1 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/07 01:27:34.13 cvCrYK7B0 1/236

勇者「遂に、辿り着いた……」

 この世界の希望は、胸を昂らせながら。目の前に広がる巨悪の根源が力を蓄えし根城を見つめていた。

勇者「早く行って、力の供給を止めなければ……!」

勇者「……!」

勇者「……扉が開かれた」

 勇者を歓迎するかの様に、扉は開かれた。勇者の顔には驚きの色こそあった物の、直ぐに覚悟を決めた人間の顔だった。

勇者「望む所だ」

 誘われるがままに勇者は巨悪の根源へと、駆け出した。

勇者「はぁっ!」

魔物「ギャー!」

 今までの魔物達とは段違いの実力を持った、有象無象の魔物達を撫で斬りながら、勇者は進む、ただただ進んで行く。

元スレ
勇者「俺と魔王の101日決戦」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1336321653/

2 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/07 01:28:42.63 cvCrYK7B0 2/236

勇者「……」

――思えば……色々な出来事があった。子供の頃に、王様の乗る馬車に轢き殺されてから、身寄りの無い、貧しい人生から一変!世界の希望を一身に背負う勇者様だ。確かに、栄光の人生だよな。

勇者「はぁ……!」

魔物「グゲー!」

かなり強いな、今までの奴等が可愛く見える。しかし……こいつ等を統べる魔王と言うのは、一体どれほどの……?

勇者「辿り着いたか……」

俺には、まだ死ぬ事が許されている、確かにこんな体だと、勇者認定されるよな。
俺は希望……この世界唯一の……希望。
俺が居なかったら、皆、絶望を待っているだけだ。
俺は勇者なんだ……だから、魔王を倒す。

3 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/07 01:30:00.92 cvCrYK7B0 3/236

 勇者が、重く、豪勢な、扉を開けると……其処には巨悪の根源が威風堂々と禍々しい瘴気を吐きだしながら立っていた。

勇者「お前が魔王か?」

魔王「……!」

勇者「?」

魔王「お前が勇者か?」

勇者「……」

魔王「……」

勇者「如何にも。俺が勇者だ」

魔王「成程。私は魔王だ」

 多少、奇妙な遣り取りを終えた後、異常に肥大して屈強な数本もの腕と、根本的に全てを支える二本の脚、何人もの人が大量に入るかと想像させる程の異常に肥大しきった胴体、鬼神を更に悍ましくした様な巨大な頭部。そして何よりも、最も恐ろしいのは……黒、全てにおいて黒い、顔も脚も胴体も腕も……全てが、禍々しく、黒いのだ。

魔王「勇者よ、良くぞ此処まで辿り着いた。褒美だ、今までの魔とは違う、魔の真髄を地獄の土産に教えてやる」

なんだ……こいつは?全てにおいて違う……間違い無く魔の頂点だ……こいつを倒せば、確実に世界を救う事が出来る!

勇者「――うおおおお!」

 勇者は、最後の敵へと、駆け抜ける。栄光を得んが為に。

魔王「落ち着きが無いな……」

 勇者が魔王の目の前に立ち、剣を振りかぶった瞬間……勇者は、協会の中で、皺が目立つ、初老の神父の前へと立っていた。

勇者「……!」

神父「勇者殿、貴方が此処に来るのは、幼少の頃を入れて、二回目……でしたね」

勇者「はい……」

神父「相手は?」

勇者「魔王」

4 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/07 01:30:47.74 cvCrYK7B0 4/236

神父「貴方も大変ですね、死んでも蘇る体を持ったお陰で、勇者へと祭り上げられてしまったのですから」

 神父は紅茶をカップに注ぎなから。皮肉混じりに同情の意を話す。

勇者「貴方が、居なければ、俺は勇者になっていませんよ」

神父「最初は冗談かと思いましたね、王の馬車に轢かれた子供の話を聞いた翌日に、貴方が、光に包まれて、此処に現れたのですから」

神父「そして、死んだ筈だと困惑した貴方を見て、確信しましたね、貴方は勇者だと」

勇者「それだけで?」

神父「条件が見事に合致しましたので」

勇者「――世界を救う覚悟がありますか?」

勇者「そう、聞かれた時は、流石に驚きましたよ」

 神父はばつが悪そうに笑みを零す。流石に自らでも、恥かしい事を言った自覚はある様だ。

神父「ははは……お恥ずかしい」

神父「死んでも蘇る事が出来るのが、勇者ですからね。昔から決まって」

「何故?」

神父「死んでも蘇る事の出来ない人間が、勇者をやっても、無意味だから……かと」

「案外適当ですよね……神の啓示も無いですし」

神父「貴方が蘇った事が神の啓示ですよ」

5 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/07 01:31:18.05 cvCrYK7B0 5/236

勇者「伝説によると、俺は、後何回……蘇る事が出来ますか?」

神父「悪魔で、伝説だと99回ですね」

勇者「神父様らしく無い言葉ですね」

神父「神は全能ではありますが、伝説は、人が作った物ですので。其れに……元々、神は、必ずしも。全員を助けてはくれません」

勇者「貴方らしい」

神父「貴方も大概ですよ」

勇者「……食いはぐれ無い為には、其の道しかありませんでしたからね」

神父「一昨年まで、面倒を見て貰ってらっしゃったのですよね?」

勇者「剣術や魔法の教育等の英才教育がありましたからね」

神父「挫折は?」

勇者「勿論ありません、元々才能はあった様で、何でも、吸収しましたからね」

神父「そして、昨日、挫折を味わったと……」

勇者「……はい」

勇者「所で……“昨日”と言うのは?」

神父「貴方が死ぬと、一日経ちますからね……」

勇者「そうでしたね」

神父「幼少の頃も、死んでから一日ですよ、蘇りは」

勇者「伝説では?」

神父「さぁ?」

勇者「死体は、光になるんですよね?」

神父「ええ……そして、身体では死ぬ直前の時を回復させた身体が光と共に現れて、蘇る事ぐらいしか、蘇りの事は関知していません」

6 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/07 01:32:51.53 cvCrYK7B0 6/236

勇者「成程、1番強い時で蘇るのを繰り返して行く、そして。魔王を倒す……ですよね?」

神父「はい。伝説によると、ですが」

勇者「お茶、ありがとうございます」

 勇者は、感謝の意を述べると深々と礼をする、本来、真面目ではあるが、其処まで真面目なのは、珍しい事である。

神父「私の前だからって、礼儀正しくする必要はありません」

神父「寧ろ、これからも、本来の貴方を見たいですね」

勇者「……」

勇者「分かった」

勇者「神父様……これから、魔王を倒しに行って来るからな、気楽に待っていてくれ」

神父「はい、お気を付けて」

 勇者は緩やかに笑みを零すと、強い光が勇者の姿を掻き消して行く。

 ……転移魔法。彼が希望である事に人々が文句を付ける事が出来ない由縁の一つである。

神父「……」

神父「――勇者に神の御加護があります様に」

8 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/07 02:24:38.32 cvCrYK7B0 7/236

魔王「死体は光となったか」

魔王「口程にも無かったな」

 昨日、勇者を屠った巨悪の根源は、魔の王座に腰を降ろしていれば、退屈そうに感想を述べる。

魔王「我を立ち上がらせる事すら出来ずに、人の希望は果てた……光となってな」

 クックックと。声を漏らせば、黒色の顔を歪める。

 ――が、歪みは、直ぐに、止まった。自らに通ずる扉が開かれたのだから。

勇者「よう」

魔王「……!」

勇者「何故生きているか?」

勇者「お前が生きていたら、教えてやるよ!」

魔王「……」

勇者「……!」

 希望は、またもや、あっさりと。屠られた。絶望によって。

魔王「跡形も無く、消した。我が魔導によって……」

9 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/07 02:25:17.03 cvCrYK7B0 8/236

魔王「……!」

勇者「驚くなよ、教えてやるから」

 驚く事も無理が無い、完膚無きまでに消した男が、目の前に立っているのだ。

勇者「教えてやるよ」

勇者「俺は、101回死ねる。理由は分からない、ちなみに……後、何回死ねると思う?」

魔王「……」

勇者「……」

 勇者は剣を抜く。その顔付きは間違い無く、幾千もの修羅場を超えて来た顔だ。

 瘴気が辺りを包んで行く。香りはしないが、音はする……其の音は、人々や悪魔達の断末魔と、風の金切声が交互に、奏でる。不協和音に近い、不快音である。

勇者「98回だよ」

魔王「そうか」

魔王「ハッハッハッハッ!」

 魔王が高らかに笑い声をあげれば、瘴気が、一面に染める。魔王が笑えば笑う程、辺りが、更に黒々しく……恐怖に染まって行く。

勇者「行くぞ……!」

 もはや、焼け糞だった。勿論、玉砕覚悟の突撃は、勇者を恐怖から逃がす事しかしなかった……魔王の手刀によって。

13 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/08 01:12:33.28 TChkAb9s0 9/236

