1 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:10:28 E6N6wjsk 1/30


「こんにちは」

「こんにちは」

「あの、なんで後ろ向きで歩いているのですか?」

「わかりません」

「そうですか」

「はい」

元スレ
女「ネガティブだったりします」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1340028628/

2 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:14:44 E6N6wjsk 2/30


「びっくりしましたよ」

「すいません」

「構いません」

「お優しいんですね」

「こちらを見て言ってください」

「こちらとはどちらでしょうか」

3 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:18:52 E6N6wjsk 3/30


「あなたの前にいます」

「すいません、後ろ向きなので」

「では、声がする方です」

「こっちでしょうか」

「そっちは後ろです」

「すいません、後ろ向きなので」

5 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:21:06 E6N6wjsk 4/30


「僕は左にいます」

「こっちですね」

「すいません、僕から見て左です」

「だからこっちでしょう?」

「いいえ、後ろ向きなあなたから見ても左です」

「左というと、お茶碗を持つ方ですね」

6 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:23:30 E6N6wjsk 5/30


「左手がついている方です」

「わかりやすいです。こっちですね」

「そっちは後ろです」

「なんと」

「あなたの左手はどこについているんですか」

「すいません、後ろ向きなもので」

7 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:25:39 E6N6wjsk 6/30


「元気を出してください」

「がんばります」

「僕もがんばります」

「もっとわかりやすく言ってもらえませんか」

「そうですね、方角は北です」

「北というと、東を向いたときの左側ですね」

8 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:28:07 E6N6wjsk 7/30


「そうともいいます」

「わかりやすいです。こっちですね?」

「そっちは下です」

「なんと」

「あなたは方向オンチですね」

「本当にそうでしょうか?」

9 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:31:11 E6N6wjsk 8/30


「間違いありません」

「考えてみてください」

「はい」

「私の顔が向いている方向が、私にとっての前ではないでしょうか」

「いえ、そっちは下です」

「なるほど。下は前ではありませんね」

11 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:37:06 E6N6wjsk 9/30


「いい加減顔を上げてください」

「はい。するとそこにはあなたの顔が」

「そっちは上です」

「空がとても綺麗です」

「ええ。空はいいものです」

「しかし、あなたの姿は見えません」

12 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:38:46 E6N6wjsk 10/30


「それはそうでしょう。僕はこっちです」

「今、心が通じ合いました。こっちですね?」

「そっちは後ろです」

「ですよね」

「期待した僕がバカでした」

「すいません。後ろ向きなもので」

13 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:46:30 E6N6wjsk 11/30


「前を向きたくないのですか?」

「向きたいです」

「ならばがんばりましょう」

「がんばれば向けるでしょうか」

「向けます。僕も剥けましたから」

「それは心強いです」

14 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:47:14 E6N6wjsk 12/30


「あ、はい。そうですか」

「さて、どうしたら向けるでしょうか」

「いったん整理しましょう」

「名案です」

「今あなたは僕の前にいます」

「ふむふむ」

15 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:49:04 E6N6wjsk 13/30


「しかしあなたは後ろを向いているのです」

「なんと、それは失礼ですね」

「でしょう? つまり、あなたの後ろに僕がいるんですよ」

「だったら話は簡単です」

「気づきましたか?」

「ええ。私が今後ろを向けば、そっちが前です」

16 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:54:07 E6N6wjsk 14/30


「そのとおりです。聡明ですね」

「ありがとうございます。では、せーので向きますね」

「はい」

「せーの」



「感動のご対面のはずです」

「しかし、あなたはいません」

17 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:54:55 E6N6wjsk 15/30


「何故ならそっちは後ろだからです」

「私は生粋の後ろ向きなんでしょうね」

「恐ろしいことに気づきました」

「おや、なんでしょう」

「実は、僕があなたの前から移動しているんではないのでしょうか」

「そんなことをしているのですか?」

18 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:57:54 E6N6wjsk 16/30


「いえ、していませんが」

「じゃあ違うじゃないですか」

「あ、はい。そうですね」

「つまらないことを言わないでください」

「ごめんなさい」

「む、頭の中の電球が光りました」

19 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/18 23:59:28 E6N6wjsk 17/30


