機会が無くて…まあ、そもそもあんたがオリジナルだってことを確信出来たのが一昨日ぐらいだったからね…。」
女「そう…。」
部員1「どうせ裏男のやつ、あんたのこと『傲慢』で『自己中心的』な性格だとか言ってたでしょ?」
女「え…う、うん。」
部員1「あんなの裏男のいつもの『口癖』だから気にしなくていいよ。私や裏の女はそんな風には全く思っていないからさ。」
女「え…でも、私は確かに自己中というか…その性格のせいで裏女ちゃんを悩ませたとか…」
部員1「…まあ、悩んでたってのは本当だけどね。でも、それ以上に裏の女はあんたのことを尊敬もしていたんだよ。」
女「…え? …私の事を…?」
部員1「そうだよ。あんたの『強さ』にね。」
女「…!?」
部員1「あんたって、確かに自己中な部分がちょいちょいあるかもしれないけど、それをカバーするほどの『強さ』と『ポジティブさ』を持っているじゃない。」
女「…。」
部員1「まあ、あの子って確かに謙虚で優しいけど、本当に『優しすぎる』のよ…。だから、あの子は自分が持っていない、そんなあんたの強みに憧れていたし、尊敬もしていたのよ。」
女「…そうなんだ。」
部員1「あと、あんたも裏男から、あの子の話を聞いて、あの子の性格のことを羨ましいとか尊敬するな~って思った事あるんじゃないの?」
女「…え、…う、うん。」
部員1「でしょ?結局、人間って『無い物ねだり』するものなんだと思う。そして、あんたら二人はお互いの性格のことを羨ましくも思っているし、尊敬もしている。…そんな『無い物ねだり』し合える素晴らしい関係じゃない。」
女「…ふふ、そうかもね。」
部員1「…あとね、実は私もあんたにはすごく感謝してるんだよ。」
女「え?」
部員1「私のオリジナルって、いっつもオドオドしてるだろ?まあ、『あの子』があんなんだから私はこういう性格でいられるんだけど。」
女「…ふふ、みたいだね。」
部員1「そんな私のオリジナルを引っ張って行ってきてくれたのは他でもない、『あんた』じゃないか。特に部活ではオリジナルの私に丁寧にサポートしてくれたり、話を聞いてあげたりと…」
女「そんなの当たり前じゃない…部活の仲間なんだし。」
部員1「まあ、あんたからしたらそれは当たり前のことかもしれない。でも、『あの子』は本当に心の奥底からあんたに感謝しているんだ。反射物に映る度に『あの子』のそういったあんたに対する『感謝』の気持ちも流れ込んできてさ。まあ、『あの子』すごく恥ずかしがり屋だからさ、今ここで『あの子』の代わりに言わせて!」
部員1「…ありがとう!」
女「部員1…」
部員1「…さてと、私の話はここらへんにしといて…で、女は『表の世界』には行くの?」
女「…! …それが」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
部員1「へえ…裏の世界から裏々の世界に行く方法があったなんて…裏男もたまには役に立つじゃない。ただのウンチクと文句をたらすだけの野郎だと思ってたけど…」
女「ふふ。…部員1も『入れ替わり』のこととか知ってたんだね。」
部員1「まあね。でも、『入れ替わり』についての知識を持っているのは裏男の周りにいる私たちしかいないよ。」
女「え?そうなの?」
部員1「うん。裏の世界の住人は『鏡の世界』についての仕組みとかについては知っているけど、『入れ替わり』についてはほとんどの人達が知らないと思う。私は裏男から半年前に教えてもらったから知ってたんだけどね。」
女「そうだったんだ…」
部員1「裏男は自分のオリジナルが『鏡の世界』と『入れ替わり』について知ってしまったから、もしかしたら自分が『オリジナルの特権で入れ替わられるかもしれない』ってことで危機感を覚えて、それで『もしも』の時のためにってことで、周りの信頼出来る子達に『入れ替わり』の知識を教えたみたい。」
女「なるほど…」
部員1「…でも、あんた、本当にいいの? 表の世界に戻らないで…。」
女「…うん。やっぱり、裏女ちゃんを裏々の世界においやったまんま自分だけ表の世界になんて戻れないよ。それに、裏々の世界にはオリジナル男が残ったまんまだし。」
