魔王「遂に復活の時よ!」バッ
魔王「……」シーン
魔王「何故、城内に誰もおらんのだ」
魔王「あの時側近が放ったこの封印の術はまさか……我のみにしか作用しないものだったのか?」
魔王「誰かおらんのか!!」オランノカ ンノカ カ
魔王「……」
元スレ
魔王「勇者に負けそうになり、我が身を封じて数百年」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1356361277/
魔王「勇者に負けそうになり、我が身を封じて数百年」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1356413176/
魔王「我は……我に仕えていた者全てを失っ」キィィィン
『魔王様、お目覚めになりましたか!』
魔王「側近?! 何処におる。というより何故念話なのだ」
側近『事態は急を要します。何点か確認したい事があります』
魔王「貴様、我が問うて……」
側近『急がなくては魔王様のお命に関わる事なのです! どんな責め苦も甘んじて受けます。ですが今はお赦し下さい』
魔王「……いいだろう。申せ」
側近『私が行った術により魔王様並びに契りの儀を行った全ての眷族が封印されました』
側近『その者達は魔力が減少傾向、変質が確認されています。魔王様、魔力による障壁を張る事は可能ですか?』
魔王「……」キィン
魔王「む……? 上手くいかんな……いや張れているのだがこの強度は」
魔王「……ふむ、絶対の壁としての力は失われたか」
側近『どの程度の強度でしょうか……?』
魔王「……魔法を無効化する力は無いだろう。あの時の魔法使いの少女の一撃に耐えられるか否か」
魔王「物理であればそれなりに耐えられるだろうが……魔王クラスを相手取るなら一撃凌げればいい方か」
側近『……それでは魔王様が行われていた飛行能力はどうでしょうか?』
魔王「……」フワ スィー
魔王「高度は3mも出んな。速度も全力で時速20kmくらいだろうか」
側近『……』ゴクリ
魔王「どうした?」
側近『今すぐ魔王城から逃げ出し、岬の中腹あたりにある岩場まで全速力できて下さい』
魔王「一体何が起こっていると……いやそれも含めて後で聞くとしよう」
側近『大至急お願い致します。我々はその岩場で待機しておりますので』
魔王「はぁ……はぁ……あそこ、か……」タタタタ
側近「魔王様! ご無事で何よりです!」
魔王「ふう……ふう……」
騎士A「ま、魔王様、お水を」スッ
魔王「うむ……すまない」グビ
魔王「ふう……では、側近よ。状況の詳細を報告せよ」
側近「はい、あの日より約370年経っており、人間達は魔王様が自らを封印した、と前回の戦いを結果付けました」
魔王「ほう……もっと慢心するかと思ったが」
側近「私も驚きですね。以降人間達は産業を発展させ続け、様々な道具や兵器を生み出しました」
側近「結果、魔法という存在が曖昧、というよりも技術力が取って代わってしまった世界と言えるでしょう」
側近「魔王城の扱いは昔恐ろしい魔王がいた城として、歴史的に価値が高いものとして残されてきました」
側近「我々は一週間ほど前から目覚め、魔王様のお目覚めを待っていたのですが人間達に見られてしまい、大戦力が進行中であります」
魔王「新兵器をもって、か。それはどの程度のものなのだ?」
側近「後ろをご覧下さい」ン ゥン
魔王「……なんだ? 森? 森が浮いている?」ゴゥンゴゥン
側近「あれは森にカモフラージュする様ペイントされたものですね」
魔王「……」ジー
緑色の何か「」ゴゴンゴゴン
魔王「僅かに光沢があるようにも見える。あれは金属なのか?」
側近「あれが人間達の今の主戦力の戦艦です」
魔王「あれが船だというのか?! 浮いているぞ!」
側近「魔王様も浮きになられるじゃないですか」
魔王「規模が全く違うではないか! あれは……本当に大型の船だぞ!」
側近「あ、そろそろ隠れましょう」ガサガサ
魔王「むう……で、あれは何をしようといるのだ」
側近「その様子まではもう少し時間もかかるでしょうし、世界情勢についてお話しておきましょうか」
側近「今も昔と同じ五ヶ国からなります。まずは北の雪国、シルバースノウ」
側近「ここは山脈に囲まれた土地を利用し、完全に鎖国をしています。戦艦の殆どが防衛や奇襲に特化した屈強の特殊艦隊となっています」
側近「中央の国、多くの川が流れるウェッブリバー。ここは地形の優位性が無く、通常戦艦を多く有して物量での戦法を敷いています」
側近「西部、岩山だらけの領土で洞窟を利用した生活圏を持つロックケイブ。ここはウェッブリバーと友好的ですね」
側近「地理上、攻め込まれる場合ウェッブリバーが先に落とされる形になる為、高速戦艦や射程距離重視の戦艦を保有しています」
側近「南部、樹海の国のグリーングランド。今魔王城に向かっている戦艦の国です。基本は樹海にカモフラージュして攻め込む相手を下から撃つ」
側近「そして上空の戦艦も攻撃に加わるという二方向からの攻撃を展開する戦法をもっていますね」
側近「東部、砂漠の国シーサンド。ここが精力的に各国への侵略を行っています。今のところは物量で戦っている感じですが」
側近「何やら特殊戦艦を造っているという話があります」
魔王「で?」
側近「グリーングランドは我々の目撃に対して魔王様の復活と考え、先制をもって終わらそうと考えているようです」
側近「ああ、説明が遅れました。戦艦の基本攻撃は砲弾、巨大な金属の弾を射出します」
魔王「どうやってだ? まさか空気圧でか?」
側近「昔はそうでしたが今は魔石を用い、爆破魔法の要領で飛ばしているようです」
魔王「魔石? 人間界は魔石が少ないはずだったが」
側近「前回、魔王様が全ての鉱山で魔力を放った結果、クズ石一つでも膨大な魔力を保有するようになったようです」
魔王「……まさか航空戦艦も我の所為か?」
側近「魔石を元に飛行技術を得ていますからね……」
魔王「む、戦艦が止まったぞ」
側近「あそこから魔王城に対し発砲して沈める気なのでしょう」
魔王「? 城に対し戦艦を横に向けたぞ」
側近「あー……あれは伏兵戦艦ですからね。上空を狙う関係上、正面の砲塔は低い位置は狙えません」
側近「なので上下の稼動が利く側面の砲等を使うのでしょう」
魔王「なるほど……さて、お手並み拝見と行くか」
グリーングランド 戦艦内
艦長「……あれは歴史的に見ても非常に価値ある存在だ」
艦長「可能であれば未来に残していきたいものだが」
「……」
艦長「これも時代か……全艦、照準魔王城。弾種徹甲!」
「照準魔王城、弾種徹甲!」
艦長「……」グッ
艦長「全艦、撃てぇ!」
ドドドドン ドドン
ズドドドドドォ
魔王「……」ォォォ
側近「……」ォォ
魔王「人間界侵略はもう止めにしよう。時代は変わったのだ」
側近「そうでしょうね」
魔王「だがしかし……このままおめおめと魔界に帰るのも」
魔王「我を魔力しかない魔王と侮辱するあの者達を見返すことも出来ず……」
魔王「……ん? そのシーサンドの勢力はどのくらいのものだ」
側近「今現在は小競り合い程度でとても世界を掌握できるものではありません」
側近「が、特殊戦艦建造を含め、戦線に出していない多くの戦艦が控えています」
側近「総戦力となったら……各国のいち早い連携無くして迎撃できるものとは思えません」
魔王「ふむ……」
魔王「良し、我の行動は決まった。人間に加担しシーサンドを討つぞ」
魔王「一騎当千は無理なのだろう。だが、我が様々な方面に働きかけこの世界を救おうものなら、それこそ我の偉業よ」
魔王「形こそ違えど我が成し遂げた事。シーサンドが屈強でより絶望的な戦力差ならそれも良かろう。我とて男、燃えるではないか」
側近「……」
魔王「魔族魔物の者にとっては人間など蔑視する存在だ。流石のお前も嫌なのだろう、魔界に戻る事を許可しよう」
側近「……魔王様」
側近「我々は個人の感情より、魔王様の忠誠を第一とするものです」ニコリ
側近「そして魔王様ならばそうお考えになるだろうと、下準備は整えております」バッ
側近「既にグリーングランドにおける、特殊戦艦の艦長の座を頂いております。魔王様、何時でも行動はできます」
魔王「……」ポカーン
魔王「ふ、ふははは! やはりお前は優秀だ! だが……流石に魔物達まで残す訳にもいくまい」
魔王「四天王はもう討たれているのだな……誰に統率を任せたものか」
側近「候補はこちらに。二人とも前へ」
騎士A・B「……」ザッ
魔王「……見ない顔だな。このような者がいただろうか?」
側近「彼らは今を生きる魔族です。元々、人間界に攻め込んだ魔王様を敬っていたようです」
騎士A「数日前、魔王様の復活の兆し、魔力を感じたゆえ居ても立ってもいられず、この微力をお使い頂きたく馳せ参じました」バッ
魔王「……ふむ」
魔王「すまぬがお前達は魔界に帰れ」
騎士B「魔王様……」
魔王「お前達には側近の推薦どおり、ここにいる多くの魔族魔物の統率を任せる」
魔王「400年近く経っているとなると、色々と変わっているのだろう……」
魔王「契りの儀は……時間がないか。すまないが君達を眷属にしてやれるのは」
魔王「我がシーサンドを討ち、魔界に戻ってからになるな」
魔王「すまないが、我が命を受けてくれるか」
騎士A「あ、ありがたき幸せ!」バッ
騎士B「この任、必ずや」バッ
魔王「艦長以外に得られたものはあるか? というよりもどうやってそれを」
側近「戦艦の動力は魔力を元にしていますからね。ちょっとした助言一つで信頼と地位が得られました」
側近「私が仕える方として魔王様を艦長に、私が副艦長、他に優秀な人材がいれば適宜、役職についてもらうと」
魔王「ふむ……」
魔王「その戦艦の機構に対し、我が軍で活躍できそうな者はいるか?」
側近「技術職が強いですからね。総合的に見ると人間側に一日の長がありますね。開発であれば話は別ですが……」
魔王「ならば我に聞くまでも無いではないか」
側近「いえ、連れて行きたいと思う者がいればと思いまして」
魔王「構わん。無理に死地に連れて行く気など無い」
側近「おや……死地であるとお考えなのですか」
魔王「当然だ。あんな物、落とされたら乗組員全員の死亡が確定するようなものではないか」
側近「一応脱出手段はありますがね。基礎知識を含め、その辺りはグリーングランド首都に行く前に説明いたしましょう」
魔王「……グリーングランド首都まで二日、三日といったところか。我が艦長になるにあたっての必須知識から頼む」
側近「あ、いえ。迎えが来るのは六日後です。その間に徹底的に知識を叩き込みます」
側近「それにしても……魔王様は学問に対して熱心なのに、どうして魔法学だけはダメなのでしょうね」フゥ
魔王「それができれば我とて苦労はせんわ」
側近「まあ、それ故に感覚だけで空を飛んだり障壁を張ったりできたのでしょうが」
魔王「……貴様は我を蔑みたいのかそうでないのか」
側近「いえ、魔王様ほどの力があって何故こうも遠回りをしているのだろうと漠然に」
魔王「何かを為す、という事はそういうものだ。話を始めろ」
側近「畏まりました。まずは戦艦の簡単な構造を」
側近「まず飛行に関してですが、恐らくではありますが魔王様が行っていた事を機械で行っているものだと思われます」
魔王「ほう、つまり我の飛行能力が解明されたようなものか。詳細はどのようなものだ」
側近「ええとですね。ああ、語句の説明もしないといけませんね」
側近「魔石の事をマナ鉱石と呼び、これを液化したものをマナ水、気化したものをマナ気体と呼びます」
魔王「待て待て待て! なんだと? 魔石を融解?! 蒸発?!」
側近「この点だけでも魔界の常識をひっくり返していますね」
魔王「魔力を完全に物質化させて扱うとは……人間とは化け物の集まりか」ブルル
側近「理論も技術も頭がおかしいと言わざるを得ませんね」
側近「マナ水がマナ気体になる際に大きな力が発生するようです。これを推進力、浮力として利用しているようです」
側近「その後、マナ気体は後方下部にある、複数の循環弁を通り外界の温度でマナ水に戻します」
魔王「ほう……魔力を再利用するのか。しかしそれではそこを破壊されたら終わりだな」
側近「基本、どの戦艦も循環弁周囲は装甲が厚いです。またマナ水に戻る時は単純に斥力が発生するようです」
側近「これが強力で特定の入射角にならない限り、並大抵の砲弾は循環弁から反れます」
魔王「斥力を無視できる威力だとしたら?」
側近「それなら直接船体に当てた方が早いかと。まあ、集中砲火を浴びせ、着弾の衝撃で破壊する手もありますがそれも……」
魔王「なるほど……よほどその位置取りにならん限りは狙う必要は無い、か」
側近「魔力の圧力をマナ圧といい、圧力の高さで出力を調整し、専用の技師が管理します。この一連の機関をマナユニットと称します」
魔王「我が飛行した際に高度に限界があったがそれはどうなった?」
側近「こちらにもありますね。戦艦の高度限界は四千五百mとされていますね」
側近「これを超えると魔王様と同様に、浮力を失い墜落するようです。高度限界は浮力を得るタイミング、マナユニット始動時の高度からになります」
魔王「となるとやはり急速に出力を減少させると、魔力が暴走してあらぬ方向に飛んでいってしまうのか?」
側近「はい、戦艦が全くおかしな方向への推進力を得てしまい、操縦不能になるようです。またユニット停止から始動の間の降下だけでも操縦不能になるので」
側近「止めて動かして高度限界を伸ばす、は無理ですね。それと出力減少は一定速度以下、魔力が暴走しない速度までにしかできません」
魔王「これさえ無ければ、いくらだって人間の国を攻められたものを」
側近「魔力を打ち消す障壁の関係上、速度を維持しつつ降下なんてできませんからね」
側近「高度の話でもう一つ。戦艦とは別に小型の船があります。それをリトルシップと呼び、基本二人で乗る小型と」
側近「十数名ほどを運ぶ、運搬型とがあります。今回迎えに来るのはこの運搬型です」
側近「運搬型は四千m、小型は五千mの高度限界となっています」
魔王「どういう事だ?」
側近「私もまだ理解できていないのですが、ユニット構造によって高度に差があるようです」
側近「二人乗りのタイプは、搭乗者が向き出しになっている関係上、あまり高い高度が飛べないようにしているようです」
魔王「……ふむ。構造については詳しく知りたい所だが、今は戦艦を優先させるべきか。次を頼む」
側近「戦艦種類の説明の前に簡単に歴史をお話しておきます」
側近「初めはロックケイブで大本のマナユニットの構造が確立されました」
側近「当時は平和だったらしく、全ての国が集まりこの技術を研究するプロジェクトがあったようです」
側近「そして戦艦の初期モデルとなった、小型艦ショートソードが生まれました」
側近「船体が剣をイメージされつつ、構造上から柄と刀身を定めた際に長さからこの名になりましたが、今では戦艦は武具の名前であるのが当たり前です」
側近「かくして各国はショートソードを持ち帰り、それを改良して遊んだりと、道楽、または何らかの作業に使われていました」
