マミ「……」 カリカリ
マミ「うーん……」
マミ「……」 カリカリカリ…
マミ「辞書辞書……」
マミ「……」 パラパラ…
マミ「……あぁ、こっちね……」
マミ「……」 カリカリ
マミ「……」 カリカリカリ ペラ カリ…カリカリカリ…
QB「マミ。そこ、綴りが間違ってるよ」
マミ「え?」
QB「castle。ss じゃなくて st だよ」
マミ「ああ……ありがとう、キュウべえ」
元スレ
マミ「今日も紅茶が美味しいわ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1304834183/
第十話 挑戦するという意味
マミ「それにしても、キュウべえの発音はキレイね」
QB「必要だからね」
マミ「そっか。魔法少女は世界中にいるんだものね」
マミ「ハァ……それに比べて、私たちはどうしてこんな勉強をしなくちゃいけないのかしら」
QB「仕方ないよ。君たち自身が決めたルールだ」
マミ「……大人が勝手に決めたことだもん。私知らないもん」
QB「それはその通りではあるけどね。
しかしその大人たちだって、その時々の先人が定めたルールに従っていたんだ」
QB「そして先の世代の子供たちも、恐らくは今の君たちが定めるルールに沿って
生きることになる。そうやって続いて行くんだよ」
マミ「……」
マミ「だからって、こんなのやっぱり役に立たないわよ。
どうして日本の英語教育って単語と文法ばっかりなのかしら」
QB「そう言うわりには、君はいつもイタリア語の単語を熱心に調べてるよね?」
マミ「あ、あれはいいのよ。とにかく、もっと発音やリスニングに力を入れてくれないと
実際の会話で使えないわ」
QB「そうかな? そんなことないと思うけど」
マミ「どうしてよ? 喋れなきゃ話にならないわ。筆談ってわけにはいかないじゃない」
QB「確かに、少し昔ならそうだけど、現代では文書の交換も主流になりつつあるじゃないか」
マミ「どこの世界の話をしているのよ。もしかしてあなたの故郷?」
QB「違うよ。インターネットだよ」
マミ「え? ……あ!」
QB「単語と文法を身につければ、掲示板で世界中の人と話ができるんじゃないのかい?」
マミ「それは……」
QB「それは?」
マミ「そ、それは…………関係、ないわよ」
QB「どうして?」
マミ「どうしても! それより――ちょっと休憩しましょう。お茶にしましょう」
QB「……? ……まぁ、君がそうしたいなら」
マミ「ふぅ……」
QB「……」 モグモグ
マミ「――でもやっぱり、納得いかないわ」
QB「何がだい?」
マミ「英語教育の在り方よ。単語の綴りが少し間違ってるぐらい別にいいじゃない。
要は意味が通ればいいんでしょう?」
QB「僕に言われても困るけど……一文字違いで全然別の意味になる単語だってあるよ」
マミ「そうだけど、例えばさっきのキャッスルはキュウべえには通じたわ」
QB「まぁ、確かに」
マミ「英語だけじゃなく、そういったケアレスミスで減点されるのって、なんだか理不尽だわ」
QB「うーん……それはたぶん、採点する側の都合だろうね」
マミ「え?」
QB「ケアレスミスか、間違って覚えているのか、なんて、見ただけではわからないだろう?
一人ならともかく大勢を評価するなら、基準は曖昧でない方がスムーズだ」
マミ「…………理不尽だわ」
QB「そうだね。僕も、どちらかと言えばマミの意見に賛成だよ。
学校のそれに限らず、人間の作るシステムは無駄な部分と無理な省略が多すぎる」
QB「総じて言えば、思慮が浅く短絡的だ」
マミ「……?」
QB「人類全体がもっと長期的な視野を持ってくれれば、僕らとしても助かるんだけどね」
マミ「えっと……キュウべえ?」
QB「……」
QB「……なんでもないよ。僕らも僕らで、面倒なルールに縛られているのさ」
マミ「そうなの……」
QB「マミのやりたいようにすればいいと思うよ。君の言うとおり、
テストでの成績が悪かったからといって実際に通用しないとは限らないんだ」
マミ「うん……」
マミ「……そうね。でもやっぱり、成績を落とすわけにはいかないわ。
援助してくださってるおばさまたちにも申し訳が立たないもの」
QB「そうかい」
マミ「ええ」 クイッ ゴックン
カチャリ
マミ「さて――それじゃあもうひと頑張りと行きますか」
マミ「――ふぅ。今日の分、終了っと」
QB「お疲れさま」
マミ「ありがとう、キュウべえ」
QB「別に何もしてないけどね、僕は」
マミ「ふふっ。……けどやっぱり、以前と比べるとだいぶ楽になったわ」
QB「そうだね。去年の辺りまでは、もっとずっとバタバタしていた覚えがあるよ」
マミ「そうよねぇ……」
◆
マミ「……」 ゴソゴソ バタバタ
QB「……」
マミ「……」 バタバタ ゴソゴソ
QB「ねえ、マミ」
マミ「ん……なぁに、キュウべえ?」
QB「どうして急に部屋の模様替えなんて始めたんだい?」
マミ「……」
マミ「いいじゃない。気分転換よ」
QB「テスト勉強はいいのかい?」
マミ「だから、その気分転換よ。これが終わったらちゃんとやるわ」
QB「……」
QB「まぁ、君がいいというのなら、いいんだけどね」
◆
マミ「……」 カリカリカリ
マミ「……うーん……」
マミ「……」 カリカリカリカリ、カリ…
マミ「……」
シュイーン
マミ「……」
QB「マミ? 急にソウルジェムを取り出したりなんかして、どうかしたのかい?」
マミ「魔女が出そうな気がするわ」
QB「……。反応はないようだけど」
マミ「出そうな気がするの。行くわよ、キュウべえ」
QB「……」
QB「まぁ、反対する理由もないけど」
◆
マミ「~~♪」 チャッカチャッカチャッカチャッカ
QB「あれ? マミ、お菓子を作っているのかい?」
マミ「ええ。シブースト、フランスのお菓子よ」
QB「ふぅん。ずいぶんと手間のかかるものを選んだね」
マミ「あら、詳しいのね?
そうよ。パイ生地を焼いて寝かせて、土台を焼いて冷まして、カスタードとメレンゲを
少しずつ少しずつ混ぜ合わせて、仕上げのキャラメリゼは焼きごてで焼いて」
QB「うん」
マミ「今はメレンゲを作ってるところ♪」
QB「へえ」
マミ「安心してね? キュウべえの分もちゃんと作ってあげるから」
QB「そうかい。ありがとう」
マミ「……」 チャッカチャッカチャッカチャッカ
QB「……」
マミ「だ、大丈夫よ。ちゃんと勉強もしているわ」
QB「何も言ってないじゃないか」
◆
マミ「うぅ……なんてひどい点数……」
QB「残念だったね」
マミ「……もっとちゃんと勉強していれば……」
QB「十分にやるだけのことをやった上での結果だろう? なら受け入れるしかないよ」
マミ「うぅ……」
QB「次また頑張ればいい」
マミ「……ごめんなさい……」
QB「うん? どうして僕に謝るんだい?」
マミ「い、いえ。間違えたわ。ありがとう、キュウべえ。励ましてくれて。次はがんばるわ」
QB「おかしな間違いだね。どういたしまして」
◆
マミ「ふふ……そんなに昔のことでもないのに、懐かしいわね。今となってはいい思い出よ」
QB「そうだね」
マミ「……あのころはテストのたびに現実逃避して、挙句に世界を呪ったりしてたのよね……」
QB「……」
マミ「ダメよね。希望を振りまくはずの魔法少女が、呪いを抱いたりなんかしたら」
QB「……」
QB「いいや、駄目だなんてことはないよ」
マミ「え?」
QB「魔法少女といえど、ものの考え方や価値観は普通の人間と変わりはないんだ。
何かを呪いたくなることだって当然あるさ」
QB「少なくとも僕は、君たちのそんな感情の動きを禁止しようなんて思わないよ」
マミ「……そう」
マミ「でも、やっぱりよくないわ。魔法少女は夢と希望の象徴でいなくっちゃ」
マミ「それに、少なくとももうテストのせいで呪ったりなんかしないだろうから、大丈夫」
QB「そうかい」
マミ「そうよ。今の私には強い味方が付いてるんですもの」
QB「あぁ、あの新しいテキストのことだね?」
マミ「ええ。通信講座は塾なんかと違って好きな時間にできるのがいいわね。
魔法少女にはぴったりだと思うわ。
中身も、教科書に合わせて要点をまとめてくれているし」
マミ「始めてよかったわ。進研ゼミ」
240 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/12 16:34:38.87 eqG/yXgno 163/571
以上
久々のほのぼの
最初はこういう系統を目指してたはずなんだけどな……
というかいつのまにかwikiの粗筋が修正されてて笑ったw
別に文句言ったわけじゃないのにw
247 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/16 19:55:18.99 wtNOGC0To 164/571
投下
今回は長め
途中で切るとこ見つからんかった
楽な相手だった。
砂漠を模したような結界内は、障害物がなく走りやすかった。
ぎゃあぎゃあとやかましいだけの使い魔は、槍の一薙ぎで蹴散らせた。
親玉の魔女も、図体はデカいくせに笑えるぐらいノロマだった。
結界に入って、ものの数分。
ほとんど何の苦労もなく、アタシの槍はヤツの脳天をぶち抜いた。
それと同時に、ヤツの触手もアタシのドテっ腹をぶち抜いた。
杏子「あ……?」
気がついたときには、世界は真っ黒で。
痛みも何も感じなくて。
ああ、これでようやく楽になれるんだな、と、そんなことを思わせてくれる相手だった。
第十一話 魔女と魔女
だからこんなのは、おかしいんだ。
もう一度目を覚ますなんて、おかしいんだ。
腹の傷がふさがってるなんて、おかしいんだ。
こんなにもふかふかのベッドに寝かされてるなんて、どう考えてもおかしいんだ。
杏子「……なんで……」
「――あら、目が覚めたのね」
声がした。
ちらりと目を向けると、アタシと同い年ぐらいの女が一人。どこかで見た顔だ。
上体を起こしながら、さりげなく辺りも見回す。
清潔な部屋。
洒落た感じの家具や小物類。
窓の外の景色は、もう夜になっているようでわかりづらかったが、視点が高い。
マンションの上階だろう。
金のある人間の棲家、だな。
「起きて大丈夫なの?」
杏子「……誰だ」
端的に尋ねると、そいつは左手を掲げて見せた。
中指に、見覚えのある銀の指輪がはまっている。さらに爪にはシルシもあった。
つまり同業者。
なるほど、だいたいわかった。
「巴マミよ。あなたは?」
問い返してきた。
が、アタシは答えず、そいつの斜め後ろを見やる。
杏子「聞いてねぇのか。そいつから」
猫のようなウサギのような、ぬいぐるみのような白い生物がそこにいた。
契約の獣。キュゥべえ。
アタシを今の生活に叩き落してくれた、ある意味で全ての元凶。
……なんてのは、逆恨みか。
マミ「……あなたが死んでたなら、そうしたわ。
でも生きてたんだから、本人から聞きたいじゃない? 名前ぐらい」
杏子「……」
チッ。
杏子「……佐倉杏子だ」
マミ「そう。佐倉さん、身体の具合はどう?