 勇者と魔王が初めて巡り合った時から、数日が経っていた。勇者は、連戦連敗。魔王は、連戦連勝。世界は未だに絶望が支配していた。

 ……希望は懲りずに、またもや、魔王の前に立っていた。

魔王「……力を溜める事が出来ないのだが」

勇者「お前の力の供給が終わったら、人類が滅びるだろ!」

魔王「こんな雑魚を相手にするのにも、力を溜める事を止めなければいけない……か」

勇者「七度目の正直だ!喰らえ!」

 勇者は、低い姿勢から剣を抜き魔王に迫って行く。

魔王「貴様が来てから7日か……」

 希望はみるみる内に迫って行く、そして……一撃は魔王の目の前で……止まった。

勇者「あっ……ぐぅ……」

 ――勇者の動きが止まる。

魔王「単純だな」

 魔王の数本もの腕が、勇者の、首、肩、脇腹を掴めば、容易く潰す。首から上は血を噴き出しながら脆くも転げ落ち、肩はただ単に、潰れた肉塊から骨を露出させ、脇腹からは、じわじわと血と、潰れた臓器が溢れ出していた。

魔王「また死んで来い」

 ……あっさりと、絶命、この7日間ずっと、この様である。

14 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/08 01:14:08.48 TChkAb9s0 10/236

 そして、またもや希望は神父の目の前に立っていた。

 教会の開いた窓が、勇者を照らす。神父は溜息を吐けば、勇者を一瞥し、また、溜息を吐く。

神父「鍛練したらどうですか?」

勇者「だな……」

 そしてまた、強い光が勇者を掻き消して行く、果たして、神父の提案は聞き入れられたのか。

勇者「鍛練……雑魚狩りか」

 勇者は巨悪の根源が潜む城の中。有象無象の魔物達を隈無く撫で斬る様になっていた。

魔物「ぴぎゃー!」

魔物「ぎゃー!」

魔物「げげげー!」

魔物「ガー!」

 多数の断末魔が響き渡る、勇者は、最後の魔物達を軽々しく撫で斬って行ける程強いのだが……魔王は、其れをいとも容易く屠る。勇者が弱いのでは無く、魔王が強すぎるのだ。

15 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/08 01:15:22.12 TChkAb9s0 11/236

勇者「強くなれたのか?」

 巨悪へ通ずる扉を再度開く。相変わらず、魔王は其処に居た、漆黒の瘴気が、二人を惹き立たせる。

魔王「遅かったでは無いか」

勇者「待たせたな」

魔王「死ね」

 魔王の手刀が、勇者を貫い……てはいなかった。

 何時もは、反応出来て居なかった勇者が反応していたのだ、手刀をしっかりと、止めていたのだ。

勇者「はぁ!」

 直様、勇者は、手刀を振り払えば、魔王に剣を振るう

魔王「ぐっ!?」

 勇者の一撃は、魔王の肩に傷を付けたが……絶望が牙を剥いた。

 魔王の脚が勇者の首を捉える、其の瞬間。頭は胴体と別れを告げていた。

魔王「勇者……か……」

 そして、また翌日の朝に、勇者は教会へと蘇る。

神父「……どうでしたか?」

勇者「希望が見えた」

19 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/09 18:37:27.45 IPDWHj050 12/236

魔王「17回目の挑戦か」

勇者「悪いか?」

 そして、17日目の世界を左右する戦いが始まる。

 勇者は、魔王の目の前まで踏み込んで行く。

 対する魔王は、多数の腕にて、勇者の攻撃を“受ける”体制を取る、一日目では想像もつかぬ光景。

 ――希望が強くなって行く。

勇者「はあ!」

魔王「ふん!」

 魔王は自らの脾腹を横切らんとする剣を手刀で受ける。

魔王「良いな……貴様」

勇者「?」

 魔王は、攻防の中、勇者に対して問い掛ける……

魔王「貴様の理想は?」

勇者「お前を倒す事だよ!」

魔王「何故?」

 互いに体は止まらぬ中、勇者と魔王は会話を始めた。きっかけ等はきっと無い、ふと思いついた事を口に出したのだろう。

勇者「――お前の理想は?」

魔王「貴様を倒し、世界を手中に納める事だ」

勇者「何故だ?」

魔王「……」

勇者「……」

 剣と手刀が響き渡る音のみが続く。

20 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/09 18:37:59.69 IPDWHj050 13/236

魔王「……話を変えよう」

魔王「私を倒した“後”はどうする?」

勇者「……!」

魔王「……」

勇者「お前は、俺を後83回倒して世界征服をした“後”はどうする?」

 互いに、動きが鈍る。瘴気が奏でる不協和音が一層、この二人を動揺させた。

魔王「何時は聞き慣れている音だが……」

魔王「今は不快だ」

勇者「俺達って……ただ、目標を掲げているだけなのか?」

魔王「……」

魔王「話すのは、また明日だ」

勇者「なっ……!」

魔王「今は、一人にさせてもらう」

 隙ありと、言った所なのか。勇者の心臓は、一瞬にして魔王の手によって抉られる。

 勇者の口からは、血が絶え間なく溢れて行く。意識も朦朧として行く中、勇者は、自らの存在を意識し始めたのであった。

勇者「ゴフッ……!」

魔王「お大事に」

26 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/11 00:22:25.04 gQYR9tXF0 14/236

遂に、30回目がやって来た。

もう、俺は、魔王を倒せるだろう。

既に、俺の優勢続きだ、昨日で確信した。今日で俺が勝つ。

 勇者は、目の前の扉が開かれれば、魔王の脇へと駆け抜ける、直様、脾腹を裂く為、横一閃を目指し、横に腕を振るう。

魔王「速いな」

勇者「お陰様でな!」

 魔王は“なんとか”手刀で攻撃を凌ぐ。

 反撃をさせる暇も無く、勇者の剣は、果敢に魔王の命を狙う。

魔王「……私を倒したらどうする?」

勇者「倒してから決める!」

分かってる、俺には、何も無いって事を。

分かってる、俺は、空っぽだって事を。

そして、あいつ……魔王だって、きっと……空っぽだ。

勇者「はぁ!」

魔王「ぐっ……!」

 勇者の剣は、魔王の頭を貫く、漆黒の瘴気が溢れ出る。

勇者「うおおお!」

 勇者の剣は、其のまま剣を地面へと、押し通す。

魔王「……!」

27 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/11 00:42:04.42 gQYR9tXF0 15/236

……倒した。

……これで終わりか。

この後、どうしようか……悩むな。

魔王「どうした……悲しいのか?」

 本来聞こえる声は、もっと……篭っていて、低い筈だが。其れは、高かった。元々、本来がこの高さと伺わせる。

……!

女の声?

なんだ?……何が起きている?

魔王「……力の溜めが不十分だが、この姿に”戻る”しかあるまい」

魔王「これから力を溜める手段は、幾らでもある」

 先程まで、不協和音を唄い散らしていた瘴気は……讃美歌の様な、美しい音色へと、変貌していた。

 大量の瘴気が魔王を包み込む、勇者は動揺なのか、ピクリとも動かない……嫌、動けなかったのだ。

なんだよこれは?逃げなければ……死ぬ。絶対死ぬ。――逃げろ、全力で逃げろ!……糞っ!

動けよ、体……!

魔王「恐いのか?」

勇者「!」

魔王「無理も無い」

 瘴気が晴れて行き、一つの姿を鮮明に映し出して行く。

 ――其の姿は、鮮やかだった。

…………黒髪の……女?