側近「この頃にマスケット銃という、人が砲弾を射出できる兵器が現れました。それもあってショートソードにはまだ、武装らしい武装がありませんでした」
側近「それからしばらくして、国内のみでのショートソードの改良に限界を感じ、また各国が集まるプロジェクトを興します」
側近「そしてできたのが今現在最も一般的な戦艦ロングソードです」
側近「この戦乱以前は貴族や国が決闘等、ペイント弾による戦闘を行っていました」
側近「元々、戦艦ロングソードは様々なカスタマイズができる機構を備えており」
側近「グリーングランドの伏兵型、多くの国で持つ射程重視や機動型も戦艦ロングソードからなるものです」
魔王「主戦力でありつつカスタム機か……で、攻撃の方だが砲弾に種類はあるのだろう」
側近「はい、敵艦の装甲を貫く事に特化した徹甲弾。発射後、搭載された小型の弾が発射される榴散弾」
側近「対象を燃やす事を目的とした燃料搭載の焼夷弾。着弾時に爆発、または爆破した際の破片で被害を与える榴弾」
側近「この辺りが一般的ですね」
魔王「思ったよりもあるな……」
側近「弾道計算において下方砲撃は不得手らしく、艦隊戦において高度の優位性は低いほうにあります」
側近「中には逆をついて対地砲塔を大量に備える、という戦艦もあるようですが……まあ脅威と言うほどではないですね」
魔王「あまり上空を飛ぶべきではないという事か……」
側近「こちらが先に敵に気付けばいいだけですが、用心するに越した事はないでしょうね」
側近「そういった意味ではグリーングランドは、とてつもない地形の理と言えますね」
側近「基本的な戦闘は戦艦の物量で決まります」
魔王「だろうな」
側近「交戦したくはありませんが、何れ手を取り合わざるを得ない所としては、シルバースノウはそれをひっくり返しています」
魔王「防衛特化だと言ったな。どういう戦艦だ」
側近「現在、登録されているのは二種類。まず第一に戦艦ランス」
側近「ランスという武器は元々、騎兵の武器であり専用の道具で固定し、馬の突進力を利用する武器です」
側近「この戦艦もそれに倣っており、一切の砲門を持ちません。形状は太く長く、一見槍を彷彿とさせます」
側近「装甲は非常にぶ厚く、正面から見ると傾斜のある船体で、多少の砲撃なら僅かながらも威力を削げるようです」
側近「機動特化で旋回能力と正面に対する推進力は他の戦艦の群を抜きます」
側近「ランスの体当たり……いえ突き倒しは、戦艦の機動を奪い、時には操縦不能にまで追い込むそうです」
魔王「それではその戦艦ランスもただではすまないのでは?」
側近「構造不明ですが戦艦そのものには衝撃を緩和させる機構が備わっているのでは、という話です」
側近「もう一種が戦艦チャクラム。これは人間達の何処かの教団が使っていた武器のようです」
側近「チャクラムとは輪っかの形をしており、投げる事で対象を切断する武器となっております」
側近「戦艦においてはこちらも砲門を一切持たず、左右下部の三箇所に可動式ののこぎり状の刃がついており、近接カッターというそうです」
側近「戦艦ランスより低い旋回能力と、ランスを上回る前方への推進力で突進し、すれ違い様に船体を切り裂くようです」
魔王「聞くだけで恐ろしい戦艦だな」
側近「彼らと交戦し、勝利して帰還した戦艦はありません」
魔王「この情報は?」
側近「詳しい戦法は遭遇したリトルシップのパイロットや、戦線から撤退した艦隊からですね」
側近「攻撃意思がなく、領土から逃げ出す戦艦までは攻撃しないようですね」
側近「後はそうですね……今のところ、各国で実戦経験があまり無い戦艦として戦艦バスタードソードというのがあります」
魔王「長剣と大剣の間にいる剣だったか」
側近「はい。戦艦としてはロングソードに比べて大きく、攻守共に強化した戦艦ですが機動力の低下はそれほど大きくありません」
側近「戦艦ロングソードの上位互換と言った所ですがコスト上、滅多に出陣しませんね」
側近「一戦の記録も無いところですと戦艦クレイモアという大型戦艦があります」
側近「こちらは非常に高い耐久と攻撃力を持っていますが、機動力とのトレードオフになります」
魔王「こちらは実物の剣どおりの仕様だな」
側近「周辺環境次第でしょうが、予想値としては一撃で戦艦ロングソードを沈めるほどの力を持っていますからね」
側近「重要なところでは以上でしょうかね……後はこちらの本を読了していただく他無いですね」ドサドサ
魔王「この書物の山はなんだ」
側近「戦闘に関する知識や発光信号……空では基本、発光パターンで決められた言葉で通信を行います」
側近「通信ワイヤーという物を相手に繋げれば直接会話もできますが、航行中ともなるとワイヤーの維持は難しいですからね」
魔王「ふむ」ペラ ペラ
側近「私は魔界に戻る者達の今後の予定を立てておきます。何かありましたらお申し付け下さい」
魔王「うむ」ペラ ペラ
魔王「む? 今シルバースノウの話で登録、と言ったな。どういう意味だ」
側近「おっと失礼しました。どこの国にも属さない中立の立場として戦艦ギルドという組織があります」
側近「各地で工房を設けており、長距離長期間を航行する戦艦の修理や弾薬の補給」
側近「また、開発している兵装、特殊砲弾等の購入も出来ます」
側近「但しそれはこのギルドに登録された戦艦のみとなります。登録された戦艦の一覧は誰でも閲覧できます」
魔王「未登録ならどうなる」
側近「付近を通過しただけで戦艦ギルド周辺の地表にある対空砲で攻撃されます」
側近「登録していない戦艦は無いといわれていますね。我々の戦艦も登録されます」
魔王「……確かに補給は必須だろうがいいのかそれは」
側近「我々が預かる特殊戦艦の索敵能力は群を抜いていますから、何とか敵を切り抜けるしかないですね」
側近「ギルド周囲での戦闘を禁止とされています。ギルドのリトルシップが周辺を巡回しており」
側近「周囲で停泊している戦艦、未登録艦、また戦闘を行っていないかを確認しております」
魔王「完全に中立なのだな」
側近「最近のシーサンドの行動もあり、より強化しているようですね」
魔王「にしても、地表からの砲撃で戦艦が落ちるものなのか?」
側近「戦艦には装備できないような超大型のものです」
側近「並の戦艦では装甲を突き破るほどの威力だそうです」
……
リトルシップ内
「ほーこの方があんたのご主人か」
側近「はい、私の誇りでもあります」
「ま、この人を従えるぐらいだ。よっぽど凄い人なんだろう」
「艦長になるんだってな。まーシーサンドは大した戦力も無いのに攻めてきているだけだし、気を楽にしてくれればいいさ」
魔王「そもそもどういう戦艦を預けられるんだ。その辺りは何も聞いていないぞ」
側近「おっと失礼しました。戦艦はロングソードより小型の戦艦です」
側近「機動力がある分、上手く立ち回らないとロングソード一隻相手でも沈められてしまうでしょう」
側近「隠密を目的としているので索敵能力を高く、またリトルシップ発着部が設けられています」
魔王(諜報活動用、か)
側近「戦艦の名称についてはまだ決められていません。いかがいたしますか?」
魔王「隠密……うーむ……戦艦ジャマダハル……いや長いな」ペラペラ
側近「短さをお求めでしたら戦艦パタないかがでしょうか?」
魔王「パタ……これは別に隠密を目的とした武具ではなかろう」ペララ
側近「いっその事逆をついて英雄の剣や聖剣はどうでしょうか?」
魔王「大それた名など要らぬ。戦艦スティレット、これで良い」パタン
側近「そんな投げやりな……隠密と言うにはいささか長い短剣ですし」
側近「……グリーングランドには戦艦スティレットとして名称の申請はしておきます」
魔王「外交にあたってグリーングランドから補佐は来ないのか?」
側近「勿論同乗して頂きます。というより居て下さらないと話になりませんし」
魔王「その者はまず第一にどう動くべき、と」
側近「私もまだお会いしていませんので、直接艦内で話し合う事になるかと」
魔王「なんだ? グリーングランドの王と謁見をしなくても良いのか」
側近「こちらの方で済ませております。お会いしたかったですか?」
魔王「曲がりなりにも特殊戦艦なのだろう。一隻預かり受ける礼を言いたかったのだがな」
側近「あちらも忙しそうなので、今からですと中々謁見は難しいかとも」
魔王「既に済ませたのであれば重ね重ねというのも失礼だ。であれば後は行動で示す他ないか……」
家臣「お待ちしておりました。私が外交を勤めさせて頂きます家臣です」
側近「私は側近です。こちらが私の主の……」
魔王「*****だ」
側近(何故わざわざお兄様の名を?)
魔王(何処で漏れるか分からんからな)
魔王「我の事は艦長とでも呼んでくれればいい」
家臣「かしこまりました」
魔王「そうだ。この近辺に特殊武装を開発しているような場所は無いのか?」
家臣「近くに我が国の研究所があります」
側近「何かありましたか?」
魔王「もっと隠密に適した武装でもないだろうかと思ってな」
家臣「適した……ですか。特別にそういった研究はしていませんので」
魔王「何か応用出来る物があるやもしれんというだけだ」
「ふぅむ、砲弾ではないものならあるにはあるが」
魔王「どういったものだ?」
「魚型噴射推進式機雷といってな。燃料を燃やして飛んで行き、着弾時に爆発すものだ」
「コストは榴弾以上に高い分、飛距離も長く発射時の音も小さく、遠くから撃てば位置を特定されにくいだろう」
側近「しかしそれでは射線から位置が割り出されるのでは?」
「それは当然だろう。が、距離さえあれば気付く頃には雲隠れもできる。しかしコストが高いから誰も使わん。お陰でデータも取れておらん」
魔王「仮にそれを設置するとして何日かかるだろうか?」
「あの新型戦艦か……あれなら一日でできるぞ」
側近「え、突貫工事ですか?」
「馬鹿を言え、発射口はロングソードの機構を利用したものだ。その新型戦艦にも同様の機構があるんだよ」
魔王「その魚型推進噴……」
「魚型噴射推進式機雷、略して魚雷と呼んでいる」
魔王「その魚雷は今いくつあるんだ?」
「どうだったかな……20ぐらいあったかなぁ」
魔王「ではそれを全て無償で寄越せ」
「はあ? ふざけんな!」
魔王「おやぁ? データが欲しいのでは無いのか? 果たして現状のままで使う艦があるのだろうかなぁ?」
「ぐぬぬ……」
「ええい、くそ! データ収集を確実にしろよ!!」
魔王「交渉成立だ」ニヤ
魔王「ああ、それと煙幕系の特殊武装は無いだろうか?」
「特殊ねぇ……十発程度なら煙幕弾をすぐに作れるだろうが」
魔王「どういった物だ?」
「発射後、煙を上げて飛んでいくだけだ。数方位に発射すれば短時間で周囲を煙幕で覆えるだろうな」
側近「それはそれでここにいますよ、と宣言するようなものですね」
魔王「その弾は一般的な物なのか?」
「んな訳ないだろう。そもそも戦艦で煙幕つったら投下型の煙幕だけだ。ああ、着弾式のほうがいいか?」
魔王「いや、発射後に煙があがるものを十発貰おう。側近、支払いを頼む」
側近「畏まりました」
「魚雷の発射口は艦首側に二門。砲塔ではないから戦艦の方位そのままに直進するぞ」
魔王「本当に直進するのだろうな」
「想定誤差は3度程度だ。誤射しないよう気をつけてくれ」
魔王「微妙に使い辛いな」
「タダでくれてやったんだ。出し惜しみして使いませんでしたじゃ困るぞ」
魔王「分かっている」
側近「魔……艦長、家臣さんが呼んでいます」
魔王「ああ、これからの進路の相談か」
家臣「今現在、シーサンドの攻撃は大した事はありませんが、この先、必ず激化されると見るべきでしょう」
魔王「ほう……そちらでもその考えをしている者がいたか」
家臣「あの攻撃は恐らく、こちらの戦艦の情報収集でしょう。危機感ぐらい生まれますよ」
家臣「我々は早急に各国と連携し、シーサンドを攻撃、もしくは迎撃態勢を整えなければなりません」
家臣「まずはウェッブリバーに向かい協定を結んだ後、ロックケイブとも協定を結びます」
側近「まあ、妥当なところですよね」
魔王「問題はシーサンドの特殊戦艦か? 三ヶ国だけでどうにかなるのだろうか?」
家臣「シーサンドが本気で世界征服を狙っているとしたら、無駄な足掻きになるでしょうね」
家臣「三ヶ国での協定を結んだ後、シルバースノウに向かいます」
魔王「どうやって協定を結ぶんだ。そもそも近づいただけで迎撃されるだろうに」
家臣「それを考えるのですよ……」
側近「シーサンドが侵攻している中、手を取り合ったりはしないのでしょうかね?」
家臣「シルバースノウは一隻たりとも落とされた事がないですからね」
魔王「よほどの鳩派で無い限り、か」
翌日
魔王「それではな」
「おう、気張って来いよ!」
機関室>ゴオオォォ
魔王「浮力100。浮上」
側近「浮力100。浮上!」ゴゥンゴゥン
魔王「進路真方位3-0-0。巡航速度」
側近「真方位3-0-0。スティレット原速発進!」
航海長「原速発進、宜候!」
魔王(索敵には耳と目……大抵は手持ちの単眼鏡だが、この艦には大型が設置されているのか)
魔王(戦艦ロングソードと比較しても聴音器の数も多いようだし、あの聴音員も相当な技量の者なのだろう)
魔王(何れにせよ、シーサンドの戦艦に見つからぬよう、隠密に行動しなくてはならんな)フゥ
側近「それにしても静かなものですね」
魔王「ユニット駆動音が聞こえんのか?」ゴゥンゴゥン
側近「違います。空がです。今この空が戦場などと……」
魔王「……果たしてそうだろうか」
側近「え?」
聴音員「2時の方角、距離20、発砲音多数! ウェッブリバーの艦隊が交戦しているものと思われます!」
魔王「さて……」
魔王「魚雷射程内に身を隠せそうな雲は?」
側近「いきなりですか?」
魔王「一撃離脱であれば今ほど好機はないだろう」
見張員「前方に雲海多数、魚雷射程距離まで続いているかは確認できません」
側近「魚雷の射程は約5マイルですか……」ペラ
魔王「巡航速度を維持して雲海に突入。 見張員、敵艦隊の位置と雲海の終わりに注意しろ」
ウェッブリバー ロングソード戦艦内
「発光信号! 2-5番艦、4-1番艦、機関損傷甚大! 航行不能!」
艦長「どういう事だ……あれは本当にシーサンドのロングソードか?!」ドドォォン
「2-4番艦! 黒煙多数! 沈みます!」ドンォン ドゴォォン
「8時の方角、飛来物を確認!」
艦長「敵の援軍?! いや飛来物? 新兵器か?!」
「! 飛来物は敵艦隊に向かっています!」
艦長「なに?! 近辺に援軍などいなかったはずだが……」
聴音員「魚雷命中……巨大爆発音……一隻轟沈」
魔王「ほう……この距離で当たったか」
側近「データ収集を確実に!」
>
魔王「進路2-6-0、第二戦速にて戦線を離脱。敵艦隊の索敵範囲外に移動次第、進路3-0-0、巡航速
度にて航行せよ」
側近「このまま首都まで戦線を離れますし、少し軍事関係の話もしておきましょう」
魔王「一通りの書物は読んでおいたが?」
側近「それにない部分です。基本は一艦隊五隻で組まれます」
側近「通常ロングソードならただの第一艦隊、機動型なら機動第一艦隊」