部員1「え!?オリジナルの男も裏々の世界にいるの!?」
女「…うん。」
部員1「…知らぬ間にすごく複雑な状況になっていたのね、あんたたち…」
女「はは…まあね…。」
部員1「じゃあ、裏々の世界に行くっていう決心はもうついているんだ。」
女「うん。まあ、あっちに行ってからどうなるかは分からないけど…まあ何とかなると思う!!」
部員1「…あはは。その『適当』でポジティブなところはやっぱりあんたオリジナルの女だな!」
女「も~!『適当』は余計だよ~!」
部員1「はは!」
キンコンカンコーン
部員1「あっ、チャイムだ。自分の教室に戻らないと…それじゃあ、女!頑張りなよ!」
女「うん!」
部員1「…あっ、そうだそうだ。…女、最後に伝言頼んでもいい?」
女「…伝言?」
部員1「うん。あんたが表の世界に戻ったら『私のオリジナル』に伝えてくれない?」
女「…! いいよ!何?」
部員1「…『もっとシャキっとしなさいよ!』って!」
女「…!」
女「…ふふ、了解! 絶対に…絶対に伝えるからね!」
部員1「うん!絶対だよ!あんたなら絶対に表の世界に戻れる!信じてるからね、私!」
----―――――――――――――――――――――――
―2012年/2月/29日/香川/ @ 3週目―――――――----
物理『…それでは、先週の実験で使った魔法鏡を端っこから回していきますので、皆さんもこの『魔法鏡』に直に触れてみたり、覗いてみたりしてみてください。黒板の方ではもう1枚用意したこの魔法鏡を参考にしながら、先週の実験の図解等を書いて行きますので、それをノートにとるように。』
女(…! 先生ナイス!これで私の元に魔法鏡が回ってくる!)
物理『…で、こういったことから…』
女(早く…)
女(早く…!!)
…
…
…
ハイ オンナサン
スッ
女(…来た!!!!)
キィーーーーン
女(…!! 耳鳴りも鳴った!!5秒後に…映る!!)
スッ
女(…『裏々の私』が魔法鏡を自分に向けるぞ……っ!!)
女(…今だッ!!)
女(魔法鏡よ!!)
女(私を…)
女(私を『裏々の世界』へ!!!!)
フッ
…
………
………………
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
裏女『…ありがとう。』
----―――――――――――――――――――――――
―2012年/2月/29日/香川/ @ 3週目―――――――----
【-裏々の世界-】
………………
………
…
女(…意識が戻った。)
女(…っ!)
女(…暗い、そして反転していない。)
女(よし!…魔法鏡での入れ替わり…成功だっ!!)
女(…入れ替わったときのあの声って…やっぱり裏女ちゃんだよね…)
女(…入れ替わりのときにちょっとコミュニケーション取れるのかな…)
女(…私も何か言えば良かった…)
女(…でも、あの子何で『ありがとう』って…)
女(…もしかして…入れ替わる前から私が魔法鏡で入れ替わろうとしてたことを…判ってた?)
女(…とりあえず、それらを確認するためにも男と話をしないと…)
女(…でも、今日、会えるかな…)
女(…まあ、会えなくてもいつかは『主』のどっちかが電話するだろうし。)
女(…あと、裏々の世界から表の世界に帰る方法を考えないと…)
女(…いざ、こっちに来れたはいいものの、全くそれについては考えてなかったからなぁ…)
女(…やっぱり『合わせ鏡』での入れ替わりしか方法はないよなぁ…)
女(…でも、こっちは体の自由が効かないのにどうやって合わせ鏡をすればいいのか…)
女(…他に何か方法はないかな…)
女(…と言っても、他の方法としては『特権』しか残ってないんだけど…)
女(…ん? …待ってよ。)
女(…こうして…こうして…)
女(…それで…あっちで…ああして…そうしたら…)
女(…あっ。)
女(…あああああああああああああ!?)
女(…もしかして…)
女(…もしかして、私…)
女(…ミスっちゃった!!!!????)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
【-放課後-】
スタスタッ
女(…。)
女(…あっ! 前に歩いてるのは!)