勇者「!」

 一瞬だった。勇者の目に映し出された者は、勇者が気付く間も無く、希望をあざ笑うかの様に、赤子を捻るかの様に、“消した”。

32 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/12 00:17:41.46 n94+VXQ+0 16/236

勇者「……」

神父「おはようございます」

 消された者は例の如く教会へ姿を現せば、先程まで教会を散策していた小鳥達が散る様に去って行く。

神父「行ってしまいましたね」

勇者「……」

神父「あの様な、警戒心の強い動物は、死んだ人間でも無い限り近寄りもしませんよ」

勇者「行って来る」

神父「早いですね」

 と……神父が問い掛けるが。其の時には、光のみが残っていた。

神父「神の御加護を……」

33 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/12 00:18:20.88 n94+VXQ+0 17/236

――見たい

姿を見たい

顔を見たい

体を見たい

あいつをもう一度、出来るだけ長く見たい

 蹴散らされて行く闇の分身、蹴散らして行く希望、其の目が移す物は、……31度目の黒だった。

 ――扉が開かれる。

魔王を見たい……

勇者「……」

 闇の間へと脚を踏み出す。見えたのは、絶望……

 そして、一瞬。一瞬にして、意識が途切れる。

 またもや、消されたのだ。

40 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/19 01:20:52.35 E7AOsvaB0 18/236

勇者「……うおお!」

 柄にも無く、けたたましく、闇の眷属を葬る。希望の光……其の光は、今にも消え入りそうな光であった。

勇者「はぁ……はぁ……」

 荒げた息は、闇の主へと通ずる扉に掛かる。

勇者「……」

 整えられる息は、希望と称えるには、到底、及ばなかった。

 ――そして……扉が開く。

魔王「弱い」

――また、負けか。

 扉を開いた時には、首から上が頼り無く転げ落ち、緊張の解けた体は、だらしなく中身を垂れ流していた。

魔王「……汚い」

魔王「早く、消えて欲しい物だな」

 そして、日が回れば。協会の神父はいつも通り、弱い光を優しく迎え入れる。

神父「最近早いですね」

勇者「次は、最近遅く……してみせる」

41 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/19 01:21:27.67 E7AOsvaB0 19/236

神父「どうぞ」

 丁寧に、紅茶とパンが置かれる。

勇者「……」

神父「最近、帰って来る事が早いですね。どうしました?」

勇者「真の姿を見せられた」

神父「真の姿……?」

 互いに両者、紅茶を啜る、神父は不安。勇者は焦り。神父と勇者……元の感情は一致している。

 それは、恐怖。

 勇者は、圧倒的な力の差に為す術も無く、一瞬で屠られる事が続き、神父は帰りの早い勇者を何度も見ている。

 死ぬのが早い程、帰りが早い。遅い時に朝9時、通常時に朝7時、早い時は朝5時……其の事を把握したのは、33日目……今日、そもそも、互いが薄々と理解していた事だった。

 其れが、勇者の醜態を示し、二人を恐怖へ誘っていた。

勇者「行って来る」

 そそくさと朝食を詰め込めば、光が勇者を掻き消していた。

神父「あっ……」

神父「まだ……聞きたい事がありましたが……」

神父「神の御加護を……」

 そして、早朝。

神父「早いですね」

勇者「為す術も無い、強過ぎる」

45 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/20 02:22:50.80 NUHX0y/60 20/236

神父「……」

勇者「……」

神父「続ける事が……近道かと」

勇者「分かってる」

 会話を途絶えさせ、掻き消すのは光。其れは34回目の挑戦と言う意味。

 光が希望を掻き消した時……闇の根城の主が座する間では。沸々と蔓延する瘴気、其の中心には、何時も闇の主が君臨をしている。

 瘴気の中心は頂点……闇の頂点なのだ。

魔王「来たか」

魔王「今回も、我が眷属を屠るか……勇者」

魔王「次こそは、持ち堪えて欲しい物だ」

 頂点は、何処を見間違え様が、人にしか見えぬ……が。一つの尻尾が人外たる所以を示す。

 其の尻尾は柔軟性の有る、先端部が鋭利な尻尾。其の言葉で説明が着く。

魔王「扉を開けるか……」

 頂点は、緩やかに、笑みを浮かべれば、漆黒の髪をくるくるとくねらせる。

 ――扉が開かれる。

 髪は瘴気を靡かす。

魔王「早いな……私直々では無く、我が力に消されるとは」

魔王「まだ弱い」

魔王「……が」

魔王「最近は、身体が残って居るではないか」

 希望の頭頂部からは、考えを司る臓器が上へと溢れ、頭頂部から下は、だらしなく下を向いていた。

48 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/22 00:17:28.22 ba36Bb/l0 21/236

神父「悔しいですか?」

勇者「勿論だ」

 勇者は苦虫を噛み潰した表情で、神父を一瞥すれば、直様下を向く。

神父「自信が無い……ですよね?」

勇者「……」

 少し頭が揺れる、其れは、頷いている様だった。

神父「安心してください」

 神の使いは、軽く一息吐き、柔らかい表情で、場を穏やかにする。

勇者「……?」

神父「誰も貴方を責めませんよ」

神父「貴方が背負っているのは期待では無く、重圧です」

神父「もう少し気を抜いて、次からは期待を背負ってください」

 心無しか、勇者の顔は綻んでいた。

50 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/24 00:35:47.79 kLVsTJRK0 22/236

 ――勢い良く、音が置き去りにされる速さで扉は開かれる。無論。其れは人類の希望である

魔王「……」

 またもや勢い良く、音を置き去りにして、希望を消した。

魔王「早く強くなれ……」

 36日目……37日目……38日目……39日目……常に勇者は、消され続けていた。順調に、無情に、常に一瞬だった。

神父「40日目ですね」

勇者「……」

神父「どうですか?」

勇者「耐えられる……」

神父「耐えられる?」

勇者「最初の攻撃で何時も、俺は命を落としている」

神父「未だ、格の差が大きいですね」

55 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/27 00:38:08.51 M1prS/GJ0 23/236

神父「……」

 神父の穏やかな瞳が勇者を優しく見つめる、其の目には皺が寄っており、其れが神父の人格……善人である事を一目で理解させる。

勇者「でも……今回は、耐えられそうなんだ」

神父「ほぉ……」

 光が自信を持つ男を掻き消す。

 其の光景を神父は、ただただ見詰めていた。

 ――慈愛に満ちた瞳で……

勇者「変な、おっさんだな……」

 宿敵への扉を開く、宿敵は何時もの様に、黒い何かで、希望を掻き消さんと、勇者を狙う……一歩も動かずに。

今なら見える、この……瘴気が……!

何時もなら、見えずに一瞬で、消されていた……

今なら、其の速さに付いて行けるッッ……!

勇者「うおおお!」

魔王「……!」

反応したか……面白い……流石、私が認めた男だ。

 希望の切っ先が、絶望の瘴気を……横から掻き消すかの様に、扉を伝う壁ごと薙ぎ払う。

勇者「……」

魔王「……」

今になって……やっと……姿を見た……

……美しい、この女が魔王……

 勇者の目に写ろうのは、可憐な美少女。瘴気を纏う漆黒の髪。全てを吸い込む秘宝の様な黒色の瞳。簡素な造りだが、其れが着る者の美しさを理解させる黒色のドレス。唯一、人外を示す、漆黒の瘴気を纏う、矢印の形をした尻尾。そして、何よりも、今迄……全ての四つの黒を否定するかの様に白い……白磁の様な肌。

 “一つを除けば”人だった。

56 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/27 00:39:01.54 M1prS/GJ0 24/236

魔王「偉い」

勇者「……?」

魔王「よくぞ……ここ迄、耐えた」

 華奢な少女は、笑みを浮かべながら、勇者を手招きをする。

魔王「撫でてやろう」

魔王「来い」

 絶望に手招きをされた希望は、ピクリとも微動だにしなかった。

勇者「断る」

魔王「この私が、愛でてやろうと言うのに……つれないやつだな」

 勇者は溜息を付けば、魔王に、獲物の切っ先を向ける。

 魔王も微動だにせず、ただただ……勇者を見詰めていた。

勇者「一つ聞きたい」

魔王「ここ迄耐えた褒美だ、聞いてやろう」

勇者「“お前”は、今迄何処に居た?」

57 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/27 00:39:40.54 M1prS/GJ0 25/236

 ――沈黙……二人の間には何も無いが、沈黙が場を支配していたが……直様其れは、終わった。

魔王「今迄私は、十日前迄、貴様が闘っていた、道具に居た」

勇者「……」

魔王「アレは力を溜める道具にしか、過ぎない」

魔王「あの、巨大な腹部に居れば、私は力を迅速に溜める事が出来たが……貴様が、見事に壊したからな」

魔王「面倒だが、私直々に、世界を支配しよう」

勇者「道具であの強さか……」

魔王「当然だ。私のお気に入りだからな」

勇者「けど、世界はお前の物にならない……」

魔王「……?」

 希望が剣を構える。堂々と……

 絶望は、遂に……身体を動かす。

 椅子から魔王は立ち上がる。

勇者「……!」

魔王「来い……格の違いを見せてやろう」

67 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/30 00:21:42.89 FczIAXX60 26/236

 緩やかに堂々と、少女は、裸足の足を前へと進める。

 爪先は、勇者を捉えている。

勇者「……」

魔王「どうした?臆したか?」

 ――其の時。

 勇者の目の前には、敵が存在。

 音を超えた手刀が勇者を襲う。

 魔王の体制は、只、立ち尽くしているのみ、腕以外は、ピクリとも揺れる事は無かった。

勇者「く……!」

 勇者の剣は、確実に手刀を抑える。

 乱雑に勇者を襲う手刀は、止む事無く、じわりじわりといたぶる。

勇者「……」

反撃の機会が……無いっ……!