側近「バスタードソードなら強襲第一艦隊、クレイモアなら攻撃第一艦隊、が一般的です」
魔王「あまり我には関係なさそうだな」
側近「共闘する時になって味方の通信が分からないでは困ります」
側近「国によっては優秀な司令に大規模な艦隊を与え部隊とさせたりしていますね」
側近「例えばグリーングランドの第三部隊は強襲艦隊2、伏兵艦隊3、機動艦隊2、攻撃艦隊1からなります
」
魔王「本当に大規模だな」
側近「今の所、部隊が出る事はありませんがね」
側近「各艦の呼び方は強襲第一艦隊の二番艦なら、強襲1-2番艦といった具合ですね」
魔王「ふうむ……しかし総戦力で挑んだ場合、どこの国のどの部隊の強襲1-2番艦か分からんな」
側近「そこまでは流石に無理ですが、どの程度戦力が奪われたかは考えて下さい」
側近「というより、魔王様にとっては得意分野でありましょう」
魔王「まあな」
側近「それと追加で弾道計算等の書物もこちらに」
側近「ああ、それと。人間達は弾道計算において、発射後の落下軌道に対する計算における定義や理論が不確立のようです」
側近「その為、砲弾が落下に入る以前に命中させる事が前提です」
魔王「やたらと飛距離が短い扱いはそれか」
魔王「しかし上空から下方に撃つ分には十分に命中させられるのでは?」
側近「魔力による浮力は当然ながら船底より発しております」
側近「その為に無理に砲塔をつけても、可動並びに射線にその影響を受ける事になります」
側近「浮力を発生させる部位を調節するとなると、戦艦の能力低下が問題視されるようですね」
魔王「逆に言えば、そこがクリアできたとしたら位置エネルギーも相まって」
魔王「最大火力の戦艦が出来上がる訳か」
側近「恐ろしい話ですがそうなりますね。上空からとなれば有効射程もかなりのものになるでしょうし」
側近「さて、今日はここまでに致しましょう。時間がとれましたらまた行いますね」
側近「ウェッブリバー、間もなく到着します」
魔王「ウェッブリバーに対する外交は問題ないのか?」
家臣「既に使者も送っておりますのでスムーズに進むかと思いますね」
家臣「また先の戦闘に関する内容も首都に伝わっているでしょう」
側近「まさかそこまで?」
魔王「丁度良い手土産にはなるだろうからな」
魔王「そうだ、魚雷のデータは?」
側近「たった二発ですからね……今のところ誤差5度といったところです」
魔王「ううむ、そうか……」
国王「話は聞いておる。それと先日、南南東の国境沿いでシーサンドとの戦闘があった」
国王「相手はロングソード艦隊だが今までものとは違った。砲門の口径や砲弾が違ったのだろう」
国王「おかげでこちらは壊滅に追い込まれたが、謎の兵器の一撃で敵艦一隻を沈め、シーサンドの艦隊を混乱に陥れた」
国王「そちらの支援なのだろうな」
魔王「恐れ多くも劣勢と見させて頂きましたゆえ、後方支援をさせて頂きました」
国王「もとより協定を結ぶつもりであったが、これでは頭を下げてでも結ばせて頂かなくてはな」
魔王「いえいえ、こちらとしてもシーサンドに被害を与えられましたので」
「陛下!」
国王「他国との謁見をしているのだぞ」
「そ、それが、北北東の国境にてシーサンドの艦隊と戦闘。数隻が不時着。残存艦は隊列を再編成し第二波に備え臨戦態勢」
「不時着した戦艦の救出が行えない状況となっています」
国王「シーサンドめ……」
魔王「いよいよ本腰といったところでしょうか」
国王「第三機動艦隊を援軍に向かわせよ。第一強襲艦隊を東の国境に」
国王「第四機動艦隊を南東に配備せよ」
魔王「北東の戦線では敵影が?」
「戦線より東に80の位置に戦艦ロングソードが20ほど集結しています」
魔王「よろしければこちらも一緒に向かいましょうか?」
家臣「艦長殿?」
魔王「先の戦闘で使った兵装は通常の砲弾より飛距離があります」
魔王「救出、ならびに可能であれば戦艦の復旧するのでしょう」
魔王「このタイミングで敵も動く可能性が高いでしょう。その際の援護、致します」
側近「よろしかったのですか?」
魔王「売れる恩は売っておきたいからな」
魔王「何より状況如何ではよりデータ収集ができるのだからな」
見張員「ウェッブリバーの機動型ロングソードより発光信号」
見張員「シーサンド相手に隠密戦艦の力を借りるまでも無い」
見張員「勝手な行動は慎む事、と」
側近「あからさまですね」
魔王「止むを得ないさ。向こうからしたら純粋に戦闘型でないこちらの手を借りるというのも、プライドが許さない話なのだろうな」
魔王「それにしても随分とシルバースノウの国境近くだな」
魔王「航行ルートを見誤るな。先方の艦隊がルートから外れそうになったら即座に発光弾を上げろ」
側近「……周囲は雲も多いし嫌な予感がしますね」
魔王「むしろシルバースノウとの接触がありそうだな」
魔王「既に向こうの国境付近で戦闘があったんだ。警戒して巡回してくる可能性がある……そこでどうなるか」
魔王「一層雲が多いな……ルートを反れてシルバースノウに突っ込むのは避けたい」
魔王「進路、真方位0-7-5。向こうにも発光信号で」
聴音員「この音は……特殊戦艦、11時の方角に五隻!」
魔王「友軍に発砲禁止の信号弾! こちらも一切攻撃するな!」
艦長「発砲禁止? 何を馬鹿な事を」
「11時の方角に戦艦ランス出現! 数五! 俯角5度!」
艦長「なっ……馬鹿な! 国境の山までまだ距離があるのだぞ!」
「五隻とも照準をこちらに合わせています!」
艦長「う、ぐっ! 全艦! 攻撃せよ!!」
見張員「ロングソード艦隊、砲塔稼働!」
見張員「照準、戦艦ランス!」
魔王「恐怖に駆られたか。発砲禁止の信号弾と停戦の信号弾を打ち続けろ」
魔王「発光信号、照準を戻せと伝えろ。全砲門、照準友軍機動艦隊」
側近「よ、よろしいのですか?」
魔王「構わん」
側近「全砲門照準、前方ロングソード艦隊!」
「せ、戦艦スティレットの砲塔がこちらを!」
「発砲禁止、ならびに停戦の信号弾確認!」
艦長「ば、馬鹿な……我々を盾に逃げ出すつもりか?!」
「艦長……」
艦長「……」
艦長「全艦、攻撃中止……砲塔の照準を戻せ」
見張員「ロングソード艦隊より停戦の信号弾。砲塔、戻りました」
見張員「ランス艦隊、動きありません」
魔王「……ふー」ドサ
側近「流石に緊張しましたか」
魔王「当然だ……ランス艦隊に発光信号」
戦艦ランス
「せ、戦艦スティレットより発光信号」
「『今回の騒動に対する詫びは何れさせてもらおう 失礼する』……との」
艦長「騒動に詫び、か……随分と面白い艦長が乗っているようだな」
副官「見逃してもよろしいのですか?」
艦長「構わん。ここは本来の防衛域外だ。それに……あの戦艦の能力は分からない所がある」
艦長「シーサンドがバスタードソードを上げてきた今、悪戯に被害を被る訳にもいかんだろう」
魔王(それにしても……何故こうもあっさりと引き下げたのだ?)
魔王(シルバースノウにとってこの戦艦も目障りではないのだろうか?)
魔王(無傷、といえずともこちらを全滅させる事は可能だったはず……敵視されていない? いや、向こうは敵も味方もない)
魔王(であれば見逃しす事に理由をつけるなら)
魔王「リトルシップを一機飛ばせ! 目的地はこの先の戦線。交戦していなければ、敵艦隊の動向を探れ!」
側近「リトルシップ隊、三番機スタンバイ。目標、進路上のウェッブリバー国境」
側近「既に交戦していた場合、戦況を確認せよ。膠着状態においては敵艦隊の動向を探れ」
側近「どうなさったのです?」
魔王「嫌な予感がする……向こうに発光信号、第三戦速で進め」
魔王「こちらは先に第二戦速まで上げろ」
「艦長、まだ第三戦速で航行を?」
艦長「向こうから止める合図が来るまで従っておけ」
「しかし、たかだかグリーングランドの使いの指示など……」
艦長「シルバースノウの艦隊接触における状況判断は向こうが正しかったのだ」
艦長「まあ、これで貸し借り無しと考えれば……」
「リトルシップ、一機確認。戦艦スティレットより飛び立ったものです」
艦長「一体何を調べていたのやら……」
「現在交戦はしていませんが危険な状態にあります!」
「敵艦隊構成、攻撃型ロングソード十五隻、80ノットでウェッブリバーの艦隊に接近」
「到達まで後20分ほど。その後方に別部隊確認」
側近「増援……?!」
魔王「別部隊の構成は?」
「それが……戦艦バスタードソード二隻、戦艦クレイモアが一隻の計三隻が60ノットで航行」
「ク、クレイモア!」
「馬鹿な……シーサンドに戦艦クレイモアが」
魔王「強襲か……ロングソードとの交戦によって目を奪っている隙に接敵するつもりだな」
魔王「今の情報を発光信号で向こうにも送ってやれ」
魔王「戦闘を避けては通れんだろう。総員、戦闘配備」
側近「総員、戦闘配備!」
側近「しかし、クレイモアが相手となると……」
魔王「向こうの有効射程距離はこちらの魚雷とほぼ同等。射程圏外から援護、という訳にはいかんな」
魔王「だが実戦経験を積むには絶好とも言えよう」
「前方、戦闘中のロングソード第三艦隊を確認! 距離14! 俯角3!」
艦長「俯角5度、総員戦闘配備! 何としでも敵艦隊を退けるのだ!!」
「敵増援、距離20! 最前線に対し戦艦クレイモアの射程圏内まで50秒!!」
艦長「全長距離型砲門! 弾種徹甲! こちらの射程圏内に入り次第撃て!」
「せ、戦艦スティレット! 真方位1-3-5へ回頭! 120ノットで航行!」
艦長「前線を前に怖気づいたか! 構わん。所詮は戦闘もままならない小船だ! 捨て置け!」
見張員「敵増援、距離10! 仰角0!」
見張員「砲塔正面! こちらに気付いていません!」
魔王「進路そのまま、第四戦速。魚雷発射準備」
側近「進路そのまま、第四戦速。魚雷発射用意!」
魔王「全乗組員に告げる。我々は一部のミスも許されない状況下にある。各員の奮闘を祈る」
側近「そのような激励は珍しいですね」
魔王「流石の私も手に汗を握る状況だからな」
見張員「距離5!」
魔王「魚雷撃て」
側近「魚雷撃てぇ!!」
「3-2番艦、沈みつつあります! 3-6番艦、爆散!!」
「せ、戦艦スティレット、敵増援の右舷より攻撃を確認!」
艦長「なに?!」
「尚も攻撃しつつ前進しています!」
「馬鹿な! ぶつかるつもりか?!」
艦長「あの戦艦の艦長は……敵艦隊は混乱するだろう、発砲しつつ全艦突撃!!」
「全艦突撃ぃ!!」
側近「魚雷第三派、撃てぇ!」
見張員「敵艦接触まで30秒!!」
魔王「ダウントリム30、主砲、弾種徹甲」
側近「ダウントリム30! 主砲、弾種徹甲!!」
聴音員「多数の爆発音、バスタードソード一隻、甚大な被害」
見張員「バスタードソード下部、潜ります!」
魔王「主砲照準、戦艦クレイモア」
側近「照準、戦艦クレイモア!」
見張員「バスタードソード、潜り抜けました!」
魔王「撃て」
側近「ってぇ!!」
見張員「敵増援の下方、通り抜けきりました!」
魔王「戦艦クレイモアは?」
見張員「主砲着弾を確認。速度20ノットまで減速。方位に変化なし」
側近「流石に堅いですね……」
見張員「戦艦バスタードソード一隻大破、沈みつつあります」
見張員「もう一隻、損傷確認できません。戦艦クレイモア、下部に主砲被弾。速度30ノット」
魔王「急速上昇反転。敵艦後方を突っ切る時に引っ掛けてやれ」
側近「急速上昇反転! 右舷全砲門、照準クレイモア。弾種徹甲!」
「戦艦スティレット、7時の方角に回頭! 強襲部隊から離れていきます!」
「ロングソード艦隊、距離1.5マイルにて散開!」
「戦艦バスタードソード1、爆散!!」
「戦艦クレイモア、スティレットの攻撃により多数被弾! 尚も前進してきます!!」
艦長「こちらの戦艦を一隻でも道連れにする気概か……敵艦隊は瓦解する寸前である!」
艦長「全艦、敵増援を集中攻撃せよ!!」
見張員「全敵艦隊、沈みつつあります!」
見張員「戦艦クレイモア爆散!」
魔王「何とかなったか」フゥ
側近「敵艦に突っ込みそうになった時は冷や冷やしましたよ」
魔王「ちゃんと計算はしていたぞ……だが、それ以上に優秀な乗組員だ、対応遅延による誤差も考えていたが」
魔王「殆ど必要がなかったな。バスタードソードの下を抜けるのだって、あそこまで余裕があるとは思わなかったぞ」
側近「あれで余裕……」
魔王「向こうに発光信号。これよりロックケイブへと向かう。引き続きの防衛、健闘を祈る」
ギルド内 補給中
魔王「ロックケイブに使者は?」
家臣「既に送っており、向こうも好意的ですよ」
側近「やはり難関はシルバースノウですか」
魔王「先の騒動の一件もあるしな。鎖国も喜ぶその貢物とは、か」
側近「三ヶ国で頭を下げれば……それでも駄目そうですね」
魔王「……ロックケイブの次はシーサンドに向かう」
家臣「え?」
側近「何故でしょうか?」
魔王「通常の戦艦では……クレイモアですらシルバースノウ攻略の糸口にはならんだろう」
魔王「であれば少なくとも、特殊戦艦とは別にシルバースノウ攻略用の戦艦は作っているはず」
側近「その情報を、ですか」
魔王「現状、シルバースノウへの土産はその程度がやっとだからな」
家臣「気は進みませんが……これ以上の膠着はシーサンドに付け入る隙を与えるだけですし、これも止むを得ないのですね」
側近「となると……やはりここで新しい武装も?」
魔王「待て、何の話だ。我は聞いていないぞ」
側近「特殊砲があるそうですよ。なんでも艦首側に複数の砲門を設置し、連続で発射できるものです」
側近「因みにお値段はこちらほどです」ペラ
魔王「……」
家臣「……お高いですな」
魔王「買えない額ではないが、射程距離はどの程度だ?」
側近「3マイルですね」ペラ
家臣「クレイモアの射程に入ってしまいますな……」
魔王「飽くまで奇襲する上では大きな火力になるだろう。砲門の数は?」
側近「艦首に一基の砲塔、横2縦3の六門となります。六門全て連動して照準を合わせます」
魔王「六連装連動連射砲か……」ペラ ペラ
魔王「面白い、購入しよう」
側近「畏まりました。特殊砲弾もあるようですがいかがしますか?」ペラ
魔王「徹甲榴弾? なるほど、装甲を貫いた上で爆発するのか」
家臣「しかし……これの価格ですとあまり搭載できないですな」
魔王「12だ」
側近「六連装連動連射砲にですか?」
魔王「これから先、戦艦クレイモアも多く出撃してくるだろう。今の瞬間火力では不安が残る」
家臣「しかし12発ではよほどの状況下でもなければ中々撃てませんな……」
魔王「そういえば、先の戦線での魚雷のデータは取れているのか?」
側近「艦長の仰るとおり、優秀な乗組員ですからね。こちらに」パサ
魔王「誤差4~6度か……随分と差があるではないか。戦速中に発射でこれだけ誤差があるのではな」
側近「命中したのは、精密射撃を行わなかったから、だそうです」
魔王「いいのか悪いのか何とも言えんが、まあ改良の余地があると見て喜ぶべきなのだろうな」
魔王「リトルシップを一機飛ばせ。今あるデータを研究所に持って行ってやれ」
魔王「こちらの航行ルートも渡しておけ。回収できないでは困るからな」