目に見える傷は一応全部ふさいだけど、どこかおかしかったら遠慮なく言って?」
杏子「……いや。どこも悪くねぇ」
マミ「そう、よかった。何か食べる?」
杏子「……とりあえず、水だけくれ。ノドが渇いた」
マミ「わかったわ。待ってて」
杏子「……」 ゴクゴクゴク
マミ「ねぇ、佐倉さん」
杏子「プハッ……なんだ」
マミ「あなた、隣町の魔法少女なのよね?」
杏子「隣? ……ってか、そういやここ、どこだ」
マミ「え? あ、ああ、そうね。ここは見滝原市よ」
杏子「見滝原……」
QB「君が倒れていた林のこっち側――君から見れば 『向こう側』 だね」
杏子「……」
くそ、やっぱりか。
巴マミ。
なんか聞いたことがある気がしたんだ。
魔法少女同士のネットワークなんてものはほとんどない。少なくともアタシは絡んでない。
それなのに噂が入ってくるという時点で、その異常のほどが知れる。
三年にも渡って、一つの街をたった一人で、使い魔まで全て狩って護ってるっていうバケモノ。
まともに遣り合っても勝てる相手じゃねぇな……
どうするか……
幸い、こいつの方には遣り合う気はないようだ。今はまだ。
と、なると。
速攻で行くしかねぇな。
杏子「……」
コップをベッドサイドに置いて、おもむろに指輪をジェムに戻す。
さて、上手く隙を……
杏子「――ん?」
待て。なんで輝きが戻ってるんだ。
杏子「おい」
マミ「なぁに?」
杏子「お前か、これ」
マミ「ジェムの浄化? ええ」
杏子「……どういうつもりだ。貴重なグリフシードを、他人なんかのために使うなんて」
マミ「困ったときはお互いさまよ。それに、使ったのはあなたのグリフシードだし」
杏子「あ? んなワケあるか。ストックは切れてた」
マミ「嘘なんかじゃ……」
QB「そのとおりさ、嘘じゃない。マミが使ったのは、倒れていた君のそばに落ちていたものだ。
状況から見て、君と相討ちになった魔女が落としたんだろうね」
杏子「チッ……そうかよ」
マミ「……」
QB「随分と不満そうだね、杏子」
杏子「テメェは――」
マミ「キュウべえ。やめなさい」
QB「……」
杏子「……」
マミ「ごめんなさい、佐倉さん。どうやら私は、あなたの誇りを傷つけてしまったようね」
杏子「……」
マミ「……どうすれば、償えるかしら」
杏子「……」
マミ「……」
チッ。
杏子「……後ろ、向け」
マミ「え?」
杏子「聞こえただろ。後ろ向いてろ」
繰り返すと、ヤツは訝しみながらも素直に背を向けた。
お人好しだ。
そして、バカだ。
やっぱ噂なんて当てにならない。こんなのが “見滝原の女王” だってのか。
握りしめたままだったソウルジェムから槍を伸ばす。
杏子(別に変身しなくたって魔法は使えるんだぜ?)
ま、殺すつもりはないけどな。
ただしばらく、この絶好の狩り場と、現役最強とやらの座を貸してもらうだけだ。
返すかどうかは、テメェ次第だけどな――!
杏子「……」
マミ「……」
杏子「……な、」
マミ「ふぅ……」
嘘だろ。
止められた。
私の槍は、音もなく一瞬で伸びてきた黄色いリボンみたいなのに絡め取られて、
完全に固定されてしまった。
マジかよ。
しかも、コイツ。
背を向けたまま、それをしやがった。
マミ「そんな顔しなくても、別に後ろに目がついてたりなんかしないわよ」
そして静かに言いながら。
マミ「それにしても……銃を出せるようになってて助かったわ」
これまたいつのまに出現させていたのか、銀色の長銃を掲げて見せた。
マスケット銃、というヤツか。
その、細かな装飾が施された銃身の中の、わずかな隙間のような平面の向こうに。
どこか憐れむような、ヤツの目が。
確かに映り込んでいた。
杏子(冗……談、きついぞ、バカヤロウ)
杏子(ペルセウスじゃねぇんだ。鏡越しの標的なんて、まともに捉えられるわけねぇだろうが。
どんだけ遠近感狂うと思ってんだ)
マミ「さて……理由を聞かせてもらえるかしら」
ヤツが半身になって、こちらを向く。
今さらになって冷や汗が流れる。
杏子「ハッ……わかりきったこと聞くんじゃねぇよ。グリフシードの数は限られてんだ」
マミ「……」
杏子「ライバルを助けようとするテメェの方がどうかしてるのさ」
マミ「……」
なんか言えよ、ちくしょう。
質問したのはそっちだろうが。
杏子「……あんたのことは聞いてるよ、巴マミ。使い魔まで残らず狩ってんだってな」
マミ「……それが、何か悪いのかしら」
杏子「悪いさ。テメーみたいなヤツを見てるとイライラするんだよ」
杏子「街のみんなを守るだぁ? 思いあがるんじゃねぇ!
人が何を考えて、何を本当に欲しがってるかなんて、誰にもわかりゃしねぇんだ!」
マミ「……」
杏子「他人なんかのために命張って、それで何の得があるってんだ……!」
マミ「……」
マミ「あるわよ。得をすることなら」
杏子「へぇ? なんだよ。言ってみろ」
マミ「魔女から人を助けたあとはね、紅茶とお菓子が美味しいの」
杏子「……は?」
マミ「逆に助けられなかったときは、紅茶もご飯も美味しくないし、夜もぐっすり眠れないの」
杏子「……」
なに、言ってんだ。こいつ。
マミ「理解できないかしら? でも、食事と睡眠――人が生きる上で大事なことよ?」
杏子「知るか! 好きに食って好きに寝りゃいいじゃねぇか!」
マミ「それができたら苦労はしないわ」
マミ「助けた結果、逆に恨まれることになったとしても、見殺しにするよりはずっと気が楽。
そういう性分なのよ」
マミ「逆に言えば、助けたあと、その人がどうなるかまでは責任は負えないわ。
あくまで私は、私自身の気の済むようにやっているだけよ」
杏子「……」 ギリッ
ふざけやがって……
マミ「……あなたのことも、聞いているわ。佐倉さん」
杏子「……あ?」
マミ「隣町では乱暴な手口の空き巣や、ATM荒らしなんかが頻発しているんですってね。
さらに、使い魔に襲われる人が他の地域よりも明らかに多いとか」
杏子「……だったらどうだってんだ」
マミ「……」
マミ「……改めてくれないかしら」
杏子「嫌だね」
マミ「……」
杏子「テメェと同じさ。アタシの魔法はアタシのモンだ。アタシのためだけにしか使わない」
杏子「もう二度と、他人なんかのために使うもんか……!」
マミ「そう……」
シュル…
杏子「!」
リボンが、ほどけた。
槍が自由になる。
一瞬迷ったが、ひとまず今は収納する。
ヤツもリボンと銃を消した。
杏子「……なんのつもりだ」
マミ「力づくをするつもりはない……それだけよ」
杏子「チッ……」
マミ「私だって偉そうなことは言えないわ。この見滝原の外のことは、どうしようもないと
切り捨てているんだもの」
マミ「それに何より、キュウべえがあなたを咎めようとはしていない」
杏子「……」
マミ「だけどせめて、使い魔に人を襲わせることだけはやめてもらえないかしら?」
杏子「……」
マミ「だってそんなやり方――魔女と何も変わらないじゃない」
杏子「っ……!?」
杏子「アタシが……魔女だと……!!」
シュイン――ジャキン!!
