勇者「俺と魔王の101日決戦」【中編】 の続きです。

380 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/08/30 02:23:24.83 sJSpajWb0 165/236

 92日目。相立つ両者は、互いを 警戒する。

魔王「昨日と同じ事をしても……貴様は、対応をしてしまうだろうな……」

勇者「無理だろ」

 確かな自信を持って、直様不可の意思を伝える。

 自らの力を過信してはいない様だ。

魔王「ふふっ……謙遜をするな謙遜を」

勇者「嫌……無理だろ……」

魔王「……」

この会話の間も、機会を伺っているな。

一瞬で勝負を決めてみるか……

魔王「勇者」

勇者「ん?」

魔王「正面からいくぞ」

勇者「正面から……?」

元スレ
勇者「俺と魔王の101日決戦」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1336321653/

387 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/08/31 02:31:00.35 Gpz7UF4Ho 166/236

 大きな力の蠢きを肌で感じる。

勇者「……」

不味い……何かが来る?

勇者「ーー凄いな」

 全身から吹き出る様に汗が湧く。

 目の前の少女は悠然と、立っている。ーー“だけ”なのに……

魔王「隙が多い事は、余り……行いたくは無かった」

魔王「が……貴様の為だ。今回は直ぐに死ね」

勇者「……!」

 寒気が恐ろしい……目の前に居る少女はこうも恐ろしい者なのかと、改めて理解をさせる。

魔王「行くぞ……!」

 只、目の前に少女は迫るだけ、其れだけなのに……勇者は反応をしていない。

 無理も無い、反応が不可能な程の速さで迫られたのだから。

 首も気付く事が無く、飛んで行く……気付いた頃には協会だろう。

魔王「全てを速さに回しただけ……其の分隙も多い」

魔王「ーーどれだけの速さか分からないがな」

魔王「何に、恐怖をしたか分からないが……」

魔王「流石の警戒力だ」

次には……通用しないだろう……

389 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/08/31 03:25:35.45 luRstVC6o 167/236

 93日目、神父への挨拶を飛ばしては、魔王の居城へと勇者は現れる。

魔王「おお……速いな」

勇者「……」

9時ぐらいか?時刻を確認していないから分からないけど……大分強くなったんだな。俺……

勇者「……昨日はどうやって?」

魔王「全ての力を速さに変えただけだ」

勇者「なるほど……そういう闘い方も出来るんだな」

魔王「私はな……」

魔王「どうだ?恐いか?」

 余裕の笑みを携えながら問いかける、が……答えは予想とは違う物だった。

勇者「嫌……あれが最高の速さと分かれば、これからは、闘いやすい」

魔王「ーーその言葉は。後二回闘った時の言葉だと思うが……」

既に通用しない事は、私でも分かる……勇者が精神的に強くなったと言う事か。


390 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/08/31 03:26:43.60 luRstVC6o 168/236

魔王「……」

 力が蠢く大気が揺れる大地が震える。

勇者「次は……なんだ?」

魔王「魔導で一斉に攻撃しようと思ったから、させてもらう」

勇者「冗談だろ?」

魔王「さぁ、行くぞ」

 勇者は対策を考え様にも、不可能だった。

 深淵を思わせる黒い瞳に、六芒星が弱い光と共に浮かび上がる。

 勇者の目には地獄絵図が映る。

勇者「ははは……無理だろ……」

 笑ってしまうのも無理は無い。

 全てを飲み込む濁流と、漆黒の雷撃と只の雷、全てを溶かし尽くす高熱火炎、僅かに見える狂気の黒い風の刃。

 其れ等が勇者を滅殺しようと、むかっているのだから。

勇者「うおおおおおお!」

 目の前の魔導に対して、渾身の剣を振るう、が……衝撃波も意味は無かった。

 ーー魔導に飲まれる。

魔王「……死んだか」

394 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/02 03:54:24.44 S9Si1+kjo 169/236

 94日目。

 日々の闘いは力と成り、力は結果と成る。

魔王「くっ!」

 勇者の繰り出す突きは魔王の左のこめかみを掠める、耳に少しの切れ目が入る、僅かに髪の毛は力無く落ちた。直様、魔王は御返しとばかりに手刀を脳天に繰り出した。

勇者「くぅ……!」

 繰り出された手刀を避ける為、頭を左に傾けると、右耳のたぶが切れた感覚を感じてしまう。

 ーーだがそんな事には構っていられない。

勇者「うおお!」

 直様、魔王のこめかみを掠めた剣を下に振り下ろそうと力を入れる、衝撃波を生むほどの力だ。

魔王「はあああ!」

 漆黒の瘴気は、魔王の左肩に一点として一瞬で集まり、簡単な魔法陣を形作る。

魔王「これで……!」

 勇者の剣は魔法陣によって止まってしまう。

 ーー二秒間のみだが。


395 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/02 04:19:43.96 S9Si1+kjo 170/236

 ーー早業だった。

 二秒間の内に、勇者の心臓を手刀で貫き、後ろへ後退したのだから。

 少しの計算外は、心臓を貫いた後にも剣を動かしていた事だが。

 魔王が後退した瞬間、魔法陣は破れ、剣は斜めに空を斬り、力無く勇者は倒れるが……

魔王「……!」

 予想外の出来事に動けずに居た。

 ーー魔法陣に阻まれ、弱まった筈の剣から衝撃波が放たれていたのだから。

 衝撃波は、魔王の左肩から右脇腹迄の斜めに成る傷を付けた。

 傷からは少なからずも血が滴り落ち……ドレスは傷と同じく斜めに、綺麗に切れている。

魔王「くうぅ……っ……」

魔王「やるではないか」

魔王「勇者」

 勇者と呼ばれる肉は、魔王の問い掛けに答える事は無かった。

396 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/02 05:07:42.72 S9Si1+kjo 171/236

 95日目は後々、最も斬り合った日として語られる事に成る。

 鉄の鋭く高い音が響き合う。

魔王「ふふふ……」

魔王「昨日の貴様には驚かされたぞ」

 其の会話の隙にも、鋭く脾腹を左の手刀は狙う。

 勇者は当然の様に、其れを剣で受け……押し返す。

勇者「ああ……驚かす様な事をした記憶が無い」

 手刀と剣は互いに、斬り合いを続ける。

勇者「それに……お前の手刀は、相当の業物以上だな」

魔王「我が手刀は、如何なる剣にも“負ける事”は無い」

勇者「凄い……な!」

 勇者は魔王の首を一点に狙い、突きを放つ。

魔王「残念だな」

 魔王の手刀から形を崩さぬ右手の中指の先は、魔王と勇者の中間の距離で勇者の剣を止める。

勇者「糞っ……!」

魔王は両手で斬れるが……俺は……一つ。

けど……俺の方が斬る事を心得ている。

ーー僅かに。

 再び、頭、首、心臓と狙う互いの“武器”は斬り合いを続ける。

397 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/02 05:08:48.42 S9Si1+kjo 172/236

 後々語られる闘いと言う物は簡単に決着がついたりする物だ。

勇者「ぐふっ!」

魔王「……細かい傷は付いたが、大きな傷が付く事は無かったな」

 魔王の手刀は斬り合いの内に、勇者の隙を見付けると、安安と心臓を貫いた。

魔王「それにしても貴様の防具は弱いな、まあ……其の軽い防具が一番私に対抗出来るが……」

 魔王は勇者から、手刀を抜く。

 勇者は手刀を抜かれると、崩れ落ちる様に地面へと倒れる。

 既に意識は無く、死体となるのも時間の問題だ。

魔王「貴様には常に驚かされる」

魔王「気付いたら、私を超えているかも知れない」

魔王「今回は、手数の勝利。次にはその手数も……」

通用しない。

魔王「……死んだか」

398 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/02 05:09:31.29 S9Si1+kjo 173/236