側近「まだ時間もありますし、少し他の勉強もなさいますか?」
魔王「他の?」
側近「リトルシップについてはあまり詳しい話をしておりませんので」
魔王「ああ……そうだな。一つよろしく頼む」
側近「格納庫のシップはご覧になったと思いますが、見ての通り操縦席はむき出しとなっております」
側近「基本、小型はどの機体も細長い形状で前後に一席ずつ。どちらの席でも操縦はできますが」
側近「前が操縦者、後ろがナビゲート……航路や計器確認、また発光信号等の通信を行うのが一般的です」
側近「最大速度は210ノットですが、当然ながら直進するだけでもパイロットに高い能力が要求されます」
側近「また最大速度での航行は高確率でエンジンが焼け付く為、エンジンとの引き換えにという考え方をされています」
側近「基本航行速度は160~180ノットです」
魔王「この艦の最大戦速以上か」
側近「リトルシップは最も速い機体です。それ故、長距離の相手への連絡などに用いられます」
側近「基本兵装は機関銃並びに、煙幕です」
側近「艦隊戦ともなると活躍できるのは索敵ぐらいですね」
魔王「既存戦艦において、無数のリトルシップを運用させるのは我々だけなのか?」
側近「他の戦艦ですと連絡用に二機あるかないかですね」
魔王「リトルシップで敵艦隊攻略の要にはならんか?」
側近「それは流石に難しいでしょうね……」
側近「確かに他の戦艦との差別化という意味では分かりますが」
側近「ブリッジに直接、機関銃を叩き込むか煙幕を撒いてかく乱させる程度でしょうか」
魔王「上手くいかんもんだな……」
ロックケイブ
国王「なに? 戦艦クレイモアだと?」
魔王「ウェッブリバーから報告が来ていないのですか?」
側近「ウェッブリバーは何を考えて……」
国王「いや……こちらに報告している余裕がないと見るべきか」
魔王「恐らくは。その前の段階で攻撃型ロングソードも出撃してきております」
魔王「シーサンドの特殊戦艦もだいぶ形になってきているのではないかと」
国王「で、あろうな。ウェッブリバーが落とされるわけにはいかん。そして、それはグリーングランドも同様」
国王「全ての艦隊をウェッブリバー、グリーングランドに派遣せよ」
国王「そちらはこれよりどうするのだ?」
魔王「我々はこれより、シーサンドの特殊戦艦の情報収集に向かいます」
国王「……そうか。気をつけていくのだぞ」
魔王「ええ、平和に向けて必ずや」
魔王「さて、行くか」
側近「緊張しますね」
魔王「リトルシップ隊を待機させよ。シーサンドの国境に入り次第、索敵を行わせる」
ウェッブリバー北北東国境
「戦艦スティレット、真方位0-9-5に向けて航行」
艦長「何をしにきたのだ?」
「発光信号! これよりシーサンドに対し諜報活動を行う」
「後退時、迷惑をかける」
艦長「……いいだろう、その時は我が国が迎撃してやろう」
艦長「無事な帰還を、と伝えてやれ」
ウェッブリバー・シーサンド国境
魔王「意外と草原が続くのだな」
側近「この先20マイルより徐々に砂漠地帯に入っていきます」
側近「先ほど通過したギルド以降、80マイル先までギルドがありません」
魔王「……やはり先ほどのギルドで補給すべきだったか」
側近「敵前で補給という訳にはいかないでしょう」
見張員「リトルシップ五番機より、先ほどの戦艦ギルドにウェッブリバー機動型ロングソード10」
魔王「なに?」
魔王「ウェッブリバーは何を考えているのだ?」
側近「まさかシーサンドに攻め込むつもりでは?」
魔王「いくらなんでも早すぎる……ウェッブリバーの増援で尚且つ、補給しているだけならいいが……」
見張員「前方、雲海確認。視界不良」
魔王「速度、半速。聴音員、一切の音も聞き漏らすな」
聴音員「了解」
側近「全リトルシップを艦へ。通信ワイヤーを接続後、周囲の索敵を行え」
>
魔王「速度、微速。厳戒態勢」
側近「速度微速、見張り聴音は一層厳に」
聴音見張り「了解」
航海長「微速前進宜候」
>
魔王「10……ウェッブリバーか?」
側近「馬鹿な、本当に攻め込むつもりか?!」
>
側近「ほぼ第三戦速……こちらの動きを知らないのか?!」
聴音員「! 下方よりユニット音多数! 距離前方20!!」
側近「なに?!」
>
魔王「な……」
側近「馬鹿な、一体どういう?!」
魔王「なるほど……偽装戦艦か」
側近「まさか……」
魔王「そうだな、戦艦ギルドは完全に中立だったな……」
魔王「例え他国の戦艦に偽装していても、それを禁止されていない以上は何もしてはくれない」
側近「となるとこれは……」
魔王「三ヶ国で協定を結んだ後は……シルバースノウとの協定かシーサンドの諜報しか残っていないか」
>
>
>
魔王「侵犯か、面白い事を言う」
側近「……前には二十隻、後ろには十隻。初めから落とすつもりで!」
魔王「東西を塞ぎ北はシルバースノウ……投降せよ、か」
魔王「全乗組員に告ぐ。こちら艦長の*****だ。現在、シーサンドの艦隊により前後を塞がれた」
魔王「彼らは投降を拒否した場合は攻撃をすると告げてきた」
魔王「が、彼らにとってこの艦の拿捕が優先事項であるのは明白である」
魔王「この艦が奪われる事は、グリーングランド、引いては協定を結んだ他二国の脅威となる」
魔王「我々はこの艦をシーサンド領内から他国に持ち出す、もしくは」
魔王「一欠けら残す事無く、この艦を抹消せねばならない」
魔王「各員、死力を尽くせ。生きてグリーングランドに帰るのだ」
魔王「総員、戦闘配備!」
「時間まで残り一分。戦艦スティレット、応答無し」
艦長「残念だ。全艦攻撃用意、照準合わせ」
「全艦、攻撃用意!」
艦長「投降すれば命までは助けてやったというのに」
艦長「戦艦スティレットの艦長は頭が回ると聞いたが……さて、この状況下でどうするつもりか」
側近「リトルシップ収容急げ!」
魔王「敵艦隊中央を突破する。前方に煙幕弾発射用意」
側近「弾種、煙幕弾!」
>
魔王「俯角10度、第二戦速前進、撃て」
側近「俯角10度第二戦速、煙幕弾撃てぇ!」
航海長「俯角10度第二戦速前進、宜候!」
魔王「魚雷用意」
「戦艦スティレット、発砲を確……なんだ? 煙幕が!」
艦長「構うな。到底ここまで周囲を覆える物ではない」
艦長「全艦撃ち方開始!」
「ここからではあまりにも距離が」
艦長「構わん、威嚇射撃だ」
「全艦撃ち方始め!」
聴音員「敵艦隊、発砲」
側近「この距離で?」
魔王「威嚇射撃だろう。取舵5」
側近「取舵5度!」
魔王「煙幕弾用意、第三戦速」
側近「煙幕弾用意、第三戦速!」
「煙幕弾発射確認! 煙幕距離4.8マイル」
艦長「手は打ったが……何れにせよ煙幕をもう一斉射しなくては、有効射程には入れんぞ」
艦長「二番隊、煙幕中心部に発砲しつつ前進」
「二番隊、発砲しつつ前進!」
艦長「目標ロストで距離を取ると思っているのか? 煙から出て驚くが良い」
航海長「舵中央!」
聴音員「前方5マイル、敵艦発砲音。前進してきています」
魔王「魚雷発射!」
聴音員「爆発音2、魚雷命中……爆発音多数、一隻沈みつつあります」
聴音員「この音は……リトルシップ機関音?」
見張員「リトルシップ一機確認! 研究所に向かった機体です!」
側近「こんなタイミングで帰ってくるとは……」
見張員「スモークを撒きつつこちらに接近してきています」
魔王「一先ずは回収が先だな。魚雷第二波用意」
魔王「整備士、リトルシップ一機収容急げ! 魚雷第二波用意!」
「2-2番艦、2-3番艦沈みつつあります!」
艦長「馬鹿な! 何故こうも攻撃が当たるのだ?! それに、この威力は徹甲弾ではない?!」
「2-4番艦多数被弾! 信号弾! 操縦不能、沈みます!」
艦長「精密射撃……? 向こうは100ノット以上で航行しているのにか?!」
艦長「二番隊を下がらせ、三番隊を上げろ!」
艦長「一番隊、攻撃一番隊はこのまま待機!」
見張員「煙幕帯、二分の一マイルで途切れます!」
側近「煙幕弾用意!」
>
側近「なっ」
聴音員「前方、敵艦後退。その奥より多数前進」
魔王「第三戦速維持、全砲門弾種徹甲」
魔王「ここからが正念場だ、突っ切るぞ。艦首装甲開放、六連装連動連射砲、弾種徹甲」
見張員「煙幕帯抜けます!」
魔王「主砲撃ち方始め!」
見張員「前方ロングソード5! 後退中のロングソード2合流、距離15に5、バスタードソード5!」
側近「15?!」
魔王「ただの後退にしては早すぎる……大胆にも反転して下がっ、ぐうぅ!」ドドン
>
魔王「主砲、前方に集中させつつ最大戦速」
側近「最大戦速、中央突破せよ!」
見張員「両舷戦艦、反転! 正面戦艦北に回頭!」
側近「進路を塞ぐつもりか!」
魔王「六連装連動連射砲撃て!」
側近「六連装連動連射砲、撃てぇ!!」
見張員「後方、機動型ロングソード10、雲海抜けます! 散開! 囲まれつつあります!」
魔王「前方敵艦に徹甲弾を浴びせ続け……」
側近「前方敵艦に砲撃を集中! 艦長?」
魔王「……両舷の反転は後方艦隊とで挟撃する為か」
側近「あ……まさか」
見張員「前方ロングソード、断裂! 急速に沈んでいきます!」
側近「ど、どうしたら……」
魔王「……後方の機動型を振り切れるか?」
見張員「……最大戦速でもっても難しいかと思われます」
魔王「……だとしたら進路は一つだ。取舵いっぱい!」
航海長「と、取舵ですか?!」
魔王「進路、真方位0-0-0、シルバースノウに突っ込む!」
「スティレット、北に回頭! 160ノットで航行!」
艦長「愚かな……それで追撃を止めるとでも?」
艦長「全艦、最大戦速! 包囲しつつ追撃せよ!」
見張員「全艦、追走! 包囲狭まりつつ、うゎっ!」ドゴォン
>
魔王「速度緩めるな。回避行動を取りつつ走り続けろ!」
シルバースノウ
>
>
>
>
>
>
>
見張員「シルバースノウ国境山脈まで距離30!」
>
見張員「高度四千!」
側近「このままでは山脈を越える事が!」
見張員「敵艦隊、尚も追走!」
>
魔王「六連装連動連射砲、弾種徹甲榴弾用意」
側近「まさか山を……!」
魔王「腹を括るぞ。山を撃ち抜きシルバースノウに侵入。停戦信号を上げつつ」
魔王「混乱に乗じて、シルバースノウ領内よりウェッブリバーに向かう」
側近「六連装連動連射砲、弾種徹甲榴弾!」
「戦艦スティレット、尚も北上中! 速度160ノット!」
「シルバースノウ国境山脈まで後11分!」
艦長「まさか……自沈するつもりか!」
艦長「追いつけないのであれば沈めてでも食い止めろ!」
「全艦、弾種徹甲榴弾! 敵艦を叩き潰せ!」
聴音員「発砲音変わりました!」
見張員「砲弾回……爆発を確認!」
魔王「榴弾か」
見張員「弾種確認! 徹甲榴弾!!」
側近「向こうの戦艦にも!?」
魔王「その威力をこの艦で知るか、山の破壊でもって知るか……皮肉だな」
見張員「山脈まで距離10マイル!!」
魔王「魚雷装填、徹甲榴弾と共に撃ち出す」
「スティレット、山脈まで3マイル!」
艦長「ここまでか……全艦、戦艦スティレット衝突後、消火ならび回収作業に入る」
艦長「砲撃止め、原速にて接近せよ」
見張員「山脈まで距離2.5マイル!」
魔王「魚雷、徹甲榴弾撃て」
側近「六連装連動連射砲、魚雷、撃ち方始めぇ!!」
ッドドドオオォォォン
艦長「衝突したか?」ゴゴゴ
「前方、巨大粉塵発生! 確認できません!」
「機動型5、粉塵に接近……そ、空から巨大な破片が!」
艦長「破片……? しまった……違う、連中は山を榴弾で撃ち抜いたのか!」
艦長「機動一番、二番隊を下がらせよ! 他艦隊は速度半速にて回避行動を!」
「駄目です! 間に合いません!!」
機動型ロングソード1-3番艦艦内
艦長「この粉塵は……!」
「上空より戦艦の破片……いえ! 岩が降ってきます!!」
「きゅ、急速反転! 避けろぉ!」
艦長「止めろ! この隊列では接触する! 俯角最大! 面舵5度!」
「左前方2番艦! 大きく面舵!!」
艦長「焦ったか! 馬鹿者がぁ!」
「回避間に合い、うわあああ!!」
「状況確認急げ!」
「機動1-2、1-3番艦接触、1-5番艦岩石直撃後、高度低下を確認」
「機動一番隊粉塵に包まれ現状不明! 爆発音多数!」
「機動二番隊、全艦緊急浮上。方位そのまま、第三戦速にて航行!」
「一番隊、三番二番隊残存艦緊急浮上。方位そのまま、第四戦速にて航行!」
艦長「止めさせろ! このままではシルバースノウに侵入するぞ!」
魔王「大丈夫か!」ゴゴゴゴ
側近「被害状況を!」
>
>
側近「今の衝撃で断線したのか……」
>
>
魔王「発光弾撃ち続けろ! シルバースノウが来るぞ! 機関室復旧急げ!」
魔王「取舵いっぱい! 山脈沿いに航行し、距離を取ってウェッブリバー領内に進む!」
グラディウス一番機
「状況確認っ」ゴゴゴ
「山脈で爆発を確認! 巻き上がった岩に注意して下さい!」
「発光信号、02確認、03確認、04確認、05確認、06確……領内、戦艦スティレットを視認!!」
「山を撃ち抜いたのか……」
「スティレット損傷甚大、停戦信号を上げつつ進路を西に。シーサンド軍侵入!」
「06は戦艦スティレットに投降勧告。他機体は私と共にシーサンド軍を迎撃」
「了解。……発光信号終了」
「行くぞ」グォォン
見張員「し、新型のリトルシップ多数飛来!」
側近「リトルシップ?!」
見張員「発射口を確認、戦闘機です!!」
魔王「なるほど……リトルシップの扱いであれば、ギルドへの登録も不要か……」
側近「感心している場合ですか?!」
魔王「停戦信号は上げ続けろ。落石はまだ続いている。警戒しつつ航行せよ」
側近「聴音見張りは一層厳に」
魔王「こちらを見逃してくれればいいが……」
「機動二番隊、三番二番残存艦、シルバースノウ領内に侵入!」
「機動2-2番艦、黒煙多数! 沈みつつあります!」
「シルバースノウ、新型機!! リ、リトルシップ型!!」
艦長「リトルシップで戦艦を沈めるだと……」
「機動二番隊、三番隊二番隊残存艦、シルバースノウと交戦開始!」
艦長「何をしている! 停戦の発光信号と共に、攻撃中止、退却の信号弾を上げ続けろ!」
「2-1番艦爆散! 照準、追いつけず!」
艦長「一撃は主砲より低いのだろうが集中砲火を受けては……急いで引き上げろ!」ワナワナ
グラディウス六番機
「戦艦スティレット射程内に捕捉、通信ワイヤー撃て」
「通信ワイヤー発射。命中、接続を確認」ピィィン
「こちらシルバースノウ、貴艦は我がシルバースノウ空域を侵犯している。直ちに投降せよ」
「繰り返す、直ちに投降せよ」
「反応ありま……上空、巨大岩石飛来、左三度」
「了解、左三度。岩石回避……」ッガァァァン
「スティレットに命中! 高度、著しく低下!!」
「くっ! ワイヤーを切」ギュォン
「きゃあああああ!!!」グォォォォ
>
>
>
魔王「復旧急げ! 出力、浮力に集中しろ!」
>
>
側近「何故……? 投降勧告? だが通信など」
見張員「俯角15、速度150ノット! 下方に急激な気流を確認!」
見張員「このまま突っ込んだらリトルシップは!」
魔王「……今ここでシルバースノウに被害を与えては今後の国交は絶望的だ」
魔王「しばらく指揮を頼む」