マミ「!?」
杏子「取り消せぇ!!」
――ガキィィン!!
気が付いたら、変身して、飛び出していた。
槍を突きだし、マスケットの銃身で受け止められていた。ヤツも変身を終えている。
リボンが伸びてくる。
杏子「甘めぇ!」
逆に切り裂く。
マミ「っ!」
杏子「ハッ! 薄っぺらなんだよ! テメェの言葉と同じでなぁ!」
勢いに乗せて袈裟斬りに振り下ろす。
止められる。
ならばと連続で突きを繰り出す。
防がれ、弾かれ、受け流される。
マミ「待って佐倉さん! 何を急に――」
杏子「うるせぇ!」
当たらない。
だがヤツも防戦一方だ。
狭い――いや、そこそこ広いが、所詮は屋内。あっという間に壁際まで追い詰める。
マミ「くっ!」
そこまで来て、ようやくの反撃。腰だめに構えての発砲。
が、避けるまでもなかった。
弾丸は大きく逸れて、背後の壁に着弾。穴を穿つ。
杏子「どこ狙ってやがる!」
それとも、この期に及んで威嚇のつもりなのか。どこまでも舐めた野郎だ。
何がみんなを守るだ。
何が自分はそれで満足だ、だ。
挙句の果てに、アタシを魔女だと?
ふざけるなよ……親父と同じことばっかり言いやがって……!!
杏子「――うらァ!!」
その手から銃を弾き飛ばす。
こいつは潰す。
アタシの全てを賭けて否定してやる。
マミ「くぅ……!」
杏子「――!」
が、流石は現役最強といったところか。
ほぼノータイムで新たな銃を召喚。今度は両手に一丁ずつ。
さらにリボンが、左右と上から迫ってくる。
五点同時攻撃。
対するこちらの武器は槍。防ぎきれない。
――そう思ったか?
杏子「甘めぇんだよ!」
瞬時に魔力を注ぎ込み、槍を――『ほどく』。
一本の長い棒だった柄が、鎖で繋がれたいくつもの短い棒へと別れる。
多節槍。
正式な名前は知らないが、三節棍をさらにバラしたような形なのでそう呼んでいる。
これがアタシの武器の、真の姿だ。
杏子「――ハァッ!!」
全方位に向けて振り回し、五方向からの攻撃を全て同時に叩き落した。
リボンは千々に引き裂かれ、銃弾は弾き返され壁と床の穴になった。
マミ「……!」
驚きに目を見開いたヤツの間抜けヅラに満足感を覚えつつ、
再び、すばやく長槍の形に戻すと、穂先を喉元へと突き付けた。
杏子「……舐めんな。ただの槍じゃねぇんだよ」
マミ「そうみたいね……でも、」
……ん?
どうしてコイツ、笑ってやが――る!?
マミ「私もなの」
腕が。
足が。
槍が。
視界の外から伸びてきたリボンに、絡め取られた。
動けない。
杏子「なっ――後ろ!?」
どうにか首だけで振り返る。
そして見た。
アタシを縛るリボンが、壁と床に穿たれた弾痕から生えているのを。
マミ「私のこの銃も、弾も、全てリボンでできているのよ」
言いながら、ヤツもマスケットを 『ほどいた』。
言葉通りそれはリボンへと変化し――いや、戻り――アタシへと伸ばされる。
杏子「テメェ……」
マミ「ごめんなさいね」
首に、巻きつけられた。締まる。
杏子「ッ――」
マミ「本当はこんなことしたくないんだけど……意識を落とさせてもらうわね」
なんでだよ。
マミ「できるなら、貴方とは仲良くしたい。少なくとも敵対はしたくない」
ふざけんなよ。
マミ「目が覚めたら……そしてその気になれたら、もう一度会いに来て」
お前みたいなやつが、なんてそんなに強いんだ。
マミ「――おやすみなさい」
なんで――
『……』
ん……?
なんだよ、親父。また新聞見て泣いてんのか?
『……交通事故だそうだ……何人もの人が亡くなっているよ……』
そっか。
『私の教えが受け入れられても、それでも救われない人はいる……』
……事故じゃぁ、どうしようもないよ。
『だけど……たった一人だけ、生き残った子がいるみたいなんだ』
ん?
『ほら、見てごらん、杏子。お前と同い年の女の子だよ』
へぇ、そりゃよかっ…………え? こいつは……
『しかもほとんど無傷だそうだ。まさに奇跡だよ。神さまは見てくださってるんだね……』
待って。違うよ、親父。こいつは違う。そんなんじゃない。
こいつも私と同じなんだ。神さまなんかじゃない。アタシと同じで、アイツと契約しただけなんだ。
『神よ……どうかこの子に、祝福を……』
なんでだよ。
やめろよ。
同じなのに、なんでそいつにだけ祈るんだよ。アタシのことはあんな風に言ったのに。
なんでだよ。
なんで、なんだよぉ……!
杏子「――っ」
そうしてまた、目が覚めた。
杏子「……ここは……」
QB「君の父親の教会――かつてそうだった場所さ」
杏子「っ!?」
声に振り向くと、白い獣がいた。
QB「おはよう、杏子」
杏子「……どういうことだ」
QB「何がかな?」
杏子「なんでアタシはここにいる。あれからどうなった」
QB「マミが君を気絶させて、ここまで運んだ。それだけさ」
杏子「……」
QB「この場所のことは、聞かれたから僕が教えた。秘密だとは言ってなかったよね?」
杏子「……」
チッ。
QB「それと、君を締め落とす直前にマミが言っていたことは、ちゃんと聞こえていたかい?」
杏子「……うるせぇ」
QB「聞こえていなかったのなら改めて伝えるように言われているんだけど――」
杏子「うるせぇ! 消えろ!」
掛けられていた毛布を投げつける。
QB「おっと」
キュウべえはひらりと身をかわす。
QB「やれやれ……わかった、退散するよ。でも一つだけ」
QB「マミの方から会いに来るつもりはないそうだ。再会はあくまで君次第だ、とね」
QB「それじゃあ、さようなら。用があったらいつでも呼んでくれ」
杏子「……」
杏子「……待て」
QB「なんだい?」
杏子「……」
杏子「……アタシは、魔女か?」
QB「……」
QB「いいや、君は魔法少女さ。今も昔もね」
杏子「……」
QB「……。じゃあね」
杏子「……」
杏子「……」
杏子「……」
杏子「……くそったれが……」
◆
マミ「はぁ……お部屋がボロボロ……」
マミ「……下の階の人に、変に思われてたらどうしよう……?」
QB「ただいま、マミ」
マミ「あ……おかえりなさい、キュウべえ。佐倉さんの様子は、どうだった?」
QB「問題なく目を覚ましたよ。ただ、君の希望は叶えられそうもないね」
マミ「そう……」
QB「残念だったね」
マミ「仕方ないわ……」
QB「……」
マミ「……ねぇ、キュウべえ」
QB「なんだい?」
マミ「買っておいたケーキなんだけど……あなた、二人分、食べる?」
QB「遠慮しておくよ」
マミ「……」
マミ「……そこは任せてって言ってよぉ、ばかぁ」 グスン
276 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/16 20:19:16.28 wtNOGC0To 193/571
以上
杏子が弱すぎると思われるかも知れませんが、