68 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/05/30 00:22:15.91 FczIAXX60 27/236

魔王「ふん。ほら……更に行くぞ」

 魔王の足が地面を踏み込み、前へと進む。

 乱雑な手刀は、数が増えて行き、絶望が前へと進む度、希望は後ずさる。

勇者「糞……!」

 成す術も無かった。勇者の剣は、敵の攻撃が増えて行く度、反応が遅れて行く、限界は目の前に迫っていた。

魔王「そろそろ飽きたぞ……」

勇者「……?」

魔王「さらばだ」

 先程迄反応をしていた、剣は、力無く手元から零れ落ちる。

 未だ埋まらぬ差が、世界を絶望に染める。

72 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/06 02:12:03.91 vFDR0pWI0 28/236

 41度目の7時への帰還。

 帰還を果たした男の顔は自信に満ち溢れていた。が……直様、体を地へと、揺るがせ、落とし込ませた。

勇者「はあ?……疲れた!」

勇者「それに……あれだけ攻撃を堪えても、7時かよ!」

神父「ふふっ……」

神父「冷静さがありませんね……どうしました?」

勇者「嫌……魔王の攻撃を頑張って、防いで粘ったのに、帰って来るのが7時だったから……」

神父「前よりはマシでしょう?」

勇者「……ああ」

 素朴で質素だが、動物達が華やかに命を奏でる協会の中、其の主……神父の問いに対して、静かに同意をする。

 其の姿は、大胆不敵であり、間違い無く、勝利を確信した者の姿であった。

 ――が。

 世界を楽観視している者。世界を滅ぼす草分けに成らんとする者。

 其の差は未だ歴然だった。

73 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/06 02:13:06.13 vFDR0pWI0 29/236

 闇の化粧を纏う者、其の姿は自らを更に引き立たせる為に纏っている様であった。

 今日初めて、自らの意思で、闇を纏っていた。

魔王「ふふふ」

 闇の中で、不敵な笑みが零れる。

 其の笑い声は、やはり……幼い。

魔王「奴め……今の私の姿を見たら……何と言うか?楽しみだ……」

 其の笑い声の主の背後には、反応を期待されている者が立っていた。

勇者「ああ……」

勇者「何も見えないな!」

 背後から、切っ先が垂直に、風の速さ……疾風の如く、声の主に襲い掛かる。

 声の主は軽々しく、右足を軸に半時計回りをすれば、闇の化粧を、背後から襲い来る剣を躱すと共に拭い去る。

 そして、向き合う二人の宿敵。

 闇の主は不機嫌に頬を膨らませる。

 期待を背負う者は、真剣……一寸も揺れぬ視線を闇の主に送っていた。

魔王「……」

魔王「的確だ」


78 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/09 17:32:17.66 VoA0YgMQ0 30/236

魔王「が……」

勇者「?」

魔王「的確だが……つまらない」

魔王「貴様は、私をもっと愉しませろ……愉悦を味合わせろ」

勇者「……」

 退屈な王は興が醒めたのか、僅かに溜息を吐く。其の溜息からは漆黒の瘴気が溢れて行く。

勇者「俺は、お前を楽しませる為に……此処に来た訳では無い!」

 一寸も揺れぬ視線は、 みるみる内に力を増して、其の先に居る者を威嚇する。

 ――が、視線を送られる者は、不敵に微笑む。

 其の瞬間、42度目……世界を賭けた、闘いが始まった。

79 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/09 17:33:33.97 VoA0YgMQ0 31/236

 先手を切ったのは勇者だった。

勇者「はあ!」

魔王「むっ……!」

 一息で敵の懐へ潜り込めば、手傷を与えんと、剣を振り抜く。

魔王「ふふ……!」

 降り抜かれた剣は、易易と、宙へと身を翻した者によって、上から下へと、踵によって、手から蹴り落とされる。

勇者「くっ!」

 ――絶対絶命。

 蹴りの衝撃で、剣を持っていた手は、形を保っておらず、激痛で顔が歪む。

魔王「ハハハ!」

 休む間も無く、追い討ちが襲う、命辛々と、一寸の所で攻撃を、右へ、左へ、下へ、左へ……と避けて行く。

糞……!反撃の隙が無い……

魔王「どうした?」

魔王「私は、脚しか使っていないぞ?」

勇者「な……!?」

 非常な真実への動揺……其の一瞬の隙が、弱者を消す。

 勇者の首から上は、斜めへと寸断する脚によって、無様に、不細工な形を成していた。

83 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/10 12:47:32.46 RMAmrSzX0 32/236

 不細工な“物”を尻目に魔王は溜息を漏らす。

 小さな口からは、黒い瘴気が溢れる。

魔王「……日を追う毎に強くなったな」

魔王「私は待っているぞ」

魔王「ずっと……な」

 緩やかな笑み、其の笑みは、慈愛なのか……愉悦なのか……其の事は当の本人にしか分からない。

魔王「ようやく、私と渡り合える者が来た……簡単に手放してたまるものか」

魔王「我が眷族を屠った事も許してやるさ」

魔王「今は貴様に夢中だ」

魔王「と言っても……死んでるか」

 少しの倦怠感か、“物”の上に覆い被さると、静かに瞼が閉じて行く。

84 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/10 12:48:26.77 RMAmrSzX0 33/236

勇者「……」

神父「丁度7時ですね」

勇者「何時も起きるのが早いな」

神父「神父ですので」

勇者「……」

神父「年寄りですからね」

 皺の寄った目元を歪ませて、口元は緩やかに、微笑む。

勇者「その割には、年齢より老けて……」

 と……言いかけた瞬間、この世の歪みを体感するかの様な言葉を勇者は、耳に入れてしまう。

神父「私は……元宦官ですからね」

勇者「……」

神父「気にしないでください」

神父「宗教上、やる事が昔は沢山あったので」

神父「今この教会を持てたのも、其のお陰です」

勇者「絶対勝つ……」

神父「……貴方ならこの世界すらも、変えられますよ」

87 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/10 14:50:40.76 cND+VJReo 34/236

宦官(かんがん)とは、去勢を施された官吏である。「宦」は「宀」と「臣」とに従う会意文字で、その原義は「神に仕える奴隷」であったが、時代が下るに連れて王の宮廟に仕える者の意味となり、禁中では去勢された者を用いたため、彼らを「宦官」と呼ぶようになった。

89 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/11 03:05:59.14 +Q7329kv0 35/236

――この男は、俺に期待を“しすぎ”ている……俺は世界を変える気は、毛頭も無い……魔王を倒す。

――それだけで十分。

勇者「行って来る」

 神の使いの期待を一瞥すれば、勇者は光に包まれて行く、其の目は、既に宿敵を見ていた。

神父「……」

「絶対勝つ」は、私に対する慰めでしょうか?やはり、彼は歪んでいますね、行動原理が普通とズレている。

それでも、信じていますが……

神父「神の加護を……」

 深々と、祈りを捧げる……其の祈りは、世界の為。

90 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/11 03:06:27.52 +Q7329kv0 36/236

魔王「43」

勇者「数えていたのか」

 光と共に、現れる男、其の男の目の前には。

魔王「一応だが……」

 死体があった場所に立ち尽くしている、女、其の女は、外が見えない空間でも、遠くを……遥か遠くを見ている様に、黄昏ていた。

勇者「随分と余裕だな」

魔王「貴様如きでは、まだ相手にならないな」

勇者「俺だって、強くなったけどな……」

魔王「良い……」

勇者「……」

魔王「来い」

 疾風……風の音と共に男は、首を掠め取らんと、斜めに剣を上へと振る。だが、余裕満々と、狙われる女は、其れを、指先で掴み……止める。

魔王「指先なら、掴めるな」

勇者「くっ!」

 剣を抜こうと、思案するが……どうしても、抜け無い、体を精一杯に、全力で使うが……抜ける事は無かった。

魔王「雑魚」

 文字通り相手にならない、漆黒の瘴気が勇者の首を上へと、掴み取った。体は、剣を掴みながら崩れ落ち、頭部は、軽々しく放り落ちた。

94 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/12 23:54:53.36 Q7sOdgsK0 37/236