側近「何をなさるつもりですか?!」
魔王「我にしかできない方法で救出を試みる。今は四の五を言っている状況ではない」
側近「畏まりました。お気をつけ下さい」
魔王「ぐぐ……命綱があっても油断ならんな」ビュオオオオ
魔王「あれがシルバースノウの……操縦席は保護されているのか……武装は随分と大口径だな」
魔王「初速によってはロングソード並の一撃に……いや、向こうが数隻沈んでいる。並などと甘く見ないほうが良いな」ドドォン
魔王「中の人間は気絶しているのか……エンジンは生きているようだがワイヤーが酷く捩れている、何とか戻さねば」グググ
魔王「せめて機関の構造を理解していれば、魔力を送ってこちらで操作してやれるがっ」ググッグオン
魔王「こういう時、近接型の魔王が羨ましくなるなっ」ググググッグオン
魔王「良し、後は中の者が目覚めればワイヤーを切断するだけだ」グググ
魔王「魔力を物質化して扱っているなら、膨大な魔力が肌を刺すような感覚も知っているだろう」キィィィン
グラディウス六番機
「う……」ビリビリ
「うわっ!」ブルブル
「これは?! 計器確認!」ガバ
「マ、マナユニット暴走?! いえ、出力安定! なにが起こってるの?!」
「墜落しつつあるスティレットに引っ張られて……なっ! あの男、ワイヤーを引っ張ってシップを?」
「か、下方に急激な気流を確認!」
「この状態で突っ込んだら……」バツ
「ワイヤー切っぐぅ!」グオオォン
魔王「体勢が安定したな……あの機体は大丈夫だろう」ゴゴゴ
魔王「気流に接触したか、急いで戻らねば」ゴゴゴゴ
「あの男は一体……」
「通信ワイヤーをどうやって切断したんだ……そ、それよりも戦艦スティレット……真方位2-4-0に転進!」
「このままウェッブリバー領内に進むつもりか……一度、あちらと合流しよう」
「あの損傷ならば後々追いかける事になっても、追いつくのも難しくは無い」
「了解」
>
側近「山脈を超えられるか……?」
魔王「できるだけ低い山頂を探せ」
見張員「距離10! 真方位2-5-0! 周囲より最も低い山頂を確認!」
側近「進路2-7-0! 何としてでも山脈に対し垂直で突入するんだ!」
航海長「了解!」
>
魔王「ここを抜けるまではマナユニットは安定しなさそうだな」
側近「何とか……ここさえ抜ければ」
見張員「だ、駄目です! 山頂に接触します!」
魔王「推進力カット。浮力全開」
側近「浮力100! 総員衝撃に備えろ!!」
見張員「ぶ、ぶつかります!!」ガッ
魔王「ぐうっ!」ガガガガ ガァン
見張員「国境山脈、越えました!」
>
「リフト、格納庫で固定せよ!」
側近「出力を通常に! 高度三千、原速! 周囲に一隻でも艦影が確認されたら最大出力で退避せよ!」
艦長「被害状況!」
「機動二番隊全滅! 機動一番隊残存艦2! 一番隊残存艦3! 二番隊全滅! 三番隊残存艦2!」
艦長「三十隻が半数以下か……」
「戦艦スティレット、西に向けて航行!」
艦長「……」
「追わなくてもよろしいのですか?」
艦長「その方角の国境では先日、大きな戦いをした。ウェッブリバーの増援はあると見るべきだ」
艦長「これ以上、悪戯に被害を増やすわけにはいかん。全艦、撤退せよ!」
艦長「シルバースノウ……この借りは必ずや」
魔王「生きて切り抜けられたな……」
側近「生きた心地がしませんでした」
魔王「研究所に向かわせたパイロットを呼んでくれ」
魔王「進路2-5-5、戦艦ギルドに向かい補給と修理を行う」
側近「補給したばかりと言うのに……」
魔王「多くの砲塔が動かんどころか、装甲板まで一部失っているのだぞ」
魔王「それにしても……これからどうしたらいいものか」
側近「少し休息されてはいかがでしょうか? だいぶ休みも無く移動していましたし」
魔王「ふむ……ああ、そうだ。工房に着き次第軽い宴でも催せ。今、我々が生きているのは各乗組員の尽力があってこそだからな」
側近「工房まで1時間ほどで到着します。ドック入り後、工房内の食堂の一部を借りる予定です」
魔王「そうか……我はこのままここにいる。指揮はお前がやってくれ」ペラ
側近「そちらは?」
魔王「例のパイロットが研究所から魚雷の改良型設計図を寄越したそうだ」
側近「精度が上がるのですか?」
魔王「のようだ。威力も上がるように作られているようだ」
魔王「最も、今の資金繰りではとても量を装備できんがな……」
側近「ですね……」
>
>
>
>
魔王「……」ペラ
側近「おや、こちらにいましたか」
魔王「どうかしたか?」
側近「魔王様も宴に出られてはいかがでしょうか?」
側近「多くの者は魔王様のお声を直接聞いていないのですよ」
魔王「ふむ……」
魔王「今回のシーサンドによる襲撃、絶体絶命の危機であったと言える」
魔王「だが、全乗組員の手腕があった事により、こうして生き延びる事ができた」
魔王「この場を借りて心からの感謝を述べたい。ありがとう」
「水臭いっすよー!」
「艦長はどーんと構えてて下さいよー!」
「今日は無礼講でしょー! そういうのは無しでー!」
魔王「お前ら……」フッ
魔王「そうだな、話も長くなってはいかんし……生還の祝いとこれからの無事を願って、乾杯!!」
「「乾杯!!」」カシャカシャン
聴音員「あ、あの艦長。よろしければこちらを」スッ
魔王「む? お前が作ったのか? どれ」パク
魔王「ほう、美味いではないか。もう一つ頂こう」パク
魔王「うむ……味がしみていていいものだ。ありがとう」
聴音員「い、いえ! 失礼します!」パタタ
側近「……」ニコニコ
魔王「なんだその顔は」
側近「いえ、良いものではないですか」
魔王「……何を考えているのかと思えば。我に何を望んでいるのだ」
側近「私は我が主が幸せになるのでしたら、どのような事も影ながら支援と応援を送るだけです」
側近「もしもその気があるのでしたら、私もこの地に留まる事に抵抗はありませんよ」
魔王「下らん……我にはその様な願いなどありはしない」
側近「しかし、慕われる事が不本意ではないでしょう」
側近「魔おっと……艦長の周りには何時だってこうした活気だった者達が集まるものです」
側近「向こうでもこちらでも……案外、我々も彼らも大差はないのかもしれませんね」
魔王「……」
側近「よろしかったのですか? 早々と抜け出してしまって」
魔王「上の者がいてはできん話もあるだろう」
家臣「おや、こちらにおいででしたか」
側近「家臣さんもですか」
家臣「もう私も年ですからね。若者の活気には着いていけませんよ」ハッハッ
魔王「丁度良い。これからの事を相談しておきたかったのだ」
家臣「どちらの事でしょうか?」
魔王「どちらもだが……シーサンドがどう打ってでると思う?」
家臣「また難しい質問を……そうですね、考えられるところですとあの戦闘機をどうにかしてくるのでは?」
側近「シルバースノウのリトルシップですか?」
家臣「ええ。チャクラムやランスともなると大掛かりでしょうが、あちらでしたら逆に対策し易いですからね」
魔王「お前ならどう対処する?」
家臣「連続で焼夷弾を浴びせる、が簡単に考えられる策かと」
魔王「やはりそんなものか」
家臣「大破していようとある程度の数を拿捕すれば、生産できるでしょうからね」
家臣「もしそのような事になったら……考えたくも無いですな」
側近「確かに対策無しにあれを相手取るのは……」
魔王「止められると思うか?」
家臣「シルバースノウが警戒すればいいのですが全戦全勝ですからね」
家臣「まさかシーサンドとシルバースノウの国境に艦隊を布陣する訳にもいきませんし」
魔王「待てよ。あの戦闘機に気をひかれている隙を突いて、三ヶ国の総戦力をぶつけるというのはどうだ?」
家臣「シーサンドの戦力を甘く見ないほうがいいです。艦長殿も数度、敵艦隊が全滅する様を見ているでしょう」
魔王「あー……」
側近「え? それはどういう意味ですか?」
家臣「我々が目撃した戦闘だけで、あれだけの艦隊が沈んでいます。まあ乗組員は運搬機で逃げているようですが」
家臣「あの被害なのに尚も侵略の意思を持っているのです」
魔王「建造が早いのか、まだまだ大量の戦艦を保有しているのか」
側近「ああ、なるほど……」
家臣「恐らくですがバスタードソードとクレイモアで構成された艦隊が控えていると考えるべきかと」
魔王「ふむ……」
魔王「八方塞だな……」
家臣「今更何を仰っているんです。今に始まった事ではないですぞ」
側近「しかしこうなるとシルバースノウと手を結ばない限りは……」
魔王「で、どうしたらいいものか、とループする訳だな」
家臣「……」
側近「……」
魔王「……」
家臣「思いつきませんな」
側近「むしろ手詰まりでは?」
魔王「仮にシーサンドからの攻撃に対し、我々がシルバースノウを助けたとして、ポイントになり得るだろうか?」
家臣「苦戦を強いられていれば、でしょうかね。交戦前では『自分達の代わりにわざわざ倒した』程度にしか捉えられかねません」
側近「何を考えているのですか?」
魔王「もしシーサンドがあの戦闘機をどうにかするつもりなら、事が起こるのはそう先ではないだろう」
魔王「我々はシルバースノウ国境周辺に待機、可能であればシーサンド領内にいるのが望ましいな」
魔王「リトルシップ隊による索敵を行い、シーサンドのシルバースノウへの攻撃に際して奇襲をかける」
側近「ハイリスクですね。それに向こうが動く時期など……今から対戦闘機戦艦を建造するのですよ」
魔王「いや、あの戦闘機は脅威だが焼夷弾のように拡散すれ攻撃であれば、向こうの高すぎる機動力が仇となる」
魔王「特殊弾と砲塔が出来上がればいいのだからな。これからあらゆる状況が加速度的に変化するぞ」
数日後
側近「これよりスティレットはシルバースノウの国境沿いを航行」
側近「シーサンドによるシルバースノウ攻略の一手を挫き、シルバースノウとの外交の架け橋にする」
側近「全リトルシップはシルバースノウ、シーサンドの国境周辺を索敵し、北上する敵艦隊を見つけ次第報告せよ」
側近「その後、全リトルシップ収容と共に、敵艦隊に対し奇襲を行う」
側近「各員の奮闘を期待する」
魔王「方位0-8-5、速度原速発進」
側近「方位0-8-5! スティレット、原速発進!」
航海長「原速発進宜候!」ゴゴンゴゴン
側近「潜伏し始めて早一週間ですか……」
魔王「果報は寝て待てというであろう」
側近「いえ、それにしても……」
見張員「リトルシップより発光信号! 距離120! 特殊ロングソード確認!」
見張員「数七! 上部に多数の小口径の砲門有り!」
見張員「シルバースノウ国境まで距離20! 真方位3-4-5、50ノットで航行!」
魔王「方位そのまま、機関最大戦速。総員戦闘態勢」
側近「方位そのまま最大戦速! 総員、戦闘態勢!」
航海士「最大戦速! 宜候!」
シルバースノウ
>
>
>
>
>
>
ロングソード艦内
「国境まで10! 多連装従動遠距離砲用意!」
艦長「シルバースノウも馬鹿ではないだろう。これがあのリトルシップに対する殲滅戦である事は気付いている」
艦長「だが奴らも無敗というプライドはある。それ故に、こちらにはあえてリトルシップのみで攻撃を行うだろう」
艦長「この好機を逃すな! 必ず拿捕し、その技術を手中に収めよ!」
艦長「方位そのまま、第二戦速! 雪国の山男どもに目に物を見せてやれ!」
「リトルシップ確認、数6! 距離15!」
「迎撃急げ!」
「弾種散榴弾! 多連装従動遠距離砲発射用意!」
艦長「撃て」
「撃ち方始めぇ!!」ズドドドドドド
グラディウス七番機
「発砲確……なんだあの数は!」
「回避行動急げ! 撤退し、後続部隊に報告を……」
「榴散弾か! 間に合……」カッ
十一番機
「ぐうぅぅ!!」グォォォ
「ほ、砲撃回避! 07、08、09爆散! 10、12急降下!」
「くそ……無傷なのは私達だけか! 撤退し後続部隊に合流する!」
「了……な、もう第二」ズドドドドドド
一番機
「多数の爆発、交戦開始を確……敵艦隊七隻航行」
「なに? 先鋒隊は?」
「敵艦隊、七隻尚も航行! まさか……全滅したのか!」
「信号、02、03は私と共に東に回りこめ。他三機は西より挟撃せよ」
「りょ、了解! 発光信号送ります」
「付け加えてくれ……先鋒隊壊滅、全機死力をもって敵艦隊を討て、と」
「……了解」ゴクリ
聴音員「爆発音多数……シーサンド、シルバースノウと交戦している模様」
側近「間に合わないか……!」
魔王「山脈に接舷。敵艦隊が上空を抜けるところを落とす」
側近「それではシルバースノウのリトルシップは……」
魔王「……悔しいがシーサンドの手に落ちるだろう。七隻全部沈められるとは思わん」
魔王「運が良ければ拿捕している戦艦も落とせるだろうが……向こうもリスク分散くらいしているだろう」
見張員「七隻、上空を通過! 中央四隻進路南! 125ノットで航行!」
見張員「後方二隻、同進路を105ノットで航行!」
魔王「後方二隻は囮だ」
側近「第四戦速! 全砲門中央の四隻に指向、弾種徹甲!」
魔王「上昇開始、六連装連動連射砲用意」
魔王「一隻でも多く叩き落せ」
ロングソード艦内
「か、各艦被弾!」ドドン
「後部デッキより! 下方山脈に戦艦スティレット!」
艦長「なにぃ!?」
「三番艦循環弁大破! 沈みます!」
「五、六番艦急速反転!」
「スティレット上昇中! 艦首装甲開放! 六連装砲門を確認!!」
艦長「五、六番機、盾となりつつ反撃せよ!」
「! 艦長! 全艦、対地砲塔を装備していません!」
艦長「……そう、だったな! くそ、対シルバースノウの兵装が仇になったか!」
「四番機マナユニット爆散!!」
艦長「五、六番機! 突貫してでも食い止めろ!!」
見張員「囮艦、こちらに特攻してきます!」
側近「捨石にするつもりか!」
魔王「構わん。全速前進、六連装連動連射砲撃ち方始め」
側近「六連装連動連射砲撃ち方始め! 正面突破せよ!!」
ロングソード六番機艦内
艦長「あの砲塔の弱点は連射中には照準が変更できん事だ」
艦長「仰角5度、敵の射線を避け、押しつぶせ!」
見張員「後方囮艦、仰角5!」
魔王「撃ち方止め。上空より敵の体当たりが来るぞ」
側近「撃ち方止め! 俯角10度! 前方艦を追え!」
魔王「いや、下降しつつ反転。あの囮艦を落とせ」
側近「そ、それでは……」
魔王「追撃はこちらの挟撃に繋がる。二隻の逃走と引き換えに敵艦の拿捕を優先せよ」
魔王「この艦だけでは無理だな。ウェッブリバーの機動艦隊に連絡」
ゴゴン ゴゴン
側近「囮艦二隻と引き換えに敵艦の拿捕に協力するとの事です」
魔王「それで構わん」
魔王「あちらの戦艦に搭乗する事は可能か?」
側近「逃走艦の方でしたらマナユニットが破損しているだけですからね」
側近「リトルシップを利用すれば乗り込む事は可能ですよ」
魔王「少々あちらに行って来る。連中の対リトルシップ兵器を見ておきたい」
側近「かしこまりました。こちらはお任せ下さい」
「この砲弾……榴散弾ですかね?」
魔王「少し解体してみるか……」
「こ、ここでですか?!」
魔王「砲弾の構造ならある程度は知っている」ガチャガチャ
(艦長って何者なんだ?)