 96日目。

 城の一室。

 歪んだ思考は消え去り、真剣な志が芽生え始めていた。

「……」

私は勇者様が好き……だけど……“ついでに”勇者様を利用しようとしていた。

私が必要の無い者にならないためへの……

けれど!自分で何も変えられない女を勇者様が好きになる筈が無い……

私が国を変える……

大丈夫……父上と王女が亡くなれば……私が国を……

きっと……皆は分かってくれる。

 沸々と湧き上がる志は、王女の一生を左右する物に変わって行く。

 場所は変わって協会。

神父「11時ですか……驚くべき進歩ですね」

勇者「そうか?」

神父「ええ、全く持って驚くべき進歩ですね」

勇者「そうか……それは、自信が付くな」

神父「朝食等はいかがでしょうか?」

勇者「ああ、いただくよ」

神父「では、紅茶とパンを」

勇者「毎回それだな……」

 神父は勇者の前へと詰め寄り顔を近づけると、得意気に一言。

神父「朝には紅茶とパンですよ」

 緩やかに微笑むと、並々ならぬ迫力を醸し出す。

 其の迫力に勇者は、押されてしまい……

勇者「いただくよ」

 其れしか言えなかった。

403 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/06 00:58:42.71 HDR89wQJo 174/236

 勇者が訪れる度に、初めて辿り着いた状態へと魔王の間は戻っている、激戦の跡も、約一日が経てば元通りだ。

勇者「さて、96回目の闘い……始めよう」

魔王「気が早いな」

もう少し、会話でもしたいが……仕方が無い。

 胸を撫で下ろし、目を見開けば、魔王の元へと一手に、瘴気と力が集まって行く。

魔王「良いぞ。来い」

勇者「……!」

 力の蠢きを肌で感じた勇者は、身震いをする事も無く、魔王の元へと駆ける。

魔王「……」

 瘴気は魔王の元から離れると、勇者の前へ網の形を作る、黒く細く鋭く硬い網は嫌らしく光を反射する。

勇者「はあ!」

 勇者は躊躇いもせずに、網へと剣を振り下ろす。

魔王「……!」

 網は脆く呆気無く、断ち切られる。

力を開放してからは、全てが上回っていたのだが……

ここ迄来たか……勇者。

勇者「はああ!」

 弱々しい物へと化した網を潜り抜け、勇者は魔王へと迫る。

404 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/06 01:35:31.61 HDR89wQJo 175/236

魔王「……」

 網は瘴気へ形を戻すと、包み込む様に、勇者の周囲を囲む。

勇者「……!」

これでは周りが見えないな……

 ーー刹那。駆ける途中の勇者を阻む様に瘴気から、黒く鋭い円柱の形をした凶器が勇者へと迫る。

勇者「はああっ!」

 見えない勇者は感覚だけを頼りに身を捻じり、身体全体を使い、斜めの方向へと床から床へと剣を降るう。

 振るわれた剣からは衝撃波が放たれ、凶器を嘲笑うかの様に瘴気の空間を壊し、飛ばす。

 崩れた体制を立て直し、直様駆ける。

魔王「……っ!」

 勇者は魔王に、肉迫する。

 魔王の目に映る男の姿は、とても勇ましい。

 剣は魔王の顎へと振り上げられる。

405 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/06 01:36:13.45 HDR89wQJo 176/236

 其の剣は魔王の胸の前。魔王の指先で動きを止めた。

 指先からは血が溢れているが其の間も無く、魔王の攻勢は、始まる。

勇者「……っ!!」

指先で止めるのかよ!?やはり、桁違いだ!

 剣を取り戻そうとするが、剣は動かない、魔王が掴み始めただけなのに……

勇者「ぐっ!」

 首へと、鋭い蹴りが入る。

 ーー其の瞬間。勝敗は決してしまった、魔王は変わらず冷静な表情である。

 冷酷な瞳は落ち行く頭部を見届ける。

 脚を床へと戻すと、溜息を一つ。

魔王「はぁ……」

魔王「流石に危険だったぞ……」

 左手の先から溢れる血を抑え、勇者だった物へと微笑み掛ける。

 彼の成長を喜んでいるのだろう。

406 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/06 01:36:56.45 f0+9I4rMo 177/236

 光を携え、勇者は帰還する。

 其の表情は堂々とした物だった。

神父「……朝食にしますか?」

何時もより、明るい……な。

勇者「嫌。遠慮しておくよ」

神父「そうですか……」

勇者「ああ……97回目。行ってくる」

神父「いってらっしゃい」

勇者「……鼻血出てる」

神父「……おや?気付いてませんでした……教えてくれて助かります」

 唐突に溢れた鼻血を抑える為、鼻に手をやる。

勇者「大丈夫か?」

神父「心配無用ですよ」

そろそろ……だな……

410 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/07 07:32:09.81 RGjD1WJSo 178/236

 97回目の決戦。

 其れは、何時もの決戦と何の違いも無い。

 純粋な力のぶつかり合い。

魔王「……」

 魔王が椅子から立ち上がると、勇者は扉を開き決戦の舞台へ馳せ参じる。

魔王「貴様は、私の間に唐突に現れたり、扉を介してやって来たりで、大変だな」

勇者「気分だからな」

魔王「……気分?」

 一つ間が開くと、魔王は俯きながら笑う、笑い声が大きくなるにつれ、顔も上がって行く。

魔王「ふふふ……ハハハハッ!」

魔王「ぷっ……久しぶりに大きく笑わせてくれたな……その、抜けた所が最高だ」

勇者「……侮辱された気分だ」

魔王「ふふふっ……気にするな」

 空気が変わる。重く、冷たく、禍々しい物へと。

魔王「ーー来い」

 勇者は魔王の足元へと、剣を振り被った体制で身を屈めながら“唐突に現れた”。

 嫌。厳密に言うと、勇者が速過ぎて“唐突に現れた”様に見えるだけだーー勿論。魔王には、全てが見えている、全てに反応をしていた。

 ならば、漆黒の瘴気が勇者の周りに蔓延していたとしても、何の不思議は無い。

魔王「爆ぜるぞ」

勇者「?」

 勇者は気付かずに剣を魔王の脾腹へと振るう、その軌道は鋭く、正確だ、

411 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/07 07:33:08.37 RGjD1WJSo 179/236

 勇者の剣が脾腹へと到達する寸前、悍ましい勢いと威力を持った漆黒の爆炎が少女の足元で巻き起こる。

 少女は爆炎に傷を追う事も無く、一歩下がると、風でめくれてしまうドレスの袖口を抑える。

 止まぬ、爆音。

魔王「……」

 爆炎が止み、煙が晴れると、其処には何も残っていなかった。

魔王「私の涙は止みそうに無いな」

 黒い涙は変わらず、此の世界を表すかの様に落ちていた。

魔王「跡も残らないとは、可哀想に」

 そしてーー翌日、協会。

 98日目。

神父「今日は、早いですね」

勇者「油断してた」

神父「それはいけませんね、意識をしっかり持たないと」

勇者「分かってる」

422 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/13 00:20:53.71 OnuKI1m4o 180/236

神父「もう行きますか?」

勇者「そうだなー。行くか」

神父「はい、行ってらっしゃい」

 少年の様な声で優しく、勇者を励ます。何よりも、勇者を案じての事。自らの心配等は無い。

神父「貴方は、勝てますよ」

勇者「……」

 励ましからは多少の違和感を感じる、神父からは何処となく……理由は分からないが、一種の親近感を抱いてしまう。

勇者「ありがとう、行ってくるよ」

 光と共に勇者は姿を消して行く、神父の言葉をほんの少し胸に秘めて。

神父「勇者……」

423 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/13 00:22:49.17 OnuKI1m4o 181/236