勇者「54回目の朝か……」

神父「時の流れは、早いですね」

勇者「一瞬で殺されていた頃が懐かしいよ」

神父「今でも殺されるでしょう?」

 清々しい朝8時の協会、其処にはいつも通りの二人が黒い冗談を交えながら談笑していた。

 一人は、常に其処に居て、一人は、毎日少しだけ其処にいる。

勇者「そろそろ行くか」

神父「今度は勝てますか?」

勇者「まだ、勝つのは難しいな……」

神父「最近復活が遅いですから……」

神父「後少しでは?」

勇者「簡単に言わないでくれ」

 光が青年を掻き消す。

 其の光もいつも通り、暖かかった。

96 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/13 16:58:21.08 HkRt50Oy0 38/236

魔王「おや……勇者か」

勇者「……」

 玉座が揺れる、光が現れると共に……

勇者「名前で呼ぶか……魔王」

魔王「貴様が居ない時は、良く名前を呼んでいたぞ?」

俺も心の中では、あいつの名前を呼んでいた……な。

魔王「最近……私と対等に渡り合える様になったではないか」

勇者「世辞は結構」

魔王「可愛く無いな」

勇者「行くぞ」

魔王「来い……勇者よ」

 少女の肩に、剣が一直線に振り下ろされる。二人の間には、其れなりに距離があったのだが……だが……其れは、勇者の力が其れ程迄に上がっていると言う事である。

魔王「……!」

 軽々しく後ろへ退く、振り下ろされた剣は上へと振り上げられ、続き様に少女を狙う。

 紙一重で振り上げられる攻撃を避けると……肩と脾腹と目と膝を執拗に素早く連続した斬撃が少女を襲う、避けて行く少女の布に切れ目が付いて行く。

 ――が……少女もこのままでは終わらない、仮にも魔王である。

魔王「反撃だ……!」

97 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/13 16:59:26.13 HkRt50Oy0 39/236

 少女は目を貫かんとする突きを体を逸らし、快くぐると、勇者の懐に疾風の如く肉薄する、

勇者「なっ……」

 小さな手からは、想像出来ない威力の掌底が勇者の脾腹を襲う。

 危険を感知した勇者は手首に全身全霊を掛けて、剣を手首のみで動かして、くぐもった体制をした少女の背中を狙う。

 しかし、瘴気が其れを許さなかった。

 形の悪い丸を描いた、瘴気は勇者の剣を、包む様に止めた。

魔王「行くぞ」

勇者「糞……!」

魔王「今回も結構、耐えているな」

 ――魔王が肉薄してから僅か、5秒……少女の掌底が勇者の脾腹を貫く。

勇者「かはっ!」

 勇者は力無く崩れ落ちる、脾腹からは血肉と臓が、止め無く溢れて行く。

 震える体、顔は苦しみに染まり、今でも目は閉じて行きそうだった。

勇者「がはっ……!」

 最後の線が切れた様に、口内に溜まった血を吐けば、必死の形相のまま崩れ落ちる。

魔王「……」

107 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/20 03:27:42.35 W0Rs3tBB0 40/236

勇者「……」

神父「お帰りなさい」

勇者「……?」

神父「……言って見たかっただけですよ」

勇者「へぇ……」

神父「次は55回目の挑戦ですね」

勇者「半分以上死んだのか……」

神父「貴方なら、平気かと」

神父「私の様な年寄りと違ってね」

勇者「年寄り程の年齢では無いだろ」

勇者「むしろ……中年……」

勇者「……」

神父「……」

勇者「ありがとう」

神父「無茶をし過ぎては駄目ですよ?」

勇者「?」

神父「一応……心配ですから」

勇者「分かった」

 光が掻き消して行く希望、其の行先は何時も一つ。

神父「頑張れよ……」

神父「……」

神父「神よ……」

私には祈る事しか出来ません。

108 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/20 03:28:48.96 W0Rs3tBB0 41/236

―――――――――――――――――――――

何時も如何なる時代も、強者は弱者を弄び、蔑み、笑う……

そんな糞にまみれた世界において。

“俺”は希望を失いつつあった……

少年「はぁ……お偉い様の相手は疲れる」

 黒く長い髪を靡かせる中性的、女性の様に繊細な顔、そして華奢な身体……其の様な特徴を持つ少年は、発展を進める国に位置する、これまた発展を続ける宗教の大聖堂からゆっくりと姿を表した。

少年「宗教ってのは、疲れるな……」

少年「まぁ……売られた身分、しっかりと働くか」

少年「それに……」

少年「どうにかして……権力を……」

この国……この世界は、歪んでいる。だから俺が変える必要がある……この世界を、例え宦官になろうとも……変える。

少年「……」

……今日は何処で寝るかな?駄賃をお偉い様からもらったからな、適当な宿に泊まるか……野宿か……

少年「金は貯めなきゃな……野宿だ」

110 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/21 18:30:38.69 LnJHCYrS0 42/236

少年「よいしょっ……」

 少年は静かに腰を降ろした、場所は先程とは打って変わって、貧民街。

 貧相な姿をした者が犇く中で、少年も貧相な布に姿を変えれば、仲間である。

何時も大聖堂で寝泊まりしてたからな……

あそこには、もう、夜に居たく無い……野宿の方がましだな。

初めて来たけど、そこまで悪い所では無いな。

―――――――――――――――――――――

運命の出会いって、必ずある

その出会いが俺に全てを教えてくれた

そいつが俺の全てだった

きっと離れる事は無い

でも……

―――――――――――――――――――――

少年「さて……そろそろ寝るか」

「えー!早いよ!」

 其の出会いは、確実に少年に希望を与えていた。

111 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/21 18:32:20.57 LnJHCYrS0 43/236

少年「……は?」

「まだ早いって!」

……なんだこいつは?可愛い……違う。

貧相な姿、ここの住人に似つかわしく無い程、明るい……

少女「あっ!名乗って無かった!ごめんね!」

少女「私の名前は少女!君の名前は?」

少年「……少年」

少女「よろしくね!」

 少年の名を聞いていたのか、少年が名乗った途端に、挨拶をする少女……一言で掴み所が無い。

少年「所で、何の様でしょう?」

とりあえず……演技を……

少女「私ね!この街に同年代の人が居ないから、寂しかったの!仲良くなろ!?」

少女「それと……」

少女「道化は上手だけど、私の前だからって礼儀正しくする必要はないよ?」

少年「なっ……」

少女「良い?」

 少女は、人差し指を少年の鼻に向ける……少年は呆気に取られた様に身をたじろかせる。

少年「……」

少年「分かった」

112 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/21 18:33:21.77 LnJHCYrS0 44/236

少女「よし!」

得意気だな……

少女「君、親は?」

少年「生き別れてな、身寄り無しだ」

少女「私と一緒だね!」

少年「……」

少女「ここじゃ、寝辛いと思うからウチに来なよ!」

少年「は?」

少女「良いから!」

 少女は、少年の腕を勢いよく其の手に掴めば、全力で周囲を顧みず、駆け出した。

少年「うわわわわ!おい!あぶねーぞ!待て馬鹿!」

 少年は引きずられる様に、少女に連れられれば、少女の家に着く頃には、一緒に走っていた。

113 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/21 18:34:00.01 LnJHCYrS0 45/236

貧民A「お!少女ちゃんじゃないか!元気にやってるか?」

貧民B「流石!俺達の希望!元気だね!」

少女「うん!じゃーね!」

少年「知り合いか?」

少女「うん!友達!」

 少女の荒んだ家の前で会話をする貧民達は、少女に見掛けると言葉を掛ければ、直ぐに姿を消した。

少女「ここが私の家!どう?汚いでしょ!?」

少年「……汚いな」

少女「ささ!入って!入って!」

 ギギッと音を上げながら、古い扉を開ければ、少年ん中に迎え入れる。

……少し散らかってるけど……小綺麗だな。

少女「好きな所で寝て良いよ!」

少年「……ありがとう」

少女「気にしないで!同じ人間だし!」

118 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/22 03:18:54.46 0Hhzwf3M0 46/236