女「男!!」
男「…!? 俺のことを呼び捨てにするってことは…表女か!?」
女「うん、私、裏の世界から戻って来たの!」タッタッタ
男「…そっか…良かった…」
女「…あのね!私…」
男「魔法鏡で入れ替わったんだよな?」
女「…え!?知ってたの!?」
男「ああ。裏女が教えてくれたんだ。『もしかしたら、魔法鏡で女ちゃんがこっちに戻って来るかもしれない』って。」
女「…!? でも、何でそれを!?」
男「多分お前と同じだよ。お前も物理の授業で魔法鏡のことを知ったんだろ?」
女「あっ、そうか。じゃあ、女ちゃんも…」
男「ああ。あの子が俺に聞いてきたんだ。『魔法鏡で特権を使ったらどうなりますか?』って。」
女「…私と同じだ…。」
男「それで、俺は自分が持っていた『知識』と魔法鏡の性質を照らし合わせて、もしかしたら魔法鏡で入れ替わりが出来るかもしれないと考えた。」
女「…それも全く同じだ…」
男「ん?てことは裏の俺から、その入れ替わりの根拠…というか『空海』のこととか色々聞いたのか?」
女「うん。色々と難しい話を…でも、あれって男が調べたことなんだよね?」
男「まあな。…でも、お前、そのまま表の世界に行こうと思わなかったのか?」
女「…え? それは…裏女ちゃんのことが心配だったし…それに…」
男「…?」
女「私たち『一緒に表の世界に戻ろう!』って決めてたじゃない!だから、男を置いて一人で行けるわけないじゃない!」
男「……女。 …そうだな!決めたもんな俺たち!」
女「そうよ男! …あ、でも、男が裏の世界に来なかったのって、裏男に配慮してってことなんだよね?」
男「…ああ。裏の世界ではもとから皆自我を持っているってことは知っていたし、自分勝手な事情で、そんな裏の世界の自分に迷惑を出来るだけ与えたくなかったからな。」
女「…そっか。」
男「でも、裏女ちゃんからは早く『特権を使ってあげてください』ってすごくお願いされたんだよ。『自分や裏男のことはいいから』って…」
女「…!? …裏女ちゃん…。」
男「でも、お前が入れ替わった2日後に魔法鏡のことが分かって、何とか俺は『特権』を使わずに済んだんだ。」
女「そっか…」
男「まあ、俺の話もまたするから、先に女から『裏の世界』での話を聞かせてくれないか?」
女「あ、うん。分かった。」
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男「あはは、裏の俺ってそんな奴なのか!」
女「そうなの!意地悪で嫌みばっか言ってくる超イヤな奴!!…で、裏女ちゃんはどんな子だった?」
男「ああ、すごく良い子だったよ。文句のつけようの無いほどに。」
女「…そっか。…本当にあの子には悪いことしちゃったな…。」
男「…。 …で、他にも裏男から何か色々聞いたのか?」
女「…うん。3月21日の理由とか、偶数世界だとか、あと自我についての詳しい事も。」
男「…そうか。それじゃあ、俺が説明する手間が結構省けたな。あはは。」
女「…あ、あと、裏男が最後に…」
男「…ん?」
女「…『線路』が必要だとかなんとか…」
男「…線路?」
女「…うん。多分、私たちが表の世界に戻るためのヒントなんだと思うんだけど…男はどう思う?性格が反対だとはいえ、知識や思考は裏男とあんまり変わらないんだから分かるんじゃない?」
男「…いや、表の世界に戻るために線路が必要だなんて俺も初めて聞いたぞ。そもそもどっから線路が出てきたんだか…近所に電車は走ってはいるけども。」
女「だよねぇ…」
男「まあ、その裏男からのアドバイスについては今後一緒に考えていこう。」
女「うん! …あ、それでね、男…私、もしかしたら…」
女「…ミスっちゃったかもしれない…。」
男「…ミス?」
女「あのね…『特権』と『合わせ鏡』を組み合わせたら、元通りになるんじゃないの!?」
男「…!」
女「まず、私が裏の世界にいる時は『表』に裏々女。『裏々』に裏女ちゃんがいるでしょ?それで、今日また私が『特権』を使っていれば、表に私、『裏』に裏々女、『裏々』に裏女ちゃんがいることになる。」