 二人は相対する。

 決められた行事を成す様に、約束事を守る様に、愛を確かめ合う様に。ーーそして、剣を構える男、手を鋭く張る少女、二人に共通する事は……人智を超えている事である。

 二人は駆ける。何故?ーー互いの生死を分かつ為である。

 少女の手刀は勢いと速度を持って、勇者の頬を掠る。男の剣は一瞬の隙を突いて少女の肩へと突き刺さる。

 畳み掛ける様に、重い拳が鈍い音と共に少女の鳩尾に衝突する。華奢な少女の体がくの字に曲がると同時に、剣は血を帯びながら抜ける。

 少女は腹を抑えながら瘴気を蔓延させ、六芒星を瞳に浮かべる。

 悍ましい濁流と漆黒の雷撃……相反する存在が、男へと迫る。

 水に少しでも触れたら敗北である事を悟っている男は、剣を振りかぶり全力で少女の魔導へと衝撃波を放つ。ーー魔導と衝撃の対峙は凄まじい物だった……時間が経つにつれ、段々と少女の魔導が押されている。

 そしてーー少女の魔導は、限界を極め己が全てを放った衝撃に引き裂かれる。

 ーーが。少女は負けてはいない……右腕を犠牲に命を終わらせない限界の範囲で、衝撃波を躱す。……移動に全力を賭けたのだろう、勇者の背後へと一瞬で回り、神業の様に……負け無しの手刀は男の首を狩る。

 男の首は落ち、身体は倒れる、今回も少女の勝ちである。

429 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/18 02:46:41.35 9I2iIVSMo 182/236

 99日目。

 闘いも佳境に迫っていた。

 101日目へと、確実に迫っていた。

魔王「来たか」

勇者「当然だ」

傷は全て元通りか……右腕も……

魔王「まだ闘うか?」

勇者「今更言われてもな」

勇者「俺は闘うよ」

魔王「そうか……」

勇者「……?」

俺の覚悟は知っているのに……何を今更……?

魔王「不思議な顔をするな、反応に困る」

 魔王の反応に勇者は困惑を隠せない、何故その様な会話を?ーー後に思い知らされる。

勇者「……」

魔王「だんまりか……」

勇者「悪いか?…………っ!!」

 不意打ち。

 先程迄玉座に居た少女は、勇者の目の前に居た。

 魔の頂点に立つ者の攻撃とは思えないが、成功に終われば、魔王の勝ちだ。

勇者「かはっっ……!」

 胸を貫く狂手は、勇者の命さえも貫き通す。

魔王「すまないな、貴様の為だ」

これで……全ての攻撃手段を教えた……

ここまで知れば、対等に渡り合ってくれるだろう……

430 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/18 02:47:53.68 9I2iIVSMo 183/236

 100日目。

 思いもよらぬ、不意打ちに敗れた勇者。

 借りを返す為に、魔王の前へと立つ。

勇者「昨日はやってくれたな……」

魔王「差も無くなって来た……貴様の死を稼ぐ為だ、そう怒るな」

勇者「怒って無い」

魔王「本当か……?」

勇者「……ああ」

落ち込んだ様に言われると……心に来るな……

勇者「……」

魔王「勇者?」

勇者「気にしないでくれ」

魔王「?」

魔王「……」

何を気にしなければ良い……?

まさかっ!?

昨日の仕返しを……!?

魔王「……」

勇者「……」

魔王「……」

本来なら反応していた筈だが……ここまでとはな……

悲しくなる。

 不意打ち。

 先日の魔王と同じ様に、不意打ちを仕掛けた勇者。

 本来なら其れを逆手に取られて死亡……

 の筈……だが。

 魔王の前へと、一瞬で迫った勇者の剣は、喉仏の寸前で止まっていた。

魔王「何故殺さない?」

勇者「分からない」

魔王「……」

 魔王は事務的に勇者の首を落とす。

魔王「……」

そうか……明日私は……

…………

ーー短い闘いだった。

431 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/18 02:49:15.75 9I2iIVSMo 184/236


ーー101日目。


458 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 14:33:04.92 VXvM84Bso 185/236

勇者「……」

 協会へと勇者は帰還する。今日が最後の闘いだが……勇者は葛藤していた、何故魔王を殺さなかったのか、何故手を止めたのか、何故心がこうも痛むのか。

神父「お帰りなさい」

勇者「ただいま……」

神父「おや……?どうしましたか?」

勇者「分からない……」

 掠れた声で答える、聞く人間によっては無視をするだろうが、神父は真剣に聞き、答えた。

神父「貴方は良く悩む。せっかくだ……私に何か話してみませんか?」

勇者「……」

勇者「分かった」

神父「……」

勇者「昨日、俺は魔王に勝った……勝った筈なんだ……」

神父「……!」

我が息子ながらに尊敬の念を禁じ得ないな。

勇者「殆ど不意打ちの形だけど、俺は魔王が反応出来ない速さで迫って、喉仏に剣を突き刺そうとしたんだ……けど」

神父「けど?」

勇者「止まったんだ……突き刺す筈なのに…寸前で」

神父「……」

神父「そう言えば……魔王がどの様な者か聞いていませんでしたね」

突き刺す寸前で勇者が止めた?少なくとも魔王は空虚な人間に何か思わせる者と言う事は確かだ、ふふっ、羨ましいな。

 自嘲気味に神父は笑う、自らの無力を皮肉に思い、勇者への罪悪感が募るばかりだ。

勇者「魔王の……」

459 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 14:34:12.52 VXvM84Bso 186/236

勇者「性別は女」

神父「っ!?」

勇者「どうかしたか?」

神父「いえ……」

まさか、魔王が女だったとは……

勇者「姿形は正直華奢で美しい」

神父「……」

勇者「?」

神父「気にせずに続けてください」

魔王がまさか、華奢で美しいとは……巨体で醜いと思っていたが……

勇者「身長は、普通より少し低いぐらいだと思う」

神父「なるほど……」

ああ……分かった……

神父「魔王に惚れていますね?」

勇者「……」

勇者「ああ……」

勇者「でもそれは、闘いに関係無い」

神父「……では何故、とどめをささなかったのですか?」

勇者「……」

神父「好きな者を殺す事は、私にも出来ません」

勇者「……」

神父「私に出来ない事が貴方に出来るとは思えません」

勇者「だが……倒さないと……」

神父「貴方は闘う事で自分の存在の意味を知りたいのでは?」

勇者「ああ……」

神父「なら……目的は達成していますね」

 満面の笑みを勇者に向ける、皺の寄った……お世辞にも美しいとは言えない顔だが、神父が自らの人生の中で最も微笑んだ瞬間かも知れ無い。

460 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 14:35:47.67 VXvM84Bso 187/236

勇者「達成している?」

勇者「……どうして?」

神父「きっと……魔王と幸せに生きる事が貴方の最大の存在価値だと思いますが?」

勇者「……!」

神父「魔王との今日を含めた101日間……貴方は、初めて協会で私と会った時よりずっと……!表情が生き生きとしていましたよ」

勇者「だが……!」

勇者「自分の為に闘うが……それは、一般民全ての為に闘う事が大前提の話だ!」

神父「……それが本音か?」

 何時もの優しい声色が、冷たい色に、変わる。

 表情も険しい。何時もの神父と違う事は一目瞭然、そして勇者に、何かを伝えようと声を張る。

神父「勇者!……お前は、空虚な人間だ!」

神父「本当は、他人の事など考え無い男だ」

勇者「だけど……!俺と魔王は分かり合え無い……それに……」

 ただならぬ神父の迫力に押されながらも、自らの意を述べんと、言葉を連ねようとしている。

神父「それに……?」

勇者「俺と魔王は、幸せになれない!」

神父「何故そう言える?」

勇者「俺と魔王は、同じ夢を見た……幸せでは無い夢を!」

神父「……」

神父「ふふふっ……はははっ……はははははははっ!」

勇者「なっ……!」

神父「笑わせるな!たかが夢で勇者の人生は左右されるのか!?」

神父「お前の人生はお前が決める……」

神父「それに……勇者と魔王が分かり合えば、真の意味での平和が訪れ、他人も幸せになると思うが……違うか?」

勇者「だけど……魔王は人を殺し過ぎて……!」

勇者「……!」

魔王は人の負から……!