マミさんの手の内を知らないならこんなもんだと思います
予備のGSもないしね
287 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/22 00:42:13.93 rclvwvqko 194/571
投下
オリキャラあり、地の文・独自設定多め
QB「やあ。こんばんは、巴マミ」
QB「おっと、声を出す必要はないよ。頭で考えてくれれば僕にはちゃんと通じるから」
QB「夜の病院でお喋りするのはマナー違反だろう?」
QB「僕の方は普通の人間には見えないし聞こえないから問題ないんだけどね」
QB「それじゃあ、改めて――僕の名前はキュゥべえ。はじめまして、と言っておくべきかな?」
QB「……覚えていてくれたのかい? うん。確かに君は、既に『僕』と一度会っているよ」
QB「お礼を言う必要はないさ。
君が今そうして生きているのは、あくまで君の中に眠っていた素質のたまものなんだから」
QB「それに、君にはこれから働いてもらうことになるしね」
QB「そうさ。つまり君は――」
QB「――僕と契約して、魔法少女になったんだ」
第十二話 最初の一週間
Lesson 1. とりあえず変身してみよう
◆
一日目は、そうして終わった。
二日目も、午前中は検査に費やされた。
結果はもちろん、何の問題もなし。なさすぎて逆に不安がられたほどだった。
だけどやっぱり異常はないので、そのまま退院。
親戚夫婦――おじさまとおばさまに連れられて病院を後にする。
駐車場を抜けて、おじさま所有の白いセダンの脇に立つ。
何もなかった。そこまでは。
気分は重かったけど、異変と呼べるようなものは本当に何もなかった。
だけど。
車の後部座席に乗り込んで、シートに身を沈めたところで、言い知れぬ不安に襲われた。
続けて、おじさまの手でドアが閉ざされた瞬間、猛烈な吐き気が込み上げた。
こらえきれずに、ぶちまけた。
そのあとのことはよく覚えていない。
おばさまたちの話によると、私は、
『いやだ』
『出して』
『助けて』
その三つの言葉を叫びながら、めちゃくちゃに暴れ始めたらしい。
完全な錯乱状態で、車から引きずり出されると同時に気を失った、と。
心的外傷ストレス障害。
ものの十分ほどで病院に逆戻りした私に下された診断だ。
そのまま再入院とあいなった。
今にして思えば、ちょっとしたスピード記録だったんじゃないだろうか。
ともかく、そうして私は、車に乗ることができなくなった。
走っているところを外から眺めたり、映像を見せられたりするだけならなんともない。
狭さでいえば同じぐらいのトイレの個室も平気。バスや電車にも耐えられた。
要するに、普通の生活は問題なく送れる。
ただ、車にだけ乗れない。
だけどそのために、両親の葬儀に参列することができなかった。
さらに、おばさまたちの家へ居候する予定も白紙になってしまった。
車がないと何もできないような立地らしいのだ。
行ったことがないので具体的にはわからないけど、とにかくそうらしい。
かくして私は、元に家に。
もはや父も母もいない、見滝原のマンションに戻る以外になくなったのである。
もっとも、それはまだもう少し先の話。
今はまだ、病院での日々が続く。
三日目と四日目の半分はまた検査に費やされて――四日目の夜。
病室の、窓の外に、白いあの子が現れた。
◆
QB「やぁ。こんばんは、マミ」
マミ「あなたは……」
QB「大変だったみたいだね。車に対するトラウマか……正直、想定外だったよ」
マミ「……」
QB「ところで……それは、何を見ているんだい?」
マミ《……「マジカル・アルティ」 っていうアニメのDVDよ。おばさまが借りてきてくれたの》
QB「ふぅん」
『――私のお友だちは返してもらうわ!』
『――あなたたちみたいなのに、負けるもんですか!』
マミ《……ねぇ、キュウべえ。私もこういうことを、すればいいの?》
QB「なるほど。さっそく魔法少女の勉強というわけか。熱心だね」
QB「そうだなぁ……これと全く同じというわけではないけど、共通点は多いね」
『――アルティマ・シュ――――トッ!!』 ドカァァァン
マミ「……」
マミ《私にも、本当にあんな魔法が使えるの? 車にも乗れないような弱い子なのに?》
QB「弱くなんてないさ。君からは充分に強い魔力を感じるよ。天才的と言っていい素質だ」
マミ「て、天才? 私が? 本当に?」
QB「声が出ているよ」
マミ「ぁ……」
QB「もちろん、本当さ。なんだったら試してみるかい?」
マミ《試す?》
QB「病室だと流石にまずいね。屋上に行こうか」
マミ《う、うん》
QB「それじゃあ、ソウルジェムを出して?」
マミ「うん」 ゴソゴソ…
マミ「はい」
QB「指輪から、元の宝石の形に戻してごらん? 念じればできるはずだよ」
マミ「わかったわ」
マミ「……」
シューン…
QB「よし。それじゃあ次は――」
マミ「ね、ねぇ、キュウべえ」
QB「うん? なんだい、マミ?」
マミ「この……ソウルジェム? って、ずっと持ってなきゃいけないんだよね?」
QB「そうだよ。肌身離さず持ち歩いてほしい。無くしたりしたら大変なことだ。
それは君の、魔法少女としての魂そのものだからね」
マミ「で、でも、私まだ小学生だし、こんなの持ってたら怒られないかしら?」
QB「……。なるほど、それでポケットに入れていたのか。マミは用心深いんだね」
QB「でも大丈夫だよ。大人がソウルジェムに関心を持つことはないんだ。
そういう魔法が掛けられているからね」
マミ「そうなの?」
QB「ああ。正確には大人だけじゃなく、子どもでも素質がないと認識することはできない」
QB「君の言うとおり、昔は大人に取り上げられるケースも多くてね。安全ためのプロテクトさ。
ただし君の方から『ここにある』と教えてしまうと普通に見えてしまうから、気をつけてね」
マミ「う、うん。わかったわ」
QB「よし。さぁ、それじゃあ変身してごらん?」
マミ「どうやるの? 掛け声とか、呪文とか、あるの?」
QB「いいや、念じるだけでいいよ。でもその方がやりやすいのなら、何か唱えてみてもいい。
そういうスタイルをとっている子も大勢いる」
マミ「大勢? 魔法少女って、たくさんいるの?」
QB「ああ。世界中にね」
マミ「ふぅん……」
マミ「そっか……仲間が、いるのね……」
QB「この街にもいるよ。さっそく明日にでも紹介しよう。
魔法少女という存在について、彼女たちからもいろいろと話を聞くといい」
マミ「ええ。ありがとう」
QB「それじゃあ改めて――変身してみようか」
QB「悪い魔女と戦う、戦士としての自分の姿を思い浮かべて、そう在るようにと念じるんだ」
マミ「う、うん……」
ポゥ…
マミ「……」
シュィーン――――キラッ!!