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2/22 → 2/29
『表』 裏々女 女
『裏』 女 裏々女
『裏々』 裏女 裏女
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女「それで、次に3月7日に私が『表の世界』でまた『合わせ鏡』での入れ替わりをするの。それで、『表』に裏女ちゃん、『裏』に裏々女、『裏々』に私がいることになる。」
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2/29 → 3/07
『表』 女 裏女
『裏』 裏々女 裏々女
『裏々』 裏女 女
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女「…で、私が『裏々』に行ってから3月14日と3月21日に連続して特権を使えば…裏女ちゃんを裏々の世界に押し込めることなく、元通りになるでしょ!?」
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3/07 → 3/14 → 3/21
『表』 裏女 裏女 女
『裏』 裏々女 女 裏女
『裏々』 女 裏々女 裏々女
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男「…あ~…まあ…な。」
女「でしょ!? それで私、ミスったって思って…私が今日魔法鏡での入れ替わりをせずにそのまま『特権』を使っていれば…」
男「…女。実はその方法は不可能なんだよ。」
男「何故なら『偶数世界』の住人は『主』になることは出来ないからな。」
女「…!? な、何で!?」
男「その原因は…『性格』だ。」
女「性格?」
男「おそらく『主』になれるのは『主』と性格の酷似した『奇数世界』の住人だけなんだ。オリジナルと性格が近ければ近いほど、『主』になりやすいし、オリジナルと性格が違えば違うほど『主』にはなれない。」
女「…!?」
男「そして、何故、わざわざ『合わせ鏡にしないと入れ替わりが出来ない』のか…それの理由もこれと同じで、『主』になるためにはオリジナルと性格が酷似した奇数世界の人間でないといけないからだってことなんだ。」
女「なるほど…だから『合わせ鏡』だったんだ…。」
男「ああ。…まあ、そういうわけで、その方法は不可能なんだ。…それに、もしその方法が可能だったら俺や裏男が気付かないはずないだろ?」
女「…あ…それは…まあ…」
男「まあ、他の方法を考えるしかないな…」
女「…でも、それじゃあもう残された方法は…」
男「…ああ、『合わせ鏡』での入れ替わりにかけるしかないな。」
女「…!? …でも、そんなのどうやって…」
男「…俺も、裏女からお前がこっちに戻ってくるかもしれないと聞いてからずっと考えていたんだけど…」
女「…けど…?」
男「…すまん、何も思いつかなかった…。」
女「…!? …そっか…。」
男「…だけど…」
女「…?」
男「…この現状を打開するための『ヒントを得られる方法』はある。」
女「…ヒント? どういうこと?」
男「…出来るだけこれはやりたくなかったんだが…もうこれしかないな…。」
女「…?」
男「…『第3者』に協力を仰ぐぞ。」
女「…? …『第3者』? 第3者って裏男や裏女ちゃんのこと?」
男「…違う。…この『裏々の世界』にいる人間のことだ。」
女「…? …この世界? え、でもこっちの『裏々の世界』にいる人で今、自我を持っているのは私と男だけって言ってたじゃない?」
男「…いや、俺はこの前『ほとんどいない』と言っただけで、『一人もいない』とは言ってない。」(>>79)
女「…!? …嘘…。 …じゃ、じゃあ、誰なの? 他にも自我を持っているっていう人は!?」
男「それは…」
男「俺の姉さんだ。」