勇者「嫌……なんでも無い」

神父「……」

神父「安心しろ……想いを伝えればきっと……分かり合える」

勇者「……本当か?」

神父「……ああ!」

勇者「……」

俺は魔王と……

勇者「分かった。伝えるよ……想いを」

461 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 14:38:25.48 VXvM84Bso 188/236

神父「さて……結婚祝いだ……」

神父「讃美歌を聞かせてやろう」

勇者「……讃美歌?神父が?」

神父「こう見えて、声は高いからな」

勇者「……ああ」

言われてみれば……

神父「~~~~」

 魔王の瘴気から奏でられる讃美歌の様な音色には劣るが、神父の独特な声から奏でられる、たった一人の讃美歌は勇者の心を穏やかにさせ、勇気付ける物だった。

勇者「……」

神父「~~~……。」

神父「さあ。早く行け……魔王の元へ」

 神父は勇者の両肩を持つ、勇者に熱い瞳を向けて、勇気付ける。

神父「絶対に後悔はするな!」

神父「絶対に幸せになれ!」

勇者「ああ!」

神父「絶対に……生きなさい……」

最も伝えたい事は今……伝えた。

勇者「分かってる」

 光に包まれて行く勇者の肩を離し、勇者から距離を置く。

神父「そうだ、今度……魔王を紹介してくれ」

 穏やかな微笑みを向ける、勇者は神父に対して最後の、心からの微笑みを向ける。

勇者「はははっ……分かったよ」

神父「……」

ああ……悔いは無い……初めて見たな、息子のこんな表情……

神父「ーー勇者と魔王に……神の加護があらんことをーーーー」

勇者「行って来る」

 勇者は光と共に、魔王の元へと姿を消す。

462 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 14:40:07.62 VXvM84Bso 189/236

 ーー勇者の姿が消えた瞬間の事だ。

神父「ーー行ってらっしゃい」

 神父は椅子の側に、崩れ落ちる様に座り込んでしまう。

勇者のこれからを見ておきたかった……が。

お迎えが来たみたいだな。

何……勇者のお陰で拾った命……いつ捨てても、後悔は無い……。

ああ……

 神父の視界が段々と薄れ行く、意識を保つのも限界。

少女…………今行くぞ。

 暖かい日差しが差し込んで行くと共に、可愛いらしい少女の姿が神父の目に映り込む。

463 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 14:43:05.84 VXvM84Bso 190/236

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「久しぶりだな」

「うん」

「長い話は後にするか……」

「私達の子供……ううん……勇者……とっても成長したね」

「自慢の息子だよ」

「でも……私似だよね~ふふふ」

「ははは、お前の子供だからな」

「とっても綺麗な恋人も見つけたみたいだし……これ以上の悔いは無いよね!」

「ああ」

「……」

「……」

「来世でも……“少年”と一緒に居て……良いかな?」

「……」

「……」

「当たり前だ」

「嬉しいな~ふふふ」

「なあ」

「どうしたの?」

「少し疲れた……」

「うん」

「少しの間……寝てても良いか?」

「うん、しっかり休んでね」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 座り込んで居た神父の目は閉じ、口角はほんの僅かに上がっていた。ーーとても穏やかな表情だ、かつては血を流し、二度と開く事の無い目はきっと……光を失ってはいないだろう。

「ーーありがとう」

466 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 16:18:40.63 uyAqcsrYo 191/236

 光と共に勇者は現れるが……目の前には、城が無い……何時も存在していた物の代わりに大きな大きな黒い水溜りがある、其れは湖にも池にも見えてしまいそうな広い水溜りだ、唐突な変化に勇者は戸惑いを隠せない。

勇者「……!?」

勇者「城が……無い?」

何があった?

勇者「魔王……魔王は何処に!?」

「ーーここに居るぞ」

 現在の時刻は朝の11時、其の時刻に相応しい光が勇者の目の前の少女を照らしていた。

勇者「なんだ……居たのか……」

ーー涙を流していない?

勇者「聞きたい事が山積みだな……どれから聞こうか……」

魔王「質問はいくらでも答えよう」

勇者「なら最初に……城はどうした?」

魔王「ああ……あれは、私の一部だ」

 “一部”……其処から出る答えは“魔物”……魔王の一部である魔物と同じ様に、先日迄存在していた城もまた、魔王の力の一つだったのだろう……

 そして、一つ勇者の脳裏をよぎるのはーー感情。

勇者「因みに……“城”はどんな感情からか教えてくれるか?」

魔王「城に感情は無い」

勇者「……感情が無い?」

勇者「分散した力では無いのか?」

魔王「城は……感情を分散した後に“余った”力で作った物だ」

魔王「確かに一応分散した力だ」

勇者「次に……涙は?」

467 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 16:19:30.06 uyAqcsrYo 192/236

魔王「ああ……涙か……」

魔王「涙は……感情の垂れ流し……」

魔王「それは、力を垂れ流す事と同じ……」

魔王「だから私は涙を止めた……」

魔王「だが、其のおかげで私の中にある色々な物が爆発しそうだ」

勇者「色々な物?」

魔王「貴様なら分かるだろう?」

魔王「溜まりに溜まった感情だ」

魔王「ああ……憎い」

勇者「魔王」

魔王「貴様等が憎い」

魔王「絶対に許さない……」

 流れを遮るかの様に、漆黒の水溜りに指を差し、立て続けに勇者は問う。

勇者「この黒い水溜りは?」

魔王「……」

魔王「私の涙だ、乾く事の無い……な」

勇者「そうか……今のお前が、本当のお前だな?」

魔王……

魔王「そうだ……」

魔王「貴様への感情等取るに足らない」

魔王「涙を流さなければ、真の私が浮き彫りになる」

 黒い水が静かな音を立てながら、緩やかに跳ねる。

 変わらぬ表情……美しい顔からは想像も出来ない言葉を吐き連ねて行く。

468 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 16:20:50.58 uyAqcsrYo 193/236

魔王「私は全てが憎い」

魔王「何故私を苦しめる?」

 勇者を指差し問う。

魔王「貴様か?」

 空を見上げ問う。

魔王「貴様か?」

 水溜りに問う。

魔王「貴様か?」

 変わらぬ表情……視点の定まらぬ目で遠くを見る様に……最後の糸が切れたかの様に……結論を怒号の様に吐き飛ばす。

魔王「貴様等だ!」

魔王「人間だ!」

魔王「他者を蔑ろにし!蔑み!嘲笑い!自らのエゴを満たす為には手段を選ばず……争いを立て続けに生み!貴様等以外の種族……存在……を迫害……!」

魔王「あらゆる感情……を生み……全ては結局は貴様等の為……だけに貴様等は行動する……」

魔王「先ずは貴様……そこに居る“人間”を殺す!」

魔王「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いいぃっ!必ずも人間を根絶やしにしてくれる!」

魔王「全てを消してやろう!」

勇者「……」

殺すしかないだろ……

魔王「来い!“人間”っ!葬り去ってやろう!」

勇者「……行くぞ」

こんなにも、悲しそうな顔をした奴は……初めて見た。

こんな奴に、愛を伝えるなんて……出来ないだろ?

俺があいつの全てを救わなければ、誰があいつを救う?