「おや、なんでしょうか」

「あなたが私を振り向かせればいいのではないのでしょうか?」

「ずっとやっていますよ」

「そうなのですか?」

「ええ。でもあなたは頑なにこちらを向きません」

「すいません、後ろ向きなので」

20 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/19 00:01:45 OnXW.g0Q 18/30


「あなたは前を向きたいんですか?」

「そうですね。向きたいです」

「ならば向けばいいじゃないですか」

「しかし前がどっちかわからないのです」

「さっき、あなたが後ろ向きに進んでいた方向」

「ええ、はい」

21 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/19 00:05:26 OnXW.g0Q 19/30


「あれが前なのですよ」

「なんと、私は前に進んでいたのですか」

「はい。いくら後ろを向いていても、体は止まってくれないのです」

「むむ、不思議です。それはなぜですか?」

「僕もわかりません。でも、生きているからではないでしょうか」

「ふむふむ」

22 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/19 00:06:58 OnXW.g0Q 20/30


「今こうしている間にも、どんどん進んでいますよ」

「言われてみれば、ムーンウォーク」

「かっこいいです」

「えへへ、照れます」

「お世辞です」

「ショックです。ますます後ろを向いてしまいます」

23 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/19 00:09:17 OnXW.g0Q 21/30


「マイケルです」

「ジャクソンですか?」

「ジョーダンです」

「そうでしたか。少し前を向ける気がしました」

「その調子です」

「聞いていいですか?」

24 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/19 00:10:37 OnXW.g0Q 22/30


「はい」

「なぜあなたはあそこにいたのでしょうか」

「と、言うと?」

「さっき言いました。人は進むものなんでしょう?」

「僕の持論です」

「あなたは、私を待っていてくれたのですか?」

25 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/19 00:11:43 OnXW.g0Q 23/30


「人は立ち止まれないのですよ?」

「でも、歩みを遅くすることはできると思うのです」

「そうですね」

「いつもそうやって、私のそばまで来てくれていたのですね」

「やっと気づきましたか」

「すいません。後ろ向きなもので」

26 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/19 00:12:41 OnXW.g0Q 24/30


「上を向いたとき」

「はい」

「空は青くて綺麗だったでしょう?」

「はい。すごく澄んでいました」

「下を向いたとき、あなたの足が動いているのが見えたでしょう?」

「そういえば、二本の美しい足が動いていました」

「それ、あなたのですよ」

27 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/19 00:13:49 OnXW.g0Q 25/30


「なんと」

「後ろを向いているだけでは、見えない物も多いのです」

「私は美脚だったのですね」

「それはどうでもいいです」

「またまた」

「足だけ綺麗でも意味ないです」

「そうですよね。私意味ないですよね」

28 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/19 00:15:12 OnXW.g0Q 26/30


「失言でした」

「すいません、後ろ向きなもので」

「もうそれ、やめませんか?」

「そうですね。でも、たまにはいいでしょう?」

「たまになら、いいですよ」

「ありがとうございます」

「いいえ」

「最後に一つだけ、いいでしょうか」

29 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/19 00:16:03 OnXW.g0Q 27/30


「なんでしょうか?」

「私が向かう先に、私の前に、あなたはいてくれますか?」

「ずっといましたよ。あなたが無視していただけで」

「これからも、いてくれるんですか?」

「ええ、もちろんです」

「ならば、せーので振り向きます」

「期待します」

「……せーの――」

30 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/19 00:19:19 OnXW.g0Q 28/30





――コンッ、コン

31 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/19 00:19:51 OnXW.g0Q 29/30



(ノックの音が聞こえた)

(いつもなら不快にしか感じないその音が、今日はとても優しく響いた気がしたから)

(私はゆっくりと、ドアを開けた)



「――久しぶり」

「……おかしいね」

「うん?」

32 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/06/19 00:22:38 OnXW.g0Q 30/30


「……家の中なのに、こんなに眩しいなんて」

「外はもっと明るいよ。空は澄み渡っているし、地面も力強い」

「……うん」

「さあ、行こう」


(――私、これからは少しポジティブになれそうです)




おわり

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