パァァァ…
マミ「……ん……」
マミ「……! これが……」
QB「うん、上手くいったね。おめでとう――魔法少女、巴マミの誕生だ」
マミ「……」 キョロキョロ、チラチラ
マミ「これが、そうなの? 恰好は確かにそれっぽくなってるけど……」
QB「うん、素晴らしい魔力を感じるよ。間違いなく君は、百人に一人の逸材だ」
マミ「そ、そんな……」 テレテレ
マミ「……でも、どうして私なんかが?」
QB「魔法少女としての潜在力は、背負い込んだ因果の量で決まるんだ。
きっと、君があの事故の唯一の生存者であることが関係しているんだろうね」
マミ「え……」
QB「普通ならとても助からないはずの状況の中で、必然として生き延びた。
今の君は、あの場で死んだ他の人たちの因果をも受け継いでしまっているんだろう。
例えば、事故がなければ、君はあの親戚の夫婦と出会うこともなかったかも知れない。
それは本来、君の両親のどちらかに絡んでいた因果のはずだからね」
マミ「それって……だったら、あの事故は私のせいで……?」
QB「いいや、逆だよ。
君のせいで事故が起きたんじゃない。事故があったから今の君になったんだ」
マミ「……」
QB「受け取り方は君次第だけど、それだけの才能を腐らせるのは勿体ないと僕は思うな」
マミ「……」
マミ「私は……」
――ポゥ…
QB「――!」
マミ「え……? なに、この感覚……?」
QB「……。それは、魔女の気配だ」
マミ「魔女って……え?」
QB「君のソウルジェム――今は髪飾りの一部に変化しているけど、それが反応している。
魔女の気配を捉えると、そうなるんだ」
マミ「そ、それってつまり……」
QB「ああ、近くにいる。――敵が」
マミ「……!」
QB「どうする?」
マミ「ど、どうするって……どうすればいいの?」
QB「行って、倒す。それが魔法少女の使命だ。だけどいきなりの実戦は危険も大きい」
QB「どちらにしても、決めるのは君だよ。君が決めなくちゃいけない」
マミ「……」
マミ「もし……私が行かなかったら?」
QB「恐らく、誰かが襲われて、犠牲になる」
マミ「そう……」
ギュッ…
マミ「――行くわ」
302 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/22 00:56:24.68 rclvwvqko 208/571
以上
というわけで、今回から「マミさんレベル1編」に入ります
全部でたぶん四回か五回になる予定
マミさんスタターパックとでも呼んでくれ
Lesson 2. 実際に魔女を倒してみよう
◆
キュウべえの先導に従って走る。
辿り着いた先は、古い集合住宅だった。
その敷地内の小さな公園の、砂場の上に、それは浮かび上がっていた。
不可思議な形の紋様。結界の入り口だと彼は言った。
ここから先は別世界だと。
意を決するまでには十数秒を要した。
息を整え、紋様をくぐる。
とたんに、ソウルジェムを通して感じていた魔女の気配が、一気に濃くなった。
軽いめまいを覚える。
しかしそれ以上に、周りの景色に圧倒された。
狂ったおもちゃ箱。
一言で表すならそんな感じだ。
着せ替え人形、クマのぬいぐるみ、プラスチックのシャベル、積み木、ミニカー……
でたらめな大きさにリサイズされたさまざまなおもちゃがそこら中に散らばっていて、
そしてそのどれもが欠損させられていた。
ミルク飲み人形は顔がつぶされ、おままごと用のフライパンには大穴が開けられて、
ゼンマイ仕掛けのワンちゃんは四肢をもぎ取られていた。
だけど生理的な嫌悪感を抱いている暇はなかった。
なぜなら――それらが一斉に襲いかかってきたからだ。
一も二もなく逃げ出した。
落ち着いて、とキュウべえは言ってくれたけど、とても無理だった。
とっさに彼を抱えていたことは幸運だったと言える。
ぬいぐるみの爪をどうにか避けて、おはじきの雨をかいくぐる。
ドミノの駒を飛び越えて、指人形を突き飛ばす。
逃げて、逃げて、逃げて、逃げた。
今にして思えば、無意識のうちに身体強化の魔法を使っていたのだろう。
必死に走っておもちゃの群れを振り切って、途中に見つけた狭い通路に飛び込んだ。
ここなら大型のおもちゃは入ってこれまい。その事実に、ようやく少しだけ安心する。
だけど一つだけ大きな問題があった。
一本道だ。引き返せない。
魔女を倒せば結界は消えて元の世界に帰れる。きっとこの先にいるはず――
キュウべえはそう言った。
それはつまり、後ろのバケモノたちの親玉と戦わなければならないという意味でしかない。
二度目の覚悟には数分を費やした。
通路の先には扉があった。
色は真っ黒……いや、焼け焦げていた。目の高さには何かの文字。
それは見たこともない文字で、あるいは文字ではなく、ただの模様だったのかも知れない。
いずれにせよ、読めなかったし、読みたくもなかった。
もはやキュウべえに言われるまでもなく理解できた。
この向こうに “魔女” がいる。
さらに数分をかけて息と気持ちを落ち着かせると、私は扉を押し開けた。
一歩中に踏み入って、まず最初に、耳がその存在を捉えた。
『オオオオォォォォォォォォ――――……』
泣き声。
重いのか低いのかよくわからない、とにかく耳障りな声。
腕の中でキュウべえが小さく呻いた。苦しげな顔だ。
耳の大きな彼には余計にこたえるのだろう。
部屋の中央に目を向ける。
声の主はそこにいた。
あれは、なんと形容すればいいのだろう。
マリア像、に似ていなくもない。
だけどそう呼ぶには醜悪に過ぎた。
目算で三メートルあまり。節くれだった腕の中に、生々しい屍肉のような赤子を抱いている。
そして血の涙を流しながら、耳障りな声で哭いている。
聖母を冒涜するかのようなその姿は、なるほど、魔女と呼ぶにふさわしい。
怖かった。
逃げ出したかった。
他のおもちゃたちみたいにすぐに襲ってくることこそなかったけれど、おぞましいその姿と
泣き声は、私の意志を萎えさせるのに十分だった。
それでも踏み止まれたのは、あの子がいたから。
腕の中の小さな温もりが、私に勇気と闘志を与えてくれた。
マミ「……キュウべえ。離れていて」
彼を、そっと足元に降ろし、促す。
目の前の異形を見据える。
とても醜い。この世に在ってはならない存在だと、心の深い部分で思う。
魔女とは、呪いから生まれる存在。
あの子の教え。
漠然とした表現だったけど、こうして目にしてみると、よくわかる。
子を亡くした母の嘆き。
恐らくはそれだろう。それが、たぶん何人分か寄り集まって、形を為した。
集合住宅という立地からして、何らかの悲劇の連鎖が起きたとも考えられる。
ならば、ここで断ち切らなければ。私が終わらせてあげなければ。
気付けば震えは止まっていた。
深呼吸を一つ。
さて、何はともあれまずは武器だ。
戦うための武器。身を守るための武器。それがなくては始まらない。
魔力を練る。
変身の時と同じ要領で、イメージして、念じる。
マミ「――はぁっ!!」
両手を前に突き出して、気合い一閃。
瞬間、左右の掌から黄金の光がほとばしる。
光は帯となり、魔女へと向かってまたたく間に伸びて、その胴体に巻きついた。
それは強くしなやかな、リボンの形をとっていた。
マミ「これが、私の魔法……」
しかし感動している暇は、やはりなかった。
既に戦いは始まっていたのだ。
こちらに無関心に泣き続けるだけだった魔女も、流石に攻撃を受けてまで黙ってはいない。
『オオオオオオォォォォォォォォ――!!』
激しく身をよじって暴れ出す。
たまらず引っぱられて、体勢を崩す。
そこへ、これまでに倍する “声” が来た
『ォ――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!』
マミ「うぁ――きゃあ!?」
耳を押さえる間もなく――弾き飛ばされた。
衝撃波。
一定以上の力を備えた “音” は、もはや暴力と化す。
両手のリボンは引きちぎられて、私自身は背後の壁に叩きつけられた。
マミ「う、うぅ……」
QB「――ゔあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙――!!」
マミ「……! キュウべえ!?」
まずい。
これは、私に対しても危険な攻撃だけど、彼にとってはさらに致命的だ。
少なくともその可能性がある。
マミ「キュウべえ! あなたは逃げて!」
QB「……ぐうぅ……うぁぁぁぁ……マミぃ……!」
マミ「っ……!」
駄目だ。聞こえていない。
前足で両耳を押さえたまま、うずくまって動かない。
リボンで防壁を張ることも考えたけど、そんなもので “音” を防げるわけがない。
ならば。
マミ「――やあぁ!!」
再び、手からリボンを放つ。
今度は魔女の、顔に向かって。
『――――――――――――――――…………ッッッッ!!?』
巻きつける。
途中で防げないなら、出どころを――口を、塞いでやればいい。
『……ッ!! ……――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!』
マミ「っ……!」
QB「う、ぁ……? マミ……?」
キュウべえの悲鳴が止まった。
よかった。上手くいったらしい。
ただ……そうして安堵した瞬間、二の腕の皮膚が音を立て弾けた。
マミ「い゙ぁっ……!!」
音の、破壊的な振動が、リボンを通してダイレクトに伝わってくる。
腕のあちこちで皮が裂け、血がにじむ。
血液全体が沸騰しているかのような感覚。
QB「マミ……マミ! 何をやっているんだ! 早く手を――」
マミ「だめ、よ……そんなの……っ!」
QB「マミ……」
大丈夫。
たぶん見た目ほどに痛くはない。変身しているせいか、不思議なほどに痛みは小さい。
だから耐えられる。
少なくともキュウべえが苦しんでいる姿を見せられるよりはずっとマシ。
それに――それに。
私はもう、魔法少女だから。
そう。
アルティのように、みんなを守る戦士になったんだ。
お父さんやお母さんの命を受け継いだんだ。
だから。
(―― 私のお友だちは ――)
「キュウべえのことを、傷つけさせはしないわ!」
(―― 返してもらうわ!――)
(―― あなたたちみたいなのに――)
「魔女なんかに、私は負けない!」
(―― 負けるもんですか!――)
その思いを胸に、叫ぶ。
「アルティマ……シュートおおおおおおおおおおおおおおおお――っ!!!!!」
バアァァァンッ!!