ーー待ってろ。

直ぐに楽にしてやる。

469 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 16:22:56.56 uyAqcsrYo 194/236

 魔王を中心として、水溜りは更に広がって行く、此の世を飲み込む勢いで。

 ーーが、ある程度の大きな広がりを見せた時点で、水溜りはとてつもなく広い物に変化した。無論……世界等は飲み込んではいない、せいぜい此の大陸の三分の一程度だろう。

勇者「……」

不思議と、孤児院までは広がっていないか。

……俺の足元も、黒い水。

……あいつの涙か。

魔王「さあ……宣言通り。早く来い」

勇者「……!」

 正真正銘最後。

 今日で全てが終わる。今日で此の先の世界が左右される。今日で魔王と勇者の決戦が終わるーー今日で二人の未来が変わる。

 そして、今。最終決戦が始まる。

 同じく、水溜りの上に立つ魔王の姿を勇者は眼前に捉える事が出来なかった。

 しかし、後ろからは勇者の首を刈り取らんと、迫っている事には、とうに気付いているが……

勇者「……」

不意打ちか……

 首を右に曲げる

 当然の様に勢いのある手刀は魔王の体と共に外れる。

 魔王は其の事すらも気にせず、後ろへと足を伸ばし、勇者の頭を飛ばさんとする。

勇者「くっ……!」

 勇者は横に飛び、蹴りを躱すと共に、反撃を始める。

470 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 18:49:51.22 o24W2c7Do 195/236

 勇者は風の様に、魔王の右へと迫る。

 伸ばしきった魔王の足を両断せんと、剣を振り下ろす。

 ーーが。

 振り下ろされた剣は、魔王の足を斬る事すら無く、ただ、水飛沫を上げただけだった。

魔王「死ねぇ!人間!」

 背後からの怒号を聞けば、勇者は体制を立て直し、振り返る。

勇者「昨日とは別人の様に強いな……」

これが魔王の最大の力……

 魔王の黒い瞳に、微かな光と共に六芒星が浮かび上がる。

 勇者の眼前には、全てを破滅へと追い込む爆炎と燃え盛る灼熱、全てを飲み込める濁流、全てを消しさる事が出来る雷撃、全てを両断出来る狂い踊る風の刃……全てが漆黒の様に黒い。

 其の全てが勇者へと迫る。

 勇者は、魔導が効果を出せる全てに当て嵌まるのか?全てを破壊する、目の前の魔導が対象とする……全てに当て嵌まるのか?

 答えは勇者が出す。

 全てを持ってして、勇者は魔導へと対抗する。

 ーー“希望”が“絶望”と今。此の瞬間から……真の意味で対峙する。

471 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 21:39:49.02 o24W2c7Do 196/236

勇者「うおおおおおおおお!」

 先ず。剣を全力で横へと振るう……振るわれた剣からは、魔王の魔導を喰らい尽くさんと、悍ましい程の威力を持った形の無い衝撃波が放たれる。

魔王「……」

 放たれた衝撃は自らを差し出す事で魔導の勢いを弱める、一度は魔導の動きも止まる。だが……未だに魔導は健在だ、再び動き出すと、勇者の元へと直進する。

勇者「もう一回だ!」

 力を全力で引き出し、身体を捻る。

 そして、放たれた衝撃波は再び魔導を打ち消す為に直進する。

魔王「……」

 魔導と衝撃が衝突し合う最中、魔王は勇者背後へと脱兎の如く、迫る。

 迫り来る魔王に気付いた勇者は、直様体制を立て直し、剣を駆け寄る魔王の脳天に向け、振るう。

魔王「……!」

 自身の、脳天に振られた剣に対応する為、勢いを一瞬で殺し、前屈みになる様に勇者の剣を掻い潜ると、顎に向け掌底が放たれる。

勇者「ぐぅ……!」

 大きく脳を揺らされた勇者の意識は、未だに失われる事も無く、勇者は倒れるどころか次の反撃へと移る。

472 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 21:40:28.18 o24W2c7Do 197/236

 傍に居る魔王の腹部へと膝蹴りを見舞う、そして、立て続けに左腕を使い、頭を全力で殴る。

魔王「ふぅ……」

 頭に多大な衝撃を受けたにも関わらず、反撃は直ぐに行われる。

魔王「ーーどうした?」

魔王「……勇者」

 勇者の膝を踏み付ける様に蹴る、強い痛みと衝撃が勇者を襲う、立つのもままなくその場に座り込んでしまう、最大の危機である。

勇者「ぐぅ……!」

 ……足が震える、糞。

 立つことすら出来ないなんて……

 ーー追撃。

 座り込んだ事により無防備な勇者の顔に容赦
の無い蹴りが打ち込まれる。

 衝撃により、二時の方向へと勇者は跳ねる様に飛んでしまう。

 そして、転げる様に倒れると同時に水の跳ねる音が二人の間に鳴り響く……

勇者「はぁ……はぁ……」

鼻が折れた……か?

とりあえず、鼻が不味い事になってるか……

膝は……まあ、大丈夫か。

それにしても、強くなり過ぎだな……魔王。

魔王「はっ……ははははは……はははっ!」

魔王「どうした人間!?」

魔王「貴様が死ねば人間が全て死ぬぞ……?」

473 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 22:06:50.30 BjLT8uNIo 198/236

ーーそんな事はどうでも良い。

人間なんて、どうでも良いんだ……

ただ……俺は、お前と一緒に……

それは……

ーー叶わぬ夢……か。

なら……お前を楽にする為に闘う。

こんな辛い顔をした奴を放っておけるかよ……

 勇者の瞳には、薄気味悪い表情をした美しい少女が映り込む。

 勇者の瞳には……助けを求めている様に見えてしまう。

 他者が見れば恐れ戸惑ってしまう顔をした少女だが、勇者には、どうしても哀れな……愛おしい者に見えてしまう。

魔王「どうした人間?」

……

勇者「嫌……何でも無い……」

救ってやるからな……

474 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 22:08:26.36 BjLT8uNIo 199/236

 背後で争う魔導と衝撃は、勇者が立ち上がると共に消滅した。

魔王「ほぉ……やるでは無いか」

勇者「まあな」

 奏でられる讃美歌。

 漆黒の瘴気が勇者へと迫り来る。

勇者「……」

神父の歌を思い出させてくれるな……

 自らの元へと迫り来る瘴気、勇者は剣を用い払う……払われた瘴気は勢いも収めずに勇者の元へと何度も迫る。

 瘴気は、無数の棘や無数の棒に姿を変え勇者の命を狙う。

 棘は枝分かれし、棒は尖となり。

 容赦無く、音を彷彿とさせる速さと、凄まじい勢いを持って勇者へと迫る。

勇者「うおおお!」

 直進。魔王の元へと凄まじい速さで駆ける。

 肩に刺さる物は気にしない、背中に刺さる物も気にしないが……自身の前と頭には一つの傷も付けさせない、前へ迫る物は剣で払う。

魔王「来るか……」

 ーー実際には魔王の予想とは反していた。

 既に勇者は魔王の眼前へと辿り着いている。

 魔王がその事に気付いたのは、少し冷たい風が通り過ぎ、同時に黒い水がほんの少し頬に当たった瞬間だった。

魔王「ーーっつ!」

勇者「はあ!」

 ーー振り下ろされる剣は魔王の身体に大きな縦の傷を付ける。

魔王「がぁっ……!」

魔王「人間……糞……人間……人間……この傷の痛みは忘れないぞ人間……」

魔王「貴様の五臓六腑一つ残さず切り裂き、跡も残さずこの世から消してやろう……人間!!」

 勇者の心臓へと手刀が迫る。

 勇者は剣で其れを受ける。

 ーーが。一瞬の隙を魔王は見逃さ無い。勇者の脾腹を的確に一瞬で貫く。

 両者の瞳は赤く血走っている。

475 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 22:08:54.11 BjLT8uNIo 200/236

勇者「がぁっ……はあ!」

 勇者は返す様に魔王の心臓へと剣を突く様に放つ、魔王は悠々と其れを掴み、空いた手は手刀となり瞳へと向け、其れは伸ばされる。

勇者「くっ……」

 限界寸前の時に腕は掴まれる。

 瞳へと手刀が辿り着く事は無かった。互いに一瞬で次の攻撃へと移る。

勇者「うおお!」

 一瞬を制したのは勇者だった……

 勇者の前蹴りは魔王の腹部を押し込むように痛みつける。

 当然の様に身体が飛ばされた魔王……だが……剣を放してはいなかった……手から血が出ても決して放す事は無かった。

 勇者は魔王と共に、飛んでしまう、自らの蹴りの勢いで飛んでしまっているのだ。

 水の跳ねる音が鳴り響く。魔王は綺麗に着地勇者は未だ宙に居る。

 剣を掴みながら腕を上にやる魔王……先程蹴りを入れられた者とは思えぬ佇まいである。

勇者「どうやって、あの体制から……」

魔王「単純な力だろう……」

 安安と腹は貫かれる。

魔王「ほお……鳩尾は避けたか……」

身体を動かして……か。無駄な抵抗だ。

476 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 22:09:46.44 BjLT8uNIo 201/236