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女「…男の…お姉さん?」
男「…ああ。俺の姉さんがこの裏々の世界で3人目の自我を持っている人間だ。」
女「そんな…でも、何で男のお姉さんが!?」
男「…おっと、『主』たちは公園によっていくみたいだな。」
女「…!ほんとだ。」
男「その話は公園のベンチに座りながらゆっくり話すよ。」
女「…わかった。」
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男「ふう…」ドサッ
女「…早速さっきの話の続きなんだけど、男のお姉さんは何で自我を…もしかして裏々女みたいに男から!?」
男「…いや、違う。」
女「じゃあ、どうやってお姉さんは自我を…」
男「…女、3週間前に俺、話したよな。俺は『とある出来事』をきっかけにこの鏡の世界のことを知った…と。」(>>82)
女「…え…う、うん。」
男「あと、俺が半年前、夏休みに一人で京都に観光に行ってたのを覚えてるか?」
女「…あ、そういえば…確か、抹茶のシュークリームのお土産をくれたよね?」
男「…ああ。そのとき、俺は姉さんの下宿先に泊めさしてもらったんだ。そして、そのときに俺はそこで『あるもの』を見つけた。」
女「あるもの?」
男「…鏡の世界のルールが書かれた紙だ。」
女「…!?」
男「そこには、俺がお前に教えた『鏡の世界についてのルール』のほとんどが書かれていた。」
女「…。」
男「…俺が鏡の世界のことを知ったのはこのときだ。」
女「…そう…だったんだ。」
男「その紙を見つけてから、今までのこの半年間、俺はその情報を基に色々と調べた。『3月21日』の理由等は俺が自分で調べ上げたものだ。お前に説明するときに『~だと考えられる』とかの表現を何回か使っていたが、それらも、『その紙』に書かれたものじゃなくて自分の憶測にしか過ぎなかったらそういう風な表現の仕方をしていたんだ。」
女「…なるほど。…でも、男、家でお姉さんとあってるよね?自我を持っているのなら、こっちでの会話が…」
男「…いや、姉さんは家の中では表の世界の自分と合わせた会話をしている。」
女「…!?」
男「…でもそれは演技だろう」
女「…けど、それが演技って分かってたなら、何で今まで本人に確認しなかったの?お姉さんって3週間前に京都の下宿から帰ってきてたんでしょ?」(>>7)
男「…やっぱり今まではやましい気持ちがあったからな。勝手に姉さんの『モノ』を覗いてしまったという。」
女「…。」
男「…あと、できるだけ俺と女以外の人を巻き込みたくはなかったから…二人で何とかしようと考えていたけど、もうそんなこと言ってられなくなった。」
女「…でも、お姉さんだって、自我を持っているとしてもこの鏡の世界じゃ体の自由が効かないわけだし…」
男「確かにそうだ。でも、今回の女が裏の世界から戻って来れたことで俺は確信した。」
女「…確信? 何の?」
男「鏡の世界にはまだ俺たちの知らない『ルール』があるということに。」
女「…!?」
男「俺が手に入れた情報には今回の『魔法鏡』での入れ替わりのことは書かれていなかった。だから、他にも何か違った入れ替わりの方法があるかもしれないと思ってな。」
女「…なるほど。」
男「俺がこっちにきてからは自力でどうにかしようと俺自身考えていたが、女と一緒に表の世界に戻ると決めたんだ。そのためにも…」
女「男…。…でも、どういう風にお姉さんに話すの?」
男「…今日は幸運なことにも『主』たちは公園に来てくれた。」
女「…?」
男「そして今は夕方の6時前、この時間に姉さんは犬の散歩で必ずこの公園に寄る。」
女「…!?」
男「だから、もしタイミングがよけれb…」
トントンッ
男「…!?」
女「…え?どうしたn…!?」
男姉「よっ!何してるのお二人さん♪」
犬「わんわん!」
女(…まさか、こんなタイミングでお姉さんが…)
男「…願っても無いチャンスだ。」
女(…!? 男、もしかして本当に!?)