 染みの多い天井。

 其れを見つめながら、少年はベッドの上で横になっていた……隣には少女が居るが……

少年「……なあ」

少女「なーに?」

少年「どうして一緒に寝る?」

少女「……お母さんに似てるから」

少年「……何処が?」

少女「髪」

 唇がピクリと動く、髪の長さは触れて欲しい物では無い……其の髪は恥だが必要不可欠な物である。

 少年が生きて行く為に……

少女「ごめんね」

少年「えっ?」

少女「触れて欲しく無かったよね?」

少年「……………………うん」

―――――――――――――――――――――

何時もこうやって

俺の心の隙間を埋めて行く

最高のお人好し

だから不幸なんだよ

頼む

俺の中に入って来ないでくれ……

―――――――――――――――――――――

少年「街の人間……」

少女「ん?」

少女「良い街でしょ!」

少女「暗い雰囲気で、朝昼は!晴れてても暗いけど、夜はとってもムードが良いよね!」

少年「違う」

少女「え?」

少年「人間だ……」

少年「どうして、あの暗い街の暗い人間が、少女の前だと明るい?」

少女「……え?」

少女「皆、常に明るいよ?」

119 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/22 03:19:47.75 0Hhzwf3M0 47/236

見解の違いだな、皆常に明るい訳では無い

ただ、少女の前だと貧民全員が明るいだけだ

少女が居なくなると全員が元に……暗くなる

教えるのも野暮だな、少女には不思議な力がある

少年「そっか」

少女「?」

少年「何でもないよ」

少女「えー?」

―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――

 世界の何処かにある黒い黒い水溜まり。

 其処に座り込んで居るのは白磁の肌に、何も纏わぬ少女。

 其の少女は常に泣いていた。

「ひっく」

「ひっく」

「ひっく」

「ひっく」

 其の少女の瞳からは、黒い黒い涙が溢れていた。

 其の涙が、黒い黒い水溜まりを形成していたのだ。

 少女が何故泣いているのかは、誰にも分からない。

 一つ確かなのは、とてもとてと禍々しい事だ。

―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――

少年「……良く寝た」

少女「すぅー、すぅー」

少年「……」

まだ寝てるのかよ、もう朝だぞ。

120 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/22 03:21:21.40 0Hhzwf3M0 48/236

少女「ふわー、良く寝たね!」

少年「だな」

昼まで寝ると思ったら、直ぐに起きたな。

少女「♪」

……そろそろお偉い様の相手をしないとな。

少年「ちょっと出掛けてくる」

少女「何かあるの?」

少年「用事」

少女「戻ってくる?」

……今日でさよならかと思ったけど、まだ居る必要があるのか。

……頼まれた事を受けるのも、神父の役目だな。

少年「何言ってんだ、戻るよ」

 少年は、大聖堂へと駆け出した。

 表情には、苦悩の二文字が浮かんでいるが、大聖堂の前へと立てば、其れも消えていた。

少年「……ただいまやって参りました」

「おお、話に聞いてはいたが……素晴らしい」

初対面のお偉い様か……

少年「お褒めに預かり、光栄です」

「おお……早く行こう」

…………

124 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/25 00:25:08.11 8FzB804l0 49/236

少年「……」

汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い

けど、大丈夫……

きっと見返す時が来る

 混乱する感情、おぼつかない足取り、焦点の合わない目、だが……しっかりと少年は、貧民街へと向かっていた、

 貧民街へと着く頃には、少年の異変は収まっていた。其れは何時も通りの少年だった。

少女「あっ!おかえりー!」

少年「あっ……ああ」

少女「思ったより早く帰って来たね!」

もう、夕方だけどな

少女「……」

少女「ねぇ」

少年「……!」

少女「お家帰ろっか?」

 優しく、朗らかに、明るい笑顔を少女は少年に向けた。貧民街の人間は少女と少年を笑顔で見守っていた。

 だが……何よりも少年には少女が眩し過ぎた。

少年「ああ」

125 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/25 00:26:27.33 8FzB804l0 50/236

少女の家へと向かう最中、貧民街の街並みには人は誰も居らず、喧騒も無い、逆に貴族街の喧騒が夜の貧民街に響き渡っていた。

少年「……」

少女「……」

少年「あ……」

少女「……元気無いね?」

少女「どうしたの?」

少年「疲れる用事があってな……」

少女「疲れたら、よーく!休んだ方が良いよ?」

 優しい瞳が少年を見詰める、少年は不意に目を逸らしてしまうが、直ぐに目を合わせるが……彼女の瞳は全てを見通している様で、少年にはとても痛ましい物だった。

少年「だな」

少女「うん」

どこまでも優しくて、お人好し……

少女「もう、着くよ!」

126 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/25 00:27:04.34 8FzB804l0 51/236

少女「到着ー!」

少年「……」

 鈍い音を立てながら少女の家へと入って行く、その中は昨日と変わらなかった。

少年「あっ……そうだ」

少女「何?」

少年「これからお世話になる見たいだしな、あげるよ」

 少年は布の下から可憐なピンクのドレスを取り出し、少女に差し出す。

少女「結構皺あるね……」

少年「隠してたからな」

少女「少年って、悪い男だね……」

少年「気に入らなかったか?」

少女「ううん……とても嬉しい!今度少年と一緒出掛ける時に着る!」

……そう言われると嬉しいな

でもこれさ、お偉い様から貰った金で……最低だな俺

少年「貧民街では着ないのか?」

少女「皆に悪いもん」

少年「……意外と気配り出来るんだな」

少女「えー!なにそれー?」

127 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/25 00:27:35.93 8FzB804l0 52/236

 二人しか居ないリビング、其のテーブルにはこれまた二人分の料理が並べられていた。

少女「じゃーん!」

少年「……食べて良いのか?」

少女「良いよー!朝には、パンと紅茶を置いてたんだけど少年が行っちゃったから食べちゃったー!」

少年「……朝にはパンとコーヒーじゃないのか?」

少女「朝にはパンと紅茶だよ!」

そこは、自由だな……今度から紅茶にしてみるか。

少年「いただくよ」

少女「少ないけど大丈夫?」

少年「大丈夫」

131 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/28 02:46:51.79 jgWn8Wvx0 53/236

 翌朝、少年は抱き締められながら目を覚ました。

少年「……」

あれ?

何もして無いよな?どうしてこうなっている?あれ?あれ?いや、大丈夫……

少女「うーん……」

少年「……離れろ」

少女「あー!ごめんね!」

少女「少年が泣いてたから、抱きついて寝ちゃった!!」

少年「あっ……そう」

……何と言えば良いんだよ。

少女「何はともあれ……」

少年「?」

少女「今日も出掛けるの?」

少年「ああ……」

少女「そっか!」

 少女は朗らかな笑顔を少年に向け、リビングへと向かう為階段を降りる。

少女「朝ごはんは食べてねー!」

少年「はいはい……」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 少年と少女が生活をする国の国王は、下卑た笑顔で占い師を見守っていた。

「どうだ?」

占い師「間違いありません、あの遥か遠い向こう……東に世界の災厄がこの世の憎しみを持って産まれて行きます……」

「間違い無いか?」

 王の笑顔は消え、下卑た表情は変わらず占い師を凝視していた。

大臣「他の国と結果は同じですね……」

「うむ」

「他の国と連携して、占い師が指す方に兵を向ける」

大臣「……もし、伝説と同じ存在が居たら?」

「我は何も悪く無い、屑共が勝手に我を憎んでいるだけだ」

「それと……」

「占い師は殺しておけ」

135 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/30 15:18:15.47 dpBgJhV50 54/236

少女「はい、出来たよー!」

 朝の食卓には、少女の手によってパンと紅茶が並べられた、其の光景を少年は呆然と見ているだけだった。

少年「手際良いな……」

少女「勿論!」

少女「川の上にある様な街だからね!川から魚を獲ったり……」

少年「パンと紅茶には関係無いだろ」

少女「うー……」

 其処からは黙々と朝食を口に運んで行く。

少年「ご馳走様」

少年「行ってくる」

少女「待って」

少年「……」

 少年の身体が硬直する、全身からは汗が滞り無く溢れている。

少女「どうして、朝に出掛けるの?」

少年「……俺」

少年「神の使いだからな、朝には礼拝しなければいけないんだ」

少女「そうだったんだ!宗教の人なんだ!」

少女「どうして貧民街に居るの?」

少年「一番野宿に適しているから」

 目を合わせる事が出来ない、嘘と真実を混ぜた答えが少年に罪悪感を背負わせる。

少女「疲れたら休んでたって良いんだよ?」

少年「……行ってくる」

136 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/30 15:19:38.84 dpBgJhV50 55/236