勇者「うおおおお!」

腹が痛い……けど……

 剣に全力を込める、前へ前へと剣を押し込む。

 魔王の手からは更に吹き出す様に血が溢れる。そんな事すらお構い無しに勇者は剣に力を込める。

魔王「くっ……」

 手を切断される事を恐れてか、魔王は手を放し勇者の肩へ手刀を伸ばす、が……

魔王「……」

勇者「外れた……?」

 勇者は静かに魔王を斬る、斜めの傷跡が魔王に残る。

 ーー刹那。

 漆黒の雷撃が勇者を襲う、だが……其れも勇者を死に至らせるには物足りない、爆炎もうねりをあげながら勇者を苦しめる。

 ……が。勇者は止まらない。

勇者「があぁ……っ!うおおおお!」

 左から右へと剣を振るう、魔王も手刀で胸を貫く、更に縦へともう一つの手刀が降ろされる。

勇者は身体を回す、背中に与えられた傷など気にもせず、衝撃波を放つ。

魔王「ぐあ……!」

 衝撃波によって身体が引き裂かれる様な激痛が魔王を襲う、瘴気によって作られた壁等意味が無い様に。

 後ろへと魔王の身体が後ずさる。

 衝撃波の勢いに負けての事だが、魔王は直ぐに反撃へと移る。

 勇者の元へと駆ける。

魔王「人間ッッ!貴様ぁ!」

勇者「ふざけんな!!」

なんで……

勇者「お前が好きなのになんで……なんで……こんな思いをしないといけないんだ!?」

勇者「お前を何故殺さないといけない!?」

魔王「……」

ふっ……

 勇者の目の前で魔王は立ち尽くす。

 魔王から透き通った涙が零れ落ちる。

 水溜りで小さな水音が鳴る。

 笑顔を携えながら……最高の笑顔を向けながら……

 最後の願いが吐露される。

「ーー私を殺してくれ」

477 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 22:10:33.02 BjLT8uNIo 202/236

勇者「……」

ーー分かった。

魔王「……」

 瞳から溢れる涙は直ぐに止まった。笑顔も消えた。

 ーー再び憎しみを抱えた瞳が勇者を凝視する……勇者は、二度と其の顔を見たくない……そんな表情をした少女を見たくは無かった。

魔王「見られたく無い所を見られたな……人間……楽には死なせないぞ……」

勇者「ああ……楽に死なせてやる」

 勇者は駆ける、愛する少女の元へと。勇者は駆ける、全てを終わらせる為。勇者は駆ける、魔王の為に……愛する者の為に……

勇者「行くぞ!」

魔王「はは……っ!ははは!ははは……」

魔王「……」

 瞳を閉じる。

 ーーそして。決意の込められた目が開かれる。

魔王「来い……格の違いを見せてやろう」

478 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 22:11:27.94 BjLT8uNIo 203/236

 姫が居住する城の中では、勇者と魔王が闘っている最中に一般人なら必ず足を一歩程引くであろう事が起こって“しまって”いた。

「姫」

 姫の私室の扉の向こう側から、二回甲高い音が鳴り響いた。

「どうしましたか?」

 急いで身なりを整えた姫は、扉を開き応対した。

 城に駐在する兵士だった。

「王がお呼びです」

「分かりました」

父上がお呼び……?

「私室に来て欲しいとの事です」

……?

何故?私の考えが気付かれた?

いえ……そんな事は無いはず……

 思案する内に、王の私室の前に辿り着いていた。

 扉を二回鳴らす。少しの間が空いた後に直ぐに反応が返ってきた。

「入りなさい」

「はい」

 姫は扉を開き入室する、身体からは冷や汗が止まらない、嫌な予感しかしなかった。

 王はベッドに横たわったまま、シーツを身体の上に掛けたまま、動かなった。

「……」

 姫は王に歩み寄って行く……すると……奇怪な音が扉から鳴る、姫は異変に思い扉に手をかける……しかし、扉は開かなかった。

「?」

鍵が閉まってる……?

 そして……王が姫の背後に寄り添い、肩に手を置いた。

 姫は身体を振り返る……

 瞳に映るのは、一糸も身に纏わぬ裸の王だった。

 ーー其の時には、全て気付いていたのかも知れない。

「お父様……?」

479 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 22:12:23.94 BjLT8uNIo 204/236

「早くベッドに来なさい……」

「嫌……!」

 何回も扉を開こうと腕に全力を込め身体を引く、反応は無い……何回も扉を叩く、反応は無い……遂には王に両肩を掴まれる。

「嫌っ……!」

 掴まれた両肩を恐怖に思いながらも扉を必死に叩き、助けを求める。

「嫌!誰か!誰か!助けて!いやああああ!」

 両肩をを引かれ、ベッドへと身体を運ばれる、姫は必死に王の力に逆らい、地べたに這いつくばる勢いで身体を前に前に進めようと力を入れる、王の手から逃れようと身体を揺らす……が全て無駄な抵抗である。

「お父様ぁあ!やめてください!」

「今の私は王である前に一人の男だよ」

 力で敵わない姫は腕を掴まれると、ベッドに引き摺られる。

「母親に似て美しい……」

「やめてください!いやあっ!」

 平手打ちが姫の頬を赤くする。

「黙りなさい」

「……」

勇者様……

 姫は黙って、抵抗をするが……服が破かれて行く……。

 ーー屈辱が始まる。

480 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 22:12:49.33 BjLT8uNIo 205/236

 城から場所は戻り、舞台は水溜りの上。

 手刀と剣が激しく打ち合う、激しい音と衝撃が周りの水を揺らす程に響く。

 二人の打ち合いによる衝撃が遂に水を跳ねさせ、跳ね水は空中で更に飛沫をあげる。

勇者「はああ!」

魔王「はははっ!」

 互いに隙を見つけては、其処を突く様に攻撃を繰り広げる、ある時は魔導、ある時は瘴気、ある時は手刀、ある時は衝撃、ある時は剣、ある時は打撃。

 ーーある時は全て。

魔王「死ぬなよ?」

勇者「来るなら来いよ……」

 一度勇者から間を置いた魔王は、手始めに先程の魔導を全て放ち、瘴気は爆発を巻き起こしながらも無数の剣と槍と鋭い線を産み出す。

 鋭い線は幾何学な模様を描きながら、剣と槍は純粋に直線を描き、爆発は逃げ場を無くし、魔導は全てを蹂躙しながら……勇者の元へと迫る。

勇者「どうするか……」

 剣と槍と線を払いながらも思案する、自らの元へと確実に迫り来る魔導と其の前を歩く魔王への対処の方法を……

勇者「……」

取り敢えず……あれだな

 全力で剣を振れば瘴気から産まれし物は形を崩して行く、そして更に三回……全力で剣を振る、後の事等……考えている様子が無い。

腕への負担なんて……気にしない……

 魔王は放たれた衝撃を軽々しく躱した、衝撃は当然の様に魔導と衝突をする。勇者は何度も迫り来る線を斬り捨てながら魔王の元へと進む。

勇者「おおおおおおお!!」

481 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 22:13:29.68 BjLT8uNIo 206/236

魔王「くっ……くくく」

魔王「良いだろう!」

 ーー其の瞬間。魔導は衝撃に打ち消され、大きな音と飛沫と同時に魔王は勇者の元へと駆け出した。

勇者「はあ!」

ーーこれでいいのか?