(貴族出にしちゃあ技術ありすぎるよなぁ……でも立ち振る舞いは貴族っぽいし)
魔王「ほう、中に大量の榴弾か……差し詰め散榴弾といったところか」
「は、早く密封して下さい!」
「」ガタガタブルブル
魔王「散開する榴弾に多数の砲門か……これでは一溜まりも無いな」
「接近するつもりで飛んでいたら、とてもじゃないですが避けられる気はしませんね」
「全くだな」
魔王「とは言えこの大きさでは対戦艦に対する威力は大したものではないな……」
魔王「スティレットでさえ装甲を貫く事などとても……あちらにあるのは」
「シルバースノウのリトルシップ!」
「結構な損傷だな……」
魔王「一機は操縦席まで貫かれているな……」
「こりゃあ即死でしたでしょうね……」
「操縦席まで覆ってあるといっても、戦艦の砲撃じゃあなぁ」
魔王「ほう、計器は250ノットまであるのか」
「250……!? 化け物級だな」
「平時200超えで飛行するのか……とんでもないな」
魔王「もう一機は比較的に軽傷だな……これより30分、艦内を探索。時間内にリトルシップに戻りここを離脱」
魔王「パイロットが生存していてくれればいいが……急ぐぞ」
「「了解!」」
「艦長!」
魔王「そちらはどう……酷いな」
「ええ……パイロットが女性だとは思ってもみませんでした」
魔王「スティレットにて保護をする。シップを出せ」
「了解」
魔王「出来る限り揺らしてやるな」
「ど、努力します」
戦艦ギルド内
「なんか最近休んでばっかだなー」
「補給、修理、拿捕戦艦修理だもんな」
「そういえば聞いたか? 拿捕した戦艦からあのシップのパイロットが救出されたらしいぞ」
「よく生かされていたな」
「なんでも女性らしいぞ」
「おいおい……既存のリトルシップより早いって話だろ? よく飛行に耐えられるもんだ……」
側近「どうですか?」
聴音員「相当酷い目にあったみたいで……ショックで口が聞けない状態です」
側近「そうですか……」
側近「生存者救出まで想定していたのですか?」
魔王「可能性のうちにはな。だがあのような状態だとは」
側近「これからどうなさるのですか?」
魔王「こちらが拿捕した戦艦二隻のうち、一隻をギルドに売り払う。残り一隻のマナユニット換装後」
魔王「その戦艦を連れてシルバースノウに向かう」
側近「あれを持って行く意味があるのでしょうか?」
魔王「まあ、それ自体は大きな意味は無いがちょっとした手土産程度だ」
魔王「ウェッブリバーにも伝えておけ。大切な協議となるのだ。同伴もしたかろう」
数日後
魔王「失礼するぞ」
「!」ビクッ
魔王「構えんで良い。暴行するつもりではない。お前も休みのところ、面倒を見てもらってすまんな」
聴音員「い、いえ!」
魔王「二人とも……まだ口が?」
「……いえ、大丈夫です」
「何故、我々を助けた」
魔王「我々グリーングランド、並びにウェッブリバー、ロックケイブの三ヶ国は貴官らのシルバースノウと同盟を結びたく思っている」
魔王「今はお互いあれだが……こちらとしては手を取り合いたい相手。何よりあれほどのリトルシップを動かすのだ」
魔王「君達の様な優秀なパイロットを見捨てる事などできやしない」
「……」
聴音員「大丈夫です、この方はスティレットの艦長の*****です」
「……そうか、ありがとう」
魔王「ほう?」
「?」
魔王「いやなに、強固に鎖国を貫いている国だ。余計な真似をと噛み付かれるかと思っていた」
「……変な蛮族のようなイメージをつけないで頂きたい」
魔王「我々はこれより、シルバースノウに向かい外交を行う」
「戦艦スティレットは厳重警戒に含まれる艦だ。領内に侵入したら問答無用で落とされるぞ」
魔王「白旗でも掲げていこうか?」
「……変わった人だな」
魔王「なに、警戒されていようと、停戦信号には応じてくれるのだ。慌てることもない」
魔王「その時に君達をシルバースノウへ引渡す。それまでは窮屈ですまないがこの艦でゆっくりしていってくれ」
「……お言葉に甘えさせていただきます」
魔王「うむ、何かあったら遠慮なく言ってくれ」
魔王「それにしても、よくあの機体に女性を乗せる事になったもんだな」
魔王「よほどの大抜擢なのだろう」
「いや、グラディウスは女性のパイロットのみで構成されている」
魔王「グラディウスというのか……。だが女性のみとは解せんな」
「遥か昔魔王が現れた際、それを退けた勇者がシルバースノウの少女である事に肖っているのだ」
「その当時も少人数で討伐をしたと言われています。二人一組である操縦するリトルシップだからこそ、なんです」
魔王「なるほどな……疑問も払拭された事だし我は失礼する」
数日後
魔王「ウェッブリバーとは?」
側近「話はついています。いつでも」
魔王「そうか……ではそろそろ行くとするか」
魔王「これより本艦はシルバースノウに外交を行う」
魔王「これは戦闘ではない。一切の攻撃を禁止する」
魔王「如何なる状況も冷静に対処せよ」
戦艦ランス艦内
「機関音捕捉、戦艦スティレット! 距離13! 仰角10!」
艦長「この吹雪ではお前の耳が頼りだ。奇襲に備えよ」
副官「聴音一層厳に」
「了解」
「スティレット、停戦信号弾を確認! し、白旗を掲げています!」
艦長「単独で国境を超え……何をするつもりで来たというのだ?」
「スティレットより発光信号。来るシーサンドとの戦争を前に手を組みたい」
「できれば話し合いたい。返事を待つ」
艦長「ほう……何を言い出すかと思えば」
艦長「……いいだろう」
副官「シップの着艦を許可する。艦長並びに外交官をこちらの戦艦に連れて来い」
「了解、発光信号送ります」
副官「しかしよろしいのですか? 我々に外交権はありません」
艦長「まだこちらが乗ると決めたわけではない。元より、あの戦艦の艦長には興味がある」
艦長「一度話してみたかったのだよ」
副官「お戯れを……スティレットからの応答は?」
「そ、それが何も……」
副官「どういう事だ?」
艦長「……」
「返答きました! ……寒冷地用のシップが無い。どうしたらいいだろう」
艦長「……」ポカーン
副官「ふざけているのか! 全艦、威嚇攻撃!」
艦長「ふっははは! 止せ止せ、面白くていいじゃないか」
艦長「接舷してやれ、一時的であれば飛べるだろう」
副官「それはあまりにも危険では……」
艦長「今までを踏まえれば、あちらの艦長はそんな無粋な真似はするまい」
「グラディウス一番機、着艦許可を求めています」
艦長「なんだ……彼女らも興味があるのか? いいだろう許可する」
「接舷完了。スティレットより運搬型シップ、離艦」
「! 前方機関音多数!!」
「前方、気流に乱れ! せ、戦艦です!」
「ウェッブリバー、戦艦ロングソード3、機動型ロングソード1……機動型! 先日のシーサンドと同種!!」
副官「なっ! これでは停戦の意味がない! 全艦」
艦長「見張員、機動型の軍旗は?」
「……ぐ、グリーングランドです!」
副官「シーサンドではないのか?」
「連れて参りました」ガチャ
魔王「道案内ご苦労。そろそろその銃を仕舞ってはいただけまいか?」
側近「なんだかんだでブリッジはスティレットより広いですね」キョロキョロ
魔王「ウェッブリバーの戦艦から通信ワイヤー引きたいのだが許可を頂きたい」
艦長「許可する。発光信号を送ってやれ」
魔王「いきなりの訪問申し訳ない。何分、そちらとの連絡手段がないのでな」
艦長「気にするな。我々は蛮族ではないからな。交戦の構えのない戦艦を落とすような真似はしない」
「お前があの戦艦の艦長か」
魔王「如何にも。貴女は?」
「先日、貴艦がシーサンド軍を率いて空域侵犯を犯した時、交戦した部隊の隊長を務めている者だ」
側近(グラディウスのリーダー機ですか……)
「貴艦に通信を行ったシップがトラブルに巻き込まれた際、そちらの乗組員に助けられたと聞く」
「お互いの立場がどうあれ、部下の命を救って頂いた礼を言いたい。感謝する」
魔王「ああ、あれか……あの二人は無事なのだな。それは良かった」
魔王「良かったついでに……む? 二人はどうした?」
側近「間もなく来るかと」
「「隊長!」」
「お前達……無事だったのか!」
艦長「……シーサンドに撃墜されたグラディウスのパイロット?」
魔王「二隻は我々が落とし拿捕しました。内一隻は戦艦ギルドですが……その際に、艦内に取り残されていた二人を救出したまでです」
艦長「なるほど……我が国の者、計四名の救出と我々に傷を負わせた戦艦一隻」
艦長「それが同盟の手土産という事か」
魔王「虫のいい話ではあると思う。だがあのグラディウスがシーサンドに渡った今」
魔王「これはそちらにとっても脅威を意味するのではないだろうか?」
魔王「突撃による攻撃のみのランスやチャクラムでは、グラディウスそのものを抑えられないのでは?」
魔王「何よりシーサンドの技術力は一概に否定できないものがある。一体どれだけの数を揃えてくるか……」
魔王「……上下の関係も無い。我々は、三ヶ国は打倒シーサンドを掲げているだけなのだ」
魔王「どうか手を組んではくれないだろうか?」
魔王「シーサンドの体勢が整う前に、手を打たねば危機に瀕する可能性があるのだ」
魔王「今ここを逃してどうするというのだ?」
家臣(わしは本当に必要だったのかのう)
側近(相手が相手ですからね……)
艦長「ふむ……」
副官「艦長、軽はずみな発言は慎んで下さい」
魔王「……? なっ……」ビク
副官「どうかなさいましたか?」
魔王(あの顔、間違いない! あの時の、我を迎撃した人外な魔力を持った少女……!)
側近(子孫でしょうか……しかしよく似てらっしゃる)
魔王(何を落ち着いて……我は恐ろしくて敵わんぞ! あの小娘ならば戦艦相手に戦えるぞ!)