「貴方が……噂には聞いていたけど、美しい……」

 大聖堂の一室。

今日は女のお偉い様か……

「よろしくね……」

汚い、汚らわしい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ひっく」

「ひっく」

 黒い水溜り、其処に座り込み泣いている少女を5万の軍勢が取り囲んでいる。

「黒い涙を流す少女」

「黒い水溜り……」

「此処から先は海……」

「此処が最東端……」

 各国の王が派遣した軍の将校達は一様に少女を凝視している……

「それにしても……なんと美しい……」

「まだ餓鬼だろう」

「異変があれば戦えとの通達だ……あの少女はまさしく“異変”だろう」

「殺すのみ」

 一人の将校が兵達に目配せをする、すると、一人の兵士が剣を構える、其の狙いは間違い無く少女の首だ……

「やれ……」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 夜、少女の家へと向かう最中……川が面する道の中、少年は一足早く出会ってしまう。

少女「おかえりー」

少年「家じゃないのか?」

少女「少年を待ってたの!」

少年「……どうして?」

少女「遊ぼ!」

これはまた、唐突だな……

137 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/30 15:20:17.77 dpBgJhV50 56/236

少女「ほら!少年のくれた服着てみたよ!」

少年「意外と似合ってるな」

少年「何処に遊びに行く?」

少女「んー……」

少年「……」

少女「貴族街!」

 少女は貧民街の上の丘に存在する貴族街に指を指す、少年は怪訝な顔を隠す事は出来なかったが、大人しく同意をする。

少年「良いよ、行こう」

少女「?♪」

少年「一度家に戻って良いか?お前は既に着飾っているが、俺も着飾らないと、貴族街には入れないからな」

少女「分かった!」

敵わないな、本当。

138 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/30 15:21:15.07 dpBgJhV50 57/236

 綺麗に着飾った二人は、貴族街へと繋がる坂を、ゆっくりと登っていく。

少女「長いね……階段」

少年「本来、貴族街には馬で行くからな、出る時もだけど……」

少女「馬……」

少女「お金持ちだね……」

少年「王国の城下町の富裕層とは、比べる事も出来無い程の金持ちだからな、基本お偉い様しか居ないよ」

少女「凄いんだね」

少年「坂を越えたら別世界だよ」

少女「……」

 少女は胸を高鳴らせ、少年の顔を見詰めながらも重い足取りで坂を登って行く。

139 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/30 15:22:05.25 dpBgJhV50 58/236

少年「さぁ、着いたぞ」

仕事で此処に行く事も大して無いけど……相変わらずだな。

少女「わああ……!」

少年「余りはしゃぎ過ぎるなよ」

 二人は門をくぐり、貴族街へと足を踏み入れる。

少女「何処行く?」

少年「お腹空いたから、夕食に行こう」

少女「おー!」

少年「はしゃぎ過ぎ……」

 二人は夕食を食べる為、近くのレストランへと足を動かせる。

140 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/30 15:23:39.03 dpBgJhV50 59/236

 豪華な飾りと明かり、礼節を重んじるウェイター、上質な料理が貴族街のレストランである、絶対条件。

 この店は其れ等全てを当然の様に兼ね備えていた。

少女「……」

 少女は呆然と席に着けば、其のまま微動だにしていなかった。

少年「??で」

「かしこまりました」

少年「みっともないから、しっかりしてくれ」

少女「はっ!」

 少女は、意識を取り戻したかの様に我に帰る。

少年「上品に食べろよ」

少女「……」

少年「分かった分かった、テーブルマナーを教えてやるから」

141 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/30 15:24:11.39 dpBgJhV50 60/236

少女「美味しかったね!」

少年「声がでかい」

少女「うぅ……」

少年「さて、お金を払わないと……」

「??です」

少女「あっ、私も払わないと……」

 少女が、もっているポーチから金を出そうとすると、少年は其の前にお金を払ってしまう。

少女「あっ……」

少年「お前には、払い切れ無い程の借りがあるからな」

少女「悪いよぉ……」

少年「はいはい……」

少年「次は何処に行く?」

少女「んー……星が綺麗に見れる所かな?」

少年「分かった、行こう」

 二人は、星の見える所へ……レストランを後にする。

142 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/30 15:25:47.60 dpBgJhV50 61/236

 丘と言って良いのか、崖と言って良いのか、人気の少ない高台に少年と少女は居た。

少女「まだ高い所があったんだね……」

少年「ちょっとした林を抜けないと駄目だけどな」

少女「良く見つけられたね」

昔、辛い時に行った記憶があったからな……

少女「私……ここに行った事あるかも」

少年「?」

少女「もう居ないけど、お母さんと行った記憶があるの……」

 煌めく星々が二人を照らす、其の星々を見上げながら少女は身体を震わせ涙を流す。

少年「……」

少女「ずるいなぁ……星は変わらず綺麗だね」

 少年は優しく少女の頭を撫でる、少し微笑みながら、少女は少年を見詰める。

……辛いんだな

少女「ねぇ……」

少年「……」

少女「大聖堂行くのやめようよ……」

143 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/06/30 15:33:34.80 dpBgJhV50 62/236

少年「……何故?」

少女「理由は分からないけど」

少女「少年は大聖堂に行く時……とっても辛そうだったよ?」

少年「そんな事は……」

少女「嘘」

やめてくれ

少年「っ!」

少女「私が居るんだよ、やめようよ」

少女「もう辛い思いはしなくて良いの、私が全て支えるよ」

 少女は意気揚々と鼻息を漏らせば、胸を軽く叩く。

 柔かに微笑みながら。

少年「此処で止めたら俺は……っ!」

少女「人生はいくらでもやり直せるよ」

少年「……」

やめてくれ

少女「ねっ!」

 少年の目からは止め無く涙が溢れて行く、今迄を悔むかのように。

少年「うっうっうぅ」

俺の中に入って来無いでくれ……

少年「ひっく」

少年「ああぁ……!」

少女「大丈夫、私が居るから」

少年「俺は……っ!お前を……!好きにっ!なって……っ良いのか?」

そうだ……俺は、こいつが好きなんだ……一目見た時から、きっと。

少女「大丈夫、わたしも好きだから」

 少年と少女の影が重なる時、二人の唇も誓いの様に重なっていた。

俺は少女の為に、生きる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

もう、この時には手遅れだった。

もう、後は辛い思いをするだけ。

最初から会っていなければ、そんな思いをせずに済んでいた。

でも……

最愛の人だ。

永遠に。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

149 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/07/01 07:23:54.40 mJJoM9Yo0 63/236

 あれから2日後の朝、開放された朝が少年を迎える。

少年「うーん……」

少年「あれ?」

少女は……?

少年はリビングへと、早速足を運ぶ。

少女「おはよー」

 少女は、紅茶とパンをテーブルに並べている最中であった。

少年「なんだ……起きてたのか」

少女「ふふふー」

少年「早いな」

少女「これからはねー」

凄い奴……

少年「これからどうしようか……」

少女「大聖堂は行か無いの?」

少年「少女の言うとおり、辞めたよ」

 互いに朝食を頬張りながら、受け答えて行く。

少年「どうしようかな……」

少女「どんな風に辞めたの?」

少年「……」

少女「……もしかして」

少女「無視?」

少年「正解、顔も出してない」

少女「なるほどー!」

感心する事では無いな、うん。

少年「……幸せに生きるか」

少女「うん!」

少女「少し出掛けてくるね!」

 そして、少年と少女の間に二年の歳月が流れた。

150 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/07/01 07:24:54.93 mJJoM9Yo0 64/236

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「??と言う男だか……それでも好きでいられるかな?」

「……少年が“そういう事”をしていても気にならないよ」

「強い女だな……」

「直接確かめただけだよ」

「もう少年からは手を引いて貰えるかな?」

「……タダで返すとでも?」

「……!」

「もう遅い」

「離して!やめて!」

「ふふふ……」

少年……ごめんね……初めて……が

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

151 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/07/01 07:25:55.79 mJJoM9Yo0 65/236