男姉「…ん?どうしたの二人とも?」
男「…なあ、姉さん。」
男姉「ん?」
男「…『鏡の世界』について教えてくれないか?」
女「…っ。」
男姉「…………『鏡の世界』? 何それ? 小説かなにかの題名?」
男「…とぼけないでくれ、姉さん。『表の世界』の姉さんは鏡の世界のことを知っていた。なら、『あなた』も自我を持っているはずなんだ。」
女「…。」
男姉「…。」
男姉「…ちょっと、男。それについてはまた後で話そうか。…ごめんね、女ちゃん、うちの弟が変な話をして♪」
女「…!?」
男「…無駄だよね姉さん。女も既に自我を持っている。というか、俺たちはどっちも…オリジナルだ。」
女「…。」
男姉「…!?」
男姉「…………女ちゃん、本当なの?」
女「…はい。」
男姉「…はあ。 …どうして『あなた』まで…。」
男姉「…! …もしかして男。あんた、半年前に私の下宿に来たときに…あれを見たの?」
男「…ごめん。」
男姉「…はぁ、なるほど…そういうことね。 …今、表の世界の3人も話し込んでるみたいでもうちょっと時間があるから、とりあえずこれまでの経緯を『簡潔』に私に話しなさい。」
男「…分かった。」
男「実は…」
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男姉「…なるほどね~、それで裏の世界から、女ちゃんが鏡戻って来れた…と。」
女「…はい」
男姉「…そしてこれから、どうやって表の世界に戻ろうと。」
男「…うん。俺たちのどっちかが戻ることが出来れば、あとのもう一人は無理矢理合わせ鏡をさせてらなんとかなると思うんだけど…」
男姉「無理矢理…ねぇ…」
男「…で、姉さん。単刀直入で申し訳ないんだけど、『合わせ鏡』と『特権』の入れ替わり以外に表の世界に戻る方法はないの?」
男姉「ん?」
男姉「ないよ?そんなの。」
女「…え!?ないんですか!?」
男姉「ないない。入れ替わりの方法はその2つだけだよ。」
男「…。」
女「そんな。 …! …じゃあ、お姉さん。『線路』って何だかご存知ですか?」
男姉「線路?」
女「私が裏の世界にいたときに裏男がメッセージとして『線路』が要るって言ってきたんですけど。」
男姉「…ふ~ん。線路ねえ…。」
女「何か…関係ないんですか?」
男姉「…さあ、私も分かんない。」
女「…! …そんな…じゃあ、やっぱり私たち、もう表の世界に戻るためには…」
男姉「うん。『元通り』の状態にしたいのなら『合わせ鏡』しかないね。」
男「…。」
女「…そんな。」
男「…また、振り出し…か…」
女「…」
男姉「…ちょ、ちょっと、そんな暗いオーラ出さないでよ。只でさえ、この世界は暗いのに…。」
男・女「…………。」
男姉「…はあ。」
男姉「…分かったわよ。私が手伝ってあげる。」
男「…?」
女「…手伝う?」
男姉「あんたたちが表の世界に戻るための手助けをしてあげるって言ってんの。」
女「…お姉さんが?」
男姉「そう。…まあ、この事態に巻き込まれているのが男だけなら『自力』でなんとかしろって言ってるところなんだけど、女ちゃんまで巻きもまれてるんじゃね。」
男「…。」
女「わ、私?」
男姉「うん。まあ、女ちゃんがこんな事態に巻き込まれたのは男のせいだけど…そもそもその男にきっかけを作ったのが私自身なんだし…あと、女兄くんの可愛い妹をこのままにしておけないでしょ?」
女「あ、お兄ちゃんのこと覚えてくれたんですね?」
男姉「うん。まあ、そこそこ仲良かったからね、あなたのお兄ちゃんとは。まあ、というわけだからこの私が協力してあげる。」
女「あ、ありがとうございますお姉さん! …ん? …で、でも、表の世界に戻るためには合わせ鏡をしないと…」
男姉「すればいいじゃない。『合わせ鏡』を。」
男「…!? でもどうやって…?」
男姉「だから、そのシチュエーション作りを手伝ってあげるって言ってんの。」
女「…『シチュエーション作り』?」
男姉「うん♪ …え~っと、今日は閏日だから29日だっけ?」
男「あ…うん。」
男姉「よしよし♪ そんじゃ~…あっ♪良いこと思いついた~♪」
女「良い事?」
男姉「…よし♪決行は今日からちょうど2週間後の3月14日♪」
男「…『決行』って何を決行するの、姉さん?あと、何で3月14日なんだ?」
男姉「ふふ♪ 3月14日って何の日でしょう?」
男「何の日…?」
女「あっ…」
女「…ホワイトデー。」
男姉「そう、ホワイトデー♪ あんたたち今付き合ってるんでしょ?」
女「…え、は、はい。…一応。」
男姉「よしよし♪」
男「…でも、ホワイトデーと入れ替わりに何の関係が?」