「――え?」
……結論から言うと、この渾身の魔法によって、私は魔女を倒すことができた。
ただ、誤算が二つほど。
一つは、リボンが爆発したこと。
私としては、あのアニメの主人公がやっていたように、光線というかエネルギー波というか、
そういった感じのものをイメージしたのだけれど、実際はそうはならなかった。
解き放った魔力は空中ではなくリボンを直接つたって走り、先端で破裂したのだ。
これによって頭部を破壊された魔女は、溶け崩れるようにして消滅した。
そこまでは、まだよかった。
そこからが、もう一つの誤算だ。
リボンの爆発は先端だけにとどまらなかった。
根元まで――つまり私の手元まで、爆竹のように連鎖爆発を起こしたのである。
手を離すのはぎりぎりで間に合ったけど、衝撃で吹き飛ばされてしまい、
またしても背後の壁に叩きつけられた私は、そのまま気を失った。
目が覚めたときには結界は消えていて、私は元通りの砂場の上に横たわっていた。
上から顔を覗き込んでいたキュウべえが、大丈夫かい、と聞いた。
うん、と答えたけど、実際は全く大丈夫ではなかった。
頭のてっぺんから足の先まで、全身のそこここがズキズキと痛い。
その一方で、爆発に一番近かったはずの両腕の感覚が、ない。
自分はいったいどうなってしまっているのか。
もしかしたらこのまま死んでしまうんじゃないのか。
そんなことをぼんやりと考えていた。不思議と怖いとは思わなかった。
「――うわぁ、ズタボロじゃん。グロっ」
そんな私に投げかけられた、突然の声。
続いてキュウべえの顔が目の前から消えて、その姿が視界に入る。
黒。
闇に溶け込むような、真っ黒なセーラー服。風に揺れる赤いリボンタイ。
それが、二つ。
QB「……君たちか。来るとは思ってなかったよ」
思い出した。
彼は確かに言っていた。この街にいる魔法少女のことを――『彼女たち』 と。
日付は変わり、五日目になっていた。
325 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/23 19:55:47.03 P358bNAyo 222/571
以上
俺が書く「戦闘後のマミさん」が必ず怪我をしてるのはなんでだろうね
しかもどんどん酷くなる
Lesson 3. 先輩の話を聞いてみよう
◆
五日目。
お見舞いのおばさまたちもホテルに帰ったあとの夕刻。
病院の屋上から、私は、オレンジ色に染まる街の景色をぼんやりと眺めていた。
この景色も今日で見納めだ。
マミ「ねぇ、キュウべえ」
QB「なんだい、マミ?」
マミ「……あの人たちの言うこと、聞かなきゃだめなの?」
あの人たち。
夕べ、魔女を倒した後の公園に現れた、二人の魔法少女。
佐木ハルカさんと、三園カナエさん。
市内の同じ高校に通う一年生だと、そう名乗った。
悪い人たちではなかった。
戦いで傷ついた私の体を治してくれたのもあの人たちだ。
だけど、あれは……
◆
マミ「あの……ありがとうございました」 ペコリ
ハルカ「別にいいわ。代わりにこれ、もらうから」
マミ「え?」
ハルカ「なに? 文句あるの? ここは私たちの縄張りで、おまけに怪我まで治してあげたのに」
マミ「い、いえ。そうじゃなくて……なんなんですか、その黒いの?」
ハルカ「え?」
ハルカ「……って、はあっ!?」
QB「……」
ハルカ「ちょっとキュゥべえ、あんたどういうことよ。グリフシードのこと教えてないの?」
QB「教えたよ。ただ彼女は今回が初めてだから、実物を見たことがないだけさ」
ハルカ「……あっそ」
マミ「……?」
QB「マミ、あれはグリフシード。
前にも説明したとおり、ソウルジェムの輝きを維持するために必要となるものだよ」
マミ「あれが……」
ハルカ「返さないわよ」
マミ「え? あ、はい……」
QB「……」
ハルカ「……なによ、キュゥべえ。何か文句あるの?」
QB「いいや。魔法少女同士の問題に僕が口を出すことはないよ。
お互いに納得しているならなおさらさ」
ハルカ「……フン」
QB「ただ、それとは別に一つお願いしたいことがあるんだ?」
ハルカ「……お願い? あんたが?」
QB「ああ。マミにアドバイスをしてあげてほしい。魔法少女の先輩としてね」
ハルカ「アドバイスぅ……?」
ハルカ「……」 チラ
カナエ「……」
ハルカ「……ずいぶんと優しいこと言うじゃない。そんなにその子が特別ってわけ?」
マミ「え……?」
ハルカ「最初はこんな小さな子を引っ張り込むなんて、って思ったけど、納得だわ。
よく見りゃ大した魔力じゃない。私たちみたいな雑魚とは違うってわけね」
QB「それは違うよ。むしろこうするのが通例なんだ。頼める相手がいるときは頼むのが、ね」
ハルカ「よく言うわ……香奈枝のことは放ったらかしにしたくせに!」
QB「……」
QB「頼める相手が誰もいないときは、そうなるよ。巡りあわせが悪かったんだ」
ハルカ「あんたのそういうとこ、ほんとムカつく……!」
吐き捨てるように言って、佐木さんはキュウべえから目をそらす。
どうやら彼女は彼のことを嫌っているらしい。
三園さんの方も……こちらはむしろ、怯えているようにも見えた。
どうしてだろう。
こんなにも可愛くて、優しいのに。
おかげで、逆に私の方が彼女たちを嫌いになりそうだった。
ハルカ「……まぁいいけど、見返りはあるんでしょうね?」
QB「ないよ」
ハルカ「…………ふざけてんの?」
QB「ふざけてなんかいないよ。見返りを用意できないからこそ 『お願い』 なのさ」
ハルカ「話にならない……」
カナエ「……」
カナエ「……」 クイッ
ハルカ「ん? なに、香奈枝?」
カナエ「……」 ボソボソ
ハルカ「うん。……え?」
カナエ「……」 ボソボソ
ハルカ「……わかってるわよ。でもさ、」
カナエ「……」 ボソボソボソ
ハルカ「それはそうだけど、だからって、」
カナエ「……」 ボソボソ
ハルカ「……………………ああ、もう。わかったわよ……ったく、あんたって子は……」
カナエ「……」 ニコ…
マミ「……」
なんだろう、この会話。
キュウべえに対するのとは正反対に甘ったるい声でささやく佐木さんと、
彼女にぴったりとくっついて耳打ちする三園さん。
仲睦ましいとも言えるはずの光景が、なんだかとても――気味が悪かった。
ハルカ「ハァ……いいわ。やってやるわよ。アドバイスだけでいいのよね?」
QB「待ってくれ。できれば君だけではなく、カナエの方からも教えてあげてほしい」
ハルカ「は? なに言ってんの? 香奈枝は――」
QB「わかっているよ。彼女が君としか会話ができないことは。
ただ、君も見ていて知っているかもしれないけど、マミの武器はリボンなんだ」
ハルカ「……だから?」
QB「カナエの武器によく似ているだろう? だから実演して見せてあげられないかと思って」
ハルカ「お断りよ」
QB「……。しかし、」
ハルカ「しつこい! この子にそんな、無駄な魔力なんか一切使わせない。これだけは譲れないわ。
見本が欲しけりゃクモ男の映画でも見せとけばいいのよ」
QB「……」
カナエ「……」 ボソ…
ハルカ「ダメよ。こればっかりは、あんたが何と言おうとダメ」
カナエ「……」
QB「……。わかったよ。僕も無理強いはできないしね。アドバイスだけお願いするよ」
QB「マミも、それでいいかい?」
マミ「え、あ……うん」
正直、どっちでもよかった。
というより、はっきりと気乗りがしなかった。
“魔法少女” のイメージからほど遠く、病んだような雰囲気をまとう彼女たちから
何かを学びたくなんてなかった。
実際、その教えの内容は酷いものだった。
ハルカ「使い魔は無視しなさい。
向かってくる奴や邪魔してくる奴以外は放っておくの。魔力の無駄だから」
ハルカ「大事なのはグリーフシードよ。できることなら常に最低一つはキープしてなさい」
ハルカ「人助けなんて十年早いわ。まず自分。何より自分が生き延びること。全てはそれからよ」
ハルカ「いざ戦いとなれば無傷とはいかない。だけどジェムさえ無事ならどうとでもなる」
ハルカ「ところで、ソウルジェムの特性については……聞いてないよねぇ?」
ハルカ「……え?」
ハルカ「……ふーん。へーえ。聞いてるんだ。……それでよく平気な顔してられるよね」
ハルカ「……ハッ。安全、安全ね。そりゃ確かに安全だわ」
ハルカ「まぁいいわ。わかってるなら――ソレだけはなんとしても守り抜きなさい」
ハルカ「いざとなれば手足の一本ぐらいくれてやればいい。どうせまた生えてくるんだから」
ハルカ「その気になれば、首を落とされたって生きてられるかもよ? アハハ」
独善的で排他的。
とてもじゃないけど聞くに堪えなかった。
特に最後のは、冗談にしても趣味が悪すぎる。
だけど我慢して、終わりまで聞いた。
お礼を言って、平和的に別れた。
せっかくキュウべえが頼んでくれたのを台無しにしたくはなかったから。
だけどそれでも、抵抗感が消えたわけじゃない。
私だって、当時でもうすでに高学年。創作と現実の区別ぐらいはついていた。
だけどあんなのが “魔法少女” の現実だなんて。
そんなの、私は、
私は……
Lesson 4. 目標を設定してみよう
◆
QB「そうだね。ハルカの言ったことの、その全てを守る必要はないよ」
マミ「え?」
QB「マミ。君は、魔法少女とはどういうものだと思う?」
マミ「えっと……『アルティ』 みたいなのだと思ってたけど……あれはお話だし……
でも、佐木さんたちみたいなのは、何か違うと思う。だから――」
QB「……」
マミ「……よく、わからないわ」
QB「そうだね」
QB「実は、僕も明確な答えというものは持っていないんだよ」
マミ「えっ?」
QB「前にも言ったけど、魔法少女は世界中に大勢いる。そして、その中の誰ひとりとして、
他の誰かと同じだっていう子はいないんだ。
もちろんある程度の共通点はあるし、分類することもできる。
でもそれも、どこで線を引くかによって結果は大きく変わってしまう」
QB「そんな中から、これが正解だと一つを選ぶなんて、不可能なのさ」
マミ「で、でも、そんなのおかしいわ。魔法少女はあなたが生み出しているんでしょう?