 二年後の朝、二人は新たな命を授かっていた。

少年「良かった……」

「元気な男の子ですよ」

少女「私に似てるね……」

少年「ああ……少女にとてもそっくりだよ……」

 そして五ヶ月後、少女の家に、家主を含む三人の家族は、幸せに過ごしていた。

「だー!」

少女「??くん!ばー!」

「キャッキャッ!」

少年「ははは……」

 鈍い音が家に響き渡る、何時もの音から察するにノックである事は間違いが無かった。

少年「……誰だ?」

 無作法に扉が開かれれば、二人の神官が土足で家へと上がり込んで行く。

少年「お前等は……!」

少女「……!」

「お久しぶりですね、御二方」

「お子様が産まれてから五ヶ月経ちましたので、回収に参りました」

少年「どういう事だ……!」

「お子様は孤児院に入るので心配無く」

「少女様はまだやる事がありますので」

少年「少女は関係無いだろ!俺を連れて行け!どうせお偉い様の相手だろう!」

「そういう訳には行きません。彼女は、貴方を守る為に貴方の代わりをしているのですから」

少年「少女!どういう事だ!」

少女「ごめんね……私……」

少女「汚されてたの……」

「確か……純潔の時でしたね」

152 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/07/01 07:26:41.02 mJJoM9Yo0 66/236

少女「ごめんね……」

少年「どうしてだ……どうしてもっと早く……!」

少女「汚れたって知られたら……私……!」

少年「っつ!」

少年「……金か?」

「いいえ、もっと稼いでもらう為少女様は遠方に行って貰います」

少年「そんなの奴隷……」

「孤児院にお子様を移す理由は……分かりますね?」

少年「人質……か」

「ご名答です」

「あっ……外には兵が居ますので、抵抗などしないように」

少女「話が違うよ!私が犠牲になれば今後一切関わらないって……!」

「さて?」

「お子様を授かる迄続いていた関係です、今更ですよ」

少年「外道がぁ!」

「さてお引き渡しください」

少女「子供は巻き込まないで!」

「……連れて行け」

 家の中に複数の兵士が入り込めば、子供と少女は連れられて行く。

少女「子供はやめて!」

少女「ねえ!」

少女「ねえ!」

少年「やめろお!」

 少年は、最後の抵抗……二人を連れ戻す為、身を張って駆け出すが、兵士達に取り押さえられると、動かない身体を前に押し出そうとしながら涙を流し、怒号を飛ばす。

少年「離せえ!」

153 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/07/01 07:27:25.19 mJJoM9Yo0 67/236

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もう駄目だ。

手遅れ。

赦してくれ。

俺を赦してくれ。

俺のせいでお前は。

あああああああああああああああああ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 そして、8日が経った。

少年「……」

「手紙が届いてるよ」

 貧民街の男が、ピクリとも動かぬ男に話を掛ける……少女の家の中で。

「……宛先は、宗教からだね」

少年「……!」

「失礼するよ」

 少年は動かぬ身体を震わせながら手紙へと手を伸ばす。

少年「宛先は……少女……」

 少年は恐る恐る手紙を開ける。

 内容は……

154 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/07/01 07:28:22.24 mJJoM9Yo0 68/236

しょうねんへ

てがみがきょかされました

このてがみはだれにもみられないことをどれいになることにより

やくそくされています

じをかくのはなれないね

しょうねんごめんなさい

わたしのせいでつらいおもいをしたね

こどもはずっとこじいんだって

でもね

わたしはこれいじょう

たえられないや

ごめんなさい

どこのこじいんかはわからないけど

ころされないのはほしょうされてるって

めんどうをみるのは

こじいんのひとたちだから

ごめんね

ごめんね

だいすきだよ

なによりも

だれよりも

こどもとしょうねんは

さいあいのひと

いちばんあいしています

でも

わたしはじぶんがゆるせません

さきにいきます

こんどはもっとしあわせになろうね

らいせもいっしょだよ

155 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/07/01 07:29:39.09 mJJoM9Yo0 69/236

少年「……」

駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ

やめてくれ

やめて

生きてくれ

死なないでくれ

少年「ああああ!」

 少年は気が付けば、馬車の置かれて居る城下町へと駆け出していた。

少年「はぁはぁー!」

少年「少女!」

少年「少女!」

「どうしたんだい?慌てて」

少年「奴隷が載せられる馬車を知らないか!?」

「……ああ、それならあそこに」

 少年は、馬車乗りの指差す方へと駆け出して行く、必死の形相で目に涙を溜めながら。

「あっ!ちょっと!勝手に……」

「行ってしまった」

少年「少女!」

 少年は、奴隷を運ぶ馬車の中をすかさず覗き込む。

少年「あっ……!あっ!」

少年「どうしてだよぉ!」

 馬車の中には、口から血を流しながら白目を剥いている少女が横たわっていた、口は不思議と微笑みながら。

 恐らく舌を切ったのであろう。

少年「……」

糞以下だな、どうしても。

子供は何処に居るのかも分からない。

全て、終わった。

少年「あああああああああああああ!」

少年「があああああああああああああ!」

少年「糞糞糞糞糞糞糞糞糞ぉ!」

 少年の絶え間ない叫びが城下町に響き渡る、目の近くを掻きむしっているせいか、血涙を流しているかのように、血と涙が止めど無く溢れていた。

少年「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

156 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/07/01 07:31:41.20 mJJoM9Yo0 70/236

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

少年の叫びと同時刻の事……

「はあ!」

「……」

「剣が壊れましたね」

「傷一つも無いぞこの餓鬼……」

「ひっく」

 唐突に、先程迄、泣いていた少女の口から機械的に言葉が発せられる。

「悲しみを受け取った」

「この世界全ての悲しみを……」

 兵達はその様子にたじろいでしまう、が将校達は、臆す事も無く命令を告げる。

「行け!殺せ!」

 軍勢が一斉に少女へと襲いかかる。

「愚かな……」

 次の瞬間には、闇の瘴気が全てを屠っていた。

 一人を残して……

「ひっ……ひい!」

 残された一人はそそくさと、この場から去って行った。

「……最高の気分だ」

「我が魔が全てを滅ぼそう」

 少女は手に切れ目を入れれば血を流していく……

 流れた血からは、有象無象の闇が止め無く誕生していく。

「我が眷属達よ、たった今より人類を滅ぼそう」

「魔王と魔物の誕生だ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

157 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/07/01 07:34:06.74 mJJoM9Yo0 71/236

 そして、六年後……魔王の誕生は瞬く間に世界に広がっていた。

「魔王……伝説の存在が産まれるとはね……」

「ひっ!ひい!」

「赦してくれ!」

「たのむ!」

「俺と少女を汚した人間50名……」

「宦官になってまで権力を手に入れた甲斐があったな」

「貴様等をたった今から殺せるのだから」

「ひいぃ!」

「……ヤレ」

 新たに作られた、とある宗教の協会……その中で、老けた若い男が顔に仮面を掛けた男に命令をすると、仮面の男は縄に縛られた50名一人一人を苦しめながら、屠っていく。

少女……俺にはこれぐらいしか出来ないよ……

赦してくれ……

「処分終わりました……大教祖様……」

「ああ……さようなら」

 咄嗟の不意打ち、仮面を掛けた男の心臓を男はナイフで一突きした。

「ぐっ……」

 仮面を掛けた男は力無く崩れていく。

さて……終わったな、俺も向かうよ少女……

其の前に、ゴミを片付けないとな。

 男は、国の兵を呼ぶと、死体をかたづけさせる。

 死体を運び、汚れを取っていく兵達は雑談をしながら作業を進める。

「今日子供が王様の馬車に轢かれたってさ」

「まじかよ……」

「可哀想に……」

 そんな雑談をしながら、作業を終えると兵達は帰って行った。

「……子供の為に祈りを捧げて、明日に死ぬか……」

 男は、跪くと神への祈りを日が変わっても行い続けていた。

158 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/07/01 07:35:02.11 mJJoM9Yo0 72/236

 日が変わり9時に優しい光が協会の中にて、現れる。

 子供と共に。

「!?」

「あ……れ?」

 戸惑いを隠せない子供が、辺りを見渡していた。

「おっ……おお……!」

「おおおおお……」

 男は止めど無く涙を流して、我が子を抱擁していた。

会えて良かった……会えて良かった……!

最愛の息子だ……!

……が、伝説と、一致する勇者……私の元に置いては、宗教上の抗争に巻き込まれて危ない……

国に預ける他は無い

私が父などと知る必要も無い……

国に頼もう……

159 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/07/01 07:36:07.80 mJJoM9Yo0 73/236


「ーー世界を救う覚悟がありますか?」


※【中編】に続きます。

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