男姉「…ん?特に関係はないわよ。」
女「…え、『関係ない』? じゃあ何で…」
男姉「…ん?それは『釣りやすい』から。」
男「…釣りやすい?」
男姉「…そう。ホワイトデーに『あの子たち』を釣ってみせるわ。」
男姉「この私がね」
----――――――――――――――――――【承】――
―【鏡の世界でのルール(No.1)】―――――――――----
● 体について
① 体の自由はほとんど効かない。表の世界にいる『主』が絶対的な存在であり、その『主』の行動が鏡の世界の住人にも反映される。(>>57)
② 表の世界で『行動権』を持つ者を『主』、表の世界で生まれ育った者を『オリジナル』という。(>>81)
③ 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの五感は働く。(>>93)
④ 鏡の世界では『考えること』と『喋ること』が出来る。(>>58)
⑤ 鏡やガラスといった光を反射させるもの(反射物)に表の世界の『主』が映っている場合は鏡の世界の住人は『喋ること』が出来なくなる。『考えること』は可。(>>59)
⑥ 『主』が反射物に映っている時は『主』の『喋る』内容が鏡の住人にも反映される。(>>59)
⑦ 飲食時は反射物に映っていない時でも、表の世界の『主』の口の動きと同化する。(>>93)
⑧ 反射物に、自分の像が映し出されるその5秒前に、脳に合図が走り、『喋ること』ができなくなる。ただし、これは自我を持った人間のみに起きる現象である。(>>60)
● 自我について
① 鏡の世界の人間が自我を持つためには、鏡の世界の人間自身が『鏡の世界の人間』だと自覚する必要がある。(>>76)
② 自我を持つことによって鏡の世界の住人は『考えること』と『喋ること』が出来るようになる。(>>76)
③ 自我を持った鏡の住人は、反射物に自身の姿が映る度に表の世界の『主』の記憶が共有されるようになる。ただし、オリジナルには共有されない。(>>161) ←New!!
④ 鏡の世界の住人が自我を持つためには『他に自我を持った人間から鏡の世界についてを教えてもらう』もしくは『表の世界のオリジナルが鏡の世界のことの存在を知る』必要がある。(>>80)
----―――――――――――――――――――――――
―【鏡の世界でのルール(No.2)】――――――――----
● 鏡の世界の特徴について
① 鏡の世界は半永久的に存在する。(>>53)
② 鏡の世界は、裏の世界、裏々の世界、裏々々の世界と、表の世界から遠ざかっていくにつれて、明度が小さくなっていく。(>>54)
③ 表の世界を『1』として、裏々、裏々々々といった奇数番目の世界は、『奇数世界』と定義される。(>>159) ←New!!
④ 裏の世界を『2』として、裏々々、裏々々々々といった偶数番目の世界は、『偶数世界』と定義され、これらの世界では、全てのモノが反転している。(>>159) ←New!!
⑤ 偶数世界では、ほとんどの者が自我を持っており、その『性格』はオリジナルのものとは反転したものになっている。(>>159) ←New!!
⑥ 偶数世界の鏡の住人が『主』になることは出来ない。(>>227) ←New!!
● 入れ替わりについて
① オリジナルが表の世界以外にいる場合、反射物に対して念じれば、表の世界に近い層へと移動できる。(『特権』による入れ替わり)(>>124)
② 2枚での合わせ鏡の状態を創り出した時、表の世界と裏々の世界の人間が入れ替わりを起こすことが出来る。(合わせ鏡による入れ替わり)(>>48)
③ 入れ替わるのは、あくまで『意識』のみであり、肉体はそのままである。(>>49)
④ 入れ替わる時に、一瞬だがお互いにコミュニケーションが取れる。(>>218) ←New!!
⑤ 入れ替わりは連続して行うことが出来ず、1週間のブランクを必要とする。(>>96)
⑥ 入れ替わりにはどちらかにその『意志』があることが必要となる。(>>51)
⑦ 入れ替わりは閏年の一時期に行える。(2012年は3月21日まで)(>>50)
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―【鏡の世界でのルール(No.3)】―――――――――――----
⑧
⑨
⑩
⑪
● ○○○○○○○○○○○○○○
①
②
③
④
○○ ○○○○○ ○○ ○○○○○○○ ○○○ ○○○…
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【鋪】に続く