それなのに、理想もなく、勝手にやってればいいなんて、変よ」
QB「いや。理想なら、あるよ」
マミ「だったら、それを教えてよ」
QB「生きていてほしい」
マミ「……!?」
QB「魔女に殺されて終わるなんてことなく、望むままに魔法を使って、生きていてほしい」
QB「僕が魔法少女に何かを望むとすれば、それだけだよ」
マミ「……」
QB「極端なことを言えばね、そのためになら魔女との戦いさえ放棄してもらって構わないんだ」
マミ「え……?」
QB「マミ。君も、敵わない相手だと思ったら逃げてもいいんだよ」
マミ「どうして……そんな……キュウべえ……」
QB「もちろん、普通はここまで言わないさ。でも君の場合は少し例外……」
QB「いや、特別と言うべきかな?」
マミ「特別……?」
QB「そもそもの契約がほとんど事後承諾に近く、合意を得たとは言い切れないというのが一つ」
QB「加えて、あの自爆まがいの攻撃方法だ」
QB「昨日はどうにか生き延びられたけど、次はどうなるかわからない。
それなのに無理に戦わせたりなんかしたら、お互いに奇跡と命の無駄撃ちで終わる恐れが
大きい。そんなことになるぐらいなら、とね」
マミ「でも、でも……だったら魔女はどうするの? 放っておいたらあなただって困るんでしょう?」
QB「困らないよ」
マミ「え……え?」
QB「魔女が襲うのは人間だけだ。僕らは別に困らない」
マミ「そんな……だったらどうして、あなたはこんなことを……」
QB「それが正しいことだと判断したからさ。世界と、その未来のためにね」
マミ「……」
マミ「正しい、こと……」
QB「……。話が逸れたね」
マミ「え?」
QB「ハルカの教えについてさ」
マミ「あ……う、うん」
QB「彼女の在り方は、魔法少女は生きるべきという一点に限っては、肯定できるものだ」
QB「ただ、少しばかり極端すぎる」
マミ「極端……?」
QB「ああ。自分たち “だけ” が生き延びればいいと考えてしまっているんだ。
これは少数のために多数を切り捨て、現在のために未来を擦り減らす考え方だ。
僕らの思想とはズレがある」
QB「彼女の言いつけを全て守る必要がないというのは、そういう意味さ」
マミ「そ、そう……」
マミ「……そうよね。そうよ。あんなのは絶対、間違ってるわ」
QB「僕としては、間違いだとまでは言えないけどね。守るべき部分もあるだろうから」
マミ「……『命を大事に』?」
QB「そういうこと」
マミ「……」
マミ「私は……」
QB「君がどういう魔法少女を目指すかは、君の自由だし、君にしか決められないことだ」
QB「だけど焦る必要はないさ。魔法の練習をしながら、ゆっくりと決めればいい」
マミ「……いいえ」
QB「うん?」
マミ「魔法の練習はちゃんとするわ。でも、どんな魔法少女になるかは、もう決めた」
QB「……。君は話を聞いていたのかい? 焦ることは――」
マミ「焦ってなんかないわ。私がなりたい “魔法少女” は、一つだけなの」
QB「……」
マミ「だから――キュウべえ。私と契約をやり直して」
QB「……」
QB「――え? いや、そんなの無理だよ」
マミ「契約は不完全だって、あなたが言ったんじゃない。だから完全にやり直させてよ」
QB「無理なものは無理だよ。確かに手順は完全と言いにくいものだったけど、契約そのものは
問題なく済んでいるんだ。やり直しなんて不可能さ」
マミ「だからその、手順を完全に踏ませてよ」
QB「だから無理だと……」
マミ「別の願いを叶えてなんて言わないわ。形をなぞるだけでいいの」
QB「……」
マミ「真似ごとでいいの。ねぇ、あなたは契約のとき、普通ならどうやるの?」
QB「……。相手の願いを聞いて、それを叶えてあげるから魔法少女になってって、言うよ」
マミ「じゃあ、そう言って?」
QB「……わけがわからないよ。そんなことをして何の意味があるんだい?」
マミ「いいからっ」
QB「フゥ……わかった。セリフを言うだけでいいんだね?」
マミ「うん」
QB「じゃあ……最初から」
QB「『こんにちは、巴マミ。僕の名前はキュゥべえ。今日は君にお願いがあって来たんだ』」
マミ「ふふっ、そこからなんだ。――『ええ、こんにちは。よろしくね』」
QB「……。『君には、僕と契約して、魔法少女になって欲しいんだ』」
QB「『僕は君の願いをなんでもひとつ、叶えてあげられる。どんな奇跡でも構わない』」
QB「『その代わり、君は、魔女という怪物と戦わなくてはならない』」
QB「『その定めを受け入れてまで、叶えたい願いがあるのなら、さぁ――聞かせてごらん?』」
マミ「……」 スゥ… ハァ…
マミ「私は――生きたい。生きて、その命を正しいことに使いたい」
QB「……」
マミ「……キュウべえ?」
QB「あぁ、うん。『――契約は成立だ。君の祈りはエントロピーを凌駕した』」
QB「――と、ここでソウルジェムを取り出す。交わすべき言葉はこれで全てだ」
マミ「そう……」
シュイーン
マミ「……」
マミ「……」 ギュッ…
マミ「ありがとう、キュウべえ」
QB「……。やっぱり、わからないよ。こんなことに意味があるとは思えない」
マミ「これはね、キュウべえ。誓いなの」
QB「誓い?」
マミ「ええ。これで私は、私自身の意思で、正式に魔法少女になった」
マミ「だからあなたは負い目なんて感じなくていい。戦わなくていいなんて、もう言わせない」
QB「……」
QB「なるほど……」
マミ「とにかく、そういうことだから。これからよろしくね、キュウべえ!」
QB「ああ、よろしく」
359 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/26 21:11:18.45 tU4ywx07o 244/571
五日目終了
……なんだろうな、このやっちまった感
マミらせるよりもエロいことするよりも遥かに酷いことをさせてしまった、ような
あと、キュゥべえは魔女化することを「死」とは考えてはいないということでどうか一つ
本編でクリームヒルトのことを「今のまどか」って言ってたし
360 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/26 21:14:34.73 zC0t+B3AO 245/571乙乙
たしかに死んだらエネルギー回収できないもんね
魔法少女から魔女だし、「成長」でもしっくりくる
しかし拘束魔法にクモ男、か……
368 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/27 03:03:35.81 uTqagQtEo 246/571乙
この2者の認識の違いが原作らしくて哀しいな。
マミさんはQB信頼し過ぎだよ。
Lesson 5. 休息はしっかり取ろう
だけれど、現実は厳しかった。
正しく生きること。
その困難さは、当時小学生だった私の想像をはるかに上回っていた。
友達に嘘の言い訳をした。
私的なことに魔法を使った。
酷い怪我を何度も負った。
助けた人から、逆に奇異の視線を向けられたり、罵倒されたりした。
おばさまたちが雇ってくれたお手伝いさんに八つ当たりをした。
魔女退治を言い訳に宿題をさぼった。
助けられたはずの人を助けられなかった。
仲間のはずの魔法少女と傷付け合った。
守るべき範囲を狭めて、その外のことは切り捨てた。
数え上げたらきりがない。
呆れるぐらいたくさんの挫折と後悔を味わいながら、
自分は “アルティ” にはなれないのだと何度も思い知らされながら、
それでも挫けることなく今まで戦い抜くことができたのは、
――やはり、あの子のおかげなんだと思う。
◆
マミ「……ん……」
六日目は、退院と各種の手続きと、半日がかりの帰宅で終わった。
そして今は、七日目の朝。
私は、一週間ぶりに自分の部屋の自分のベッドの上で、目を覚ました。
マミ「……」
かすかな違和感があった。
だけど何がおかしいのかは分からない。
半分寝ぼけたまま、自動的に部屋を出て、廊下を歩き、リビングへと足を踏み入れた。
私は、朝が弱い。
起きてから脳が活性化するまでにかなりの時間を必要とするのだ。
だから、
マミ「……おはよぉ……」
何も考えず、習慣のままに。
挨拶が口を突いて出た。
マミ「……?」
違和感が増す。
そして気付く。その正体に。
静けさ。
誰もいないことによる無音。挨拶への返事も聞こえてこない。
当り前だ。
この家にはもう、父も母もいないのだから。
二度と帰ってくることはないのだから。
マミ「……――!」
目が覚めた。
ここ一週間に起こった非日常に押されて、意識の隅に追いやられていた事実が、
急速に実感を伴って胸いっぱいに広がった。
喉の奥から、込み上げてきて、止まらない。
マミ「――ひぅっ」
マミ「う」
マミ「ぅあ、あ」
マミ「あ、あぁ、あぁぁぁ」
マミ「あぁ――ああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
泣いた。
この一週間で、私はもう、何度も泣いていた。
だけど心から、本当に泣いたのは、これが初めてなのだと思う。
マミ「ああああああああっ!! ああああっ!!」
マミ「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
膝を折り、拳を床にこすりつけて、涙と鼻水をぼたぼたとこぼして。
泣いて、泣いて、泣いて、泣いた。
マミ「うあああっ! おどうざん!! おがあざぁぁん!! うああああああああああ!!」
パジャマの胸元を握りしめ、愛しい人たちを求めて叫ぶ。
だけど、いない。
何も感じ取れない。
ここにあるはずの、あの事故と契約によって取り込まれたという、彼らの運命の残滓。
それを感じ取ることができない。
からっぽだった。
身体の中から、何もかもが、根こそぎなくなってしまったようだった。
がらんどうな私の中に、悲しみだけが満ちていた。
この日が休日だったのは幸いだった。
休日のドライブからちょうど一週間後だったのだから、当然といえば当然だったけど。
お昼のちょっと手前ぐらいに、涙はようやく止まってくれた。
マミ「……」
マミ「……うぅ……」
マミ「ぐすっ……」
マミ「……」
マミ「……」
マミ「……」
「落ち着いたかい?」
マミ「――!?」 ビクッ
QB「やぁ、マミ」
マミ「キュウ、べえ……?」
QB「うん、僕だよ。ところで落ち着いたのなら早速で悪いんだけど――」
マミ「キュウべえ! キュウべえぇっ!!」
ギュウッ!!