側近(何百年前だと思っているのです。ただの子孫に怯えないで下さい)
艦長「どうかされたか?」
魔王「いや……そちらの少女が知り合いによく似ていたものでな」ゴホン
副官「そうですか」フィ
艦長「共同戦線……か。いいだろう、シーサンドを倒すまでの間ではあるが、大人しく手を組むとしよう」
副官「艦長!!」
艦長「シーサンドの動きからしても、一国だけで相手取るのも潮時だと感じてはいた」
艦長「勿論、上の連中は納得はしないだろう」
艦長「だからこそ、戦場に立つ我々が判断しなくてはならん事もあるのだ」
魔王「協力、感謝する」
艦長「そうと決まれば忙しくなるな。お前達は一足先に本国に戻り、この件を伝えてくれ」
「了解、グラディウス01離艦体勢入ります」
魔王「さて……やっと出発点に漕ぎつけたが最早猶予はないだろうな」
艦長「シーサンドに対してはどのように攻撃する考えで?」
魔王「四ヶ国の総戦力による物量戦を考えている」
魔王「全ての国境に戦力を集結させ包囲網を狭めて叩く。できれば数箇所に切り込みとして、艦隊を多くしたいところだが」
艦長「しかしそれでは、シーサンドの特殊戦艦が完成していた場合の対処はどうする?」
艦長「分散させる以上、囲みを突破されたらこちらが窮地に陥るわけだ」
魔王「……ふーむ。しかし分散と言えど四ヶ国の戦力を簡単に破るとも……」
艦長「謙遜だな……相手が端から沈める気ではなかったとは言え、お前達はたった一隻で三十隻をいなしたのだぞ」
魔王「……」
艦長「恐らくだが、全戦力を集めて一気に叩くのが無難であろう」
魔王「ほう……それでは各地が手薄になるのでは?」
艦長「シーサンドからしたら何が脅威かと問えば他国、この連合軍の艦隊に他ならない」
艦長「逆に言ってしまえばそこが墜ちれば、彼らの勝利が確定する」
艦長「で、あれば各地の制圧は二の次にし、我々を全て沈める事を優先するだろう」
魔王「なるほど……そうか、盲点だった」
艦長「場所はここシルバースノウでいいだろう」
魔王「他三ヶ国の戦力を集めるにしては、距離が離れ過ぎではないか?」
艦長「向こうとてこちらの情報は得ているだろう。集結中に叩かれてもこの地で戦艦が墜ちる分には、人民への被害も少ない」
艦長「集結に合わせて侵攻し、ここが戦場となっても同様に、な」
魔王「……有り難い話だがいいのかそれは?」
「これよりシーサンドに対し総攻撃を行う。彼らは我々の撃破を最優先にするであろう」
「各国の艦隊は全てシルバースノウに集結し、総戦力でもって彼らを討つ」
「今こそ平穏な世を取り戻す時だ」
グリーングランド クレイモア艦内
「まさか唐突に現れた男に任せたスティレットでなぁ」
「初めは特殊艦をどこの馬とも知れない男に渡すなど、ついに国王は気が狂ったかと思ったが」
「まさかシルバースノウと共同戦線が実現するなんて……」
「まあそういう訳だ。書簡は届けた、俺達は一足先にスティレットに帰還する」
艦長「うむ、ご苦労だった。こちらも早急に向かうとする」
「やっとで書簡届けも終わったな」
「ああ、俺達も戻って決戦の準備をしなくちゃな」
「艦長! 二時の方角、距離30! 巨大艦影確認!」
「シーサンド!?」
艦長「……このタイミングで動き出したか」
「て、敵艦数捕捉できません! クレイモア、バスタードソード30以上! その後方……超巨大戦艦1!!」
「なんだ……あの大きさ……クレイモア何隻分だ」ガタガタ
艦長「我々が殿を務める。君達は他の艦隊にシーサンドが動いた事を伝えまわってくれ」
「良かったのか……これで」ビリビリ
「……仕方がないだろ。せめて、敵に新型戦艦の情報だけでも……」ブルル
「距離、第四攻撃部隊より10マイル」ビリビリ
「それにしてもなんてでかい戦艦だ……機動型にワイヤーで引っ張られてるぞ」ビリビリ
「殆ど推進力がないんだろう……」ブル
「しかし、このマナユニットが暴走したような感じは何だ!?」ビリビリ
「まさかとは思うがあの巨大……おい、巨大戦艦が光っている! 一体何が起こ」カッ
...オオォォォォン
「飛ばせ! 逃げろぉ!!」グオォォ
「目が眩む! ……今の光はなんだ!」
「分からない! だが……」チラッ
「第四攻撃部隊……消滅っ」
「とんでもない化け物を……急いで報告しなくては!」
「敵艦隊、北に回頭、このままシルバースノウに突っ込むつもりか?!」
ウェッブリバー 第一部隊
「にわかに信じられませんね」
艦長「一瞬で一部隊が消滅、か……」
「しかしこのまま連中に我々の空を汚させるのも……」
「我々だけでも仕掛けましょう! 仮に負け戦にせよ、謎の攻撃も限りがあるはず!」
艦長「不毛な策だな。恐らくシーサンドの総戦力……その巨大戦艦の出る幕ですらない」
艦長「謎の攻撃とやらは見せしめだ。消耗させようと残る艦隊は、総戦力の前に墜ち」
艦長「敵の切り札の消耗させる事無く、我々連合軍の戦力を悪戯に削る事になる」
「しかし最終決戦の場で一網打尽にされるのでは!」
艦長「要するに我々に選択権がないのだよ……全艦、第四戦速で北上せよ!」
魔王「巨大戦艦……」
側近「戦艦ギルドで確認できました……戦艦グレートソード」
魔王「大層な名だ。一部隊を消滅させただけの事はある」
側近「特殊戦艦……とんでもないものを持ち出してきましたね」
魔王「話を聞く限りでは連中……液体か気体の魔力を高圧力で射出させたのだろう」
魔王「ふざけたものだ……魔力をそのまま放出してぶつけているだけではないか」
側近「如何に敵の陣形を崩させるか、でしょうか」
魔王「ううむ……」
側近「それと……こちらがシルバースノウより提供頂く物資です」ペラ
魔王「徹甲榴弾30発と改良魚雷20発か……」
側近「なんですかその反応は……ありがたい事じゃないですか」
魔王「いや……スティレットに魚雷発射口を増設させる事はできないだろうか?」
側近「できるようですけども……資金に余裕はありませんよ」
魔王「構わん。可能な限り増設をしておいてくれ」
側近「畏まりました」
「全艦隊配置完了!」
「通信ワイヤー接続開始!」
「ロックケイブ第四部隊、ワイヤー足らず! どっか余っている艦はないか?!」
シルバースノウ クレイモア艦内
魔王「ここまでは順調だな」
艦長「件の新型戦艦の対抗策はどうだ?」
魔王「あると思っているのか?」
艦長「まさか」
副官「はぁ……」
魔王「悔しいが……我々は消耗戦に走り、一瞬の隙を突いて戦艦グレートソードを落とす他無い」
艦長「どれだけ多くの被害が出るか……」
魔王「無血で済む戦いではない。元よりお前も分かっているだろう」
艦長「そうだな……流す血が無く守れるものも……。だからこそ、総戦力戦となる今回、刺突艦隊は全て引き上げたのだ」
魔王「まさかシルバースノウにも通常の戦艦があるとはな」
艦長「刺突艦隊も斬撃艦隊も根本的に時間稼ぎだ」
魔王「無敗の艦隊が時間稼ぎとは大きく出たな」
艦長「砲撃戦に備え、こちらの体勢を整える為の艦隊なのだよ」
側近「そろそろ向こうもこちらに着く頃かと」
魔王「うむ……」
艦長「まだ試作段階だったが……思わぬ活躍となるな」
魔王「浮遊機雷……あんなものを作っていたとはな」
艦長「向こうも馬鹿ではない。直撃するとは思えんが……進行ルートは絞れるはずだ」
魔王「こちらにできる事は尽くした……後は全力を賭して戦うのみだ」
魔王「行くぞ」バッ
側近「……失礼します」
見張員「リトルシップ七番機より、6時の方角敵艦隊距離80、20ノットで航行中」
側近「艦長」
魔王「何故、我が総司令なのだという……」フゥ
魔王「戦艦スティレットの艦長であり、連合軍総司令の*****である」
魔王「これより我々はシーサンドとの最終決戦を行う」
魔王「どれだけ多くの血が流れるか分からん。泥試合とも分からん」
魔王「だが、今こそシーサンドを討ち、平穏の世を取り戻す時である」
魔王「全艦、戦闘用意。全ての者が死力を尽くし、奮闘し、勝利を得る事を祈る」
側近「よりもよってこの吹雪とは……」
魔王「先制はお前の耳が頼りだぞ」
聴音員「はいっ! ……機関音多数! ……真方位1-8-0、距離10」
魔王「全艦、20ノットで前進」
側近「方位そのまま、20ノット!」
見張員「敵艦隊雲海抜けます!」
「なんて大きさだ……」
「化け物め……地に落としてやる!」
魔王「攻撃開始!」
側近「攻撃部隊、撃ち方始め!」
下方 シルバースノウロングソード艦内
「始まりましたね」
艦長「うむ……他部隊への根回しもしてある。思い残す事も無い」
艦長「今こそ砂漠の蛮族を撃ち砕く時だ。通信ワイヤー切れ、信号弾! 機関最大戦速!!」
見張員「か、下方シルバースノウ第一部隊より信号弾!」
見張員「我ガ艦隊突撃ス!!」
側近「馬鹿な! この状況で?!」
艦長『そうだな……流す血が無く守れるものも……』
魔王「知っていたのか……」
魔王「総員、敬礼! 彼らは彼らの空と誇りの為、その身を捨てでも守ろうとする者達だ」
シーサンド軍 艦内
「連合軍下方艦隊! 突撃してきます!」
「馬鹿な……何を考えて」
「グラディウスを出せ。早漏の馬鹿どもを叩き潰せ!」
「敵下方艦隊より小型機離艦、グラディウスと思われます!」
艦長「お前達の兵器で沈むがいい! 弾種散榴弾! 多連装従動遠距離砲撃てぇ!!」ズドドドドドン
艦長「全砲門敵に指向! 弾種榴散弾! 撃ち方」
「グラディウス爆煙を抜けてきました!」
艦長「なっ……構わん、撃て!!」
見張員「敵グラディウス、散榴弾突破! 砲撃を潜り抜けています!」
魔王「なに……? 貸せ!」バッ
側近「艦長?」
魔王「連中……我の障壁と似たものを……」ボソリ
側近「まさか……それでは多少の砲撃ではかすりもしないという事ですか?」
魔王(しかし一時的に展開しているように見える……魔力の消費を考えると継続して展開はできないのか)
魔王(なるほど……仕組みはできていたのか。グラディウス拿捕は必然的に起こったという事か……迂闊、死守するべきであったか)
「だ、駄目です! 当たりません!」
「榴散弾なのに! 何故?!」
艦長「ここまでか……発光信号、我が艦は先に逝く、と。機関室!」
>
艦長「さあ寄って来い。巨大な餌が目の前」ガガガガ
シーサンド グラディウス
「ブリッジ射撃、命中」
「全機、前方敵艦の脇を抜けて後続艦を叩くぞ」
「味方艦に発砲はでき……」ブル
「グレートソード? 随分と予定より早い砲撃だな」ビリビリ
「飛ばせ飛ばせぇ!」ビリビリビリ
「待て、このマナの発生源は!!」
「退避! マナ障壁展」カッ
見張員「最前線シルバースノウ、ロングソード爆散! 後続艦、尚も前進!」
見張員「ブリッジを集中砲火されただけなのに……自爆したのか……」
魔王「……」ハッ
魔王「全艦、40ノットで距離を詰めつつ砲撃を浴びせろ!」
魔王「彼らが本気なら……これはまだ布石だ」
「先鋒隊がやられたか」
「前面部分にしか障壁はでないからな。近距離で戦艦が爆発したとあっちゃあ」
「距離を取って撃ち続けるぞ。詰まったら大きく回避行動を取れ!」
「まあ、皆分かってるだろうが……左舷二隻降下、爆散」
「猿の一つ覚えだな。もう接近はせんぞ」
「右舷三隻爆散……歯応えの無い」
「残り二隻、接近しつつ沈めろ。自爆の煙に紛れて連合艦隊に食らいつけ」
「了解、発光信号を送る」
「全艦爆散確認!」
「突っ込むぞ!」グオオォォォ
「クソどもに我々砂の民の力を見せ付けろ!」
「爆煙突……ちゃ、チャクラム?!」
「避けられ」ドッ
見張員「せ、戦艦チャクラムです! 全斬撃艦隊! 爆煙に紛れて突貫していきます!」
見張員「グラディウス、次々に衝突し爆発していきます!」
魔王「……期せずしてグラディウス対策となったか」
>
魔王「……そうか。ならばこちらも為すべき事をしよう」
シーサンド 下方艦隊
「チャクラムが突っ込んできます!」
「照準合わせ急げ!」
「駄目だ! 間に合わない!」
艦長「総員、衝撃に!!」ギャイィィィン
見張員「敵下方艦隊! チャクラムの近接用カッターにて次々と轟沈!」
魔王「これが斬撃艦隊の姿か……」
側近「あんな容易く戦艦が断裂していくなど……」
魔王「これで少なからず敵は混乱に陥る。この機を逃すな」
見張員「ウェッブリバー攻撃第三部隊壊滅!」
見張員「敵、左舷ロングソード3、バスタード2轟沈!」
見張員「敵艦隊、戦艦を盾にチャクラムを受け止め、砲撃を浴びせています!」
見張員「戦艦チャクラム5、轟沈!!」
魔王「……」ギリ
側近「……艦長」
魔王「非情だが……彼らの事は見捨てる。己の良心の呵責の為に、彼らの誇りに泥を塗るわけにはいかない」
魔王「前方の敵艦隊に集中せよ!」
見張員「グレートソード前方艦隊散開!」
側近「なに? それではがら空きになるではな……」ビリ
魔王「……」ゾク
魔王「グレートソードの形状確認急げ!」
側近「え? あ、はい!」
魔王「見張員、グレートソードの船体角度割り出せ」
見張員「了解!」
魔王「来るか……」ビリビリ
見張員「な、なんだ? マナの暴走?!」ゾクッ
航海長「機関室! 計器確認!」ブルル
>
聴音員「前方より機関音増幅! 尚も出力が上がっています!」
側近「艦首に発射口を確認!」
見張員「船体、俯角5!」
魔王「下方艦隊は降下、他艦隊は緊急上昇の通信を!」
見張員「通信ワイヤー各所で断線!」
魔王「……」ギッ
魔王(これでは各艦の連携が……しかし複雑な信号を送る余裕は……)
魔王(全艦緊急上昇? 見捨てるのか? 下方の艦隊を……)ギリッ
魔王「信号弾……敵砲撃注意セヨ、緊急上昇、各艦隊ノ判断ニ任ス」ギリッ
航海長「しかし、それでは!」
側近「……構わない、それで信号弾を撃て!」
魔王「……頼むぞ」
下方 ロックケイブ バスタードソード艦内
「スティレットより信号弾! 敵砲撃注意セヨ、緊急上昇、各艦隊ノ判断ニ任ス」ビリビリ
艦長「この異常なマナはやはりグレートソードによるものか……しかし各艦隊とは?」
艦長「グレートソードの船体の状況と砲塔を確認」
「船体角度、俯角5。停滞、砲塔確認できず!」
「艦首に発射口1確認! 発光しています!!」
艦長「他艦隊との通信ワイヤー……いや、だからこそ発光信号か。下方に陣取る艦隊に信号弾!」
艦長「全艦我ニ続ケ! 俯角10度、第二戦速!」
見張員「下方、ロックケイブ第五部隊より信号弾! 全艦我ニ続ケ!」ビリビリ
見張員「速度70、俯角10で航行開始!」
魔王「そうか……流石は部隊を率いる司令。優秀だな」ビリビリビリ
魔王「総員衝撃に備えろ! 敵の砲撃来るぞ!」
側近「総員対ショック体勢!」ビカッ
ギュオオォォォォォン
魔王「ぐう……! かわせたか!」ゴゴゴゴ
側近「状況確認急げ!」ゴゴゴ
見張員「おおよそ32! ロングソード4、バスタードソード9、クレイモア19!」
側近「かなりの数のクレイモアが……」
見張員「グレートソード距離15に後退!」
魔王「発射の反動か……全艦60ノット! 何としてでも次の砲撃までに敵に致命傷を与えよ!」
シーサンド
「連合艦隊、60ノットで前進」
「陣形戻せ! 次の砲撃まで持ち応えろ!」
「機動第三部隊を上げろ! グレートソード前方に集中している今、外堀から肉薄し敵艦を削ぎ落とせ!」
見張員「五時の方角、機動型ロングソード、数30! 速度100で前進!」
魔王「邪魔をしに来たか……」
見張員「上空グリーングランド第ニ攻撃部隊、機動型ロングソードに向け前進!」
側近「勝手に隊列を……! これでは陣形が!」
魔王「付け焼刃の連携だ……止むを得まい」
シーサンド グレートソード艦内
「上手くクレイモアを引き付けましたね」
「あの火力を前方艦隊に集中されては厄介ですからね」
「船体角度、仰角0。機関室、マナ水の加圧始めろ」
>
「スティレット……手痛い目を合わされていたが、戦争は不慣れの様子」
「今尚上昇した陣形が戻しきっていない状況を後悔するといい」
魔王「流石に堅いな」
側近「これでは次の砲撃が……」
魔王「……! グレートソードの船体角度!」
見張員「……ぎょ、仰角0度!!」
側近「更に上空に逃げなくては!」
見張員「これ以上の上昇は上空の艦隊が高度限界に達します!」
魔王「しまった……全艦降下! 陣形を戻せ!」ビリ
側近「まさか……」ビリビリ
見張員「グレートソード前方艦隊散開!!」
聴音員「グレートソード機関音増幅!」ビリビリ
魔王「……」ビリビリ
側近「……」ゴクリ
魔王「ここまで、か……すまない、皆の者」ビリビリ
航海長「いえ……負けるのは悔しいですが、貴方が指揮する艦に乗れて良かったです」
見張員「俺らもです!」
見張員「艦長! どうせ駄目ならダメ押しでやっちまいませんか!」
魔王「お前ら……そうだな。最早回避は不可能、全艦突入!」
側近「全艦、最大戦速にてグレートソードに突入せよ!」
航海長「最大戦速宜候!」
見張員「グレートソード砲撃命中を確認!」
聴音員「機関音増幅中!」
側近「止められないか……」
魔王「……後の事は下方の艦隊に任せるとしよう。なに、先の信号弾において我の意図を理解していたのだ」
魔王「きっと上手くやってくれるだろう……」
魔王「多くの者を死なせてしまったな……今逝くぞ」
側近「……」グッ
見張員「グレートソード発射口より発光確認! 来ます!!」
見張員「来、あああああああああ!!」ビカッ
下方 ロックケイブ バスタードソード艦内
「なんて事だ……」
「艦隊中心が撃ち抜かれたぞ! 何故回避しなかった!!」
艦長「あれを避けるには高度限界を超えねばならない……」
艦長「が、陣形を戻していなかったのも最大失態だったと言わざるを得ないな」
「し、しかしこれではこちらの戦力は瓦解したようなものです!」
「もう抵抗するだけの戦力も……」
艦長「だが、おめおめとシーサンドの隷属を受け入れる訳にもいくまい。全艦、攻撃を続けろ!」
「砲撃による煙が晴れていきます」
「被害状況確認急げ!」
「了……な、なんだ?」
魔王「……」チラッ
魔王「! 何故、無傷なのだ?!」
側近「スティレットの被害状況報告急げ!」
>
>
見張員「確かに砲撃は撃たれた筈なのに……」
聴音員「……」キュルキュルカチッ
聴音員「……間違いありません、砲撃と共にこちらとグレートソードの間で炸裂音多数」キュルキュル
魔王「守られた? しかし……あれほどの威力を前にどうやって……」
聴音員「! 3時の方角に機関音多数!!」
側近「機雷空域を越えてきたのか……!」
魔王「ここまで追い込み尚、包囲戦まで策を詰めて来るのか……」
見張員「周囲の艦隊、直前の砲撃による被害確認できず!」
見張員「4時の方角、雲海に乱れ有り、戦艦を確認! 数5距離12……み、未登録艦!」
魔王「馬鹿な……このタイミングでわざわざ未登録艦をここに?」
側近「構う余裕は無い! グレートソードに集中せよ!」
見張員「軍旗を確認……これは……はっ!」バッ
側近「な、なんです? こちらを向いて」
見張員「あれは……間違いありません……」バッ
見張員「艦長のお召し物の紋章と同じです!!」
側近「え……まさか!」
魔王「……魔界は人間界ほど金属が豊富でないというのに」ボソリ
魔王「あの馬鹿ども……だが、ともすれば応えてやらねばな」キィィン
騎士B「間に合った?」クビカシゲ
騎士A「みたいだが……どの戦艦がそうなのか」ゾク
「高い魔力、魔王様を確認……上空艦隊中央の戦艦より発せられている模様」ブルル
騎士A「その位置であれば無理に護衛に向かう必要も無いな」
騎士A「魔法学においてはこちらに一日の長がある」
騎士A「相手が云十、云百の大軍であっても、我々が付け入る隙はいくらでもあるはずだ」
騎士A「全艦最大戦速、全砲門敵シーサンド軍に指向! 連合軍率いる魔王様を支援せよ!!」
騎士B「全艦最大戦速、攻撃開始」
騎士A「敵の横っ腹を食い破れ!!」
魔王「あの艦隊は我の部下によるものだ」
魔王「強力な援軍だ。この隙を突いて敵艦隊に肉薄するぞ!」
グレートソード艦内
「未登録艦だと?!」
「敵増援発砲! て、徹甲弾のはずなのに次々と落とされていきます!!」
「このままでは陣形が……! たかが五隻相手に!!」
「砲撃急げ! せめて連合軍を撃墜せねば!」
「右舷艦隊! 増援を叩け!!」
見張員「敵左舷クレイモア3、沈みつつあります!」
見張員「同じく敵バスタードソード4、沈みつつあります!」
航海長「たった五隻で……どんな大きさの砲弾を使っているのだ」
側近「発砲の度に肌を刺す感覚は……」ピリピリ
魔王「ただの魔石ではないな……全く、どれだけ多くの学者を巻き込んだのやら」
見張員「グレートソード前方、敵艦クリア!」
見張員「グレートソードまで距離8!」ビリ
側近「くそ……間に合わないのか!」ビリビリ
魔王「突き進め! 例えここで墜ちようとも後に続く者達の道となる!」
騎士B「砲撃……来る」ビリビリ
騎士A「全艦、撃ち方止め」ビリビリ
騎士A「……魔王様、貴方の勝利への架け橋は貴方に敗北を与え、そして今、勝利へと導いていますよ」ビリビリ
騎士A「全砲門、連合軍前方距離4」
>
「グレートソード発光確認!」
騎士A「弾種、魔力消失魔石弾撃てぇ!!」
ギュオオォォォ...