 勇者は剣を振り下ろす、魔王は左の手刀で剣を受けると右の手刀で勇者の頭に突きを繰り広げた。

 勇者は勿論其れを躱し、更に剣を振るう……

 ーーが。魔王は大きく後ろに跳躍すると、瘴気を集め、黒い剣を誕生させる、量は……一つ。

勇者「……?」

勇者「もっと出さないのか?」

 ーー刹那。勇者の直ぐ右側を恐ろしく速く大きな剣が振り下ろされた。

勇者「……」

 振り下ろされるのが終わると大きな剣は形を消した。

 が……魔王の隣で黒い県は不気味な存在を放ちながら存在していた。

魔王「ーー無論。私には当たらない」

魔王「最後の闘いだ、行くぞ」

 ーー壮絶な斬り合いが始まった。

 互いに傷など気にせず斬り合う、肩を斬られようが、腹を斬られようが、足を斬られようが、気にせず斬り合う。

魔王「勇者ああああぁぁぁぁ!」

勇者「魔王おおおおぉぉぉぉ!」

 大きな剣が斜めに振り下ろされる……勇者の左肩から右の腰の辺り迄を斬った。

 大量の出血……斬られる瞬間、身体を逸らした事が功を奏し、両断される事は無かった。

勇者「……」

血が……

凄い……


482 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 22:14:06.33 BjLT8uNIo 207/236

勇者「はぁはぁ……」

糞……糞……!

 ゆっくりと剣を上にあげると、唐突に驚くべき勢いで剣を振り下ろした。

魔王「……?」

あの……かまいたちの様な物は出て無い……

私の勝ち……か。

魔王「ーーっ!」

 魔王は異変に気付く……なぜなら……右肩から腰迄の大きな傷を負っていたからだ。

魔王「……」

 無言で再び……決死の斬り合いが始まった。

 肩へと剣を振るうと、手刀で剣を受け、黒い剣が横に放たれると、勇者は身を屈め此れを避けると、斬り上げると魔王は手刀で更に其れを受けた。

 互いに決死の表情で斬り合いを続ける、何度も何度も何度も、黒い剣が振られ、手刀が振られ勇者の剣が振られる。が互いに対処をして躱し続けていた。

 ーーすると。

 勇者の剣が一直線に魔王の左肩を貫いた。しかし、魔王はそんな事すら気にもせず自ら勇者の方へと迫り心臓を貫く手刀が放たれた。

魔王「はあああ!」

 身体を逸らしたお陰で心臓避ける事が出来たが左胸を貫かれた……が。直ぐに互いに身体を引くと、守り無しの斬り合いを始める。

魔王「……!」

勇者「がああああ!」

 足、腕、腹、肩……を互いに浅い深い関係無しに、貫き、斬る。

 勇者は血だらけの身体を限界を超えて迄、使い、魔王を斬る。

 魔王も血に塗れた身体等気にせず、勇者を斬る。

483 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 22:15:25.60 BjLT8uNIo 208/236


 ーー遂に。決着が着いた。


488 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 23:30:59.99 weCBMzjVo 209/236

 ーー勝ったのは勇者。

 魔王の心臓を剣で貫いた。決定機を決めたのは彼だった。

 101日目が終わろうとする直ぐ前に決着が着いたのだ。

 だが……剣と全身は震え、瞳からは涙が止まらなかった。

 魔王は力無く、剣からすり抜ける様に水溜りへと倒れ落ちて行く。

魔王「かはっ……」

 勇者は動揺しながらも素早く剣を捨て、直ぐ様魔王を抱き留めた。

勇者「魔王っ!魔王ぉ!」

魔王「ははは……どうやら……私の負け…………の様だ」

勇者「どうしてっ!今まで……手加減を……!」

魔王「気付かれていたか……」

魔王「途中で貴様が好きになったから……貴様に死んで欲しく無かったから……手の内を教えて行けば、私に勝てるだろうと踏んでいたら……まさか……」

魔王「本当に勝てるとはな……ははっ……」

勇者「もしかして……」

魔王「嫌……今日は全力だ、あくまで手加減をしていたのは99日目までだ……素晴らしい男だ……貴様は……」

勇者「お前……ずっと……正気だったのか?」

魔王「それも気付かれたか……」

魔王「何……ただ、私の中にある感情を惜しげも無く前面に押し出していただけだ……今まで留めていた感情を……な」

魔王「ただ……それ以上に貴様が好きだったらしい……嫌……愛しているから、途中から元に戻ってしまっていたな……」

勇者「どうして……!?」

魔王「そうでもしないと、貴様が闘えないだろう?ーーそれに。100日目の時点で、私はどうやっても貴様に勝てない事を悟った……」

魔王「だから、限界まで力を戻し、直ぐに負けない様に、勇者と居られる時間を長くした」

勇者「どうして……?殺してくれ……と言った!?」

魔王「本音だ…………私が死んだら……人間全てが不幸になる……それに……疲れた……」

魔王「嫌な役割を押し付けてすまない……」

魔王「だが……」

 口から血を流しながら続ける。

魔王「貴様との日々は」

489 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 23:31:30.06 weCBMzjVo 210/236


魔王「ーー素晴らしい時間だったぞ」


490 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 23:33:16.28 weCBMzjVo 211/236

勇者「そんなのどうでも良い!!」

勇者「俺は魔王が居れば!」

勇者「それだけで良いんだ!」

勇者「魔王を愛しているんだ!!!」

魔王「ははは……嬉しい……嬉しい……嬉しいなぁ……」

魔王「私も愛しているぞ」

勇者「魔王が居なくなった世界なんて……!何も無いだろ!?」

魔王「私は勇者に生きていて貰いたい」

勇者「……」

魔王「それだけは言っておく……」

魔王「……」

魔王「今……貴様は人を恨んでいるだろう?」

勇者「人間のせいだからな……」

魔王「安心しろ、そんな憎しみも全て私が貰って行く」

魔王「人間全てのな……」

勇者「お前はどこまでも」

勇者「お人好しだな……」

勇者「魔王……愛してる」

魔王「私もだ」

 魔王は緩やかに微笑みながら、勇者を見つめる。

魔王「今になって、死にたくない……」

魔王「死にたくないなぁ……」

魔王「やはり、勝てると思っていたか?」

勇者「ああ……勝ちを確信してた」

魔王「ふふっ……私の事を愛しているか?」

勇者「当たり前だ、俺の方が愛している」

魔王「私の方が愛しているさ」

勇者「……」

魔王「……」

 互いに目を瞑り、手を握り合い、唇を重ねる。

 勇者は涙を流しながら……魔王は悔いの無い顔で緩やかに微笑みながら……

491 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 23:36:00.22 weCBMzjVo 212/236

 魔王の手は力無く勇者の手から離れ落ち。

 光の粉の様になり、消えて行く。

 ゆっくりとゆっくりと魔王の身体は消えて行き、唇を最後に此の世から姿を消した。

勇者「……」

俺の憎しみが……本当に消えた……

魔王……お前……本当に人間全ての負の感情を持って行くんだな……

分かった……生きてみるよ……

ーーありがとう。

492 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 23:37:16.81 weCBMzjVo 213/236

 城の一室。

 犯されている最中……姫は隠し持っていたナイフを王の脾腹へと刺した。

「があ!」

「ふざけるなよおお!糞餓鬼がぁ!」

「穢れた餓鬼がぁ!」

「私に楯突いて楽に死ねると思うなよお!?」

「ひっひっひっ……!」

「殺す……!」

 ーー刹那。

「……!」

「……!」

「私の身体があ!?」

 王の身体が、砂の様に溶けて行く。

「楽に死ねると思うなよ?」

「ひっ……!ひぃ!」

「貴様は殺す」

 遂に、王の身体は消えた。

 此の世から歪みが消えた。

「……」


493 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 23:38:56.98 weCBMzjVo 214/236

 呆然とする姫等いざ知らず、王の悲鳴を聞きつけた兵士達は、扉の鍵を開け部屋へと入ると……片手にナイフを持った姫を恐れてしまった。

「ひいい!」

「逆臣は撃ちました」

「この国の歪みを撃ちました」

「私に着いて来て下さい」

 国が生まれ変わった瞬間だった。

 其の瞬間……世界の人々は全員満ち溢れた表情をしていた様だ……

494 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 23:39:57.06 weCBMzjVo 215/236

 70年後……

「……」

「おばあさまー」

「おばあさまー」

「おばあさまー」

「どうしたの?」

「とりさんがきからおちちゃったの……」

「どうしよう……」

「ふえぇ……」

「ほら……見せてご覧なさい……」

勇者様が失踪してから私は、国の為、世界の平和の為に全てを注ぎました……とても素晴らしい世界になりました……後継は養子をとりました、勇者様……今……貴方は何処に居るのでしょうか?