QB「きゅいっ!?」
マミ「キュウべえっ! わたし、わたしぃ……!」
QB「マ、マミ……くるし……」
マミ「うわあああああああああああああん!!」
QB「――――……」
QB「やれやれ、潰されるかと思ったよ」
マミ「ご、ごめんなさい……」
QB「いいや、いいよ。こうして無事だったわけだし」
マミ「……」
QB「それに、来るタイミングを間違えちゃった僕にも落ち度はあるわけだし」
マミ「……そんなこと」
マミ「……私は、嬉しかったわ。あなたが来てくれて、本当に嬉しかった」
QB「……。そうかい」
マミ「うん」
QB「まぁ、君がいいというのなら、それでいいさ」
QB「ところで、気分は落ち着いたようだけど、体調の方は問題ないかい?」
マミ「え? あ、うん。別に――」
グゥ~……
マミ「あ……」
QB「……」
マミ「……っ!」 カァァァッ!!
QB「お腹がすいているのかい?」
マミ「そ、そんなこと……!」
グゥ~……キュルル
マミ「……~~~~ッ!!」
QB「恥ずかしがることじゃないさ」
マミ「うぅ……」
QB「見たところ、朝食もまだなんだろう? 待っているから先に済ませてしまうといい。
僕の方はそう急ぐ用事でもないからね」
マミ「……」
マミ「……」 チラッ
QB「うん? なんだい?」
マミ「その……キュウべえはもう、朝ごはん、食べちゃった……?」
QB「……」
QB「いいや。ちょうど食べ損ねたところさ」
マミ「ほ、ほんとに?」
QB「嘘なんかつかないよ」
マミ「だったら……だったら、もしよかったらなんだけど、キュウべえも一緒に、食べない?」
QB「……。そうだね、それじゃあご馳走になろうかな」
マミ「……!」 パアァァッ!!
マミ「ありがとう! すぐに準備するわ!」 スタタタタッ
QB「……」
QB「どうしてこっちがお礼を言われるんだろう?」
マミ「ごちそうさま」
QB「ごちそうさま」
マミ「ふふっ、お粗末さまでした」
QB「美味しかったよ。マミは料理が上手なんだね」
マミ「そ、そうかな……。だったら、ねえ、食後のお茶もいかがかしら?」
QB「いいね。いただくよ」
マミ「ありがとっ。じゃ、お湯沸かすからちょっと待っててねっ」
QB「うん」
QB「……。やっぱり、こちらがお礼を言われる理由がわからないな」
マミ「……こうやって、少し蒸らすのがコツなの」
QB「ふぅん」
マミ「さん、にぃ、いち……――よしっ」
コポコポコポ…
マミ「さ、召し上がれ」
QB「いただきます」
QB「……」
マミ「……」
QB「……うん。おいしいよ」
マミ「ほんとう?」
QB「だから、嘘なんか言わないさ。これだけ本格的なものを飲んだのは久しぶりだよ」
マミ「そう。よかった。これはね、おかぁ――さん、に…………」
マミ「……」
マミ「……お母さんに、教えてもらったの」
マミ「……」 グスッ
QB「……」
マミ「……ごめんなさい。大丈夫だから」
QB「そうかい」
マミ「うん……」 ゴシゴシ
マミ「それでその、えっと……何か、用事があって来たのよね?」
QB「ああ。少し……いや、かなり、かな。残念な報告がある」
マミ「……なに?」
QB「昨日の去り際に交わした約束を、果たせなくなった」
マミ「え? えっと……この街の魔法少女を紹介してくれるって、あれのこと?」
QB「ああ、それだ」
マミ「……何かあったの?」
QB「彼女は死んだよ」
マミ「へ……」
QB「今日の未明だ。魔女と相討ちになった」
QB「三体の魔女を道連れに、自爆した」
QB「彼女のもとで魔法の練習をしながら、という話は、無理になってしまったよ」
マミ「そ、そんな……」
QB「この街には霊脈――魔女の通り道のようなものだけど、それがいくつかあってね。
その一部がここ数日で活性化して、通常より多くの魔女が出現していたんだ。
彼女はそれに対処しきれなくなった」
QB「幸い、今はもう落ち着いているけど、魔女はまだいくらか残ってる」
QB「はっきり言って、新人の君にはかなり厳しい状況だ。
近くの街に応援を呼び掛けてはいるけど、来てくれる保証はない」
QB「……どうする?」
マミ「ど、どうする、って……」
QB「……」
マミ「……」
マミ「ええと…………その、人は、どんな人だったの?」
QB「……」
QB「とても無口な子だった」
QB「カメラが好きで、口を開く代わりにシャッターを切るような子だった」
QB「彼女の部屋の壁にはこの街の風景写真が何枚も貼られている」
QB「中には僕を撮ろうとして失敗したものもある。僕は写真には写らないからね」
QB「失敗作をなぜ貼るのかと聞いてみたけど……明確な答えは得られなかったな」
QB「人間のやることはわからないよ」
マミ「……」
QB「それ以外には、特筆すべき点はないね。魔法少女としては平均的だった」
マミ「……仲、悪かったの?」
QB「どうだろうね。何しろ本当に喋らない子だったから。
彼女が僕のことをどう思っていたのかは、今となってはもう、確かめようもない」
マミ「キュウべえは、悲しくは、ないの? その人が死んで」
QB「……。そう、見えるかい?」
マミ「……ごめんなさい」
QB「謝ることはないさ」
QB「ただ、そうだなぁ……僕のことは知らないけど、この街のことは好きだと言っていたよ」
マミ「……守ろうと、していた?」
QB「きっとね」
マミ「……」
ギュッ…
マミ「――じゃあ、私が後を継ぐ」
QB「……。いいんだね?」
マミ「ええ。どこまでできるかわからないけど、決めたんだもの」
QB「わかった。僕もできる限りサポートするよ」
マミ「……ありがとう、キュウべえ」
◆
キュウべえ。
私の愛しいあの子。
たまにちょっぴりイジワルで、デリカシーの足りないところもあったけど、
それでも彼は、私の大切なお友だちで、
恩人で、仲間で、家族で、パートナーだった。
あの子がそばにいてくれたから、私は今日まで戦い抜くことができたんだ。
だから、
だから私は、あの女を許さない。
黒い魔法少女。
暁美ほむら。
あの女だけは、絶対に許さない。
388 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2011/06/29 23:58:19.28 Hyl84B0Mo 265/571
以上
号泣シーンを書いてるときにヤバいぐらい興奮してた俺はもうだめかもしれない
さておき、レベル1編はこれにて終了、次回から最終章に入ります
マミ「そう。始まりが終わり、終わりが始まるのよ」
QB「なんで言い直したんだい?」
【後編】に続きます。