側近「……これは」ゴゴゴゴ
魔王「あの時……我の障壁を無力化させた……人間達の」ゴゴ
魔王「ふ、はは……面白い物を持ち出しおって」
見張員「ま、また助かったのか?」
聴音員「砲撃直後に炸裂音……まさかあの艦隊から?」
魔王「そのようだ。増援は敵の砲撃の無力化に成功した」
魔王「恐れるものは何も無い! 突き進め!!」
「こちらを向いている全艦隊轟沈!」
騎士A「我々もグレートソードに対し攻撃を行う」
騎士A「既に旗艦は丸裸も同然。攻撃手段を魔力による砲撃に絞ったあれは、最早非武装艦となんら変わりが無い」
騎士A「終止符を打つ時だ! 全艦一文字陣、高さ合わせろ!」
グレートソード艦内
「護衛艦隊前線、突破されました!」
「馬鹿な……! このような事が!!」ダン
「連合軍距離5! 未登録艦距離7!」
「無理やりでも構わん! 高圧縮マナ水噴射砲発射用意!」
「それは……ユニットの負担が! 下手すれば暴走する恐れも!」
「このままグレートソードがただ墜ちるのだけは阻止せねばならん!」
「いや……いっそ連中も道連れにせねば我々に勝ち目はない!」
「……」ゴクリ
「機関室、砲撃用意!」
見張員「グレートソード距離4! 船体仰角0!」ビリ
魔王「最後の抵抗か……六連装連動連射砲、弾種徹甲! 魚雷装填!」ビリビリ
側近「六連連動連射砲用意! 弾種徹甲! 1~6番魚雷装填!!」ビリビリ
魔王「こちらの船体も水平に保て! 照準、グレートソード砲撃発射口!!」
「グレートソード、距離6!」
騎士A「弾種徹甲榴弾。同角一点砲火を行う」
騎士A「全艦方位0-0-0仰角35、二番仰角37! 各艦方位誤差修正急げ!」
「高圧縮マナ水噴射砲発射まで20秒!」
「急げ! 敵の射程に入るぞ!」
聴音員「機関音増幅、発射までおおよそ15!」
魔王「全砲門、魚雷、撃てぇ!!」
騎士A「全艦全砲門撃て!」
騎士B「全艦撃ち方始め!」
ゴオオォォォォ
見張員「グレートソード! 煙を上げつつ降下!」
側近「全艦緊急浮上! 大爆発するぞ!!」
見張員「敵残存艦、白旗と停戦の信号弾を確認」
魔王「聴音員、グレートソードの状況」
聴音員「爆発音多数……機関音尚も増幅してます!」
魔王「急速反転上昇! 信号弾、退避セヨ!」
騎士B「魔力上昇止まらない……」
騎士A「反転急げ! グレートソードから離れるぞ!!」
見張員「グレートソード距離10。地面に衝突まで1分」
側近「随分と頑丈に作ったものですね」
魔王「暴発も恐れたが……どうやらマナが内部で圧縮され続けているのだろうな」
航海長「……となりますと、一体何が起こるのでしょうか?」
魔王「衝撃と共に大爆発を起こす。聴音員、聴音止め、総員衝撃に備えよ」
聴音員「え? あ、は、はい!」バッ
見張員「衝突まで10! 7,6,5,4,3,2……」カッ
ゴゴゴゴ
魔王「終わったか……」
見張員「シルバースノウ、第一部隊より発光信号! 協議は日を改めて行いたい」
見張員「各国一部隊はシーサンドに駐屯せよ」
魔王「我々の出る幕ではないな」
側近「ですね」
見張員「各部隊、一部部隊を南東に向けて航行開始。他、各国に帰還する模様」
魔王「我々も移動するぞ」
魔王「真方位1-6-5。国境を超えた先で止まれ」
側近「あの五隻にも信号を」
「スティレット接舷! 魔王様がこちらに来ます」
魔王「全く……馬鹿者共め」
騎士A「遅くなり大変申し訳ありません」ザッ
騎士B「申し訳ありません」ザッ
魔王「お前達のお陰で命を繋いだ……本当に感謝している。顔を上げてくれ」
騎士AB「……」スッ
魔王「……」ピク
側近「……」ニコニコ
魔王「側近……あの時は忙しなくて気付かなかったが、この男の顔に身を覚えがあるぞ」
側近「おや、そうでしたか?」ニコニコ
魔王「というよりも貴様が気付いていない訳がないだろう!!」
魔王「貴様は何者だ! あの時、我を追い込んだ人間の戦士ではないか!!」スラァン
騎士A「……」
「……」
「……っぷ」
「……くく」
魔王「貴様らぁ! 何がおかしい!!」
側近「その男は神の僕です」
魔王「……」カラァーン
「おお……魔王様が固まったまま剣を落としになられた」ガラガラガラァン
「そりゃあ驚くよなぁ」
魔王「……側近、貴様は知っていたのか」
側近「私達が魔王様より先に目覚めた時、彼らが接触を図ってきました」
魔王「ら? その女は見ない顔だが同じく僕か」
騎士B「嘘ついてごめんなさい」シュン
側近「魔王様……」ハァ
魔王「ええい、気にするでない! そのような顔をするな! くそ、調子が狂うではないか!」
魔王「で、どういう事だ?」
騎士A「今回のシーサンドの問題において、多くの従者が降臨していた」
騎士A「俺は飽くまで魔王迎撃の為に降臨したが、お前はまだ封印されたままで側近と接触する事になった」
騎士A「が、交戦の構えが無かったから、話し合いという事で魔界の現状と言付けを伝えたんだ」
魔王「現状と言付け?」
騎士A「言付けはあまり意味が無かったんだが……これを」ペラ
魔王「手紙……随分と古いな。誰からだ」
騎士A「お前の兄上殿からだ」
騎士A「魔界と天界は長い事敵対していたが、240年ほど前に和平が結ばれた」
騎士A「その少し前にお前の兄上に会ったんだ」
騎士A「内容は大方想像できるが俺は勿論、彼も中身は見ていない」
側近「魔王様……」
魔王「……」
騎士A「兄上からはお前に手渡して欲しいと言われたよ」
魔王「よく……引き受けたな」
騎士A「ああ……お前の兄上からお前の人柄は伺っていたからな」
騎士A「おまけにまさか本当に人間界を救うとはな。お前の側近に言われた時は半信半疑だったさ」
側近「差し出がましい事だとは思いましたが」ペコリ
魔王「あの五隻もあの砲撃を無力化させたのも、天界の協力があってこそか」
騎士A「戦艦は魔界の大手柄だよ。設計図を持ち込んだのは我々従者だが、それを改良したのは魔族達だ」
魔王「そうか……皆が手を貸してくれたのか」
騎士A「ああ。お前は本当に部下を想う良き主なんだな」
騎士A「あの士気の高さや、他の者の顔を見れば分かるさ」
魔王「……そうだ。我の唯一無二の誇らしい部下達だ」
騎士A「……お前はこれからどうするんだ?」
魔王「魔界へ戻る……戻って、何かをするさ」
騎士A「歴史も変わり様変わりした人間界を、単独で大立ち回りをしてみせたんだ」
騎士A「多少の事ならどうとでもなるだろうな」
騎士A「この戦艦も必要ないだろうし人の目も無い」
騎士A「俺らはもう魔界に戻る。戦艦ギルドに撃墜されたくないしな」
魔王「だろうな。魔界に戻ったらお前達は自由にしろ」フッ
騎士A「あんまり自由にできる時間が残っていなさそうだけどな」
一ヵ月後 グリーングランド
国王「そなた達には感謝してもしきれんな」ハッハッ
国王「この国のみならず、全ての国の平穏をもたらしたのだ」
魔王「我はただ各国を手を結ばせたまで。平穏をもたらしたのは」
魔王「多くの勇敢な兵と散っていった者達です」
国王「……そうだな。あまりにも多くの血が流れた」
国王「だが、それは今までも起こって来た事。災厄に対し多くの血が流されてきた」
国王「だからこそこの先、必ずよくなると言える」
国王「そなたには今後とも、ここグリーングランドで躍進して頂きたい」
魔王「……」
側近「……」チラッ
魔王「我には帰るべき場所がある。我が守るべき者達がいる」
魔王「申し訳ないが本来の立場に戻らせてもらう」
国王「そうか……残念だが仕方が無いな。何かあったら何時でも頼ってくれて構わんぞ」
魔王「行くぞ」
側近「よろしいのですか? 乗組員達にも挨拶ぐらいしていかれてはいかがです」
魔王「ここへ戻って来る事もあるまい。元より和平までの間の一時の関係だ」バッ
側近「……」
魔王「何か言いたそうだな」
側近「いえ、魔王様らしい優しい嘘だと思っただけです」ニコリ
その後、世界を救う架け橋となった戦艦、その艦長を務めた男を見た者はいなかった。
雲の様に現れ、風の様に消えていき、何処の誰なのかを一切分からず、
知られているのは名前とその人柄だけであったが、永く永く語り継がれたという。
側近「これからどうしますか?」
魔王「さてな……旅でもしながら我々にできる事を探すとしよう」
ともに、その後の魔界では奇妙な話が語り継がれたそうだ。
各国で領土による衝突が絶えなかったが、何処の国にも属さない部隊が現れ、
今までに無い戦法をもってこれを静定したのだという。
従者「ただいま戻りました」
女神「あの魔王は……この先どうするのでしょうね」
従者「まー前向きに生きていくんじゃないんでしょうか?」
従者「少なくとも侵略とかそういった方面にはいかないでしょうし」
女神「何故そう思うのです?」
従者「あれの兄上との話の通り、人間界侵略はあの魔王にとって何かを成した証を求める行為だったんです」
従者「間接的とは言え我々従者のように働きかけ、シーサンド軍を討つ事で波乱を食い止めたんです」
従者「言ってしまえば、何十人と降臨していた我々従者が手を拱いていた横を、さらっと出し抜いていった訳ですからね」
従者「魔界は争いこそ残ってはいますが、昔とは考え方も違ってはいるし、どうとでもやっていけるでしょう」
従者「今回の技術が魔界に持ち込まれましたが、彼の部下は戦艦も設計図も全て処分してしまいましたからね」
従者「最も、魔石をどうこうするなんて気が狂った理論にしても、あれを運用するほどの魔石もないですし」
従者「今回の件で連鎖して問題が起こる事もないでしょう」
女神「それならいいですが……貴方から見て人間界はどうでしたか?」
従者「んー……これが文明の発展かぁ、て感じですかね」
女神「なんかあっさりですね」
従者「いやまあ驚いていますよ。でも度合いの差はあれど」
従者「弓だけだった世界にクロスボウが誕生すれば、それ以前の人は驚くでしょうし」
従者「だから一つの発展の形かなーと。信仰はもう極一部で日常化しているぐらいなのが残念なところですが」
女神「……いえ、いいのです。我々はこうなると理解していましたので」
従者「まあ……良くも悪くも、人間はあまり神頼みせず一人立ちするって事ですし、喜ぶ事にしておきます」
女神「そうですね……ですがそれは寂しいものです」
従者「……」
女神「貴方は変わらず、ここにいてくれますか?」
従者「……変わりはするでしょうがここにずっといるでしょうね」
女神「……ありがとう」フフ
従者「いえいえ、何時までも仕えさせて頂きます」
女神「そうですか、では……グリーングランドにとても美味しい山菜料理があると聞きます」
女神「貴方は人間界に降臨してこれを持って来るのです!」ビシィ
女神「……あれ?」
メモ『疲れたのでそろそろ休みます』
女神「あぁ! 何時の間に!」
魔王「勇者に負けそうになり、我が身を封じて数百年」 完