でも……貴方が魔王を倒した事は確実です。

貴方のお陰で今……世界が成り立っています。

495 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 23:43:12.25 weCBMzjVo 216/236

 魔王の城があった場所に近い、自然に恵まれた孤児院……其のはずれで、翁は車椅子に座りながら、晴れ晴れとした空に照らされた木々の下に居た。

「おじいさん寝ちゃってるね」

「うん、起こしたら可哀想だから、そっとしておこうね」

 翁の肩には鳥が乗り、他の鳥達も楽しそうに飛び回っていた。

 鳥達は気にもせず翁の上に乗ったり降りたりを繰り返していた。

496 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 23:43:56.60 weCBMzjVo 217/236

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

勇者「良い天気だな」

 若々しい勇者は森の中を歩いていた。

 ーーすると。

魔王「久しぶりだな」

勇者「魔王……!」

そうか……俺は……

魔王「私の居ない人生はどうだった?」

勇者「まあまあだったな」

勇者「孤児院に住ませて貰ったよ」

魔王「見たところ……我が城の近くにあるな」

魔王「森の中の孤児院……気付いて無かったな」

勇者「魔王から近い所に住んでいたかったからな」

魔王「ははっ……惚れさせてくれるな」

魔王「見たところ……子供しか居ない様だが?」

勇者「ああ、俺が来るまでは子供だけで生計を立てていたらしいな」

魔王「そして貴様が来て生活が楽になった」

勇者「多分……な」

魔王「さぞ感謝されているな……」

勇者「どうかな?」

魔王「きっと、感謝されているさ」

勇者「それなら、良いんだ」

魔王「ふふっ、愛しているぞ」

勇者「なっ!不意打ちはずるいな……」

勇者「……」

勇者「俺も愛している」

勇者「ふぅー…………」

魔王「疲れたか?」

勇者「まあな」

 魔王は勇者を抱き締める。

魔王「お疲れ様……愛してる」

勇者「ああ……愛してるよ」

 勇者は微笑みながら瞳を閉じた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

497 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 23:44:29.02 weCBMzjVo 218/236


 車椅子に座っている勇者は肩と頭を垂らす様に落とした。

 鳥達は驚き、飛び去った。

 勇者の瞳は閉じている。

498 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 23:45:59.01 weCBMzjVo 219/236

 壮絶な闘いを101日繰り広げた勇者と魔王の闘いは後世に、脚色を加えられ、物語等、様々な形で残され、演劇のテーマに使われたりもした。

 だが……真の二人の物語は後世の人間が想像する物の全て上を行っている事は言う迄も無かった。

 ーー勇者と魔王。決して相入れる事の無い二つの種族は全ての運命を乗り越え、最後には結ばれ、世界を“二人で”救った。

 一つ言える事は……

 勇者と魔王……二人は確かに。

 ーー愛し合っていた。






499 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/27 23:47:40.37 weCBMzjVo 220/236

完結です。

長い間待たせてしまって申し訳ありません。

至らない所もあったかも知れませんが。

今までの保守や支援や乙。

ありがとうございました。

500 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/28 00:01:59.89 YKrLho2xo 221/236

乙乙乙!
すごい楽しかった!

さてこのあとのいちゃラブをだな

501 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/28 00:12:41.75 kSKqPuj6o 222/236

乙でした!!
待ってた甲斐があったよ


……二人のいちゃいちゃ読みたいなぁ(ボソッ)

502 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/28 00:13:35.18 TqRgP1H3o 223/236


ここで終わっておけよ、それが一番綺麗な終わり方でしょ


506 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/28 07:28:38.81 zZw4iJ5Go 224/236


長い間楽しませてもらいました


504 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/28 00:44:32.02 j9L4N9hCo 225/236

本当にありがとう。

とても清々しい気分です。

質問等はありますか?

507 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/28 11:24:55.43 ThVN/lsUo 226/236

質問は無いみたいだな。

それぞれのキャラの設定等、裏話を投下したいと思っているけど。

……見る?

509 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/28 14:43:33.19 qsziFHdWo 227/236

勇者

少女の子。

魔王を倒した後は孤児院の子達を導いたりしていた。

結局は魔王以外はどうでも良かった。

510 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/28 14:47:00.09 qsziFHdWo 228/236

少女

勇者の母。

狂い始めた歯車を止められず、舌を切り自殺。

514 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/28 14:57:22.57 qsziFHdWo 229/236

神父

産まれた時から宗教に預けられていた。

少女と結ばれ。

宗教の権力者に全てを奪われ、復讐を決意する。

宦官となり王に接近し、着実に権力を得て行くと、宗教のトップに君臨する。

そして、自らと少女を今まで蹂躙して来た者達を全員殺した。

最後は勇者を見届け幸福に死亡。

515 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/28 14:59:49.27 qsziFHdWo 230/236

王。

全ての元凶。

女を屈辱し続け、政治も行わず、国を腐敗させた張本人。

最後は砂となり死亡。

この物語の暗い部分の存在。

516 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/28 15:06:32.37 qsziFHdWo 231/236

姫。

王に犯された数多い女の中の一人の子。

城で過ごしていた時に勇者に惚れる。

王に犯され。王が死んだ時。彼女の苦難が始まった。

唯一の王の血縁者として国を納め、名君として世界に名を轟かせる。

腐敗した国と世界を立て直した。

生涯独身を貫き、養子を取り、自らが衰えた時に養子に全てを託した。



517 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/28 15:09:32.93 qsziFHdWo 232/236

王女。

王の妹。

最初は愛し合っていた婚約者が居たが、王に全てを無茶苦茶にされ、破断。

王が死んだとの報を聞くと、喜びと虚しさが自身を襲った。

自殺したのは王が死んでから三日後の事だった。

518 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/28 15:20:23.31 qsziFHdWo 233/236

魔王。

世界の負から産まれた少女。

彼女が魔王と呼ばれる迄にはそこ迄の時間がかからなかった。

最初は力を溜め、世界を一瞬で滅ぼそうとしたが、勇者によって計画は、破断。

勇者にはもしかしたら一目惚れをしていたのかもしれない。

勇者と闘って行く中で勇者を好きだと確信し、そして、勇者と同じ人間達すら愛してしまった。

誰よりも全てを愛していた。

自らが死ぬ事で世界が救われる事を、悟る。

クライマックスの、殺してくれ発言は、勇者との別れを惜しみ……初めて本当の涙を流し、負を持っていくと決意した上の発言。

勝てない事は100日目に悟っていた。

最期は勇者と結ばれ、幸福の中で死亡。

世界の負、全てを貰い、彼女は平和の礎となった。

誰よりも勇者を愛していた。

519 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/28 15:26:48.36 qsziFHdWo 234/236

設定終わり。

みんなキャラ濃いですね。

大体プロット通りに完成出来たのは嬉しいです。

やはり主役は勇者と魔王ですね。

好きなキャラも教えてくれると嬉しいです。

感想も言ってってね。

533 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/30 19:30:52.87 s9e7oRlXo 235/236

面白かったよ乙!

534 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/31 11:02:04.23 oU1a7xqto 236/236

乙でした!

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